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「野球クラブと中学受験どう両立したらいい?」受験進路相談

ここ数年、1都3県の中学受験者数は前年度を超えています。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!

 

【今月の質問】

少年野球での親の負担が多すぎて、
受験に身が入りません
[受験進路相談室]

Sさんの場合

 

【家族構成】
夫、長女(中2)、長男(小6)
【今回相談する子どもの状況】
小6男子。小3より現在まで野球クラブ入部。小3の2月より現在までサピックス。

 

姉の中学受験のトラウマがあり、自信がありません。姉の時は塾で言われたことは全部やったにもかかわらず、入試もうまくいかず、ほとんど全滅でした。1人目なので期待も大きく現実がわかっていなかったのと、頑張れば受かるだろうと思っていたことが原因だと分析しています。だから、長男には中学受験に対してもあまり期待していないのですが、それよりもさらに悩んでいるのが野球クラブと中学受験の両立。現在、少年野球の役員を担当しているのですが、親子で板挟みになっています。

野球をやめるにしても受験をやめるにしても、子どもの習い事の最後が悪い印象で終わるのを避けるのは大人の責任だと思うので、その点については監督にも一面での理解を求めたいですよね。

S:上の娘はもう中学2年生なんですけど、中学受験の時に、私が専業主婦だったというのもあって、足繁く学校を見て、塾から言われたことも私が管理して全部やって、本人も割と素直で頑張る子で、二人三脚で全力投球したんですね。バレエもやってたんですけど、5年になる時に塾から「やめたほうがいいですよ」と言われたのを鵜呑みにしてやめました。でも本人が、6年の初めごろ、「もう受験やめたい」って言い出して。なんとか説得して続けたんですけど、最後の最後まで成績が下がり続け、行きたかった学校には全部落ちて、結局全然考えていなかった学校に通っています。私自身、頑張れば受かるんだって信心深いような考えでやったので、最終的にすごく挫折感もあったし、すごく引きずってしまって。一方、現在6年生の下の息子は割と受け身で、「お母さん、何すればいいの?」というタイプです。中学受験するつもりはなかったんですけど、友達に誘われて、なんとなく入塾しました。でも、お姉ちゃんの反省を踏まえて、褒めて認めて、無理に高みを目指さず、ぎりぎりまで野球と両立しながらできる範囲でやろうというつもりでやっています。ところが、私が引き受けざるを得なかった少年野球の役員の仕事は忙しいし、監督の方針として受験よりも野球優先っていうのがあって、そのプレッシャーが結構強いんです。役員じゃなければ風当たりも違うんでしょうけれど。子どもも監督から「塾、変えたら?」って言われてるらしくて、塾と野球の板挟みになっています。勉強の悩みというより、この状況でこの先どうやっていけばいいのかなと。

 

おおた:今聞いていると、お母さんが板挟みになってるような気がします。すごくおつらいんだろうなって。単に「習い事と受験の両立どうしたらいいですか?」っていうのとは違う次元ですよね。

 

S:私の気持ちのブレが子どもにも伝わってしまって、影響が出てるんですよね。

 

おおた:お母さんの気持ちのブレっていうのは?

 

S:野球もやっていきたいけど……うーん、何て言うんだろう……今はとにかくこの苦しみから解放されたい。

 

おおた:お母さんが今それだけおつらいなら、シンプルな解決策として、「じゃあ、役員やめちゃえば?」って。仮にお母さんが、「申し訳ないけどこのままじゃおかしくなっちゃうから、役員をお休みさせてください」って言ったら、お子さんが野球を続けることは大丈夫そう?

 

S:いや、一緒にやめたほうがいい気がする。

 

おおた:だとすると、子ども本人が納得して決める前に、「お母さんもう無理だからやめるわ」と言って道連れにするのは罪悪感ありますよね。役員を抜けられないと仮定すると、何が変わったら今のお母さんのつらさが軽減されると思いますか?

