15歳スーパー科学者が役立ったと語る「STEM流の遊び」
アメリカ『TIME』誌初の「Kid of the Year」を受賞、昨年日本でも初の著書『STEMで未来は変えられる』(くもん出版)が発売されたギタンジャリ・ラオさんをご存知ですか? ギタンジャリ・ラオさんは、2005年アメリカ・オハイオ週生まれの15歳。10代の若さで「水道水から鉛を検出する装置」「鎮痛薬依存症の早期診断装置」「いじめ防止アプリ」などを次々と発明。2019年には、「Forbes誌が選ぶ30歳未満30人」に選ばれた他、2020年にはタイム誌の「キッド・オブ・ザ・イヤー」の第一号に選出。アメリカの各方面から注目されている高校生です。
今回は昨年大分で開かれたリモート講演会の様子とともに、彼女の生い立ちを紹介します。
(ギタンジャリ・ラオさん特別講演会/主催:大分県商工観光労働部 先端技術挑戦課/協力:(株)Barbara Pool/一般社団法人STEAM JAPAN)
ラオさんの発明の源は、9歳のころの出来事に遡ります。テレビで偶然、鉛入りの水道水を飲んでいる子どもたちがいることを目にして眠れなくなったというラオさん。この社会問題を心に留め続け、1年後にラオさんは情熱を持って行動を起こしていきました。
ラオさんを世に出した「STEM」ってそもそも何?
STEMとは、Science、Technology、Engineering、Mathematicsの頭文字をとった言葉で、「科学・技術・工学・数学」の教育分野を総称した言葉。自ら自発的に、想像的に学び、判断力や問題解決力を養っていく21世紀型の教育システムです。アメリカはじめ新興国ではすでに何年も前から国のカリキュラムとして導入されていますが、日本では2020年にプログラミング必修化、ICTが整備され始めるなど遅れをとった印象。
とはいえ、ラオさん自身はエリート教育を施されたわけではないといいます(ちなみにアメリカで公文式には3歳から通っていた模様)。でも著書を読んで思うのは、周りを巻き込み協働していく力、何度失敗したり断られても諦めない力、問題を解決したいという情熱がスゴイということ。いわゆる「GRIT」、やりぬく力でしょうか。
MIT Tech Reviewのサイトを閲覧することからスタートし、どうすればアイディアを形にできるかずっと考え、3Dプリンティングや電気、ナノテクノロジーについて学び、専門家に自らアプローチ。協力してくれる大人を探し出して…とうとう水の鉛検出装置「テティス」を11歳にして完成させるのです。その過程では、自分のやりたいことを動画やメールにしたためて研究者に送るなど、とにかくガンガン第一線の人物にアタック。著書にはメンターへの依頼メール例なども載っていました。
とはいえ、アプローチしても断られることの方が断然多かったようで(8割は否定的な回答だったとのこと)、最初こそ落ち込んだものの、「最悪でも断られるだけだと気づいたら怖くなくなった」と著書でも語っています。
ラオさんは、「若者には、未来を変え、持続可能な世界と環境を作り出す力があります。若者の挑戦に、大人には『yes』と言って欲しい。メンターになることを頼まれたらぜひ『yes』と言って欲しいのです」と、子どもたちへのサポートを呼びかけていました。
ラオさんが子ども時代に夢中になった遊びって?
講演会では質問に答えるコーナーも。
「習い事でもなんでも、幼い頃からやってきたことは?」という質問にラオさんは、いつも家族であるゲームをしていたと教えてくれました。
「5,6歳の頃から、例えば今までにないレストランを作る、というお題に対して3分で考え、プレゼンすることが求められていました。母が相手になり、父が審査員。この遊びで想像力が鍛えられたと思います」
これを聞き講演会の堂々とした話しぶり(声も大きい!)は小さい頃から培われたものなのだなと感じました。
最後に、子どもたちへのメッセージも。
「最初の一歩を踏み出すことを恐れないでください。私も、成功より失敗の方がもう何倍も多いです。一度失敗すると割と慣れると思うし(笑)、最悪でも失敗するだけです。だからそのまま進むことが大事だと思います。また若ければ若いほどアイディアを出す時間はあるかもしれないし、アイディアを保存して後で取り出すことはとても大事なので、ぜひアイディアを日々記録してください」
道が開ける人は引き寄せてるのではなくて、自分から寄って行ってるのだなと感じます。子どもたちにそんな自信と行動力をもたせるには、「子どもだから」と思わずにひとりの人間としてきちんとサポートすることが大切なのかも。
つい「大人になったら何をしたい?」「(大人になったとき叶えたい)夢は?」と聞いていましたが、夢は、「子ども」といわれる年齢でも、年齢も性別も関係なく叶えられるということ。テクノロジーが発達していく今、一層そうなっていくはず。そしてSTEM教育が日本でももっと発達していくことを願うばかりです。
取材・文/有馬美穂