附属小からの中学受験で心得ておくべきこと[中学受験進路相談]
【今月の質問】
附属小からの中学受験。
本人のやる気とは裏腹に
親のほうが一歩引いてしまいます。[受験進路相談室]
Iさんの場合
【家族構成】
夫、長女(中2、私立附属女子校)、次女(小4、私立附属小学校)、三女(小2、私立附属小学校)
【今回相談する子ども(次女)の状況】
小4の3月(春期講習)からサピックスに通いはじめ、現在の習い事はサピックス週2、バレエ週2、ピアノ週1。
現在娘3人は同じ中学校、小学校に通っていて、中2の長女は小学校からの内部進学をしました。娘たちの学校が私の母校でもあります。今回の相談は次女のことです。受験をせずともこのまま大学までエスカレーターで進学できるのですが、現在、次女の中学受験を考えています。もともと知的好奇心が強く、比較的勉強を楽しめるタイプで、とくに生き物への関心、興味が強く、幼稚園の頃から一貫して“家畜専門の獣医になりたい”という夢があり、そのために北海道などの国立大学へ進むことを夢見ており、現在通っている附属の中高は文系がメインで、高校までそこで過ごすと理系は医学部くらいしか実績がなく、しかも地方の国立大学へのキャリアパスは前例がなく、難しいのでは、と考えたことがきっかけです。今回は、「附属一貫校の中での中学受験」についてご相談できればと思います。
もし退路を断つのであれば今通っている学校の偏差値は忘れたほうがいいと思います。退路を断ちながらここ以上ってなると物凄くしんどい中学受験になると思うので。
I(相談者):我が家は三姉妹で大学附属校に通っているんですけど、小4の次女が本人の希望7割、親の考え3割で中学受験をしようと思っています。でも、中学受験する人がすごく少ない学校で、毎年本当に数えるほどで。だから、学校の中ではコソコソ準備しなければいけなかったり、附属中に上がることが前提なので6年生の後半はイベント続きで受験どころでもなかったりして。今は始めたばかりということもあってモチベーション高く頑張っているんですけど、成績が下がれば撤退したくなっちゃうなぁというのが正直なところです。附属中もいい学校だと思っているのでなかなか覚悟も決まらないし、じゃあわざわざ外に出てまでして行く学校ってどこなんだろうっていうのがありまして。
オ(おおたさん):なるほど、そうですよねぇ。今うかがっていて、附属小で普通なら上に行く学校に通いながら受験をする難しさって2点あるんだろうなと思っていて。一つは周りが受験なんて全く考えていないような学校文化の中であえて違う道を選ぶことの負担は、一般的な公立小に通っているのとは違う種類のストレスがあるんだろうなということ。あと、いま通っている学校だって中学受験しようとしたら難しい学校じゃないですか。そこを出てそれより難しい学校をと思うと、そのプレッシャーというか選択肢の難しさはありますよね。
I:私も夫も中学受験はしているのですが、そんなに大変だったかな?という記憶があります。私が呑気なのか子どもが呑気なのか、いつでも撤退できると思っているからなのか、そこまでストレスも感じないままここまで来ていて。でも、子どもは塾でクラスを上がりたいとか頑張りたいって思っているので、どっぷりハマるのが正解なのか、一歩引いている状態のほうがいいのか、受験生の母の心得がわからないんですよね、つまり。
オ:一般的にこういう相談というのは、もうイライラしちゃってて自分が怖いんですみたいな話のほうが多いかなと思うんですけど、プレッシャーを感じていないことに対してプレッシャーを感じちゃうっていうのはユニークなご相談ですね。今ふわふわしてるっていうのは附属校だからっていうんじゃなくて、まだ4年生だからだと思います。そしてIさんにそれだけ余裕があるのは、お嬢さんが附属校に行っているからじゃなくて、ご両親が受験をしていてそのあたりの肌感覚があるからじゃないかな。それがない人は、ある種、作られた中学受験像の沼にハマっていってしまう。そのうえで、今回の場合は、“中学受験で多くの人が憧れる学校”に入る権利を持っているという心の余裕がプラスになるかマイナスになるかですよね。
