【中学受験相談】
インターからの中学受験…情報が少なく不安も多いです
ここ数年、1都3県の中学受験者数は前年度を超えています。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!
【今月の質問】
インターからの中学受験。子どもも親もモチベーションが上がりません。
[受験進路相談室]
<Oさんの場合>
【家族構成】
夫、9歳男の子(日本の小4、インターG5)、2歳女の子
【今回相談する子どもの状況】
都内インターナショナルスクールと、公立小のWスクール。幼稚園から個人塾(算数、国語)と家庭教師(英語)と空手とゴルフ。小3から個別指導塾Tで算数と国語を、帰国子女向け塾にて英検対策をしています。
【相談内容】
現在日本のインターナショナルスクールに通っているのですが、帰国生として中学受験を検討中です。限られた受験方法のため、そういう情報が少なく不安も多いです。また、宿題に追われていると、チックが出ている時があります。おそらくストレスなのでしょうが、やらないといけないという自覚は本人もあるようで、結果的に宿題をやり、塾にも通っています。ただ素直に宿題に向かう日は少ないです。
「全てやめる?」と聞くと「やめない!」と言いながら、宿題は辛そう。親として受験などをやめさせて自由にさせてあげたい葛藤と、男の子には今頑張らせるのが本人のためという親心の葛藤があります。習い事の空手との両立にも悩んでおり、このような悪循環で受験まで向かうのか?常に途方に暮れています。親も子どもも円満に受験に進んでいけるような方法はないのか模索しています。
中学受験の学校案内を見ると帰国枠があるかはわかるので、そこから一校ずつ調べていくしかないかもしれないですね。
O(相談者):私たち両親は日本人で、海外に住んでいたわけでもないのですが、息子は小学校からインターナショナルスクールに通わせました。もともとはそのままインターでいこうと思っていたんですけど、日本の学校が英語教育に力を入れてきたこともあって、中学受験をすることにしました。でもまわりにそういう選択をする人がいないので、情報量はすごく少なくて困っています。英語受験だったり、帰国子女受験にインターの子も参入させてくれる学校は増えてきたらしいんですけど、塾の先生たちもあまり詳しくないようで。そういうちょっと特殊な環境の中で受験に向かっていく不安と、情報の集め方とか、親がブレないようにするためのアドバイスが欲しいなと思っています。
オ(おおたさん):中学受験に目が向いたのはいつですか?
O:去年ですね。日本の学校でいうと3年生になった時、始めるなら今かなというのと、ちょうどコロナが始まって自宅学習する時間がすごく増えたので、学校も塾もオンラインという中で、手を出しやすかったというのもあって。
オ:もともとはなぜインターナショナルスクールに?
O:将来に向けて英語が喋れるのはベースだと思っていて、息子が言語として不自由なく使える状態にしたかった。今は日本の学校でもインターナショナルクラスもできてきたり、英語ができる子を評価してくれる学校が増えていると思ったのが中学受験を考えたきっかけです。インターに入れたことに後悔とかはないんですけど、息子の力を生かせればっていう。
オ:まず、海外在住経験のない人がインターで学んだ時に、それを帰国生として扱ってくれる学校がどれくらいあるかって正直、僕わからないんですよ。わからないけど、少ない気はします。海外在住経験に重きを置いているケースが多いので。なぜかというと、帰国生枠を設けるのは、英語力というよりは異文化にいたこと、ダイバーシティを学校の中に取り入れたいということだから。中学受験の学校案内を見ると帰国枠があるかはわかるので、そこから一校ずつ調べていくしかないかもしれないですね。
O:塾では交渉力も必要だと言われていて。おおっぴらには書けないけど、実は受け入れてくれているところもあるので、「お母さん、頑張りましょう」みたいな。
オ:たしかに判断基準が曖昧な部分はあるんだと思いますけれど、それは学校の事情でしかないので、率直に自分たちの状況を伝えればいいのでは?それで仮に断られてもお母さんのせいじゃないですよ。もう一つの選択肢として、英語入試もありますよね。普通に日本で育った子を対象に、英語が得意なら、入試科目として英語も選択できるようにしますよという学校が増えてきています。首都圏でだいたい私立校が300校くらいあるなかで、120から130校くらいは何らかの形で英語入試をしているんですね。そこでは相当有利になるはずですよね。
O:そういった形は、これからも増えていくということはありますか?
