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進路相談

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2022.10.19 UP

中学受験「なかなかやる気を見せてくれない子」に親が今すぐ取り組むべきこと

【今月の質問】

個別指導塾一辺倒だったせいか、自走とはほど遠い息子。これで受験に立ち向かえるのでしょうか?

[受験進路相談室]

Yさんの場合

【家族構成】
妻、長女(公立中2)、長男(小6)、次男(小4)

【今回相談する子どもの状況】
長女は公立に通っていますが、長男・次男はインターナショナルスクールに通学中。今回相談する長男は、小5の11月より帰国子女枠で中学受験することを決め、個別指導塾と帰国子女アカデミーに通っています。

中学受験を控える長男の当事者意識がまだ低いことが気になります。長男は競争心や向上心が強いタイプではなく、のんびりした性格です。目標や自分と向き合う良い機会かと思い、私が受験を勧め、準備を始めました。しかし、集中力に欠けたり取り組みが遅いなど、勉強に対する姿勢に主体性や迫力を感じません。最後は本人の気持ちだと思うのですが、なかなか火がつかないなあと思って見ています。日々頑張っているものの、彼の意思で始めた受験ではなく、個人指導塾のため、集団塾の環境も知らず切磋琢磨する相手もいません。難しいことを期待しているとは思いつつ……自分ごととして受験に思い切り向き合って欲しいと期待するも、随分と距離のあるこの状況を親はどう受け止めればよいでしょうか。

外から関わって内発性を引き出すって、原理的に不可能だってみんなわかってると思うんですよね。結局、待つしかない。でもそこで、待つっていうことの意味を間違えないで欲しいんです。

Y(相談者):小6の男の子で、小1からインターナショナルスクールに通っていまして、小5の終わり、11月頃になって中学受験をしようということで、それから約8カ月勉強しているような状況で。今は普通に頑張ってはいるんですけど、当事者意識が低いというか、自走ができなかったり、勉強時間も決めているけど親が言わないと始めなかったり、成績が振るわなかった時にあまり悔しそうにしていなかったり。『二月の勝者』の子どもたちとかを見るとすごいじゃないですか(笑)。

オ(おおたさん):インターナショナルスクールにも中学校はあるんですよね。なのになぜ中学受験を?

Y:結果はどうあれ、受験を通して自分と向き合ったり努力をする経験はすごくいいことだなと思って、私が勧めました。でもそこを狙っていたからこそ、現状ではまだまだだなぁと思ってしまいます。内発性をどうやって引き出していったらいいかという点をご相談できたらなと。

オ:では、中学からは一般的な中高一貫校に進学することを考えているわけですね。

Y:そうですね。志望校がいくつかあって、そこに受かれば行く価値はあるかなと思いますし、そこがダメならインターでもいいかなと。

オ:お父さんの心配について、個別指導の塾の先生から何か見解とかは?

Y:お父さんはもう何も言わないでくれって。叱る場面ではこちらが叱るのでって。ただ塾の先生も、息子のことを内向的なのんびり屋だと評価しているようです。

オ:なるほど。マイペースな子であれば、インターを選んだのは正解だったかもしれないですね。学校は楽しく通ってる?

Y:はい、学校は楽しく通ってますね。でも、そこもなんていうか、これでいいのかなって思うところはあって。地元の公立小の中で揉まれるみたいな体験が足りてないんじゃないかなっていう気はしますね。彼の気質には合ってるのかもしれないですけど。

オ:うんうん、彼の気質に今のインターは合っていて、のびのびと余計なプレッシャーは感じずにこられたんでしょうけど、一方で、お父さんとしてはある意味ないものねだりっていう気持ちにもなるんでしょうね。インターの選択っていうのはお母さん主導?

