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[中学受験]経験者でもある夫主導の受験、母として注意すべきことは?

ここ数年、1都3県の中学受験者数は前年度を超えています。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です! 今回は、父親主導の受験について、母として親として注意すべきこと、事前にどんなことを夫婦間で意思共有しておけばいいか悩んでいますという、お母様からのご相談です。

【今月の質問】

経験者でもある夫主導の受験、
母として注意すべきことは?
[受験進路相談室]

Oさんの場合

【家族構成】
夫、長男(小4)、次男(小1)、長女(年中)

【今回相談する子どもの状況】
小3〜最近まで、希学園(算数のみで、国理社は通信)
小4の2月〜サピックスに入塾

小3より希学園の算数のみ通っていました。最レベになります。子どもとの話し合いで小4は塾ではなく、通信で他の3科目の強化を補い、小5から通塾することになりました。夫が中学受験経験者なので、その辺りは経験値もあるため任せてはいるのですが、夫婦で何をどう握り合っておけばいいかに悩んでいます。塾選びは夫に任せたとはいえ、夫の方針がよくわからず…。父親主導の受験について、母として親として注意すべきこと、事前にどんなことを夫婦間で意思共有しておけばいいか教えていただけたら嬉しいです。

サピックスに1年生から通っていて、後から入ってきた子たちに抜かれる方が焦って怖いですよ。

O(相談者):小3から2年間、希学園の最レベという算数のクラスにだけ通っていました。野球もしていたので、小4まではそれだけ。算数以外は通信教育を利用したりしていました。でもやっぱり東京ではサピックスが強いと友人から聞いて、小5でサピックスに転塾しました。転塾したことで、何が起こりえるのか。それと、野球との両立は可能か。大人しいタイプなので、運動はさせておきたいんですよ。さらに、夫が関西で中学受験を経験していて、中学受験に関しては主導してくれているんですが、私はどんな立ち位置でいればいいか。その3点を聞きたいです。

オ(おおたさん):どこからいきましょうか?

O:私の関わり方ですかね。

オ:わかりました。希学園を選んだのはきっとお父さんなんですよね。関西では有名ですからね。サピックスではなくて、希学園の最レベで算数力を鍛えるって判断がものすごく玄人的だなと思います。詳しいんでしょうね。サピックスへの転塾もお父さんの判断ですか?

O:息子の友達のお兄ちゃんが私立難関校に通っていて、そのお母さんが中学受験についてものすごく詳しいんです。4年生になる前に塾の話を聞いた時に、希学園よりもサピックスの方がいいんじゃないかとアドバイスをされました。

オ:その話はお母さんが聞いてお父さんに伝えたんですか?

O:家族ぐるみで仲がいいので、Zoomでみんなで話しました。

オ:東京の学校を狙うならやっぱり最後はサピックスでしょというアドバイスに夫婦で納得したと。息子さんの反応は?

O:サピックスに通っているお友達は多いので、抵抗はぜんぜんありませんでした。

オ:転塾に関して、お母さんは何か不安があるんでしたっけ?

O:模試を受けてみると、算数以外は点が取れなかったりします。そこで、自分はできないって思っちゃったりしないかなと。

オ:想像するに、最レベで鍛えた算数に比べたらできていないという程度ではないですか? それは最初から織り込み済みだったと思うし、理社はやれば点が伸びやすいですから、そのうちごぼう抜きになるんじゃないですかね。苦手意識さえ持たせなければあとは上がっていくしかないわけだから、むしろ痛快なんじゃないですか? 逆にサピックスに1年生から通っていて、後から入ってきた子たちに抜かれる方が焦って怖いですよ。空回りしてどんどん悪循環になるので。算数ってなんだかんだ一番重要だから、そこをきちんと固めておいて、他のところで追い上げるって、周りからしたら嫌な選手ですよ。

O:なるほど。

オ:野球との両立についてはまあやりながら考えればいいかと思いますが、どちらかというとご両親の意向ですか?

O:そうですね。野球大好きって感じでもないです。勉強も野球も、嫌がらずにやる子なんです。でも、野球チームの子どもたちは中学受験勉強が忙しくなってくるとみんなやめてしまうので。だからうちもやめなきゃいけないのかなと。

オ:お父さんも同じようなニュアンスですか?

O:そうですね。

オ:であれば、野球もできるだけ両立していこうって言ってあげれば淡々とできちゃうキャラなのかもしれないですね。時間的には制約があるだろうけど、その中でもよくやってるよって。今、目先の成績を上げようと思うと、野球をやめてってなるけど、今お母さんの話を聞いているとそんな焦りもなさそうだから。転塾と両立に関しては、今ちょうど環境が変わる時なので不安はあるでしょうけど、やっていくうちにどうにかなるかなって。あとは一番大きなテーマとして、パパが主導していて、私はどういう立ち位置でいればいいかっていうので、今お母さんが感じている不安とか不透明さがあるのかな。今感じていることをざっくばらんにうかがえたらなと。

O:私は中学受験を経験していないので、わからない世界だなと思っていて。夫は中学受験をしていて成功していると言ったらアレですけど、志望校に受かっていて。大学受験もそんな感じで、あまり受験に苦労していません。というのもあるので、私も変に口出ししない方がいいかなと思っています。なので、希学園を選んだのもほぼ事後報告でした。例のママ友に相談したいと言ったのも彼だし。私にも中学受験のことをちゃんと知っといてよって言われるんですけど、どこまで入り込めばいいのか。

オ:知っといてよとは言われるけど、でもお父さんが勝手に進めててくれるんですよね?