 

S:うーん、うーん……何が……監督のプレッシャーがなくなれば……、ですかね。でも、自分でできることは、踏ん切りをつけることですかね。

 

おおた:踏ん切りをつけるっていうのは?

 

S:中学受験はやっぱりやりたいので、野球の時間を削るというか。

 

おおた:野球をやめるにしても受験をやめるにしても、子どもの習い事の最後が悪い印象で終わるのを避けるのは大人の責任だと思うので、その点については監督にも一面での理解を求めたいですよね。

 

S:そうですね。監督にカリスマ性があって、ちょっと宗教的な感じがするんですよ。子どもには慕われているし。

 

おおた:普通の習い事ではここまで干渉してくることってないと思うんですよ。客観的に意見を言えば、いくら指導力が優れているとは言え、ちょっと越権行為なんじゃないのって気がします。親が言うのと違うことを勝手に子どもに吹聴するのもいかがなものかと思いますし、いまのお母さんの精神状態で中学受験を続けるかやめるかみたいな大きな決断を迫られるとしたら、それは洗脳行為と言っても過言ではないと思います。

 

S:きっと悩まないお母さんもいると思うんですよ。でも、さすがに役員たちは悩んでますね。塾を休ませて野球に行かせなきゃなって思って、塾の授業は動画でやったこともあったんですけど、5時間分の授業を動画でって、やってみたらちょっと厳しいですね。

 

あくまでも息子さん自身が、振り返った時に「お母さん、これでよかったよね」っていう状況になるために、必要なものはなんなのかを考えるのが本筋

おおた:その、塾を休ませて野球に行かせてみた時っていうのは、親子の会話があって?

 

S:役員の仕事に追われ、気づけば子どもがひとりで寝ていることも。そういう日が続いて、週末子どもから「今日は塾の勉強を休んで野球したい」って言われたので、「じゃあ、いいよ」って。本当は野球やりたいのかもと思うと、監督の言うとおり、親が板挟みにさせてるのかなって、変な自己嫌悪に陥ってブレてしまうんです。

 

おおた:そうかそうか、中学受験という選択が正しいんだっていう気持ちが揺らいでしまうっていうことですよね。それは何重にもつらいですよね。お母さん、いま、いろんな感情を溜め込んでいると思うので、ネガティブな言い方でいいので、これがなくなれば私は楽になれるのにって思うことをそのまま口に出してもらえますか?

 

S:そうですね。役員の仕事が大変……いろんな保護者の方がいるので、その対応が本当に大変で……それでストレスを溜めてしまって、夜な夜な役員の仕事をしていて……そこですかね……自分が余裕を持って子どもに接することができないんです。頭の中の10のうち6が野球で、2が受験、1が仕事、1が家庭みたいな。

 

おおた:ここに穴があったらなんて叫びますか?

 

S:「もうやめたい!」です。役員じゃなければもっと子どもに向けるのに。ほっとかれている上の子もかわいそう。でも途中で放り出すことはできないです。

 

おおた:それはね、お母さんのいいところですよ。お母さんの場合はそうやって生きてこられて、魅力にもなってるから否定することはないと思うんだけど、もし、壁に当たった時にスッと逃げるのも一つの選択肢だよねって思えるなら、それを学ぶ機会なのかもしれないとも思うし。今お母さんが葛藤を抱えているのを、息子さんは知ってる?

 

S:伝わってます。

 

おおた:息子さんと話したのは、「野球どうする?受験どうする?」っていう、子ども主体のことですよね。今お母さんが吐露されたつらさを、息子さんに相談してみる手もあるかなと思ったんですけど、子どもには重すぎるのかなぁ……。でも意外と、お母さんが本当の気持ちを打ち明けて「どうしたらいいと思う?」って聞いたら、子どもが解決策を知ってることはありえるなって思ったんです。

 

S:たとえばどんな解決策?