オ:この3、4年で急に増えたんですよ。でも、実はもう頭打ちになってる。すごくにべもないことを言ってしまえば、今までの4教科入試でいい生徒を集められて安定していた学校は新しいことをやる必要はないんです。逆に、生徒集めに苦労していて何か話題が欲しいとか、普通に4教科でやったらできる子は上の学校に取られていっちゃうけど、大学入試では英語ができることはすごく有利だから、そういう子を積極的に迎え入れたいって考えた学校がやる場合が多いんです。その理屈で言うと、人気校ではあまり多くないはずです。
O:慶應湘南藤沢キャンパス(SFC)が英語入試をやってくれているのはインターの親にとってはすごく明るいニュースで、ぜひ早稲田にもって思うんですけどね。
オ:SFCの英語入試開始はインパクトありましたね。一般的な英語入試に比べてSFCはだいぶレベルが高いけど、お子さんの場合は大丈夫だろうから、そこを狙うのはありですよね。
O:みなさん同じところを狙うから大変なんですけどね。
オ:そこでお母さんが何が何でもSFCってなると、中学受験としてはすごく辛い。本来の中学受験って、あそこもいいしここもいいっていうくらいの大らかさの中でやらないと、キツくてしょうがないですよ。だからこそ、他に選択肢はないですか?っていう質問だったと思うんですけど。あとはSFCと同じ上位校レベルで考えるなら、帰国生枠のほうが多いと思います。それでいくつかの選択肢が得られると、だいぶ気持ち的には楽になるんじゃないかな。一方でもう一つ同時にやってほしいのが、普通に英語入試をやっている学校の中で、ここってわりといいじゃんって思える学校を見つけてほしいんです。SFC よりも偏差値的には下がってしまっても、その中にも必ずいい学校はあるから。学校ってこんなに色々あるんだっていう安心感の中で中学受験に取り組んでほしいなって思います。
O:塾に行くと、先生が勧めてくる学校がどうもハイレベルな学校が多くて。せっかくインターをやめてまで行くんだったらって理由で。
オ:その気持ちもわかりますよ。でも、それってすごく学歴主義的な損得感情っていうか。塾の先生の真意がどこにあるかわからないけど、僕としてはピンとこないな。仮にインターをやめて、日本の学校に入ることになって、仮にそれが偏差値50や40の学校だったとしても、僕はそれでいいんじゃないのって。インターの経験は決して無駄にならなくて、必ず息子さんの個性になっていくし。その点は、親が、あなたらしく歩んでいけばいいよ、それはあなたの人生だよっていう視点でいれば絶対に大丈夫だから。取材していてよくあるんですよ。「東大に入りました」「なんで東大に行ったの?」「選択肢を広げるためです。親や先生に言われました」と。その分、入れる会社や就ける仕事の種類の選択肢が増えたかもしれないけど、頑張ってせっかく東大に行ったんだからって、増えた選択肢の中からしか人生を選べなくなっちゃうんです。東大まで行ったからこんな仕事は選べないとか言って。インターナショナルスクールっていう一般的な人がなかなかできない選択をできたわけじゃないですか。それはある意味ではアドバンテージにはなってるけど、そこでさっきの塾の先生の理屈を採用してしまうと、逆に選択肢を狭くしてしまう危険性があるので気をつけてください。
O:息子が最近、俳優になりたいって言い出して。私と夫で「インターの高い学費を払ってるんだから、ハリウッド俳優になるならいいよ」って言っちゃってました。でも、そう言われてみると、そうですよね。ちょっと楽になりました。
オ:子どもを目の前にすると忘れちゃうけどね、ときどき今の話を思い出してください。
O:あとスポーツとの両立についても聞きたいです。ずっと空手を続けてきて、ほぼ毎日練習して、全国レベルで結果も出してきました。息子が空手は続けたいっていうので、毎日はやれないけど週何回かで続けることにしました。受験もスポーツも両方やってどっちも中途半端にならないかなっていう不安もありますし、十分な練習ができないことで最近勝てなくなってきて、そのプレッシャーから一時期チックが出てしまったこともあり、今後が心配です。
