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サッカーと中学受験の両立、
本当に可能でしょうか。

Yさんの場合

【家族構成】
夫、娘(中2)、息子(小4)
【今回相談する子供の年齢】
小4男子 (小4からSAPIXに通塾)

現在中2になる姉の時に初めて中学受験を経験。姉は小4までに習いごとはほぼやめ、小5からは主に受験のために時間を費やしました。今回相談したい息子は姉と同じようにはいかなさそうです。サ ッカーが何より大好きな小学4年生。学校のサッカークラブ+クラブチームのス クールに週4日通い、時間があればボー ルを蹴りに公園へ。週末も試合漬けです。サッカーのほうは、練習の甲斐もありク ラブで小6と一緒にプレーするレベルまできました。本人は小6までサッカーを続け、将来的にチームをまとめる存在になりたいと思っているようです。私としては中学受験をせず公立+クラブチームという選択肢も考えましたが、本人の希望もあり小6最後までサッカーを続けながら中学受験をし、文武両道の学校に進学したいと考えています。本当に両立ができるのかどうか、この選択は間違って いないのか不安になります。

Y:サッカーは5年生くらいでやめるつもりだったんですけど、地元チームのコーチは両立をさせたい考えの人で。そのチームからは、最後までやっていても、駒東とか明大付属とか桐朋とかに受かっ ている子もいるのでと。あとは、うちの代では息子がキャプテンをやるような立場で、チームのことを考えると簡単にはやめられないんです。

 

おおた:それはそれで大きな要因ですね。チームのために自分を犠牲にする必要はないけれど、そこに自分の存在価値を見出しているなら、子どもの成長にとって、中学受験で少しでも偏差値の高い学校に合格するよりも重要な経験かもしれません。クラブチームのサッカースクールというのは?

 

Y:そっちの正式な選手になるにはセレクションがあります。4年生から5年生になる時に、選抜チームのテストを受けたんですけど、2次試験で落ちてしまって。中学生になったらサッカーは学校の部活でやるつもりです。クラブチームを受けるとなると6年の夏くらいからセレクションが始まって受験と重なるんです。それに本人は高校選手権を意識して、学校のサッカー部で頑張るイメージをもっているようで。

 

おおた:中学から入れる高校サッカーの強豪はいくつかありますからね。ぎりぎりまでサッカーを続けるにしても、地元のチームか クラブチームのスクールか、どっちかをやめるとかいう選択もある?

 

Y:地元のサッカーをやめるつもりはないですね。6年になる時にクラブチームは流石にやめると思うんですけど。サッカーのコーチからは「行きたい学校を一つに決めて、それ以下もないしそれ以上もなし!」って言われています。

 

おおた:志望校を一個に決めてそこだけにしようということですね。それは地元のコーチ?

 

Y:そうです。もう20年以上チームを見ていて、すごくいいコーチなんですけど。

 

おおた:いかにも体育会系なことをおっしゃいますね(笑)。でも、信頼の厚いコーチにそんなこと言われたら腹をくくろうかと思い ますよね。

 

Y:夫も「塾は進学先までは保証してくれるかもしれないけど、子どもの人生を保証してくれるわけじゃないから、息子のやりたいようにやらせればいいし、サッカーの話をしている時はキラキラしているから、その軸をブレさせたら勉強も身に入らないだろう」って言ってます。

 

おおた:それはただしいですね。

 

Y:だからやめないとは決めているけど、でもやっぱり不安になります。休部が2カ月だけできるので休むのはそこだけ。だから6年の11月とかまでやる。本人は志望校を決めているんですが、今のサピックスのクラスでその偏差値の学校を目指す子はほぼいません。ちなみに上の娘は私立の偏差値がそれほど高くない女子校に通っていますが、すごく楽しいみたいです。つまり入ってからどれだけ頑張るかだなという気がしていて、コーチの言うことも一理あるなと。

 

おおた:そこでどんな迷いがあるのかな?

