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【中学受験】子どもの「落ちたらどうしよう」に親はどう応えたら?

【今月の質問】

公立中高一貫校を目指している娘。
「落ちたらどうしよう」とすぐ言います。

[受験進路相談室]

Sさんの場合

 

【家族構成】
夫、長女(小5)、次女(年少)
【今回相談する子どもの状況】
4歳からダンス、5歳からピアノの習い事を今も継続中。小5の4月から入塾、公立一貫校突破コースに在籍。

 

うちの子は頑張り屋な反面、神経質気味です。まだ5年生ですが受検についても既に緊張気味で、塾にも真剣に取り組みながら、不合格だったらどうしようと不安そうです。親としては学歴がすべてではない、と、本心から思っているので、そのときは仕方ないしきっといい道に進むはず、と伝えていますが、それで不安を払拭できているかわかりません。

まずは合格することをゴールに精一杯応援していきますが、ダメだったらどうしようという不安に対してどう答えるのが正しいのかな…と思っています。プレッシャーを軽くしてあげながら、本気で頑張ることを支援するための良い方法があれば、教えていただきたいです。

公立中高一貫校は1校しか受検できませんが、私立中高一貫校も視野に入れれば選択肢は広がります。

S(相談者):札幌在住で小5の娘がいます。まだ比較的新しい公立中高一貫校を目指しています。今年1期生が卒業して大学進学実績も良かったので、さらに人気が出て、来年以降は倍率も上がりそうです。そういう状況の中で、本人はすごく頑張っています。反面、不安の強い子なので、「落ちたらどうしよう」みたいなことをよく口にします。親としては学歴がすべてではないと本気で思っていますが、そういう不安に対して、親はどう接すればいいのか、モヤモヤしています。

オ(おおたさん):札幌に1校しかない公立中高一貫校を決め打ちで受検して、ダメだったら地元の公立中学に行くつもりだというわけですね。

S:いまのところそうですね。

オ:東京都立一貫校だと6倍、7倍の倍率が当たり前なので、それに比べればまだましな状況だとは思いますが、それでも3倍を超える高倍率ですから、不安になるのも当然ですよね。小さいころからダンスもピアノも頑張っているということですから、きっとすごく真面目で頑張り屋さんなんでしょうね。真面目であるがゆえに感じてしまう不安に、親としてどう寄り添ってあげればいいかというご相談ですね。さきほど学歴がすべてではないとおっしゃっていて、その通りだと思いますが、お子さんが不安になっているのは高学歴を得られないことではなくて、おそらく、落ちて傷つくことが怖いということですよね。

S:いまお話をうかがっていて思ったんですけれど、実は娘はいま、小学校での女の子同士の人間関係で結構悩んでいるんです。ベタベタしてくる子がいて、それを嫌がるとすぐ仲間はずれにされてしまうみたいなウェットな関係があるみたいで。そこから解放されたくて、受検するという意味合いもあるみたいです。娘にはダンサーになる夢があります。自分のやりたいことを恥ずかしいと思うことなく主張できる環境を公立中高一貫校の校風に期待していますが、もし落ちたら、そういうことがぜんぶ崩れてしまうんじゃないかという恐怖があるみたいです。

オ:なるほど。学歴云々よりも、地元の中学校に行くことへの不安が大きいということですよね。ストレートにそこへの手当てをするのであれば、選択肢を増やすことですよね。公立中高一貫校は1校しか受検できませんが、私立中高一貫校も視野に入れれば選択肢は広がります。そういう方法は考えていない?

S:いえ、考えていないことはなくて、いまは彼女自身があこがれを抱いている学校を目指している感じです。他も受けてみたいと言うのなら、探してみたいと思います。

不安に押しつぶされそうなときには、親としてはその状況に気づいていることを何気なく伝えてあげればいい。

オ:札幌の事情に詳しくないので、東京に置き換えて話しますけれど、東京都立中高一貫校は10校ありますが、それでも1校しか受けられません。受検日が同じなので。それで公立中高一貫校狙いのご家庭は、ダメなら地元の中学校に行けばいいやと思って受検勉強を始めるんですが、努力を重ねるうちに、せっかくここまで頑張ったんだから何かしらの合格がほしいなって思うようになって、私学を併願するケースがあったりするんです。ちょうど先週末、公立中高一貫校受検対策の模試会場で、保護者向けの講演をしました。そのときに会場のひとたちに質問して手を挙げてもらったんですが、そこにいた保護者の8〜9割が、公立中高一貫校を第一志望にしながら私立中高一貫校も併願するとのことでした。私立受験と公立中高一貫校の受検では対策が違うといわれるのですが、東京の場合、公立中高一貫校の適性検査(実質的な入試のこと)の出題形式をまねした入試を実施する私立中高一貫校がものすごく増えています。高倍率の公立中高一貫校に惜しくも落ちてしまった優秀な受検生にぜひ来てほしいというのが、そういう私立中高一貫校の思惑です。公立中高一貫校対策を中心にしてきた受検生の選択肢が広がっているということです。札幌にも同じ動きがあるはずなので、一度調べてみたらいいと思います。塾には間違いなく情報がありますから、聞いてみるといいと思います。