 

おおた:「僕は野球好きだけど、受験までの間、野球できなくたって大丈夫だよ」って。「その分、受験に集中するよ」って言うかもしれないし。逆のパターンだと、もしかしたら極端な話、「受験をやめるよ」っていうのもあるかもしれない。「野球とる? 受験とる?」っていうのは子どもなりにいろいろな方面に気を遣うから、本人ですら自分の本心がわからなくなる難しい質問なんだけど、お母さんが苦しんでるっていうのに対しては、本心で反応してくれると思う。どっちに進むかはわからないけど、今のお母さんの問題をどう解決していくかっていう方向性を探る一手にはなる気がしますけどね。

 

S:お姉ちゃんの時は早くやめても意味がなかったというか、最後までやってた子がいい学校に入っていたので、やめないほうがいいのかなって。それは関係ないですかね?

 

おおた:最後までやったから、いい学校に入れたわけじゃないですよね。成績下がってるから習い事をやめろっていうのは、子どものやる気まで損なっちゃうから得策じゃないけど、惰性で両方やってる状態になってるなら「どうする?」って冷静に選択させるのが必要なケースは当然ある。そこに勝利の方程式があるとは思わないほうがいい。

 

S:子どもに選ばせた時に、決められる子っているんですか?

 

おおた:難しいと思いますよ。中学受験する・しないは、家庭の文化に子どもがどう反応するかにすぎないので、本当に望んでいるかっていうそもそも論をし始めたら、「しない選択」だって子どもの本心かどうかなんてわからない。あくまでも息子さん自身が、振り返った時に「お母さん、これでよかったよね」っていう状況になるために、必要なものはなんなのかを考えるのが本筋ですよね。お姉ちゃんの時は受験マニュアル的にやっちゃったけど、今回はそうじゃないんだなって切り替えて、お子さんのことをちゃんと見られているのは素晴らしいと思います。お姉ちゃんも悔しい経験をきっと糧にして乗り越えて、その分強く成長できるから、大丈夫。

 

S:もう少し私、ちゃんとしなきゃなって思います。監督に負けないようにするというか。中学受験をやりたいっていう気持ちはあるので。言われてみて、客観的に自分を見られました。

 

おおた:しばらくお父さんが役員をやるってダメなんですか?

 

S:うーん……過去に入院したお母さんがいて、ちょうどこの時期にストレスで。お父さんが保護者会で謝罪してました、こんな大変な時期にって。だから私もやめにくいんです。

 

おおた:その組織の文化には、私は違和感ありますね。お父さんはいまの状況に何と言っているんですか?

 

S:夫には普段から色々話してるんですけど、「そこまでつらいならやめたら?」って。

 

おおた:そっかそっか。だとしたら、うまく交通整理さえできれば、今野球をお休みすることは、息子さんの野球人生にとっては何のデメリットもないですよ。コーチが困るだけでお子さんは何も困らないですよ。今はとにかくお母さんの心がだいぶ傷ついているから、それを癒すことを一番に考えるべき。

 

S:これを1年やって何が残るんだろうって。何かプラスになるのかなって。私が苦しむことで家族みんなを苦しめちゃってるのがよくないなって。

 

おおた:まずはお母さん自身が自分の気持ちを労って。

 

S:ありがとうございました。なんだかスッキリしました。

【 おおたさんからひとこと 】

中学受験に全集中していても大変なのに、習い事との両立、しかも役員としての仕事の負担や指導者からのプレッシャーも重なるという過酷なケースでした。中学受験をするにしてもやめるにしても、追いつめられたその精神状態で判断するのは危険です。まずは親御さん自身が心の安定を取り戻すのが最重要だと感じました。親にとっての毒は間接的に子どもにとっても毒になりますから。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子

 

VERY NAVY 5月号『おおたとしまささんの悩めるママのための、受験進路相談』から
詳しくは2021年4/7発売VERY NAVY 5月号に掲載しています。

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