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中学受験頻出作家が語る「国語入試で問われていること」【朝比奈あすかさんインタビュー】

中学受験をテーマにした新刊『翼の翼』が発売された、作家の朝比奈あすかさん。朝比奈さんは“中学受験頻出作家”としても注目されていて、小学校の学級崩壊を描いた『君たちは今が世界(すべて)』(角川文庫)は2020年度入試において開成中、海城中、サレジオ学院中など難関校をはじめとする13校で、また『人間タワー』(文春文庫)が早稲田実業学校中等部で出題されました。

入試問題には、学校がどんな生徒を求めているかが色濃く反映されますが、特に国語ではそれが顕著に現れると言われています。昨今の中学受験の国語入試ではどんなことが問われているのか、学校はどんな子どもを求めているのか。作者として、また中学受験生の親として寄り添った経験から、お話をうかがいました。

【朝比奈あすかさんインタビュー
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――一つの作品が同じ年に13校で出題されるのはとても珍しいことだと思うのですが、率直にどんなお気持ちですか?

 

朝比奈あすかさん(以下、敬称略): どの作品も大人向けに書いていて書店でも一般書として売られているので、小学生に読ませるものとして学校側が選んだのが本当に不思議というのが正直なところです。いろんな人に読んでもらえる機会になるのは有り難いですが、大人に向けて書いたつもりなので、子どもが読んでいいのかな?というか。子どもにはわからないだろうということでは決してないのですが、かつて子どもだったことのある大人に何かを感じてもらえたらと思って書いていたので、現在進行形の子どもたちに読まれるとはあまり考えていませんでした。

 

――出題をご覧になったりするんですか?

 

朝比奈: はい。『君たちは今が世界』は多くの学校で使っていただいて実際に問題もいくつか見てみましたが、自分とは違う立ち位置に置かれている人の状況や心情を想像させる出題が多かったですね。つい自分の半径数メートルしか見えなくなりがちな中で、自分以外の人が何を抱えているのかということに興味を配れるような子が欲しい、そういう人間になってほしいという学校からのメッセージかなと感じました。

 

――『君たちは〜』が男子校で出題が多いのもまさにそういうことかなと思いました。主人公は女子なので、もっとも身近な多様性の象徴である異性の気持ちをどれだけ想像して寄り添えるかを求めているんだなと。

 

朝比奈: それもあるかもしれないですね。

 

――私たち親世代の中学受験と比べて入試問題はどんどん難しくなっていると聞きますし、国語の出題が大人向けの作品であることからも、学校側は早熟な子を求めているのかなと。

 

朝比奈: 今の子はSNSなどを通じても多くの情報が入るので早熟になってゆくように見えますが、一方でSNSは、自分と意見が似ていたり自分が理解しやすかったりする人たちとの、小さなサークルの中に自身を閉じ込めていくことにもなりがちです。これからの時代に、立場の違う人の気持ちを想像できる人になってほしいという学校からのメッセージなのかもしれませんね。でも、小学生の内からこんなことはまだわからなくていいんじゃないかなという思いも、私の中に少しあるんです。とても難しいことを問うている学校もあったので……。だから、模試で『さよなら獣』が出題された時に知人の子が全然わからなかったと言っていたのを聞いて、まだわからなくていいよ〜と思っちゃいましたね。いずれ経験から知ってゆくだろうし、まだ子どもなのだから、と。

 

――著者の方がそういうお気持ちだと聞いて、少し安心しました。

 

朝比奈: 本当にいろんな立場の人の気持ちを考えられる子が欲しいんだろうなって。とは言え、子どもの実体験は限られるので、本をたくさん読んでいる子を求めているのかもしれないですね。本を読んでいるうちにいろんな考え方ができるでしょうという。

 

――ご自身の作品以外でも、こんなことを問うんだと驚いた出題はありますか?

 

朝比奈: いい意味での驚きなのですが、子どもが通っていた塾の国語のテキストがすごく良くて。『アフリカの角』(谷本美弥子作※現在では絶版)という作品は、子どもに勧められて読んでみたら涙を流してしまって、こういう作品を扱ってくれたのはものすごく有り難いと思いましたね。塾の先生も子どもたちに読ませたい作品ということで、国語力以上のことを考えて選んでくれているんだなと。あとは『15メートルの通学路』(山本純士著/角川文庫)『泣けない魚たち』(阿部夏丸著/講談社文庫)、『カーネーション』(いとうみく著/くもんの児童文学)など、テキストや模試で扱った文章を「これが良かった、あれも良かった」と教えてくれて、よく話をした記憶があります。

 

――『翼の翼』でもそんなシーンがありましたよね。子どもの成長に相応しい作品を選ぶのは意外と難しいので、塾でいろんな作品と出会えるのは有り難いですし、親子のコミュニケーションのきっかけになるのも嬉しいですね。朝比奈さんの次回作は、児童相談所を舞台にした作品だとうかがいました。

 

朝比奈: 児童養護施設にいる高校生の女の子が主人公の『ななみの海』(双葉社/20222月発売予定)という作品です。複数の施設に取材をさせていただく中で、もっといい世の中になってもらいたい、子どもたちにもっといい世界で生きてほしいという気持ちが強くなりました。そういう気持ちを込めた作品です。

 

――作品としても純粋に楽しみですが、入試でもまた出題されそうだなと思ってしまいました…

 

朝比奈: 主人公がちょっと大きいのでどうでしょうか。小学生向けということでは、『子どもの心のつぶやき』(偕成社/発売日未定)というアンソロジー集に短編『すみれさんとぼく』を、『「多様性」をみつめる』(岩崎書店/発売日未定)というアンソロジー集に短編『にぎやかな孤独』を書きました。オンラインゲームやSNSの世界を子ども視点で描いたもので、多くの小学生はまだ知らなくても良い世界ですし、入試に出ることはないと思います。ただ、一部の子どもにとっては切実な問題です。響く子はいるのではないかと思い、書きました。届いてほしいなと思います。

Profile

朝比奈あすかさん

慶應義塾大学卒業後、会社員を経て、2006年に群像新人文学賞受賞作の『憂鬱なハスビーン』(講談社)で作家デビュー。以降、働く女性や子ども同士の関係を題材にした小説をはじめ、多数の作品を執筆。『君たちは今が世界』(KADOKAWA)と『人間タワー』(文藝春秋)は、2020年の中学受験において男子難関校を含む10校以上で出題されるなど、国語入試頻出作家としても注目されている。

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取材・文/宇野安紀子 編集/羽城麻子

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