遠出キャンプより公園で四季を感じるほうが子どもにいい理由
近年、広がりつつある「森のようちえん」。耳にしたことのある読者も多いのではないでしょうか? 自然の中で子どもたちを自由に遊ばせながら育てる幼児教育や保育活動の総称が「森のようちえん」です。忙しないカリキュラムを設けず、子どもの主体性を重視することで、非認知能力がぐんぐん育つと言われています。
ただ、豊かな自然環境が必要なため郊外や地方にあることが多く、都会に住むママにとってはなかなか馴染みがないのも事実。でも、都会でも森のようちえん的体験は十分できるんです。
都会でもできる自然との向き合い方や森のようちえん的育児について、『ルポ 森のようちえん』(集英社新書)を出版した教育ジャーナリスト・おおたとしまささんと、文京区で身近な自然との関わりを重視した保育を実践している、文京区立お茶の水女子大学こども園の元園長・宮里暁美先生の対談をお届けします。
遠くのキャンプ場に行くよりも
近くの公園で四季を感じるほうがいい
——森のようちえんは環境的にも精神的にも、もっとハードルが高いと思っていたのですが、都会に住んでいてもちょっと視点を変えるだけで実現できると知って、すごく新鮮でした。
おおたとしまささん(以下、敬称略): みんな素敵だなとは思うんでしょうけど、「じゃあ、都会で子育てしている私たちは絶望なの?」と思ってしまう。でも、実はそんなことはないということを『ルポ 森のようちえん』では書いていますし、なにより宮里先生は何年も前から東京のど真ん中で実践されていたんですよね。
宮里暁美先生(以下、敬称略): 目黒区の幼稚園にいた20年前ころからですね。その幼稚園は園庭が狭かったので、すぐ近所にあった自然豊かな都立林試の森公園を園庭代わりに使わせてもらっていたんです。それには公園側がすごく理解があったのが有難かったのですが、毎日のようにそこで過ごす中で印象的だったのは、森の生活と園の生活が繋がっていくこと。木漏れ日の中、木と木の間を縫って歩くだけで楽しい。園内で楽しんでいた電車ごっこも森の中でするとイメージがどんどん広がっていく。自然の中に入り込むのはいろんなことを感じる時間だなあと。ただ通り過ぎる公園との接し方を見直して、そこに居続けて入り込み、居場所にしていくといろんなことが変わるということを体験したんですよね。その後、お茶の水女子大学附属幼稚園を経て、運命的に出会ってしまったのが、今も関わっている文京区立お茶の水女子大こども園です。ここも非常に園庭が狭いので、お茶大のキャンパスの敷地を使わせてもらっています。散歩の時にどこを通るか、木の棒を拾うかどうか、水溜まりも発見に満ちていますし、放置された草むらに入り込むだけでもうジャングルなんですよ。一方で、子どもは自然と人工物を分けないので、道端の排水溝が気になったりもする。文京区の真ん中ですけど、そこに魅力を感じようとして何か働きかけると、何かが起こるということを日々実感していますね。
おおた: 緑深い森の中こそが自然だというのは大人の思い込みで、その辺の草むらにいるハサミムシは子どもにとって怪獣なんですよね。
宮里: 本当にその通りですね。共感します。ダンゴムシも身近にいるんですよね。小さい頃、ダンゴムシやハサミムシで遊んでいるはずなんですが、みんな忘れちゃってるんです。自然に出会うなら遠くのキャンプ場に行かなきゃと考えがちで、それはそれでいい経験なんですけど、身近なところに自然はあるよって。
おおた: 遠くの森にビジターとして行くよりも、身近な公園を年中訪れて四季の移り変わりを感じるほうが、子どもの心に残るはずだということなんですね。
天気によって行動を変えない
主導権は人間じゃなくて自然側にある
——自然との触れ合いはどの園でも取り入れていると思うのですが、森のようちえん的な自然との向き合い方についてもう少し教えていただけますか?
宮里: 自然との向き合い方について教えてもらったのは、プロのナチュラリスト佐々木洋さんからでした。佐々木さんに教えていただきながら考案した自然と楽しむ4つのキーワードがあるのですが、まずは拠点を定めて繰り返し行くということ。私も初めは、A地点に行ったら次はB地点に行くのがいい、行く場所を変えることが子どもにとって豊かな経験になると思っていたんですね。でも、同じ場所に何度もずっと通わない