起業家・マニヤン麻里子さん フランス人の夫と収集する情熱的なアートを公開
現代アートへの造詣が深く、サロンのアート監修も手がける起業家・マニヤン麻里子さん。フランス人の夫とふたりの子ども達と暮らす自宅には、数多くのアートコレクションが掲げられ、さながらギャラリーのよう。若手アーティストたちがそれぞれの現状と闘いながら生み出すもの、そのみなぎるエネルギーに救われているという彼女は、アートを手にすることで彼らの活動を支えていくことが夢だという。
夫婦のストーリーが詰まった、可憐な桜
夫婦のストーリーが詰まった、可憐な桜
マニヤンさん宅の真っ白な壁に映える、時を重ねた味わい深い古木。その木には、小さな桜の花が細密に描かれている。「この作品とは、目黒の小さなギャラリーで出会いました。私が初めて夫にプレゼントしたものなんです」。桜と古木というバランスが、どこか古き良き日本らしさを感じさせる作品は、フランス人の彼に日本の美しさそのものを、プレゼントしたかったのかもしれない。
反復する世界と果てしない空間の中に見えるもの
反復する世界と果てしない空間の中に見えるもの
エントランスに掲げられた絵画は、1996年生まれの若手アーティスト、井上七海の作品『スフ』。線を引く行為を繰り返し、その反復した行動のなかで生じる線のズレや絵具溜まりなどの痕跡が残る作品だ。「まるで方眼紙を作るかのように、ずーっと線を引き続けることで生まれた作品です。これを作っている間の作家の精神とか、追いつめ方とか、自分には持ち得ない感覚なんです。だからこそ、強く惹かれるのだと思います」。終わりのない演算を続けるかのようなその果てしなさの中に、作者と見る物それぞれの自分自身が見えてきそうな作品。
指から生まれる豊かな色彩と、
溢れ出すエネルギー
指から生まれる豊かな色彩と、
溢れ出すエネルギー
マニヤンさんが、今いちばん注目している女性アーティスト、ロッカクアヤコの作品。筆を使わず、手で直接キャンバスや段ボールに描き出す作風は、エネルギーを発散するかのようなライヴペインティングのスタイルから生まれたもの。現在、海外を中心に活動する若手女性アーティストだ。「純粋にこの人の作品が“好き”という気持ちで、何点か持っています。例えばコロナ禍で家にいる時も、この絵に救われる部分がとても多いですし、先を引っ張っていく力みたいなものを強く感じています」
日本の芸術、着物文化に触れることもアート
日本の芸術、着物文化に触れることもアート
幼少期から、海外暮らしが長かったマニヤンさんにとって、日本の文化はより新鮮に映る。ずっと憧れだったという着物を、京都で反物からオーダーするという機会に恵まれたマニヤンさん。「パーティや会食に、サラッと着物を来て行けるような自分になりたくて」と、珍しいペイズリー柄を千歳茶色(せんざいちゃいろ)に染め上げた訪問着は、京都のごふく店「ニ十八(ふたや)」でオーダーした。一枚の布を、織り、染め、仕立ててでき上がる着物には、マニヤンさんが愛するアートと同じく、作り手である職人たちの魂が込められている。実際に、京都の職人たちを巡って知り得た着物の奥深さにも感銘を受けた。
Profile
マニヤン麻里子
東京都生まれ。3歳から9歳までをニューヨークで暮らす。21歳から24歳までをパリで過ごす。一橋大学社会学部卒、フランスHEC経営大学院修了。大学院修了後は、パリの雑誌系出版社にてグローバルマーケティングを担当。帰国後、仏ソシエテ・ジェネラル証券、米ゴールドマン・サックス証券会社等で金融商品開発や営業に従事。2016年に株式会社TPOを起業する。UWC ISAK Japan評議員。12歳の息子、9歳の娘のママ。
撮影/HAL KUZUYA(取材分) 取材・文/須賀美季