内田恭子さんの7年来の趣味はお茶「お初釜の大役に焦っています」
知性のある上品なファッションと聡明なキャラクターで人気の内田恭子さん。VERY NAVYで、彼女が愛する「モノ、コト、場所」を通じてその〝審美眼と価値観〟を知るエッセイ連載。今回は新年の初釜を前に緊張を極めた内田さんの気持ちと、7年通うお茶の奥深さについて伺いました。
内田恭子さんの
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「嘉門工藝のお茶箱」
私、久しぶりに焦っています。今年のお初釡(新春を迎えて初めて開くお茶会)に、 お茶の先生からお濃茶の亭主という大役を仰せつかったのであります。茶道においてお濃茶とは、普段いただくお薄茶のお点前よりも、格式の高いものとされているわけで。お稽古歴7年目にしても、未だに立場も気持ちもぺーぺーな私。いきなりの先生の愛のムチに久しぶりに焦っています。お客様の前でのお点前はお稽古のときさえ、仕事でも他でも感じることのない緊張感。足の痺れすら後にならないと気がつけない異常な緊張感。それをお初釡でやるなんて、ああ、どうしよう。しかも、お点前が完全に身についてない……。
そんな劣等生の私がお茶の世界の門を叩いたのは、着物を自分で着られるようになりたいからというきっかけから。たまたまご縁があり、今の先生のもとでお茶を学ぶこととなりました。それにしてもこの世界、なんと奥の深いこと!小さなお茶室の中には宇宙のすべてが詰まっているのです。炭の木、炉の火、茶器の土、鉄釜の金、そしてお茶の水。その全てを五感で愛で、折々の季節を茶花やお軸、着物や茶器、お点前を通して感じる。そしてその場限りの一期一会を楽しむ。深すぎて、7年やっていても多分その1/10も 理解できていない気がするのです。そんなわけで、お稽古の度に帰り道では自分の不甲斐なさに落ち込み、着物をさらりと着てお稽古に行くなんて、 あと10年後にもできているかどうだか。
それでもなんとかここまでお茶を続けて来られたのは、ひとえに先生や社中のお姉さま方のやさしい支えがあったからこそ。最初の頃はお月謝を新札で用意することすら知らなかったり(これだから帰国子女は……という声が聞こえてきそう)、「流し点」という お点前を「掛け流し」と真顔で言ってしまったりする私を見捨てずに、笑い流してくださる。「お茶は楽しくね」その一言にいつも救われているのです。
というわけで、我が家でも日常的にお抹茶は登場しています。美味しい和菓子を頂くときに。お客様をもてなしたいときに。自分へのご褒美に。嘉門工藝のお茶箱は私がお茶を始めたときに、夫がお誕生日にプレゼントしてくれたもの。箱を開けると、可愛らしい、丁寧に作られた茶器がひとつひとつアートのように詰まっていて、それでお茶を点てても、飾って置いておいてもいい。小さいころに夢中になったおままごと道具と再び出会っ たように、胸がときめくのです。茶器も箱もいろいろな種類があるので、好みのものを集めるのもまた楽しい。そうそう、お茶は楽しくね。お初釡もどうぞ楽しめますように。
Profile
内田恭子さん
1976年生まれ。フジテレビのアナウンサーを経て、結婚を機にフリーランスに。現在は幅広いメディアで活躍する一方、上品かつ高感度なファッションも話題に。11歳と8歳の2児のママ。古伊万里再生プロジェクト 親善大使。
モデル・文/内田恭子 撮影/須藤敬一 構成/松井美雪 編集/羽城麻子