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【與真司郎さん】カミングアウトを「家族に打ち明けづらかった」理由

フェミニズム、ジェンダーについてのトピックが増えた現代。それでもまだ、日本においてセクシャリティを語る壁は高い。2023年に自身がゲイであることを公表した與真司郎さんが、クイア・カルチャーに眼差しを向ける台湾の気鋭フォトグラファー マンボウ・キーの写真展『Home Pleasure|居家娯樂』にモデルとして参加。その撮影エピソードと、カミングアウトによって自分を隠し続ける人生を手放した今の自分について語ってくれました。

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▶︎與真司郎さん×マンボウ・キー氏《画像集》

photo/Manbo Key

 

花と一緒に映ることの懸念がプラスに変わった

ティーンエイジャーの頃、父親の男性との自撮りセックステープを見つけたことの不安や戸惑いから始まった、マンボウ・キーの“自身のアイデンティティの探求”という創作活動。彼自身も同性愛者であり、2019年に発表された台北美術賞グランプリ受賞作『Father’s Videotapes』は東京で個展が開催されるなど、日本のカルチャーシーンでの注目度も高い。

5月30日(金)より開催される写真展『Home Pleasure|居家娯樂』は、家族、ジェンダー、セクシャリティ、クイア・アイデンティティというテーマを深化。写真・映像・インスタレーションを通じて、それらのテーマが個人に終わらない社会の物語であることを語りかける。その撮影現場で印象的だったのは、マンボウ・キー氏と英語でフランクにコミュニケーションを図る與さんの姿。

 

「27歳でロサンゼルスに留学したことをきっかけに、英語はめちゃくちゃ頑張りました。英語はボディランゲージも入るし、セクシャリティをはじめてオープンにできたロサンゼルス時代のマインドになれるようなところもあって、自分にとっては距離を縮めやすいコミュニケーションなのかもしれないです。マンボウは穏やかで落ち着きがあって、柔軟な人柄。打ち合わせの段階から僕の意見にもしっかり耳を傾けてくれました。それでいて、モニターテレビに僕を映し出して撮影するとか、作品のアイデアはすごくクリエイティブ。彼の素晴らしい感性に触れることができた、刺激的な時間でした」

 

写真展の撮影が行われたのは、東京の下町にある日本家屋。與さんのお気に入りは、その庭先に咲いたツツジの花とのワンカット。マンボウ・キーのシグネチャーといえる、鮮やかでポジティブな色彩と與さんの表情が、心に響く。

 

「マンボウには事前に “ゲイであることをカミングアウトをしたけれど、僕は性自認が男性であるため、フェミニンに映りたいわけではない”という気持ちを伝えましたが、元々分かってくれていたような感じでした。これまでの花と一緒に映ることへの懸念が、マンボウとディスカッションを重ねるなかでプラスに変化。ナチュラルという概念や自分らしさについて、また新しい一面や感情が見出せたような気がします」

これまでついてきた嘘の数が
家族に打ち明けづらかった理由

マンボウ氏が活動する台湾は、2019年にアジアではじめて同性婚が合法化。與さんは先日発売された著書『人生そんなもん』のなかで元カレの存在について触れている。カミングアウト以前以後で変わっていった“思い描く未来”について聞いてみた。

 

「恋の話を堂々とできるようになったのは、自分の人生において“新しいな”って感じです。今はパートナーがいないので結婚したいという感情は特にないですが、将来的にいい人に巡り会えたら結婚できるという、みんなと同じ選択肢があれば幸せなことだと思います。僕はゲイですが、そのセクシャリティは自分で決めたわけではありません。ときに性的な趣向や病気のように扱われることがあって、“病院に行って治したほうがいい”というコメントを見つけたことも。そんなことで変われないから多くのLGBTQ +の人たちは悩み、普通に生きたいと願い、もがいてきたんじゃないのかなと思います。僕の場合は自分を隠し続けて生きるには限界があるとカミングアウトに至ったわけですが、当たり前に多様なセクシャリティが受け入れられるようになったらわざわざ公表する必要もなく、もっと早くに“自分らしく生きる”という幸せを手に入れる人が増えるはず。いつか“與真司郎のカミングアウトって何だったの?”って言われる時代がくるよう、これからも僕に出来ることは積極的にシェアしていきたいです」

 

與さんが「ゲイであることを言いづらかった」と語る、家族の存在。子どもの辛さに気づけなかった親もまた辛いはずと、NaVY世代が考えさせられるのは“打ち明けやすい親子の関係性”。

 

「母のせいでどうこうって気持ちは、当然まったくありません。僕は15歳で芸能活動のために家を出てしまっているので、母が気づくきっかけも少なかったはずです。一番近いはずの家族に打ち明けづらい理由は、これまでについてきた嘘の数でした。好きな色やキャラクターとか、“いつ彼女ができるの?”と聞かれたときのリアクションとか。自分を隠していた時間が長いほどに嘘の数が増えていき、どんどん本当のことが言いづらくなってしまった。僕が幼い頃はLGBTQ +に対する偏見はもっとあって、恥ずかしいこととして語られるような風潮がありましたが、今はメディアやイベントなど理解を広げるためのトピックがたくさんあります。例えば家族で一緒にテレビを見ているときにLGBTQ +のニュースが流れて “お母さんは全然気にしないけどね”みたいな一言が聞けたら、子どもは打ち明けやすくなるのかもしれません。僕自身、その会話のキッカケのひとつになれたらいいなと思っています」

マンボウ・キー写真展『Home Pleasure|居家娯樂』

台湾発の気鋭フォトグラファー&アーティストであるマンボウ・キーの日本で初めての大規模個展『Home Pleasure|居家娯樂』。5月30日(金)〜6月9日(月)まで、PARCO MUSEUM TOKYO で開催。LGBTQ +のコミュニティを祝福し、差別や偏見のない公正かつ平等な社会を目指すプライド月間に重ね、入場料が無料。
公式サイト▶︎https://art.parco.jp/museumtokyo/

取材・文/櫻井裕美

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