S:ここしかないって思うとつらくなっちゃうから、選択肢を見せてあげるってことなんですかね。

オ:そうですね。不安を和らげるための方法です。お子さんによっては、逃げ道を塞がれたほうが頑張れる子もいるけど、安心感があることによってパフォーマンスが上がるなら、他の選択肢を見せてあげたほうがいいと思うし。その見極めは難しいですけど、一般論で言えば、あまり追い込むのはおすすめしないかな。他に選択肢がなければしょうがないですけど。公立中高一貫校に限った話ではなくて、行きたい学校があるならそこだけを受けて一発勝負というのは、潔くてカッコいいとは思いますが、子ども本人のプレッシャーはハンパじゃないですよ。頑張ったけどダメだったというときに、自分はそれを受け入れられるのだろうかって不安になるのは当然で。だから保険として別の選択肢を用意しておくというのは一つの手ですよね。保護者の方によっては、一つに集中してほしいんですって言うひともいて、たしかに子どもによっては「他にあるならこっちでもいいじゃん」ってなったりするけど、お子さんはそうじゃないと思うから、ブレないと思うし。もう一つのアプローチ方法として、違う視点をもたせてあげることも大切かなと思います。遊びたいのを我慢して2年間一生懸命勉強したのに、結果が不合格だったらすべてが無駄だったことになっちゃうじゃんって、子どもだったら思います。でも大人は、それって決して無駄じゃないよねってわかりますよね。高校受験のための基礎学力になるという意味もありますが、それ以上に、勉強すること自体が尊い経験。本来、勉強って何かの結果を得るためにするものではありませんからね。勉強する経験自体の価値をまわりの大人が伝えてあげられれば、勉強が無駄になることへの不安はだいぶ解消されるんじゃないかと思うんですが。

S:そうですね。

オ:お友達関係と、努力が無駄になることへの恐怖と、どちらのほうが大きいと思いますか?

S:どっちもあると思うんですけれど、いま直面しているのはお友達関係の煩わしさだと思います。習い事のお友達は好きなんですよ。群れなくて、それぞれに目標に向かって頑張っている感じがいいみたいです。

オ:そういう意識の高いひとたちに囲まれているほうが生き生きするタイプなんでしょうね。いつくらいから人間関係のゴタゴタが始まったんですか?

S:もう1年生のころからです。困った子がいたらすぐに手を差し伸べる優しい子だと先生からも言われていて、だからこそうちの子を束縛したがる子が寄ってくるみたいなんです。

オ:じゃあ、思春期的な一過性のものではないんですね。クラス替えで解決する問題でもない。

S:そうですね。クラスが替わっても誰かが来ますね。お友達の要望に応えられないと、悲しいとかつらいとかそういう反応をしちゃう子なので、面白がられているのかなとも思います。

オ:共感力が高いお子さんなんですね。人一倍神経をすり減らしているかもしれない。でもそういう子だからできることがきっとあるから、その個性は大事にしてほしいですね。

S:ちょっと気にしすぎちゃって自分を苦しめてるなって思うので、のびのびできる環境に行かせてあげたいですね。

オ:お母さんのその発想はすばらしいです。ひとによっては「あなた、気にしすぎよ!」なんて否定的なコミュニケーションをとってしまうこともあり得ると思うんですけど、お母さんの場合はお子さんの共感力の高さを長所として受け止めて、そこを伸ばしてあげたい、だから中学受検なんだと。それはすごく筋が通っていると思います。あんまりうかつにこういうことを言うべきじゃないんですが、今日のお話を聞いているかぎり、私の直感では、いい結果が出るんじゃないかなって。というのも、公立中高一貫校の適性検査は、お子さんみたいな目的意識が高くって、コツコツ努力もできるような子と相性がいいんです。だからお母さんとしては十分に期待をもって「あなたなら大丈夫よ」って前向きに声をかけてあげていいと思います。また、お子さんも、不安を燃料に変えることができるタイプの子だと思うので、無理に不安を解消するのではなく、不安との上手な付き合い方を、中学受検という機会を通して身につけられるととてもいいと思います。不安に押しつぶされそうなときには、親としてはその状況に気づいていることを何気なく伝えてあげればいい。気づいてもらえていないと思うとますます不安になりますから。いっしょにオロオロすることしかできないけれど、あなたの気持ち、わかっているつもりだから、いっしょに分かち合いたいと思っているから、私にできることがあったら言ってねって伝えていけば、子どもは不安を抱えながらも親の懐で安心して、また頑張れます。真面目ゆえに不安が強く出てしまうのがお子さんの特徴ですが、不安との上手な付き合い方を身につけたら、お子さんは鬼に金棒だと思います。そうでなくても、最後の最後まで不安なんてなくなりませんよ。でも、本当に一生懸命やってると、ここまでやってダメならしょうがないやって思えるときが来るんです。親から見ても、ここまで頑張ってくれただけで、その成長を見られただけで、もう満足だって、結果なんてどうでもいいって、そう思える瞬間が来るんです。

S:おっしゃるように、うちの子はちょっと繊細すぎるところがあるので、前までは「なんでそんなに気にするの? 疲れちゃうよ」ってつい言っちゃったこともあったんですけど、私がそんなこと言ったって性格を変えることは難しいですから、それよりも「つらいことに気づいてるよ」って言ってあげることが役割なのかな。私もうまくいくんじゃないかって思いながら接してあげたほうが、子どもにも明るい感じが伝わるかなって思うので、まずは自分が不安にならないようにしたいなって思います。

オ:これからの成長が楽しみですね。

【 おおたさんからひとこと 】

不安を感じるのは一生懸命やっている証拠。中学受検という機会を利用して、不安から逃げるのではなく、うまく不安と付き合っていく方法を身につけられたら、それはその後の人生にとって大きな財産になると思います。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子

VERY NAVY10月号『おおたとしまささんの「悩めるママのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2021年9/7発売VERY NAVY10月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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