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【中学受験相談】“子どもに合う”塾選び5つの視点「競争が苦手」な次女のケース

『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です! 今回は、小3の妹を姉と同じ塾に通わせたいが、姉と同じは嫌だと言われてしまい悩んでいるというお母様からのご相談です。

【今月の質問】

小3の妹。姉と同じ塾に
通わせたいが、姉と同じは嫌だと
言われてしまいました
[受験進路相談室]

Iさんの場合

【家族構成】
夫、長女(小6)、次女(小3)

【今回相談する子どもの状況】
小3の次女について。小6姉は小4から中小塾に通塾中で、妹はこれから小3の2月に向けて塾選びの段階ですが「●●ちゃんの妹だよね、と言われたくないから姉と同じ塾は嫌だ」と言われてしまいました。

小3の冬期講習に通ってみたうえで本人に選んでもらおうと思っていますが、子どもの意思を尊重して別の塾に行かせるか、本人は気乗りしないが親も慣れていて指導方針も気に入っている姉の塾に入れるか迷っています。少しでも難しい課題でつまずくと泣き出したり拗ねたりしてしまうので、できない問題ばかりだとやる気を失いそうでハイレベルな塾は合わない気がします。また、成績で席順が決まるような塾も嫌だとのことで、塾選びに悩んでいます。

何よりも塾長の教育観に共感できるかどうか。額面通りの言葉ではなくて、醸し出す雰囲気、佇まい、安心できるという感覚。

I(相談者):小3の次女の塾選びに悩んでいます。小6の姉が新演習を使っている中小塾に通っています。親としては同じところに通ってほしいのですが、次女が同じところは嫌だと。3年生の言うことなのでどこまで聞いていいのかわからないのですが、お姉ちゃんと比較されるのが嫌なのかなと。塾は一通り揃っている地域に住んでいるので、他塾も検討しています。とりあえず大手で考えてみましたが、ここだというところが見つからなくて迷っています。

オ(おおたさん):そのエリアであれば、大手から中小までいろんな塾がありますよね。最初に申し上げると、おすすめの塾を言うつもりはないので、何を軸に考えていくか、という話になると思うんですが。

I:制服が可愛いところがいいという理由で、東洋英和か香蘭か横浜雙葉に行きたいそうです。「だったらきちんと勉強しないと入れないよ」と次女には話していますが、サピックスでバリバリやるのは……。今ピアノをやっているのですが、弾けないうちはとても嫌がるんです。難しい問題に挑んでいくタイプではないので、高度な問題をやるところは合わないかなと。次女も人が多いのは苦手だと言っています。ワセアカは私が調べた範囲だとかなり宿題も多いし、ガンガンくらいついていくタイプではない。四谷大塚は拘束日数が多いと聞きました。日能研は成績で席順が決まるそうで、そういうのは嫌だそうなので、結局どこも行くところがありません。

オ:競争的なところも嫌だし、大人数でゾロゾロ帰るのも嫌だとなってくると……。中小になってきますよね。中小だとそもそも人数はいないから席順も成績順では自然になくなってくる。今の話を聞いていると、お姉ちゃんと違う中小塾を探せばいいのではないかと思うのですが。

I: まだ姉の受験が終わっていないこともあって、中小でいいのかなっていう気持ちも私の中にあります。

オ:お姉ちゃんと同じ塾に入ってくれればいいと言っていたけれど、そこにも不安があるんですね。なるほど。中小だと確かに当たり外れもあるかもしれない。でも大手も先生によって当たり外れがある。国語は当たりでも算数が外れとか。その子にとっての当たり外れがある。だからその子に合っている塾って、大手の場合は議論しても仕方がないような気がしています。お嬢さんにとっては中小のほうが向いているような気がするけれど、その辺りって情報がない。ネットの情報を信じても途方に暮れるだけだから。ママ友の情報もよほど信頼できないと、みんな無責任なことを言いますからね。知ったかぶりして。通える範囲の中小に直接足を運んで、塾長の先生の受験に対する考え方に共感できるか、人として信頼できる塾長かどうかを見るのがいいと思います。中小塾の選び方を本に書いたことがあって、5つの選び方をまとめているんです。それがそのまま回答になると思うのですが。