O:そうなんです。そこがいまいち、どう入っていけばいいのか。スタサプやることとかも自然に決まってるみたいな感じなので。楽っちゃ楽なんですけど、これでいいのかなとか。

オ:楽なら楽しておけばいいんじゃないですか? お父さんの教えている様子や中学受験に関する考え方に、今のところ問題は感じていない?

中学受験って親の未熟さ、弱い部分が突かれるイベントなので、どんなに意識していても暴発してしまうことはあるんだと思うんです。

O:受験に関してはなんとなくないかなぁ。ただ、急に振られるとイヤだなあと。

オ:将来的な不安ですね。そこは率直に、6年生になって急に振ってきたりしないよねって言っちゃうとか。お父さんが全体をわかった上でいろんなことを進めてくれていると思うので、夫婦としてどういう布陣として臨めばいいのか、あとから「聞いてないよ!」ってならないように、これから2年間の過ごし方をお話しされるといいんじゃないでしょうか。そういう話はできそうな感じ?

O:できますけど、結構怒りん坊なんで、何かのトリガーを突くと、ウワーッて怒り出すんですよね。そのトリガーがわからないので。

オ:戦略的な話をしている時に、どこかで地雷を踏んじゃうんじゃないかっていうこと?

O:そうです、そうです。

オ:それは別の不安がありますね、夫婦として。

O:あとは、彼の仕事の忙しさにも関わっていて。

オ:忙しい時に、受験に関わらず、何かあるとカチンときちゃうって、誰でもありますよね。外では我慢できても、配偶者には露骨に表現しちゃうのは男女関わらずあることだと思うし。普通、戦略的な話って冷静なことじゃないですか。そこで、お父さんの感情が爆発しちゃうのが怖いなっていう気持ちがお母さんにあるのが、ちょっと別の意味で心配というか。中学受験の枠を超えたところで気になるなって。その怒りん坊が息子さんに向くことはないんですか?

O:怒るって言っても、鉄の食器みたいにウワーってなって、あっという間に冷めるんです。自分でも怒りん坊だってわかっていて、子どもには怒らないようにしようってアンガーマネジメントしてるみたいですけど、自分の価値観に触れると、怒ってくる感じ。

オ:揺るぎない信念みたいなものがあって。

O:それは強い人だと思います。

オ:ガッと怒ってすぐに鎮まる、その沸点に達した時にお子さんは傷ついたりとかは?

O:それを笑い事にしてるんですよね。ちょっとネタにはしていて、すぐ怒るよねって。その場では言わないけど、後でちょっとイジるみたいな。

オ:ならいいですね。中学受験って親の未熟さ、弱い部分が突かれるイベントなので、どんなに意識していても暴発してしまうことはあるんだと思うんです。それをお父さんも自覚しているし、息子さんもわかっていてそれをネタにできるくらいの客観性を持っているのはいいですね。これから暴発することがあっても、一歩引いているお母さんが、まぁまぁって長引かせない、すぐに場面を変える役割をすれば、すごくいい感じになるんじゃないかなっていう気がしますね。だいぶご家庭の状況も見えてきた気がするんですけど、その上で、ちょっと話を戻すと、希学園って塾に居残りさせて頑張るじゃないですか。関西ってそういうスタイルの塾が多いんですけど、小4の段階でも塾に残ってやってました?

O:いや、授業が終わって、いても7時半くらいかな。

オ:4年生はみんなそんな感じ?

O:そうですね。

オ:じゃあ、基本的には家で勉強してたんですね。お父さんはべったり張り付いてた?

O:自分でやって、わからないところを聞く感じ。

オ:何が言いたかったかって言うと、おうちではやらなくていいですよっていうのを売りにしている希学園に対して、サピックスは親がプリント整理したり課題を整理したりしなきゃいけなくて家庭学習が基本じゃないですか。希学園とサピックスってそういう意味では対極なんですね。だから、転塾によって、家でやることが増えたと感じるんじゃないかと思ったんです。そこでね、「いや、さすがに毎回の授業の後にプリント整理して、そこまでできない」ってお父さんが言い始めた時にどうするかですね。

O:わからないですね。私も仕事していて忙しいっていうのもあって。

オ:そこはお父さんに「忙しくてもあなたがやった方が効率的だと思うから、変なことやって怒られても嫌だし」って、押し付けるのがいいんじゃないかなぁ。

O:わかりました(笑)。

オ:一般的にはお母さんが頑張るってなるじゃないですか。そこにお父さんがふわーってきて、余計なことを言うっていうのが多くのパターンだと思うんですけど、管理をしていくのはお父さんで、お母さんが一歩離れたところで困った時だけ、たとえばお父さんの視野が狭くなっている時に落ち着けてあげたりっていう立ち位置にいるのもありですよね。つまり、一般の家庭だとお父さんがやっていることを、逆にしてやればいいんじゃないかなって。お父さんがちょっと瞬間湯沸かし器みたいなところがあったとしても、それをお母さんがまぁまぁってできれば、すごくいい中学受験になるんじゃないかなって。お子さんも中学受験に向いてそうだし。

O:すごく安心しました。

オ:今、小1から塾に通わせなきゃ!って多くのご家庭がパニックみたいになってる中で、5年生から入ってぐんぐん成績を上げていただいて、「うち、5年からでしたけど?」って嫌味な感じで、中学受験の過熱に冷や水を浴びせていただくということで(笑)。

O:そう言えたらいいですけど(笑)。

オ:お母さんは何かの時のために余力を持って、広い視野を保ってっていうのが自分の役割だと思えばいいと思います。

O:ありがとうございます。

【 おおたさんからひとこと 】

中学受験対策の低年齢化が指摘されていますけれど、やみくもに早くから塾に通わなくても大丈夫なんだという事例になってくれたらうれしいなと思います。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/


イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子

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