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▶Part3 『二月の勝者』著者が語る「2月1日は『スラムダンク』の山王戦」

『二月の勝者-絶対合格の教室-』©高瀬志帆/小学館

中学受験生のママだけでなく、未就学児や低学年ママも大注目の漫画『二月の勝者』。物語はついに入試本番を迎え最高潮に盛り上がる中、最新刊が2月7日に発売されたばかりの作者・高瀬志帆さんに、作品誕生のきっかけや制作の裏話、作品に込めた想いなど、多岐にわたってお聞きします。Part3では、臨場感あふれる入試本番を描く上で心がけていることや最新刊の見どころをお聞きしました。

 

Part 1▶︎小学生ママのバイブル『二月の勝者』作者に聞く「中学受験、過熱の構造」

Part 2▶︎中学受験マンガ『二月の勝者』 強烈な<名フレーズ>を作者が語る

臨場感あふれる入試本番を
描く上で心がけていること

『二月の勝者-絶対合格の教室-』©高瀬志帆/小学館

 

——今、物語はいよいよ2月の入試本番を迎えていて、ものすごく臨場感のあるシーンが続いています。心情描写がとても丁寧で、かつボリュームも割いていますが、やはり本番がピークというお気持ちでしょうか。

 

高瀬志帆さん(以下、敬称略):連載を描きながら、その間もずっと取材は続けているのですが、やっぱり一番ドラマチックなのは本番が始まってからという話を塾講師の方から聞きまして。小4から受験勉強を始めたとして3年かけて育ててきた生徒たちの晴れ舞台、それが2月のほんの数日間だとおっしゃるんですね。たとえば、長い間、練習してきたアスリートがオリンピックに出て数秒で競技が終わるとしても、その数秒の世界がものすごく濃密だと思うんです。入試本番も最後の晴れ舞台なので、合格発表だけ描いて「この子はこうでした、この子はこうでした」で終わるのはもったいないなというのがありました。『スラムダンク』の対山王工業戦のような心持ちですね。

 

——なるほど!

 

高瀬:

あるいは『ガラスの仮面』の紅天女です。今まさに、紅天女のつもりで描いています(笑)。もう一つ気をつけているのは、今までの巻でもそうですが、当事者のタイム感に合わせて描くことです。その人が長く感じている時間は、長く感じているその感覚に沿って描きたいというのがあります。実際に中学受験を経験した方にとって、2月1日と2日は、とてつもなく長く感じると思うんです。たとえば1日の午前午後が残念な結果だったとして、それからの2日目は、傍から見れば同じたったの1日ですが、当事者にとってはこの辛さは永遠に続くんじゃないかという長さに感じるのではないでしょうか。そこはやはり体感通りに描かないと伝わらないという気持ちがあるので、ここは絶対にボリュームを割きたいと思っています。

最新刊の見どころ

『二月の勝者-絶対合格の教室-』©高瀬志帆/小学館

 

——他にも作品を描く上で意識していることがあればお聞きしたいです。たとえば、登場する家庭は夫婦共働きが多かったり、子どものキャラクターもステレオタイプなジェンダー観に嵌められていなくてフラットに描かれていると感じたのですが。

 

高瀬:保護者のキャラクターに関しては、今の令和の親御さんをそのまま描いたら現在の形になったという印象です。受験を題材にした漫画というと、教育ママがたくさん出てきてガミガミ言う、等のイメージがあるかもしれないですが、取材をしていてもそういう親御さんはほとんどいなかったんです。ただ、家庭環境については、もっと共働き家庭を増やしてもよかったかなという感覚はあります。視点が色々と変わる漫画なので色々な視点を盛り込みすぎると読みにくくなってしまうので、そこだけは若干、一昔前に寄せているかもしれないです。実際はもっと、お父さんが塾の送迎をしているご家庭も多いです。また島津君の父親が象徴的になりすぎてしまったので、お父さんが勉強を教えることがネガティブな描き方しかできていないのですが、お父さんがサポートして上手くいっているご家庭もたくさんあるので、作者としてはもっとフラットに描くことも出来たのでは、という思いはありますね。

 

——中学受験は家庭の数だけストーリーがあって、何の悩みもなくすんなり上手くいく人は滅多にいないですし、別に親が熱くならなくても子どもが勝手にドラマを起こしてくれたりもして。「我が家の中学受験を高瀬さんに聞いてほしい!」という人はたくさんいると思います。

 

高瀬:保護者の取材は、直接お会いした方もいますし、カフェなどで仕事をしている際に、塾帰りのお子さんを待っている親御さんたちが隣にいて漏れ聞こえてくる会話に耳を傾けてしまうこともあったりします笑。今の親御さんはお子さんの頑張りをちゃんと褒めている方が多いし、疲れて帰ってきたお子さんとケーキを食べて励ましの言葉をかけたりしていて、みなさん本当に上手にサポートされているように感じます。

——2月7日発売の17巻は、ついに2月1日の入試本番ですね。

 

高瀬:まさに子どもたちの晴れ舞台ということで、受験本番に一体どんなことが起こるかがわかる重要な巻です。保護者視点ではわからないこと、その時学校がどう動いているか、その日の塾がどんな様子なのかもしっかり描きました。保護者も大変ですが、塾も大変なんだなとわかっていただけるかなと。あとは併願計画の重要性ですね。ちょっとキツイ描写も出てきますが、受験する以上、避けては通れないことだと思います。保護者の方にとっては本番のシミュレーションにもなると思うので、是非そういった点にも注目して読んでもらえたら嬉しいです。

 

◉高瀬志帆さんProfile
1995年漫画家デビュー。2017年12月より小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて連載を開始した『二月の勝者 -絶対合格の教室-』は好評を博し、2021年10月には実写ドラマ化。2022年には第67回小学館漫画賞一般向け部門を受賞。その他の代表作に『おとりよせ王子 飯田好実』(コミックゼノン/徳間書店)など。趣味は散歩と音楽。Twitterアカウント:@hoshi1221

取材・文/宇野安紀子 編集/羽城麻子

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