 1つ目は「カリキュラムが明確になっているかどうか」。今の(お姉ちゃんの)塾は新演習を使っているから、それに則っていることが明確になっていますよね。時々「その子を見ながら決めます」という塾がある。でも自分の子が何をやっているかわからない状況に、たいていの親は耐えられません。カリキュラムもぐちゃぐちゃだと転塾もしにくくなるし。そもそも中小でオリジナルの教材を開発するのってほぼ無理なんですよ。毎年膨大な量の入試問題がつくられて、それに対応するって、組織力がないとできないことなので。だからだいたい中小は予習シリーズか新演習を使うことになりますよね。

 2つ目に「進学実績」。過去5〜10年の合格実績を見せてもらう。それから近隣の大手塾の校舎別の合格実績を見て、母数をそろえて比べてみるといいですね。あとは言い方が悪いけれど、下の方のラインでもどこまで受かっているか。合格実績が大手と比べてもさほど遜色がないならいいのではないかな。

 3つ目が「保護者とのコミュニケーション」。中小ってアクが強くて個性的な人が多いので、そこに魅力を感じられればいいんです。でも時々人の話を聞かない人もいる。中学受験の親なんて不安定で当たり前なので、勉強だけではなく親の気持ちもきちんと見られる人でないとあとで困ってしまいます。

 4つ目は、ある程度の「時間的な実績」。できれば10年以上続いているところ。ラーメン屋と同じで、最初は評判が良くても味やサービスが良くないとすぐに閑古鳥が鳴くから。

 最後、これが僕は一番重要だと思っているのですが、「適正な規模を保っているかどうか」。例えば1教室で30人の規模を保っているところで御三家に合格者が出て、人がたくさん集まってきた時に拡大路線に走る塾はダメ。適正規模をわきまえていて、「申し訳ないけれど生徒は30人限定にしている」と言ってくれるところのほうが信頼できる。もう1教室増やすのって同じような質の講師を倍確保する必要があるから、そんなに簡単なことじゃないんです。

 この5点の観点で見てもらうこと、そして何よりも塾長の教育観に共感できるかどうか。額面通りの言葉ではなくて、醸し出す雰囲気、佇まい、安心できるという感覚。信頼できる人なのかどうかを感じること。何が言いたいかというと、言葉にならない違和感を大事にしたほうがいいってことです。言葉とかじゃなくて、もっと直感的に伝わるものを信じたほうがいい。

失敗したら失敗しちゃったなと思いながら、柔軟に試行錯誤していけば、子どもは親の失敗からも学んでくれるから大丈夫です。

I: 違和感って、今6年生のお姉ちゃんの学校選びでもそうだなって感じます。

オ:おっしゃる通りです。明らかに盛って見せようとしているところありますよね。盛って見せようという学校は、要は自分のありのままを見せることができないわけです。そんな学校が、預かっている子のありのままを認めることなんてできるわけないじゃないですか。スカしたプレゼンをしている学校はその場で候補から落としたほうがいい。明治神宮外苑の木の伐採が始まるというけれど、あれって、商業施設に変えてこれだけの経済効果が生まれますって言われて、本来なら何百年も育つはずのプライスレスな森を切り刻んでしまうわけですよね。見た目に派手なことばっかり訴える学校に通わせると、下手したらそういう価値観をもった人が育ってしまうと思うんですよ。どれだけ綺麗なことを言われていても、何か「変だぞ」と思える、違和感を大事にしてほしい。塾は営利だからある程度仕方ないと思うんですよ。偏差値10上げると言われても、聞くほうも眉に唾つけて聞きますから。でも学校は、文科省がお墨付きを与えている非営利の教育機関だし、教育の成果って常に忘れたころに思いもしなかった形で表れるものだから、「こういう成果が出ます!」とは言えないはずなんです。塾に話を戻すと、お母さんの直感でここはダメだなというところを落としたうえで、妹さんと一緒に体験授業をたくさん回ってみる。仮にカリキュラム的にはA塾のほうがお母さんにとっては魅力的でも、なんらかの理由で妹さんがBを選んだなら、Bにする。自己決定したかどうかでモチベーションが全く違ってきて、そちらのほうが成績が伸びると思うので。

