【星野真里さん】10歳の長女の『夢は歩けるようになること』難病「先天性ミオパチー」ふうかちゃんの子育て

できる・できないよりも、得手不得手でみると人はもっとわかり合えて、やさしくなれる。みんな違うから気づきがあって、学びがある。お互いの理解から作られる、分けない社会。俳優・星野真里さんの景色を変えた難病「先天性ミオパチー」のふうかちゃんの子育て。
※掲載の内容は『VERY NaVY』2025年10月号取材時のものです。
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ふうかの夢は歩けるようになること。不得手には、可能性がある

補い合い、支え合う。娘は「良きパートナー」
先日、10歳になる娘のふうかのおさがりの服を、姪っ子にあげたときのこと。姪っ子があまり興味を持ってくれなかったことに、つい後ろ向きに考えてしまう癖のある私は「気に入らなかったのかな」とちょっとへこんでしまったのですが「ママ、まだ2歳だよ。わからないことも多いし、もっと違う言い方をしてあげたら興味を持ってくれたかもしれないよ」と、ふうか。私が夕飯前にイライラしてしまったときも、ふうかはスーッと2階の自室へ。「お夕飯だよ」と声をかけてもすぐに降りてこなかった理由を聞くと「ママが落ち着くまで待とうと思って」と、ひと言。最近は、こんな母娘が逆転したような構図もしばしば(笑)。私の性格を彼女なりに理解して考えてくれているんだと、励まされ、教えてもらうことも増えてきました。親子でありながらも、お互いに足りないところを補い合い、支え合えるような、良きパートナーのような関係性です。
ありふれた日常の中に散らばる「感動の種」
ふうかが、先天性ミオパチーと診断されたのは2歳のとき。新生児の頃から体がふにゃふにゃと柔らかく、背中を支えて抱っこすると全体がだらんとしてしまう感じが気になっていました。フロッピーインファントというそうですが、同じ時期に産まれた赤ちゃんたちの首が据わる頃になっても、ふうかには変化が見られず。はじめての子育てで、ママ友とも交流があるなか、比べちゃいけないとわかっていても心配で仕方ありませんでした。おっぱいもミルクもよく飲んでくれる、話しかけるとちゃんと笑ってくれる……。「成長には個人差があるから」と自分に言い聞かせながらも、夜な夜な携帯電話であれこれ調べてしまう日々。6カ月健診で筋肉の低緊張を指摘され、小児の大きな病院での受診を勧められたときは、障害や疾患が現実味を帯びたショックよりも、専門的に診てもらえることで医療や福祉とつながり、この漠然とした不安が解消されるかもしれないという安心感のほうが大きかったです。
先天性ミオパチーの診断には、筋肉や神経の細胞を採取して調べる筋生検が必要。全身麻酔のため2歳になるのを待って筋生検を実施、病名が確定しました。先生の「弱っていく一方ではない。本当にゆっくりではあるけれどその子なりの成長を遂げていく」という言葉が、私たち親子の大きな希望に。それからずっと、ふうかの「これができた!」は我が家のビッグニュースで、子育てで一番幸せを感じる瞬間。最近はYouTubeをチェックしながらメイクをすることにハマっているのですが、アイシャドウなどのパレットをパカッと開ける作業が彼女にとってはむずかしかったりします。だからこそ、チャレンジを繰り返して、誰の手も借りずに成功したときの喜びはひとしお。できて当たり前に溢れた日常のなかに、達成感や感動のきっかけがあちこちに散らばっているのは「この家族だからこそ」なのかなって。
春に訪れた台湾・台北は移動しやすい街でした。階段だらけの九份では久しぶりに抱っこひもを使いましたし、ランタン上げの十份では線路を渡るときにその場にいた方に協力していただき、車椅子を持ち上げていただきました。私たち夫婦だけではできないことも多いですが、私たちだけでやらなくてはいけないことなんてない!皆様のお力やお知恵をお借りして一緒にこの世界で生きています。
まだまだ分離教育の社会。みんなと一緒にいたい