オ:まず、最近の傾向として、ギリギリまで習い事との両立する子は増えています。必ずしも勉強時間や犠牲にしたものに結果が正比例するわけではありません。サピックスの宿題がチャチャッと終わっちゃう子も世の中にはいるんです。そういう子からしたら、週末にスポーツをやるのはむしろいい気分転換になる。両方惰性だけでやっているとよくないとは思いますけどね。練習量が減った分、空手では今まで通りの結果が出なくなってしまうかもしれないけど、これって人生においてはどこかでくることじゃないですか。今までは、人よりも良い成果を出すことによって、プライドとか、抽象的な意味での報酬を得ていたと思うけど、じゃあ、立場を翻して、息子さんに負けた選手がたくさんいるわけですよね。彼らは空手をやってた意味がなかったのか、プライドがなかったのかって言ったら、そんなことはないはず。特に空手という武道だから言いやすいけど、勝ち負けって本質じゃないですよね。
O:ああ、そういう風に考えればいいんですね。すごくラクになります。最初は海外に出た時に黒帯を持ってたらカッコいいくらいの気持ちで始めただけなのに、結果が出ていたものだから、いつのまにか「勝たなきゃダメ」って息子を追いつめていた自分にいま気づきました。
オ:負けたらなくなるプライドって何なの?本当の人間の強さって何なんだろう?っていう深い話になるんだけど。受験においても同じです。視野が狭くなりそうな時は意識して広げて、勝ち負けなんかに関係なく、人生は豊かにできるんだっていうことを確認しないと。それを繰り返していけば、お母さんなら大丈夫だと思います。
O:ありがとうございます。本当にラクになりますね。
子育てって「答え」じゃなくて、「問い」を持ち続けなきゃいけないの。それって不安だけど、親の宿命だと思う。
オ:どうしたら子どもが生き生きと勉強を続けられるのか、手探りをしながらやっていくしかありません。
O:よくわかりました。今お話ししていて、もう一つ聞こうと思っていたことの道筋が見えた気がします。自分から宿題をやろうとしない息子に対して何かいい方法ありますかって聞こうと思ってたけど、私が自分の価値観の中に彼を押し込めたいだけだったんだなって気づきました。夫からもいつも「押し付けるなよ」とか「いいところを見てあげなよ」って言われてきているんですけど、どうも夫のいうことが聞けなくて。息子とも毎日口論になるんですけど、「ママに何を言っても、どうせ僕はやらされる」っていつも言われてて。でも、本人もすごく真面目に考えているんだと思います。「インターに行ってるのにどうして急に日本の学校に移らなきゃいけないんだろうって思ったけど、ママと学校を見たりしていると僕は日本人だし日本の学校もいいなって思った」って言うんです。頑張って勉強しなきゃいけないのもわかっていて。
オ:ほんとですよ、すごく頼もしい子ですよ。
O:空手にしても受験にしても、チャレンジさせるのがいいのか、もういいよって言ってあげるのがいいのか、先が見えないのが不安で。「答え」が欲しかったんですけど、確かに子どもってそれぞれだし、子どもを見るしかないんだなって。
オ:子育てって「答え」じゃなくて、「問い」を持ち続けなきゃいけないの。それって不安だけど、親の宿命だと思う。息子さんともコミュニケーションとれているし、立派に育っていると思います。空手では負け知らずだったのに、「お母さんには勝てない」っていうのも面白いですね。
O:道場や塾にいるほうが幸せだって言ってます(笑)。
オ:それ、本当に抑圧されてたら言えないから。今日、お母さんが思ったことがあるなら、息子さんに「あなたのためを思っていたけど、お母さんの中にある正解を押し付けすぎてたかもしれない」って、さらっと伝えてもいいかもしれない。そしたら息子さんもうれしいんじゃないかな。
O:なるほど。
オ:結局ご相談いただいたことは具体的には何ひとつ解決していないと思うけど、今日が何かのきっかけになるといいですね。
O:明るい気持ちになれました。そうすると物事の見方がきっと変わるし。性格的に明日か明後日には息子を怒鳴っていると思うんですけど、今まで見えなかった視点を教えてもらえたので、すごく良かったなって。良い報告ができるように頑張ります。
オ:何でも良い報告ですから。元気でさえいれば。
すごく教育熱心で、何事にも全力投球のお母さんでした。そのいいところが、息子さんのなかにもしっかりと育っているようです。一方で、何でも一番を目指すみたいな気持ちが強すぎると、自分を縛ってしまうことがあります。中学受験は長期戦ですから、ずっと一生懸命ではもちません。ときどきだらけるゆるさも必要です。そのバランスをこれから学んでいけば、きっと笑顔で中学受験を終えられると思います。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子