弁護士から転職。オーディオブック「Audible」逢阪志麻さんの“人生を楽しむ力”
『VERY NaVY』で、現代における女性活躍のアイコンとして期待される申 真衣さんのエンパワメント対談連載。2025年5月号では、オーディオブック「Audible」カントリーマネージャーの逢阪志麻さんと対談しました。
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逢坂志麻さん × 申 真衣さん
立ち止まっても、休んでも終わりじゃない
選択肢のあるキャリアストーリー
「仕事を断ってもこれまでのキャリアがダメになるわけじゃない」──申さん
「リーガルからビジネスへ。実は一度、ギブアップしています」──逢阪さん
本は「読む」から「聴く」時代へ?世界180カ国以上で展開、日本でも急成長を遂げるオーディオブック「Audible」のカントリーマネージャーを務める逢阪志麻さん。申さんは逢阪さんの珍しいキャリアに注目されていたそうですね。
申さん:そうなんです。逢阪さんのインタビュー記事で、弁護士からビジネスサイドへ転身されたと知り、それまで積み上げたキャリアを考えると相当大きな決断だったのではと、詳しいお話を聞いてみたいと思っていました。
逢阪さん:興味を持っていただき光栄です。私のキャリアチェンジは受動的なものでした。アメリカで弁護士として10年以上キャリアを積み、この道を歩み続けるべきかと考えはじめたタイミングでAudibleの日本展開の話をキャッチ。「おもしろそう」とAPAC(アジア太平洋)をみる法務として転職しましたが、当時のカウンターパートであり後の上司となる方から「あなたにはビジネスセンスがある。もっとAudibleの成功に貢献したいと思いませんか」と、カントリーマネージャーにスカウトされたことがきっかけなんです。自分以上に自分を評価してくれる人の想いに背中を押される形で決断をしました。
申さん:ビジネスでのキャリアのない逢阪さんの抜擢は、圧倒的に光るものがある特別な人だったからですよね。与えられたアサインメントを飛び越えて実績を上げたなど、具体的な評価ポイントがあったのでしょうか?
逢阪さん:経験ではなくポテンシャルを評価してくれたと感じています。当初Audibleは小さなチームで、何でもみんなでやるような体制。思いついたアイデアがあれば、リーガルを超えて意見することもありました。チームが円滑に機能するために、人間関係の構築にもフォーカスして動いていたとは思います。
申さん:おそらく周囲のざわつきもあったはずで、プレッシャーも大きかったと想像します。
逢阪さん:そうですね。でも、プレッシャーを上回ったのはチャレンジのむずかしさでした。ビジネス戦略を立てたり、予算管理やチーム統括など、これまで意見はしていたものの本業ではなく、いざやってみるとリーガルでは未経験の課題が山積み。頑張り過ぎてしまったんでしょうね。実はカントリーマネージャーになり2年目で、一度ギブアップしているんです。
申さん:それもまた、ものすごく勇気のいる決断です。相当に悩まれたと思いますが、ご自身をどのように説得されたのでしょうか?
