【息子の中学受験勉強と反抗期】のんびりパパ VS きっちりママ、サポートバランスに正解は?
【今月の質問】
子どもの思春期スタート。パパとママの
サポートバランスに悩みます。[受験進路相談室]
Nさん(パパ)の場合
【家族構成】
妻、息子(小4)
【今回相談する子どもの状況】
年長から小2まで花まる学習塾、小2冬から小3冬まで栄光ゼミナール、小3冬から現在までサピックスに通塾中。小1からサッカーとプール、英語の習いごと。
息子の反抗期がはじまり、うるさい母親とは勉強したくない時期に。普段から私が育児に積極的なので、塾の宿題は基本的に私、学校の宿題は妻と役割を分けました。サッカーやプールは私が担当。妻は塾の宿題のコピーや下準備。しかし、私だけだとつめが甘いので、妻はモヤモヤ。このまま妻は裏方にまわり、私に勉強面をすべて任せていいのか、家庭での父親と母親の役割バランスのアドバイスを頂きたいです。また妻は、今の塾の詰め込みスタイルに疑問を抱いている様子。もう少し手厚く自習室などがあり、わからないことをすぐに先生に聞けるような塾にして基礎固めをしたほうがいいのではないかと悩んでいるようです。
今回はご夫婦そろっての相談ということで、新しいパターンですね。
おおた:今回はご夫婦そろっての相談ということで、新しいパターンですね。
ママ:うちの夫がよろしくお願いします~。子どものことは結構夫がやってくれてるので。私は隣でこそこそ聞かせていただきます。
おおた:で、今日はどういったことで?
パパ:サッカーもプールも塾の勉強も、基本は私が付き合っているんですが、ちょっと性格が大雑把なので。
おおた:それはお父さん自身が?
パパ:そうです。特に塾の宿題はつめがだいぶ甘いと妻からよく叱られます。
おおた:つめが甘いとは?
パパ:ノートパソコンを開いて仕事しながらそばにいて、必要なときだけマルつけするようなスタイルなので、細かい抜けがあったり。
おおた:細かい抜けとは?
ママ:直しをちゃんとできてないまま進んじゃったり、苦手なポイントを振り返らせたりとかいうのができてなくて。国語の文章問題でも、私なら「そうだね、ここはこういう気持ちだよね」って導きながらやるんですけど、パパは「ふーん、ふーん」って流しちゃうみたいな。
おおた:お母さん、すごいですね。それができるんですね。
ママ:ほら!私、すごいって!
パパ:まあ、そういうチームプレーになっていて。サピックスのプリントの整理なんかは妻が完璧にやってくれていて。やるべきところを明確にしてくれたうえで、僕が息子とやっています。
おおた:お母さんが司令塔なんですね。お子さんへの声がけも上手で。
ママ:そうですね。私も夫も、なるべく彼の言葉を聞けるような質問の仕方といいますか、どう聞けばいいかというのはいつも考えていて。
おおた:すごい!
ママ:やった!
おおた:それはどこで学んだんですか?
ママ:学んではいないんですけど、すごくいいものをもってるなって、わが子ながら思うので、それを潰さないためにどうすればいいかと考えて、言葉を選んでいます。でも、ぶつかるときは本音で本気でぶつかり合うので、激しいんですけど、最後はラブラブって終わるようにしています。感情的な一家なんですよね。
おおた:最高ですね。
ママ:最近ちょっと反抗期が来ていて、私はうるさいおばちゃんの立ち位置で、パパは楽しく教えてくれるおじちゃんみたいな役割でいいかなと思っているんですけど、そのへんのバランスがね。
パパ:息子も母親には結構きつい口調だし、まあ妻も結構うるさいんですよ。家に帰ってきても、ぐったりできないというか。
ママ:え、そんなことないよ!
