VERY NAVY

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Interview

インタビュー

2023.05.19 UP

女性初編集長になってみて感じた「本当に優秀なリーダーの資質」

 

VERY NaVY5月号『ロールモデル不在の中で浜田敬子さんが見つけたもの』で、ご自身のキャリアや子育てとの両立についてお話ししてくれた、ジャーナリストの浜田敬子さん。Webでは、本誌におさまらなかったお話をスピンオフ記事としてお届けします。
後編は女性リーダーのあり方や、母親の社会進出に不可欠な夫との体制について、また子どもへのジェンダー教育についてもうかがいました。

≫前編はこちら

女性リーダー=仕事最優先の人
という価値観が変わりつつある

 

 

——女性リーダーが増えることで働きやすい社会になり、国力のアップにもつながるというお話でしたが、ご著書(『男性中心企業の終焉』)の中で印象的だったのが、企業が女性社員にとったアンケートで「女性よりも男性の方が管理職に向いている」という質問にYESと答える人は2割弱の一方で、「自分が管理職になりたいか」と問われると6割がNOと答えたデータがありましたよね。自分はなりたくないけど、他の女性には上に立ってほしいと思う気持ちには、女性リーダー=仕事最優先でバリバリ働ける優秀な人というイメージがあって、自分はそこまで頑張れないと思っているのかなと。

 

浜田敬子さん(以下、敬称略):その気持ちもわかります。実際に、男性管理職より女性管理職の方が残業時間が長いというデータもあります。男性以上に頑張らないと評価されないからより男性化するわけです。でも、男性化した女性リーダーを目指せと言われても無理だし、なりたくないと思うのも当然ですよね。そもそも優秀なリーダーってどういう人なのかというところから見直しが必要かなと思っています。リーダーに求められる資質は、今までは男性が考える優秀さ、たとえば長時間労働や転勤ができたりと時間や場所を問わず働けることだったり、トップダウンで指示が出せたりということが評価されてきました。でも、それって本当にマネジメントに必要な能力ですか?と。今のリーダーに必要な資質は長時間働けるよりも、短時間でもしっかり成果を出せることだし、さらにコミュニケーション能力や共感力も重要だと感じます。リーダーの評価基準を今の時代に合ったものにすると、当然女性も候補に挙がりやすくなると思います。もちろん従来のトップダウンで引っ張るタイプがいてもいいですが、色んなタイプのリーダーを増やすことが大事だと思います。

——浜田さんが2014年に『AERA』初の女性編集長になられた時は、どんなリーダー像を描いていましたか?

 

浜田:人間は自分が見たことしかできないので、ずっと男性編集長を見てきて、はじめはどうしたらいいのかわかりませんでした。私の場合は、取材先で何人もの女性リーダーに会う機会があったので、そういう方たちによく相談していました。男性の部下に注意する時は絶対に人前で言わない方がいいとか、デスクに鏡を置いて自分の表情をチェックした方がいいとか色んなアドバイスをもらいました。リーダーが不機嫌そうだとみんなが萎縮するからと。朝、編集部に行ったら、必ず「おはよう」と言うことも決めていましたね。あとは、政治力を身につけること。

 

——女性は…と括るのもおかしいとは思いますが、そういう根回しのようなことが、あまり好きではなかったりしませんか?

 

浜田その気持ちもわかります。そういうことをしたくないと思いますよね。でも、自分のやりたいことを通そうと思ったら、必ず周囲を説得しなきゃいけない。女性はそれを会議の場でいきなり言っちゃうけど、その前に周りの意見を聞いて回ったりキーパーソンにはあらかじめ話をしておいてどうやったら受け入れやすくなるかと考えた方がいいとアドバイスされました。なるほど、私が今まで玉砕していたのはそういうことだったのかと(笑)。女性は正しいことが通ると思っているし、ボーイズクラブ的な男性のなあなあな部分が嫌だとも思っていたけど、どうしたら自分が提案したことが実現できるかはちゃんと戦略を立てた方がいいとアドバイスされて、そこはとても参考になりましたね。

意識が追いつかない夫とのすれ違いを
どう解消するべきか

——女性の社会進出が進むためには、パートナーの理解と協力も不可欠だと思います。

 

