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“料理が苦手”綿矢りささん「息子は手伝うことで味を守る番人役として活躍」

夢と出会うのは、早い方がしあわせ?17歳で小説家デビューした、綿矢りささん。青春を知らずに過ごした学生生活、好きなことを長く続けるしあわせなど、自身の経験を振り返りながら語る思春期手前の10歳(取材時)男の子の子育て。

小説を読むことは誰かの気持ちを想像することでもある。
その大切さは伝えたい

小説は息子には刺さらず。今は「折り紙」が好き

この夏ぐらいに来るかもしれないと、夫とふたり待ち構えていた10歳の息子の反抗期。今も穏やかな性格は変わらず、どうやらまだみたいです。じっくりと落ち着いて作業と向き合うのが好きなタイプで、今の趣味は折り紙。特に教えたわけではなく、動画を見つけて興味を持ったようです。物語に触れてほしいと小説や絵本を薦めてきましたが、彼にはまったく刺さらず。本人が率先して読む本は図鑑などの自然に関するもの。あとは、コロコロコミック。自分とは違うと、早々に諦めました。私が小説に惹かれ始めたのは、小学生の高学年のとき。両親から「欲しい本があったらいつでも買ってあげる」と言われていたのと、図書館に通うようになって、お金がかからずに5冊も借りることのできる贅沢を知ったのが大きかったように思います。

 

小説を読むことは、誰かの心の内を想像することでもあって、息子にもその大切さは伝えたいです。何をしたら、相手がどんな気持ちになるか。それを理解できないと、勉強やスポーツが得意だったとしても、意図せず人を傷つけてしまったり、後々苦労するような気がしています。今のところ小説に興味を持たない息子との間で大切にしているのは、日頃の言動。言葉が強いと感じたら「そう言われたら相手はきついかもしれないよ」とか、逆に息子が誰かの言葉で傷ついている様子があったときは「わかる気がするな」と受け止めてみるとか。会話の中で私の素直な感想を伝えることで、受け取ってくれるものがあったらいいなと思っています。ただ私の場合は職業柄、相手のことを想像しすぎて下手に遠慮してしまったり、言葉の意味を大袈裟にとらえてしまうことも。そのバランスはなかなかむずかしいところではあります。

料理が苦手な私。美味しいものが好きな息子は手伝うことで

味を守る番人役として活躍

学習に関しては夫の方が熱心。私はふたりのガス抜き担当

料理が下手な私と、正しい順序にこだわる息子。私はレシピ通りというのがどうも苦手で、どうしてもオリジナルアレンジをしたくなってしまいます。冷蔵庫のあまりの食材や余計な調味料を投入し、「やらなければよかった」となるのがよくあるパターン。うまくいかなかったときも息子は食べてはくれますが、ちょっと苦痛そうではあります。なので、私がキッチンに立つと息子は率先してお手伝い。材料を確認する、きちんと分量を測ることで、レシピからの脱線を防ぐ、味の番人役。ひとりで料理をするようにもなり、丁寧に工程を踏むだけあって、すごく美味しい。私は息子の料理を喜んで食べる係の方が向いていそうなので、ゆくゆくはキッチンを任せることができたらと企んでいます。

 

学校や学習のことに関しては、夫の方が熱心。夫は勉強が好きみたいで、家庭教師をしていたこともあったそうなので、教えるのが得意なのかなと思います。夫と息子は学習スケジュールをきちんとたて、それに沿って規則正しく生活。自由業の私からすると、ふたりがそのリズムに飲み込まれて焦っているように見えることも。そんなときは息子をおやつタイムに誘ったり、半ば強引に家族旅行やお出かけに連れ出して、あえて彼らのペースを乱すようにしています。ガス抜きも必要なのかなと。一方で、私の方が余裕を持てずに、ふたりが気を遣ってくれることもあります。それは大概、手がけている作品の物語が進まないとき。急に頭の中で物語が走りはじめるときがあるのですが、それは傍目にはわからないこと。でも、話しかけられると浮かんだものがパッと逃げていってしまう……。失礼とは思いつつ「ちょっとだけ黙っていて」とお願いすることがあって、それを理解して、私をそっとしておいてくれるふたりには感謝しています。