I: わかりました。

オ:ほかにお母さんの気持ち的に不安なことはありますか?

I: できないことに対して悪く受け止めてしまうところが気になっています。学校のテストでは100点は取れるけれど、中学受験なんて100点が取れないものじゃないですか? 「できないから嫌だ」と言い出すのが怖いので、少し先取り学習をやってみたほうがいいですか?

オ:入塾テストの練習として中学受験を前提とした家庭用教材みたいなものを簡単そうなところから解かせてみて、「すごいじゃない」と褒めてあげたらどうでしょう。小学校の問題とは質が違う形式に慣れておくと入塾テストでは面食らわないで済むかも。1日30分でもいいので、家庭学習を進めてみるといいかもしれないですね。

I:親がヒントを出してもいいんですか?

オ:いいと思います。簡単には答えを教えないで、自分で考えさせてという教育者もいるけれど、時と場合によりますよね。原則論にだけ従うと、子どもの心が折れてしまうこともありますから。考えているときに解く喜びを奪わないように待つ必要はあるけれど、本当に匙を投げる瞬間にヒントを出すとか。このタイミングを見極めるって、素人の親には難しいんですけどね。

I:やっぱり難しいんですね。

オ:難しいですよ。でも、失敗したら失敗しちゃったなと思いながら、柔軟に試行錯誤していけば、子どもは親の失敗からも学んでくれるから大丈夫です。本人の主体性が強いから、それを大切にしてあげてほしい。どんなに時間がかかっても歯を食いしばっているのだったらヒントを出さないで応援するだけだし、限界に見えたら「ヒントほしい?」って聞いてみる。まだまだって言われたらもう少し見守る。そういうやりとりができるお子さんなのかなと思います。大人から見ると「またそんなことに時間かけて」と思うかもしれないけれど、それはその子の強みだから。目先の1点じゃなくて、問題にこだわることを強みにしていけたら。でもそもそも、小6のお姉ちゃんがいるのに次女の相談ができるなんて、余裕がありますね。

I:いやいや! 余裕ないんですよ。勉強しなくて。どうしたらいいのかわからなくて相談ができないんです。塾のカリキュラムはちゃんとやっているけれど。アニメを見たり。

オ:ちゃんとやっているならいいんですよ。

I:いいんですか?

オ:やること終わらせて、できた時間で好きなことやるのは最高ですよ。

I:親として、やることはいっぱいあるんだろうと思ってしまうのですが。

オ:そうしたら、時間をもてあましているんですけどって、塾の先生に相談して判断してもらうといいですよ。でも状況が見えていて落ち着いている、いいお母さんだと思います。

I:いや、めちゃくちゃ焦っていますよ。

オ:でも世の中のお母さんたちの取り乱し具合に比べたら、落ち着いていますから、ね。

I:ありがとうございます。

【 おおたさんからひとこと 】

ガッツのあるお嬢さんですね。長所と短所は表裏一体です。子どもの特徴を、親が長所と見るか短所と見るかで、子どもの自己像は変わります。ぜひ長所だと自己認識できるように導いてあげてほしいと思います。

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Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/


イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/羽城麻子

VERY NaVY10月号『おおたとしまささんの「悩めるママのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2023年9/7発売VERY NaVY10月号に掲載しています。*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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