浜田夫が家事育児をやるかどうかが分かれ道ですよね。その点、今のNaVY読者の世代は一番しんどいと思います。夫の意識が追いついていなくて、「君が働きたくて働いているんだろう」くらいのことは平気で言いますし。今の40代はどんなに両立が大変でも、氷河期で就職に苦労したので、せっかく入社した会社は絶対に辞めたくない、仕事は続けたいと思う人も多いですよね。私が後輩世代を見ていて感じるのは、みんな1人で孤軍奮闘し過ぎだなということ。ものすごく頑張っている。頑張り過ぎています。もっと実家に頼ったり、割り切ってシッターや家事代行を使ってもいいと思います。逆に今の30歳前後より下の世代は男性側も変わってきている。自分一人が大黒柱でいる方がしんどいし、リスクだと感じている人が多いので、稼ぐのも家事育児も夫婦でやりたいという気持ちが強いですね。

 

——意識が追いついていない夫とのすれ違いはどうしたらいいのでしょうか。

 

浜田人の意識ってそう簡単には変わらないんですよね。ですが、今すごくチャンスだと思うのは、コロナによってリモートワークが選択できるようにもなってきた。それで夫の働き方が代わり、家事育児を以前より分担してくれるようになったという話は聞きます。目の前で妻がバタバタしているのを見ていたら、家の中にどれほど細々とした家事があるかわかりますよね。夕方のスーパーにお父さんの姿も増えました。妻が忙しそうにリモートワークをしている間に「買い物に行ってきて。ついでに子どものお迎えもお願い」と言われたら、さすがにやろうと思いますよね。フル出社に戻そうとしている企業もありますが、そこを踏みとどまってほしいと思います。あとは、男性が変わるのは自分が挫折した時。第一線でバリバリ仕事している時は変わりづらい。それが自分の意に沿わない異動を体験するなどして早く帰宅するようになると、週に何度かお迎えに行ったり夕食を作ってくれたりするようになったという話を聞きました。今仕事中心に暮らしている男性たちに言いたいのは、「あなたはいつまでも第一線じゃない。もしも今家族を大事にしていなかったら、将来家族からも大事にされない」ということですね。

我が子にジェンダーフリーな
価値観を身につけてもらうには

——NaVY読者にとっては、我が子へのジェンダー教育も関心の高いテーマです。

 

浜田今の日本にいる限り、まだまだ男の子の方が圧倒的に優位です。特に優秀な男の子は自分の能力を過信する傾向が強いので、偏った考え方になってしまう可能性もあります。数年前の東京大学の入学式での上野千鶴子さんのスピーチにもありましたが、努力してもできない人がいるとか人にはどうしても変えられないものがあるということを、親が伝えていくことは必要だと思います。あとは、マイノリティになる経験をするのもすごくいいと思います。その点で留学は意味があると思っています。取材を通じて、ダイバーシティやジェンダーを本気でやっている経営者はだいたい海外経験があるという共通点がありますから。

 

——最後に、NaVY読者にメッセージをお願いします。

 

浜田今の日本を見ればわかるように、男性だけが働くという形では国としても持たないし、家庭も共働きが主流になりつつあります。女性も能力を発揮できる社会にしていくことが必要です。特に娘を持つお母さんたちにお願いしたいのは、娘にいい環境で勉強してほしい、叶うなら留学してほしいと考えている方もいるかもしれないですが、それって何のため?と考えてみてはいかがでしょう。娘さんたちが成長したいときに、培ってきたものを発揮できる社会をどうやって作っていくか。せっかく頑張って勉強しても社会で発揮する場所がないのでは、もったいないですよね。我が子がそうならないために、私たち親世代が誰もが力を発揮しやすい社会を作っていかなくてはいけないと感じています。

 

浜田敬子さん

ジャーナリスト

1966年山口県出身。大学卒業後、朝日新聞社に入社。新聞記者として支局勤務、『週刊朝日』編集部を経て、’99年『AERA』編集部へ配属、2014年に初の女性編集長に就任。’16年から朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーを務めた後、’17年に退社し、オンライン経済メディア『Business Insider Japan』統括編集長に。’20年に退任後はニュース番組等でコメンテーターとして活躍する傍ら、フリーランスのジャーナリストとして活動。家族は夫と高校生の娘。

 

『男性中心企業の終焉』(文春新書)
ジェンダー後進国と言われる日本。他の先進国と比べてなぜジェンダーギャップは埋まらず、政治経済の分野で女性進出も遅いのか。その根底にある人々の価値観を探るとともに、ダイバーシティ&インクルージョンを目指して働き方改革を行う日本企業の奮闘と変化の過程を取材した一冊。

撮影/杉本大希 ヘア・メーク/谷口結奈<P-COTT> 取材・文/宇野安紀子 編集/羽城麻子

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