Y:そうですね、幼稚園から学校に上がる時に、妻がかなりインターに行かせたがっていて、僕はどちらかというと結構そこに関しては消極的で。

オ:なるほど、なるほど。お父さんとしてはその時の選択に対する疑問符みたいなものがどこかにあって、ちょっと過保護な子も多いし、のんびりしすぎてるしっていうのもあって、目標に向かって努力するみたいな機会として、中学受験を利用して、しかも日本の進学校のシステムに戻して鍛え直そうという思惑もありそうですね。でも、なかなかやる気にならないっていうのはほとんどの中学受験の親御さん、8割9割くらいの方が抱えているストレスなのかなと思いますし、多分個別指導の塾の先生がおっしゃっているように、ごちゃごちゃ言ったって火に油を注ぐだけだし、結局見守るしかないよねっていうのもお父さんはきっとわかってらっしゃる。とはいえ、この不甲斐ない気持ちとどうやって折り合いをつけたらいいんでしょうかっていうのが今回のご相談の本質なのかなって。

Y:自分の気持ちとどう折り合いをつけるかっていうのもそうですけど、やっぱり本人が自主性とか内発性を出すことができればそれに越したことはないと思うんですけど。

オ:外から関わって内発性を引き出すって、原理的に不可能だってみんなわかってると思うんですよね。結局、待つしかない。でもそこで、待つっていうことの意味を間違えないで欲しいんです。口を出さないで待ってる状態にお父さんは徹していらっしゃると思うんですけど、実際は、「いつやるんだ?」っていう無言のプレッシャーが、体全体からきっとあふれ出て、息子さんに伝わっていますよね。それって息子さんからしたら待ってないじゃんって感じるわけです。待つって、この子がこのまま入試まで変わらなくても、それがこの子なんだって認められるかどうかっていうことなんですよ。お父さんは今の自分をそのまま認めてくれたんだっていう安心感があった時に、内発性や自発性が芽生えるチャンスが到来するんです。すごく難しい、無理なことを求めているとは重々承知なんですけど。

Y:そうですね、だいぶ。涅槃の境地ですよね(笑)。

オ:そうなんです。親にとっては荒行なんです。なかなか100%はできないと思いますけど、お子さんのありのままを受け入れるってそういうことなんです。この子はこうなんだって認められた時に、初めてお子さんは自分の足で立とうとするわけで。すごく難しいことなんだけど、子どもだってすごく難しい問題を一生懸命解いているわけだから。今日はできなかったけど明日には解けるかもしれないと努力を重ねている。それと同じで、親御さんだって、荒行を諦めちゃいけないんです。確かに息子さんが何かの魔法にかかって自走してくれたらこの状況は解消するんでしょうけど、その一つ目のハードルっていうのがお父さん、お母さんの泰然自若とした態度。仮にこのままの状態で本番を迎えてしまっても、この子はこういう子なんだって思えるかどうかが試されているのかなって。

残り数カ月でお父さんの願いを100%叶えようなんて思わないで、もっと長い時間軸の中でお子さんの成長を捉えるべきです。

Y:ちょっと幼稚な質問なんですけど、どうしたらその境地に……?(笑)

オ:そうですよね。

Y:間のもうワンステップが欲しいなって。

オ:たとえばハングリー精神って、教えられないんですよね。態度や佇まいって、やっぱり体験によって自分で学び取っていくしかない。頭で方法論を考えているうちは無理なんです。いまの心の痛みに耐えて、それを乗り越えるために体中でもがいて、ようやくそういう視界が開けてくるのだと思います。近道はないんです。でもみんなが通る道なんです。最初から息子さんが自走できてたら、お父さんにも成長はないわけです。

