内田恭子さん「子育ての迷い、悩みから救ってくれる唯一の教科書」
知性のある上品なファッションと聡明なキャラクターで人気の内田恭子さん。VERY NAVYで、彼女が愛する「モノ、コト、場所」を通じてその〝審美眼と価値観〟を知るエッセイ連載。今回は子育てに迷ったときや悩んだとき支えられた一冊について伺いました。
内田恭子さんの
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「抱きなさい 子を」
先日11歳の長男と一緒に歩いていたときのこと。まだ外でも時々手を繋いでくれるのが嬉しく、プラプラと一緒に手を振りながら、他愛もない話をしていたのだけれども。いきなりバサッとすげなく投げ放たれる私の手。見ると前から同級生のお母さんが歩いてくるところ。なるほどねえ。後でニヤニヤしながら「ねー、手繋ごうよ」と言うと、「なにがあ?」なんてとぼける長男。大人に向かって成長をしながらも、まだ少し甘えたいアンバランスなお年頃です。頼りなく小さな手がいつもすっぽりと私の手の中にあった日々が、もう懐かしくもあり、愛おしい。変わらない毎日を送っているつもりなのは私だけなのかもしれない。日々、子供たちは新しい世界に触れ、刺激を受け、そこから学び、確実に心も体も成長しているのです。
そういった子供の成長を感じる度に、そっと取り出して開くのが浜文子さんの「抱きなさい 子を」という詩。出産をしたときに友人から贈られたその詩が入った本は、何度も読み返された、私の唯一の育児の教科書。慣れない乳幼児の世話で心身ともに疲れ果てていたとき。いけないとは分かっていても、周りの子の成長と比べてしまってひとり焦っていたとき。教育方針に悩んで自分を見失いそうになってしまったとき。子供の気持ちをきちんと受け止めてあげられなかったとき。私は母親としてこれでいいのかと誰かに聞きたいとき。みんなの知らないところでひっそりと母だけが知る涙を流すとき。どんなときにもこの詩が教えてくれること。
「母よ 抱きしめなさい 子を」。
だから私はどんなときにも子供たちを抱きしめる。嬉しいときも悲しいときも。言葉がなくては伝わらないことがある。けれども言葉がなくても抱きしめるだけで伝わることもたくさんある。それができるのが母の子供への抱擁。そうする度に、私は母として強くなっていけるのではないかと信じて。子供たちが大きくなり、巣立っていっても、そのぬくもりや強さをどこかで覚えてくれていることを信じて。
自分が母親としていいのか悪いのかを考えるくらいだったら、今できること、抱きしめてあげることをしよう。そうやってこれからもずっと子供たちと向き合っていきたい。
「母よ
抱きしめなさい 子を
もう何もしてやれない日のために
抱きしめる手が
子の未来に届くよう
幾度も 幾度も
抱きしめなさい
いつか別れる者として
あなたの子をしっかり胸に抱きしめなさい」
出典『母になったあなたに贈る言葉』浜文子著¥1,540(清流出版)
Profile
内田恭子さん
1976年生まれ。フジテレビのアナウンサーを経て、結婚を機にフリーランスに。現在は幅広いメディアで活躍する一方、上品かつ高感度なファッションも話題に。11歳と8歳の2児のママ。
モデル・文/内田恭子 撮影/須藤敬一 構成/松井美雪 編集/羽城麻子
※紹介した本は内田さんの私物となります。Amazonにて「お母さんと呼ばれるあなたへ」販売中。「つなごうネット」にて浜文子さんの他ポエム&エッセイが読めます。