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ワイン醸造家・三澤彩奈さん 憧れの時計は「父の腕にあったグランドセイコー」

純真無垢な芳香と、複雑に絡み合う酸味。光を受けて黄金色に輝くワインには、ひとりの女性の人生が、詰まっている。三澤彩奈さんは、ワイン界に革命をおこした、若き醸造家。もの静かでありながら、内に強烈な強さを携えて、畑作りから醸造にいたるまで、情熱の火を絶やすことなく、未来につなぐ。時を重ねなければ、生み出すことのできない限られた名酒は、世界中の人の心を摑んで離さない。

Q. 愛用の時計は何ですか?

A. グランドセイコーのSTGF349。
醸造家の父がしていたのも同ブランド。いつかは私も、と思っていました。

Q. この腕時計は、どんな存在ですか?

A. 日本のクラフツマンシップを感じられる、
 憧れの存在。

Q. 時間がもつ意味とは?

A. 自分に託された使命。
限られた時間を、めいっぱい生きたい。

 

冒険と挑戦のワイン作りに、
人生の時間のすべてを。

冒険と挑戦のワイン作りに、
人生の時間のすべてを。

 淡い藤紫色の果実についた、朝露の雫。折り重なる山々に広がる雲海。山梨県茅ヶ岳の山麓、葡萄垣根の隙間から透き通るように輝く“甲州”が顔を出している。
「私はずっと、海外で勝負をするんだと思ってきたけれど、帰国をして気がついたのは、この地に眠っていたたくさんの宝」。
 歴史あるワイナリーに生まれた三澤彩奈さんは、ボルドー大学でワイン醸造を学んだのち、6年近くにわたり世界中の醸造所を転々とした。「真っ当なワイン作りをしたい」という信念は、故郷の魅力を再発見し、祖父や父が人生をかけた品種“甲州”のオリジンを知ることで、日本で醸造を極めたいという覚悟へと変わった。葡萄そのものの良さを引き出すミニマムなワイン作りは、化粧をしないスッピンのような素朴さと、厚みある複雑な味わいを世界中に知らしめた。彩奈さんが手がけた『キュヴェ三澤 明野甲州』は、世界的なコンクールで金賞を受賞。“KOSHU”として世界の舞台に躍り出たその姿に、彩奈さんは胸を高鳴らせた。
「世界の葡萄と比べたら、甲州はおとなしくて繊細。埋もれてしまうような品種なんです。シャイで自己主張が得意ではない自分を見ているような気持ちでした」。
女性であること、アジア人であること、体が小さいこと。甲州を、海外生活で直面した潰れてしまいそうな自分自身と重ね、それでもなお自分にしかない個性を葡萄の中にも見出していった。
 日中は畑に出て、夕方から醸造と向き合う。気がつくと朝を迎えてしまう日も少なくない彩奈さんの姿を、4代目の父が見守ってきた。そんな父の腕にあった手巻きのグランドセイコーに、クラフツマンの勲章として憧れ続け、ついに“甲州色”の文字盤を持つひとつを手に入れた。
「父といろんなワインや洋書を一緒に囲み、深く深く突き詰めて行った時、見えてきた姿が同じ方を向いていたんです」
 研ぎすまされた感覚と、目には見えない情熱、そして愛情。醸造家として寸分の狂いもなく、美しい針は時を重ねている。

Profile

三澤彩奈

1923年創業の「中央葡萄酒」4代目オーナーの長女として生まれる。2005年単身渡仏し、ボルドー大学ワイン醸造学部を卒業、ブルゴーニュ地方での研修を経て「フランス栽培醸造上級技術者」の資格を取得。南アフリカ・ステレンボッシュ大学大学院へ留学の後、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチンでワイン作りを学ぶ。2007年に帰国し「中央葡萄酒」の栽培醸造責任者に就任。2014年世界最大のワインコンクール「デカンタ・ワールド・ワイン・アワード」金賞を日本で初めて受賞。以後3年続けて同賞を受賞する。2016年同コンクールにて、スパークリングワイン部門でアジア初のプラチナ賞とベストアジア賞をダブル受賞。著書は『日本のワインで奇跡を起こす』(共著)。

撮影/金 玖美 ヘア・メーク/只友謙也(Linx) 取材・文/須賀美季 編集/渋沢祥子

VERY NAVY12月号『一緒に成長、私を語る〝時計〟のはなし』より。詳しくは2021年11/6発売VERY NAVY12月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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