ふうかに、どう接するか、子ども同士で関係を築く「あったかい景色」
ふうかの「なんで私はこうなの?」と自分自身の体に不安を覚えたときの質問やつぶやきには、その都度答えられる限りのことを説明し、対話するようにしています。最初に病気のことをじっくりと伝えたのは、幼稚園に入るとき。健常児と障がいのある子が同じ環境で過ごす統合保育枠で入園できることになり、幼稚園の先生方の協力を得てそこに通う園児のみんなに、ふうかについて説明をする機会を設けてもらいました。ふうかにも「お友だちにこういう話をしようと思うの」と事前に相談。私が幼稚園で伝えたのは、病気のことや電動車椅子で気をつけてもらいたいことぐらいで「こうやって接してほしい」とはお願いしませんでした。でも、子ども同士が一緒に過ごすなかで、ふうかにも自我があるから手伝いすぎても良くないんだとか、彼女自身も嫌なことは意思表示しなきゃとか、コミュニケーションをとりながら関係性を構築していく過程が、すごくあったかくて、ありがたかったです。幼稚園で出会った人たちとは今も交流があって、そのつながりは私たち家族の財産。私もそうでしたが、障害のある方と接するときに“どこまで手助けすればいいか”と変に遠慮してしまうのは、一緒に生活した経験がなければ仕方のないことなのかなって。まだまだ分離教育が主流の社会ですが、やっぱり分けられたくないです。みんなと一緒がいい。ともに学ぶ環境が当たり前になる未来を願っています。
目標や希望が持てる。それだけで幸せ
私は、30歳までに結婚するとか、女性は料理ができたほうがいいとか、自分自身の在り方を決めつけ、それができる・できないで自分のことを評価してきたようなところがありました。でも、ふうかが私の元にやってきてくれて、その価値観が丸ごと入れ替わったような感覚。先のことよりも目の前にいる人と向き合い、自分にも周囲に対してもできる・できないで判断するのではなく“得手不得手”で捉えられるようになりました。例えば、誰かに対して「なんでできないんだろう」という不満を抱くよりも「きっと苦手なことなのかもしれない」、と考えるように。私だったら人の言葉を受け止めすぎちゃうところとか、ふうかだったら身体的にむずかしい動きがあるとか、不得手はあって当然。「できない」と言い切ってしまったらそこで終わってしまいますが、不得手には取り組み方次第で変わる伸び代があります。
今、ふうかは成長期。身長はどんどん伸びるのですが、先天性ミオパチーは体重がなかなか増えにくいので、頑張ってご飯を食べるようにしたり、関節が固まらないようにと体をしっかり動かしたりと、日々体づくりに励んでいます。彼女の夢は、歩けるようになること。今すぐはむずかしくても、可能性がないわけではありません。世の中何が起こるかわからず、医療や技術の急激な進歩も手伝って、叶う日が来るかもしれないと思っています。ふうかが人工呼吸器をつけて生活をすることになったとき、病院の先生の説明のなかに「10年、20年先の将来を考えたときに着けたほうがいい」という言葉があって、それだけ先の未来が彼女にはあるんだと、目の前がぱあっと明るくなりました。目標や希望を持てるって、それだけで素敵で幸せなことです。
トップス¥88,000(メッキ/マッハバール)スカート¥66,000(サードマガジン)イヤリング¥2,057,000(TASAKI)シューズ¥100,100(アデュー/バウ インク)
Profile

星野 真里(ほしのまり)さん
1981年生まれ。青山学院大学卒業。7歳で自ら役者の道を希望、子役として活躍。『3年B組金八先生』で注目を集め、ドラマ、映画など幅広く活躍。社会福祉士の資格を持つ。Instagram@mari_hoshino.7.27ふうかちゃんのインスタも人気@fuka_9_
撮影/土山大輔〈TRON〉 スタイリング/YOSHINO ヘア・メイク/佐々木 篤 取材・文/櫻井裕美 編集/水澤 薫
*VERY NaVY10月号『子育て第2シーズンどうですか?』より。詳しくは2025年9/5(金)発売VERY NaVY 10月号に掲載しています。