【澤穂希さん】長女は8歳『自分が行動で示し、いい背中を見せることも大切』
敵わないものは素直に認めてリスペクト、勝てるところは絶対に譲らず磨き上げる。トップアスリートとして活躍した澤穂希さんが語るのは「背中で見せる子育て」と、若い世代に伝えたい女性としての体と心の向き合い方について。NaVY2025年5月号に掲載されたインタビューをお届けします。
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母にはまだ勝てないよ。負ける悔しさから認める力は育まれる
ずっと大切にしてほしいコンビニでの「ありがとう」
今年の1月で、8歳になった娘。他の人に褒めてもらい、私自身も感じる彼女の長所は、必要な場面できちんと敬語が使え、会話の受け答えができる“しっかりもの”なところ。挨拶や目上の方への接し方は、体育会系の親の姿を見て育った影響もあるのかなと思います。私が現役時代、女子サッカーは恵まれた環境とはいえず、何かをしてもらえることは当たり前ではありませんでした。だから今でも「ありがとう」が口癖のようになっていて、娘にも日頃から感謝の大切さを伝えています。コンビニで袋詰めをしてくれた店員さんに「ありがとうございます」とお礼を言う娘の姿は、微笑ましく安堵する光景。それでも私に対しては甘えん坊なところがあって、自分でできることを率先してやらず、こちらが忙しい朝も「ご飯食べて」「着替えて」「学校に行く準備して」と指示を飛ばさないと、読書を始めたりするからびっくり。父親やおばあちゃんが面倒を見るときは全部ひとりでできるので、私だからとやっている確信犯です。このあいだ「母は私を絶対に見捨てない」と、娘。見透かされているようで悔しいやら、可愛いやらです。
3人家族、あるある?夫と娘で私の争奪戦
家族もチーム。いいチームを作るには、やっぱり日頃からのコミュニケーションが大切だと思います。普段の様子を知らないと、変化に気づくことができない。サッカーでキャプテンを務めていたときも心掛けていたことです。我が家では言いたいことを我慢しない、喧嘩をしたらその日中に仲直りがルール。夫と娘が素敵なのは「ごめんね」と言われたらすぐ許せるところ。私は「この怒りをどこに持っていけば!」とイライラが募り、「ごめんね」と謝られても「今はちょっと無理」と一旦退けてしまうことも。そこは我慢しない約束なので、正直に伝えます。サッカーをやっていた頃はもっと寛容だった気がするのですが、何があっても嫌いにならない家族だからと、私も甘えているのかもしれません。意外と大変な家族の日常は、夫と娘の“私の取り合い”。レストランに食事に行けば私の隣にどちらが座るかすぐ決まらず、夫婦で会話をしていると娘がやきもちを焼き、ソファに娘とふたり並んで座っていれば夫がダイニングテーブルから「こっちに来て」と言う。ふたりは仲良しなのに、私を介すとライバルになるんです。“3人家族あるある”なのかはわかりませんが、愛情を持ってくれているのはありがたいこと。夫とは私が最初に大好きになって付き合いはじめたので立場逆転、それはラッキーでした(笑)。
昨年秋に、元なでしこジャパンの仲間たちとみんなで東京ディズニーランドへ。昔の仲間とは今でも家族ぐるみの付き合いがあります。
20歳から続けている基礎体温チェック。
自分の状態を知り、未来に準備する
娘相手に本気でかけっこ。「母に勝ちたい」
昨年の運動会、娘から「リレーの選手のあと1枠をどうしてもとりたいから、練習に付き合って」とお願いをされました。じゃあ頑張ろうと、まずは走り方をチェック。体力をつけた方が良さそうと、3kmぐらいランニングをしました。「疲れた」と途中で歩いたりしながらも何とか完走。そのあとにもう一度、短距離を走らせるとフォームがだいぶ改善されて「手の振り方でもっと良くなるよ」とアドバイス。翌日の測定でラスト1枠を勝ち取ることができました。運動神経はいい方ではありますが、最後は「母に勝ちたい、認めてほしい」という気合いかなって思います。短距離を一緒に走ったとき「母にはまだ勝てないよ」と私は本気。2、3歳頃まではかけっこやジャンケンでわざと負けたりもしましたが、それ以降は私も夫も子ども扱いはなし。負ける悔しさは努力のモチベーションであり、何かに夢中になる大きなきっかけでもあります。大人になるにつれていろんな才能に出会い、どうしても勝てない相手にぶつかったりするわけですが、私がそのときに学んだのは“どれなら勝てるか”と自分の長所と向き合い、人を認めること。敵わないと認めるのはむずかしくもありますが、それができるようになるとすごく気持ちがラクになるんですよね。相手にリスペクトが伝われば、今度は向こうが自分の長所をリスペクトしてくれて、そうやっていいチームは作られていく。チームのために、自分の長所を徹底的に磨き上げる楽しさにも気づいていきます。
セカンドライフが長いから「現役中の準備が大切」
私は“もうトップレベルでは活躍できない”と完全に心と体が一致してから引退。サッカー人生をやり切って結婚し、子どもを授かることができたので、後悔も悩みもなく子育てに全力集中することができました。何事にも学びと準備は大切と、20歳ぐらいから今もずっと基礎体温はつけていて、常に自分の体の状態を把握。現役時代は、排卵のときは靭帯が緩くなり膝を怪我しやすいとか、ユニフォームが白いので大きな試合のときはピルで生理を調整するとか、チームドクターや婦人科の先生に話を聞き、知識をつけることで心に余裕を持ち、プレーに打ち込めるようにしていました。引退後に妊娠を考えてピルをやめるときもセカンドオピニオンも受け、自分にとって何がベストかを納得のいくまで相談。性教育もそうですが、女性としての自分の体とどう向き合っていくかのノウハウは学校ではあまり教えてくれません。アスリートはセカンドライフの方が長いからこそ、現役のときに勉強して準備できることがある。自分が身を持って学んだことは子どもたち、そして若い世代のアスリートにも積極的に伝えていきたいです。娘はひとりっ子。自分たちがいなくなってもしっかり生きてほしいと、つい口うるさくなってしまいがち。いろいろ言うからには自分が行動で示し、いい背中を見せることも大切だと思っていて、私が今興味を持って頑張っているのは勉強です。知識があるのとないのでは選択も結果も全然違ってくるので、あらためて必要性を感じています。いろんな資格をとって、今はファイナンシャルについて学習中。お金は大事です。娘には将来、父と母のお金は一切残さないと宣告済み。今からできる準備は何かと考えながら大人になる過程は、人生を歩むうえで彼女の味方となってくれるはずです。
オールインワン¥42,900〈ル フィル〉サンダル¥55,000〈ブレンテッラ〉(ともにル フィル ニュウマン 新宿店)右耳ピアス¥33,000 左耳 ピアス¥30,800 ネックレス¥23,100ブレスレット¥60,500 右手ダブルリング¥36,300(すべてマユ/マユ ショールーム)
Profile

澤 穂希さん(さわほまれ)
1978年生まれ。15歳でサッカー女子日本代表入り。2011年FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会では、キャプテンとして”なでしこジャパン”の優勝に貢献、大会MVPと得点王に輝く。2015年に結婚、引退。現在はスポーツ普及のため様々な活動を行う。1児の母。
撮影/酒井貴生〈aosora〉 スタイリング/坂下シホ ヘア・メイク/宮城亜耶乃〈uka〉 取材・文/櫻井裕美 編集/水澤 薫
*VERY NaVY6月号『子育て第2シーズン』より。詳しくは2025年5/7(水)発売VERY NaVY 6月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合や商品の販売が終了している場合ございます。