Y:うーん、わかるんですけど。

オ:とはいえ、ワンステップが欲しいっていうのはすごくよくわかるので、視点を変える提案をいくつかしたいと思います。まず、そもそもなぜ自分がこの子に中学受験っていう試練を与えようと思ったのかを思い出してください。こんな人間になって欲しいなっていう大きなビジョンがあったと思うんですよね。最終的にそういう人間になっていればいいんだとするなら、今回の中学受験は、まだその序の口だと思えるはずです。たとえば今回の挑戦で、第一志望の学校じゃなかったよねってなったら、その時こそ本当の意味でお子さんがハングリー精神に目覚めるかもしれない。だとしたら、お父さんの選択は大成功じゃないですか。残り数カ月でお父さんの願いを100%叶えようなんて思わないで、もっと長い時間軸の中でお子さんの成長を捉えるべきです。インターって、日本の進学システムから別次元のところで教育していこうっていうことじゃないですか。そこから日本のゴリゴリの進学システムにレールを付け替える難しさって根本的にあると思うんです。その中でも息子さんに変化が見られたっていうのはお子さんはすごく頑張ってるんでしょうし、お父さんが狙った効果が早くも見られているということで、仮に縁起でもない話ですけど、希望通りの結果にならなくても、選択をした意味はあったんだろうなって。中学受験の親を捕まえて、いますごく理想論を言ってることも自覚していますが。

Y:受験を始めてすでに息子もだいぶ変わったので、ある種それだけでもよかったなと思える部分はあるんですけど、ただ、とはいえみたいな(笑)。

オ:あと、もう一つ、なかなか危機感を持てないのは、個別指導だからっていうのはどうしてもありますよね。

Y:そこもすごく悩んだんですけど、いまから集団塾に入れるというのはあまりにもカリキュラムが違うので、なかなか現実問題、難しいかなって。

オ:個別指導を選んだこと自体はいい選択だったんじゃないかなと思いますね。一方でマラソンって一人で走ったら辛いじゃないですか。12歳の子どもにとってはすごく難しいことを要求されてしまっている環境設定なんだろうなとは思うんです。世の中一般の中学受験生は必死になってやってるって思われてるかもしれないですけど、実際はそんなこともないですしね。そこで、「マラソンを一人で走っているような状態にもかかわらず、おまえ結構頑張ってるよな」っていうポジティブな声かけをしてあげることも有効なように思います。すでに当たり前のようにできてしまっている部分に目を向ける。「この前だって5時になって何も言わないのに始められたよね」って、彼が自分でも自覚しないでできていることにこちらから焦点を当ててあげる。本人も意識してなくて自然にできてることがあると思うんですけど、そういうところに気づいてるよっていうメッセージを送ってあげることが、子どもにとってはものすごい励ましになることがあります。その励ましを糧にして、すでに芽吹いているやる気を育ててくれることってあるんじゃないかなと思うんです。それが親としていますぐにできることです。

Y:なるほど。

オ:あとは非常に具体的な提案になってしまいますけど、息子さんにとっての一つの体験として、せっかくの夏休みだし、どこかの集団塾の夏期講習にスポット的に参加してみるのも手かなと思います。

Y:そうですね、ちょうどいいのがあればと思います。集団の中で、周りがどれだけ目の色変えてやってるのか、あるいはやってないのかっていう。

オ:なんだ、やってないじゃんって安心するかもしれないですよ。でも、そういう手触りを感じるだけでも意味があるかなと思うので。

【 おおたさんからひとこと 】

インターに通いながら、個別指導塾での中学受験という設定はちょっとユニークですが、ご相談の本質は、「うちの子、いつまでたってもやる気を見せてくれないんですけど、どうしたらいいんでしょうか」っていう、定番中の定番のお悩みでしたね。基本待つしかないんですが、何もしないのも難しいので、何かするのであれば、子どもが当たり前のようにできてしまっていて、こちらもつい当たり前だと思ってしまっていることに焦点を当てることです。できている部分に意識が向くと、もしかしたら意欲が増すかもしれません(変わらないことも多いですけど)。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子

VERY NaVY10月号『おおたとしまささんの「悩めるパパのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2022年9/7発売VERY NaVY10月号に掲載しています。*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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