Y:親としてはもうちょっと勉強に時間を割けたらちょっとでもいい学校に行けるかもという迷いがあります。周りの子はいずれやめていくのも目に見えてるので、周りが気になっちゃう気持ちもあります。

 

おおた:じゃあ、本人というよりも、お母さんの気持ちの問題ですよね。

 

Y:そうなんです、子どもはブレてない。

おおた:てことは、答えも出てるし、お母さんも答えを知っている。でもその中で「本当にいいんだろうか?」っていう迷いが消えない。それはお母さんが人として成長している証拠で正しいの。でも、最後は息子さんが太鼓判を押してくれるから。「これで良かった!」って。

 

Y:その太鼓判を押してくれるのはいつなんですか?

 

おおた:子ども自身が最後に晴れやかな顔をして「お母さん、僕の受験終わったよ」って言ったら、私たちの受験はこれで良かったんだって思える。それまではずっとモヤモヤモヤモヤしてる。それはどんな選択だってそう。選択した後も常に、親はこれで良かったんだろうかって不安な気持ちを抱え続けるもの。でも最後は子どもが「これで良かったんだよ!」って教えてくれるから。子育てってその連続ですよ。本当はもっとやったら伸びるっていう確信があるから、迷いもあるんでしょうね。

「何かに集中して取り組む能力は必ずスライドする」

Y:うーん、最近は諦めましたけど、それがあるんでしょうね。 土日も本当に家にいなくて、サッカーの練習の前にサッカーしに 行っちゃうんですよ。自分でタイムマネージメントしたいタイプで、今も朝7時半になったら勉強するからって、時間を取るタイプなんです。

 

おおた:すごい! 多くの中学受験生の親がうらやましがる話ですね。

 

Y:けど、決めた時間しかやら ないので、後から「これも」って言うと怒るんですけどね。

 

おおた:そりゃあ怒りますよ(笑)。やる気ってどうやったら出るんですかってよく言われるんですけど、息子さんは今サッカーに対するやる気が満点でしょ。それを折っちゃうのはすごくもったいない。何かに集中して取り組む能力って必ずスライドするから。クラブチームを無理やりやめさせたからって勉強するわけじゃないし、受験が佳境になったら、「クラブチームはなくていいや」って言い出すかもしれないし。

 

Y:私もそれを期待してます。

 

おおた:それも必要なくて、フルでギリギリまでやるからっていうガッツがあるなら、それはそれで大したものだし。いずれにしても「こういう選択肢もあるよね」っていう会話を事前にしておいたらいいかもしれない。親から選択肢を示されたうえで「自分の気 持ちに正直に判断しなさい」って言われると子どもは安心するし自分の人生に対して責任を感じるようになるから。

 

Y:サッカーをやめさせても勉強すらしなくなるのは最悪だとわかるのですが、仮にサッカーを無理やりでもやめさせたがゆえに結果的に難関校に合格できたとしても、子どもにとってマイナス点があるんですか?

 

おおた:何かに向かって夢中になるっていう、人生で一番強みになる非認知能力を折ってしまう。たかが偏差値の5や6のために、その成長を止めちゃうのはどう考えても損。

 

Y:となると偏差値ってよくわ からないです。サピックスのトップクラスって算数が好きで仕方ないとか、ほかの塾にはいなかった集団がいるんですよね。御三家とかってそういう子たちの学校なんですよね。

 

おおた:みんながそうじゃないけど、たしかにそういう子たちはいて、彼らはさらりと東大にも入っちゃうんですよ。でもそれは サッカーでいえば東京都代表みたいなことだから。そういう子たちが塾のトップクラスに集まって楽しくやってるところに対抗する必要はないんですよ。

 

Y:うちが今気になるのは、サ ッカーが強い久我山とか明大付属とか、暁星、早稲田実業、攻玉社。都立三鷹もいいですよね。でも対策が違うかなって。

 

おおた:公立中高一貫校の過去問を解いてみてある程度点数が取れるなら、やってみる価値はあると思う。短期の対策講座を受けてみたうえで模試を受けて、ひょっこりいい点数を取れたらめっけもんだから、余裕があったらやってみてもいいと思う。4科目のベースがあるうえに、本が読めて文章が書けるのならそれだけで結構いけるから。

 

Y:……もう、私が気持ちを切り替えるしかないですね!