パパ:いやいや、まあね。僕が担当すると、息子的には気持ちが楽なんでしょうけれど、そのぶんゆっくり進めちゃうので、ママから「まだ終わってないの⁉」ってなる。
おおた:息子さんの言葉を引き出すようにと心がけている一方で、「早くしろ」とかは言っちゃうんですね。
ママ:最近息子と決めたルールで、一回声をかけたら20秒待つんですよ。で、もう一回言って20秒待つ。それでも来なかったら計算ドリル10問って。いつもギリギリのところで来るんです。そこが上手なんですよ。
おおた:それでもちゃんと来るんですね。それは偉いですよ。
ママ:そこで「早く!」って言っちゃうんですよね。せっかちな性格なので。夫は息子と一緒に「イェーイ!」ってタイプなので、うまくやってくれるんですけど。
おおた:つめが甘いと叱りながら、うまくやってくれているとも評価している。チームプレーがうまくいってるじゃないですか。
パパ:うまくやれているのかもしれないですね。ただ、妻は真面目なので、きちっとカリキュラムが終わるように仕切ってくれていて、いまいる塾のレベルについていけるように準備をしてくれてるんですけど、やっぱり塾の課題をこなすのは大変ではあるんですよ。僕も正直、算数とか、難しくてもうわからないんです。もっとうまい解説の仕方があるんじゃないかと考えると、個別指導の塾に通わせるとか、あるいはサピックスよりもレベルは落としたとしても塾でぜんぶやってくれるところに転塾するとかしたほうが、お互いの気持ちに余裕ができるのかなと思って、悩んでいます。
おおた:いまは心の余裕がない感じ?
パパ:日によるんですけどね。忙しくなってくると、ちゃんと寄り添えなくなってくる。それが3人重なると、爆発するんですよ。ものが飛び交うくらいに。
おおた:最高の家族ですね。
ママ:最後はプロレスで終わります(笑)。
パパ:お互いに言いたいことを言って、普通なら継続が難しいんじゃないかってレベルまで3人ともいっちゃうので、それが続くと、「これでいいんだっけ?」って。
うまくいっているなら変えない。うまくいっていないなら何かを変える。それが原則です。
おおた:ちょっと見えてきました。ドラマに出てくるような家族だな、理想的なチームワークじゃないかと思って聞いていましたけど、やっぱりそれだけ向き合うことのしんどさは感じつつあって、個別指導塾に通うとか、もっと塾にお任せできるスタイルのところに転塾するとか、要するにもうちょっとアウトソーシングできないかって、気持ちがあるんですね。
ママ:私はあります。
おおた:お父さんは?
パパ:僕はこのままいけるんじゃないかって思ってて。
おおた:さきほどお父さんが語ってくれた「心の余裕がない」というのは、ご自身じゃなくて、お母さんの気持ちの代弁だったんですね。
パパ:そうですね。
おおた:お母さんとしてはわりときちっと学力を積み上げていきたい感じですね。
ママ:サピックスの課題を見ていると、「こんなに必要なの?」って思うことはありますね。もっと大切なことがあるはずなのに、次から次へと詰め込まなきゃいけない。
おおた:それはいまの中学受験勉強の在り方に対する本質的な問題意識ですね。
ママ:ここまでやんなきゃいけないの?って。本人は勉強することが嫌いじゃないし、クラスが上がっていくことにも喜びを感じているので、そこで葛藤してます。
おおた:お母さんはすごく本質的なところに気づいていて、葛藤を感じている。それってとても正しい状態なんです。本質的な矛盾をすっ飛ばして、「いいからやれ!」ってなると中学受験はすごく危険で。正しい中学受験なら、葛藤を抱えたまま最後までいくんです。だから、いま葛藤を抱えていること自体は悪いことだと思わなくていいですよ。ただ、お母さんはきっちりしているから、お父さんの抜けが気になってしまう。お父さん自身はそのあたりどう感じているんですか?