家族で茨城県の水戸市に旅行に行ったときに、風景をバックに撮った写真。楽しいひとときでした。茨城県にはよく行くのですが、海水浴をしたり桜を見に行ったりと、茨城の自然を満喫するのが目的の旅行が多いです。

自分自身を振り返り、今に焦らず、長い目で見守りたい

息子には学生生活を楽しんでもらえたらいいなと思っています。私自身は小学生の頃から「どうして毎日通わないといけないのだろう」と、ずっと学校が苦手だったタイプ。大学に自分の意思で進学をしたのは、村上春樹さんの『ノルウェイの森』を読んでキャンパスライフに憧れがあったからです。実際は日中に勉強、夜は一人暮らしの部屋で小説を書くという毎日。学業との両立はなかなかに大変で、思い描いていた生活とは全然違いました。17歳で小説家デビューした際に得たお金で、自分で学費を払っていたので、留年もしたくないと、なんとか頑張って卒業。結局、キャンパスライフを楽しむことなく終わってしまいました。そのことで困ったのは、異性との人間関係の構築。高校までは共学だったものの女子の割合が多かったので、異性との自然な会話や距離感を学ぶ機会がないままに大人になってしまって。恋愛や結婚においてはなかなか苦労しました。青春の経験はのちの人生にもいろいろ影響するような気がすると、焦燥感を覚えたこともあったぐらいです。

 

ただ、小説家になるという夢に早く出会えたのはしあわせだったと思っています。高校在学中にデビューした当時、両親からは「東京の人に騙されているのでは」と心配され、私もちょっとそう思っていました(笑)。そうじゃないことを仕事で証明していこうと、反骨精神で頑張ってきたところもあります。スランプもありましたが、ずっとやり続けてきて良かったと感じるのは、自分自身の観察に目を向けられたこと。10代、20代、30代と書いた作品を読み比べると「人生によって、作るものはこんなふうに変化していくのか」と、自分の年表が作られるように、すっきりと整理される感覚があります。そうすると外界からの刺激が気にならなくなって、反響がないからやめようとはならず、ここまで書き続けることができたと感じています。

息子の折り紙のように、インターネットの中に興味の種が蒔かれている時代。親が機会を与えなくても、子どもたちが主体的にやりたいことを見つけるチャンスも多いはず。息子がこの先どんなことに興味を持って、将来の可能性を見つけていくのかはわかりませんが、焦らず、「いつか素敵な夢に出会えたらいいね」と思っています。

シャツ¥8,800(イムズ) パンツ¥46,200(ハクジ/ショールーム リンクス) 右耳下イヤーカフ¥66,000 右耳上イヤーカフ¥63,800左耳手前イヤーカフ¥22,000左耳奥イヤーカフ¥59,400右手リング¥34,100 左手リング¥23,100(すべてGYPPHY)シューズ[参考商品/参考価格]¥143,000(セルジオ ロッシ/セルジオ ロッシ ジャパン カスタマーサービス)

Profile

綿矢りささん

1984年、京都府生まれ。高校在学中の2001年『インストール』(河出書房新社)で文藝賞受賞。早稲田大学在学中の2004年『蹴りたい背中』(河出文庫)で芥川賞受賞。他にも著書多数、新著は『激しく煌めく短い命』(文藝春秋)。1児の母。

撮影/渡辺謙太郎 スタイリング/山本有紀 ヘア・メイク/神戸春美 取材・文/櫻井裕美 編集/水澤 薫
*VERY NaVY12月号『子育て第2シーズンどうですか?』より。
*掲載の内容は、2025年11/7(金)発売VERY NaVY 12月号取材時のものです。

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