 

おおた:一般的に習い事と中学受験の両立が難しいのは「勉強したくない」っていう気持ちの言い訳として「サッカーを続けたい」 という時。そういう時は、サッカ ーをやってる時も中途半端で、勉強している時も目が死んでるはず。そこで子どもを見る。本当にサッカーを楽しそうにやっていて、だから勉強もやるんだって自分の意志を持ってやってるなら、それは正しい。

 

Y:そっか、目を見ればいいんですね。楽しそうにやってます。

 

おおた:サッカーも惰性でやっていて、それが〝逃げ〞でやってるとしたら、テコ入れは必要かもしれないですけどね。子どもが決 断できないところを、親が手助けをしてあげるのはありだと思う。それは意志を捻じ曲げるのじゃなくて、後押ししてあげることになる。でも、明確な意志を持っている時にそれを捻じ曲げるのはもったいない。

「不安になるのがいけないわけじゃないけど、 不安を子どもにぶつけちゃうのは親の未熟さ。」

Y: 6年になったらやっぱり勉強時間の差が出て成績が落ち始めると思うんですけど、どんな言葉をかけたらいいですか?

 

おおた:本人がわかってることは言わないことです。言っても結果がよくなるわけはないんですよ。不安になるのがいけないわけじゃないけど、不安を子どもにぶつけ ちゃうのは親の未熟さ。最初からそんなできてる親はいないけど。親も失敗の中から学べばいい。受験の間にいろんな葛藤をして、こうすれば良かったんだねってことはたいていあとからわかります。

 

Y:子どもの受験で、こんなに自分が試されるなんて思ってなかったんですよ。すごくいろんなことが揺らぐし。子ども以上に自分が成長というか、考えることが多くて。

 

おおた:うんうん、それはすごく正しいの。不安だったら、お母さん自身が自分を主語にして自分の感情を素直に子どもに伝えて、そのうえで子どもがどうするかを観察すればいい。その中に少しでも成長があれば喜びま しょうよ。机に向かっている時の目が違うとか、少し正答率が上がるとか、集中力が高まってるとか。どんな小さなことでも気づいたらフィードバックしてあげたほうがいい。

 

Y:「成績が落ちたよね、お母さん不安なんだけど」っていう言い方でいいんですか?

 

おおた:それって、子どもじゃなくて将来を見ちゃってるじゃないですか。そこで子どもにフォーカスするには、たとえば「今回点数がいまいちだけど調子悪かったの?」とか、その子の中に今何が起きているのかを問うてあげる。子どもなりに下がっていることはわかっているから、未来に対してどうじゃなくて、「今こういう状態だけど大丈夫?」「お母さん、何かやることある?」っていう伝え方をすれば、子どもは親が信頼してくれてると思えるし、結果に対しては自分で責任を負わなきゃいけないって主体的に思えるはず。大原則は自分を主語にすることと、将来じゃなくてその時の子どもにフォーカスすること。

 

Y:つい、思いついたことをすぐ言っちゃう(笑)。

 

おおた:言葉が脳みそ経由してないみたいな(笑)。そこで「言葉を選ばなきゃ」と思って一拍置けるようになるだけでも、親としてはすごい成長なんですよ。意識しようと思ってもいつもできるわけじゃないから、ついやっちゃったらあとから「ごめんね」って言えばいい。そんなことを繰り返していると、中学受験を通して親も成長できるから。そうしたら子どものことがもっと輝いて見えるようにきっとなります。そうなれば、どんな学校に行くこ とになっても中学受験は大成功でしょ。

【おおたさんからひとこと】

この息子さんの場合は、すごく強い意志を持ってやってるから、捻じ曲げられないし、捻じ曲げたら勉強のほうもうまくいかなくなると思う。

お母さんも最初からそれをわかっていた様子です。でも心はざわつく……。それが親心です!それでいいし、それがいい。今回はお母さんの成長物語でしたね。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験「必笑法」』(中公新書 ラクレ)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano  コーディネート/宇野安紀子 デザイン/attik  編集/羽城麻子

VERY NAVY4月号『おおたとしまささんの悩めるママのための、受験進路相談』から
詳しくは2020年3/6発売VERY NAVY4月号に掲載しています。

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