パパ:僕はまあ、つめて考えていないんです、基本的に、生き方として。まあ、なるようになるんじゃない?というスタンスで。そういう部分を息子にももってほしい。一方で、きちっきちっとつめてくるひとが隣にいるので(笑)。
おおた:でもね、お母さん、話し方とか見た目からは、きちっきちっとした、いわゆる教育ママタイプにはあんまり見えないですよ……。
ママ:そうなんです!彼がゆるすぎるからきちっとタイプに見えますけど、まわりのお母さんに比べたらだいぶゆるいことは間違いないです。偏差値なんて関係ない!って言ってるお母さん、まわりにいないんで。
おおた:そうですよね。口だけでそう言っている親御さんはたまにいるけど、お母さんの場合、本気でそう思っていると思うし。
ママ:彼はすごくいいものをもっているから、偏差値のためにそれを潰すようなことがあっちゃいけないとは思ってて。
おおた:ご両親がそう思っているのが何よりの教育だし励ましだと思います。あとはさっきの「抜け」のことでいうと、もちろん意味もわからず公式に当てはめるようなことに本質的な意味はなくて、本質的な理解をしているかっていうのが大切ではあるんですけど、一方で塾のカリキュラムって抜けがあることを前提に前に進むようにできてしまっているので、そこで完璧を求めちゃうと辛くなっちゃうのも現実だと思う。手を替え品を替え、くり返し単元をやっていくなかで、いまわからなくても必ずどこかで塗りつぶせるカリキュラムになっています。どこの塾でも。だから多少の抜けっていうのは怖がらなくていいんです。
ママ:じゃあ、いまのところはこのままで良さそうですね。
おおた:お母さんが完璧な計画を立てて、お父さんが緩衝材になって、ときどき計画を間引いちゃったりしたときに、そのうち息子さんのほうから「パパ、そこは俺、ちゃんとやるよ」って言い出すかもしれないですよ。
ママ:いまもそれってときどきあるよね。
おおた:それはとてもいい中学受験ができている証拠だと思います。お母さんのプランを100%こなすことが最重要課題だったら、自発性なんて出てこないじゃないですか。
ママ:私もそう思うので、息子ではなくてパパに指示を出すんです。息子も隣で聞いているんですけど、「ちゃんとやるのよ!」と怒鳴られるのはパパ(笑)。
おおた:それ、すごくいいと思います。
ママ:えー!うれしい!信じられない!
おおた:「抜け」の問題はそれでいいとして、さきほどのアウトソーシングのねらいには、「心の余裕」の問題もありましたよね。
ママ:親の介護の問題もあったりして、私が動けなくなったときに、パパに課題の整理とかできるかな?って不安があって。
おおた:そういう事情もおありだったんですね。それでもお父さんは、なんとかなるんじゃね?と思っているわけですね。
パパ:うまくできるかどうかはまだわかりませんが、息子と相談しながら決めればいいかって。
おおた:いますごくいい状態だと思うので、下手に変えてしまうのはもったいない気がします。うまくいっているなら変えない。うまくいっていないなら何かを変える。それが原則です。もし介護の問題とかでお母さんが忙しくなって、いまの体制ではうまくまわらなくなったら、そのときに個別指導塾や家庭教師を検討すればいいと思います。転塾ってのはかなりな環境の変化だからリスクも大きいですよ。
ママ:そっか!
おおた:お父さんもこれまでの経験で学んできているだろうし、お母さんの完璧プランを見て、子ども自身も自分が何をすべきかを学んでいると思いますから、だんだん自分でやれるようになってくると思います。羨ましいくらいのご家族ですよ。
ママ:えー!すごく仲悪いんですけど。
おおた:噓つけ!
テレビドラマに出てくるようなにぎやかな家族でした。家族のそれぞれが強烈なキャラをもっていて、そのキャラを生かした中学受験ができています。それがこのご家族にとっての中学受験です。絵に描いたような「ベストな中学受験」なんてありません。読者の皆さんも、自分たちらしい中学受験の在り方を模索してみてください。その経験はかけがえのない家族の宝物になるはずです。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は70冊以上、11月18日には新刊『なぜ中学受験するのか?』(光文社)が発売予定。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子
VERY NAVY12月号『おおたとしまささんの「悩めるママのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2021年11/6発売VERY NAVY12月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。