I:本人曰く、受験をしてみたかったという言葉も聞けたので、そんな感じで始めたんですけど、だからどちらかというと覚悟が決まってないのは親なのかなって。国立の獣医学部という狭き門に進みたいという希望があるので、となると偏差値の高い進学校に行くのが出口にとっては最適なのかなぁとか。
オ:獣医学部って僕もあまり詳しくなくて、ちょっとわからないんですけど、獣医学部に強い中高一貫校って聞いたことないですよね。
I:獣医学部ってすごく少なくて、国公立の獣医学部の募集定員を足しても350人くらいしかいなくて。でも、入りたい子が多いのですごく狭き門というか。
オ:もし退路を断つのであれば今通っている学校の偏差値は忘れたほうがいいと思います。退路を断ちながらここ以上ってなると物凄くしんどい中学受験になると思うので。今の学校はいい学校だけど、あなたの将来に繋がる道があるはずだからって意味づけさせてお子さんのモチベーションをぶれさせないほうがいいかもしれないですよね。
I:すごくためになります。
お嬢さんの「お母さんが本気の熱量を持って私を見て」っていう気持ちに応えてあげることが一番の目的だと捉えたら、すごくいい中学受験になると思うし。
オ:ママ友とかSNSの世界だと、それこそ今の学校を出てそこより下の学校に行くことに対して、何やってんの?みたいな発言を目にしたりするかもしれないけど、そこは両親が壁になってあげて、自分のやりたいことを実現するのがいいんだからって言ってあげれば、子どもが傷つくことはないと思う。
I:本人が結構淡々としていて、仮に本当に実を結ばずに公立に行っても楽しくやっていけるタイプなので、あとは親だろうなって。今はサピックスの刺激がすごくて意気揚々と帰ってくるので、もし結果がダメで途中でやめることになっても彼女にとってプラスの経験になるのかなって。もう一つ、生活力がなさすぎるということも相談したいです。受験勉強の時間を確保しながら身の回りのことをちゃんとやるって難しいみたいで、教科書の上に教科書重ねてその上で勉強するタイプというか。それでもいいのかなと思える時と、勉強の前にやることあるでしょ!って思う時と。
オ:それはいいんじゃないですか?その時その時で。
I:中学受験生の親御さんは、髪の毛、乾かしてあげるとか言いますよね。それでいうと、受験前に髪の毛バッサリ切っちゃうとかね。
オ:中学受験のために生活力を犠牲にしてもいいんだろうかって思うのはすごく正しいことですね。そうやって迷いながらその都度判断するのが大切だと思うし。余裕があったら、もうちょっとしっかりしたら?って親の価値観を伝えて、そこでバトルが始まりそうだったらスッと引くとかね。そこは大人の余裕を見せてあげればいいのかなって思いますけどね。三姉妹でそれぞれ個性があって、今は同じ学校に通っているけど個性が分かれていくのは面白いし、それが許される家庭環境は子どもたちにとってすごく解放感がある環境なんじゃないかなって。何か具体的にイメージしている学校ってあるんですか?
I:すごくおこがましいんですけど、共学進学校もいいかなって。でも難しいんですよね。
オ:共学って選択肢が少なくて、一部を除くと、偏差値帯が下がっちゃうじゃないですか。そうすると怖いのが、そういう学校って進学実績を上げようと狙っていて、受験のための勉強をさせられちゃうというか、せっかくのお嬢さんの知的好奇心とか夢を変に受験至上主義的な、受験から逆算するような勉強をさせられてしまう。
I:私もそれはすごく危惧していて、それって学校説明会を見ていればなんとなく気づけるものですか?
オ:それはそうでしょうね。
I:私も夫も附属校育ちなので、そもそも成績の順位なんてろくに出たことがなくて、キャラ勝負みたいなところで生きてきたので、そういう進学校に行くのがちょっと心配だなっていうのもあって。頑張って高偏差値の学校に入ったほうが結果としてハッピーですよね。
オ:むしろ難関校のほうが進学実績にとらわれない、本質的な教育に力を割けるというのはありますよね。だから、お嬢さんみたいに知的好奇心が強い子はそういう学校に入れたらいいなとは思いますけどね。でも、すごく難しいな、僕もこうやってアドバイスしようと思うと、ついつい損得勘定がチラついてしまう。これって真に受けないでほしいんですけど、筑附とか渋渋を目指して、このあたりはあなたのイメージしている学びに近い学校だと思うよ、だけど難しいよね、でも挑戦する価値があるよねと言って、ちょっと真剣に本気でやってみようよって言いながらやってみて、6年生になるかならないかの時に学力的な伸びを見て、ちょっとそのレベルまでは届きそうじゃないなと思ったらその時点で撤退することもできるじゃないですか。すごく現金な損得勘定をするのであれば。その誘惑とどう戦うかっていうと、一番最初の話に戻っちゃうんですけど。
I:すごくくだらない話なんですけど、附属に入ってくる女の子たちって派手好きで流行に敏感みたいな感じで。でも、私はちょっと流行に乗れないって言って、みんながK-POPの話をしていても、図書館で一人で野鳥図鑑を読んでいるので、そんな子がいる学校に親としては行かせたいなって。そういう意味では、ここならいいかなという女子校もあります。地方の国立大学に行く子が結構いたりして。今の学校だと本当にいないので。
オ:これも余計な心配ですけど、共学校に行った時に、女の子が獣医学部に行くっていうことのハードルが若干あるかもしれないですね。要は女の子らしさとか男の子らしさっていうのが共学の中にはどうしてもあるので。いわゆるリケジョっていうのが自分を表現しづらいっていう面はあるかもしれないですね。
I:キャラが生かされるのは女子校かなって。男子の目がない楽しさがあるので。女子校も共学も受けてみて、決まったところに行こうっていうのがいいのかな。
オ:何か気になってることはありますか?
I:真ん中の子なのでかなりほったらかして育てた結果、ちょっと変わった子になっちゃって。でも、次女とこんなに向き合うのは初めてで、ママを独り占めしてる感じがあるのかも。長女の小学校受験が本当に大変で、それが終わった直後に三女が生まれているので。そう考えるとちょっと切ないですね。
オ:それも意識してるわけじゃなくて、無意識の中で、お姉ちゃんと妹はあんなにぎゃーって言いながらも、その時、2人のことを一生懸命見てたよねって。お母さん、同じ熱量で私のことを見てくれたことってなかったよねって。そういうことをもしかして感じていて、それを満たしたいって思ってるのかもしれないですね。
I:あるかもしれないですね。小テストの結果も休み時間にいちいちメールしてくるので。
オ:お嬢さんの「お母さんが本気の熱量を持って私を見て」っていう気持ちに応えてあげることが一番の目的だと捉えたら、すごくいい中学受験になると思うし。獣医になりたいならいろんなルートがあって、共学がいいのはもちろんわかるけど、女子校の中でもこんな選択肢もあってという価値観を伝えてあげながら、お母さんとお嬢さんが人生を語り合う機会に中学受験ができたなら、やってよかったと思えるでしょうね。
I:本人はもう今の学校に未練はないので、親ですよね。三姉妹で通わせている親の感傷っていうか。誰とも話せないので、学校の人にも極秘プロジェクトだし。
オ:いつもながら、答えはないんですけど。
I:はい、悩みながら頑張ります。
附属の小学校からの中学受験という特殊なケースではありましたが、だからこそ、何のために中学受験するのかを曖昧にはできないという意味ですごく本質的な話ができたと思います。特に後半の学校選びのくだりは、多くの人が難しさを感じる部分だと思いますので、ぜひ参考にしてほしいと思います。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は70冊以上、新刊『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)が発売中。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子