逢阪さん:もちろん続けたい気持ちもありましたが、もう心が折れる寸前で。このまま頑張るのは私だけでなく、会社にとってもいい結果につながらないと、退くことを決めました。
申さん:私も会社員時代にギブアップ経験があります。昇進前はそのためのチャレンジと、いろんな人が仕事を振ってくれるのですが「もしかして私、2人前ぐらい働いてる?」というぐらいに引き受け過ぎてしまって。さすがに限界と仕事を断ろうと決めたものの、昇進に響くのではと内心は怯えていました。でも、上司にそのことを告げると「じゃあ、この仕事はやめておこうか」と意外とあっさり解決。その後、ちゃんと昇進もできたんです。信頼できる上司がいる前提にはなるかもですが、無理なときは無理と言っていい、そしてギブアップしたからといって全部がダメになるわけじゃないんだという学びになりました。
逢阪さん:私も上司には感謝しています。カントリーマネージャーは退くけれどAudibleには貢献したいと、専門性の会得のためにコンテンツとマーケティング部門で働かせてほしいとお願いをしたんです。ありがたいことに受け入れてもらい、2年間で自分に足りない部分を吸収。今、カントリーマネージャーに復活して3年目になります。
申 真衣さん
『駐在の帯同。女性が行かない選択を堂々とできる社会であってほしい』
[申さん]ジャケット¥79,200 パンツ¥53,900(ともにジュンミカミ/ショールーム リンクス)中に着たシャツ¥58,300(ミラ ショーン バイ チカ キサダ/コロネット)イヤーカフ¥441,100 ピアス¥514,800※片耳価格 リング〈人差し指〉¥634,700〈薬指指先側〉¥112,200〈薬指付け根側〉¥388,300(すべてレポシ/レポシ日本橋三越本店)
───逢阪さんのキャリアの中断は一度ではなく、弁護士時代に旦那さんの駐在の同行で3年間ロシアに行かれているんですよね。
申さん:これも逢阪さんのプロフィールの気になるポイントでした。駐在同行を超えてキャリアを築かれているのは励みになる一方、同じ状況を経験した友人の話を聞いていると、その決断や同行期間には多くの葛藤もあったのではと。
逢阪さん:弁護士をはじめて6、7年目の頃でした。夫の駐在先は、ロシア。確かにキャリアは中断されますが、ロシアで3年間暮らすという経験もなかなかできないなと思ったんです。
申さん:すごくポジティブ。仕事はせず、その間は子育てに専念されたとかですか?
逢阪さん:仕事はしなかったですね。それまで産休も育休もほとんど取らずだったので、働かないライフスタイルが新鮮で楽しくて。ただ、その期間をどうしても無駄にはしたくなく、現地で大学に通っていました。
申さん:やはりジッとはしていないんですね(笑)。大学では何について学ばれたのですか?
逢阪さん:ロシアの方を心底知り、打ち明けてもらえるコミュニケーションのためには言葉の壁を乗り越えなければと、ロシアの言語や文化を学習。バレエを鑑賞して、バレエのレッスンにも通い(笑)。充実した3年間にしようという目標は達成できたと思っています。
申さん:楽しむ力が素敵です。私の人生ではないと思うのですが、万が一駐在の同行の話があったとしても“行かない選択”をすると思うんです。その選択が世の中的に「旦那さんがかわいそう」とか言われることのない、プレッシャーをかけられることのない、個人の意思が尊重される社会であってほしいと思います。
逢阪さん:同意です。私はその後、子どもふたりと母を連れてアメリカに単身赴任しているのですが、批判する声も少なからずあったんです。でも、私たち夫婦の間では「ロシアに付き合ったし、今度は私が……」ということでフェアな関係として着地。それぞれのバランスの取り方がありますよね。
逢阪志麻さん
『夫に付き添いロシアに3年。その後、私は単身渡米。私たちのフェアな関係』
[逢阪さん]ジャケット¥20,900 パンツ¥15,400(ともにノーク)中に着たカットソー¥24,200(ナイスナイス モーメント/ショールーム リンクス)ネックレス¥159,500 右手リング170,500 左手リング¥52,800(すべてエネイ/エネイ松屋銀座)
───さて、読書家としても知られる申さん。Audibleは活用されていますか?
申さん:実は逢阪さんとの対談が決まり、はじめて使ってみたんです。最近は目を使うことにいよいよ限界を感じていて、PCやスマホで目を酷使する現代人にとって聴くインプットは重宝されるはず。可能性を感じました。
逢阪さん:嬉しいですね。ちなみに申さんは、どの作品を聴かれたのでしょうか?
申さん:以前に読んだことのある、川上未映子さんの『春のこわいもの』です。文字とは違ったストーリーの響き方があって“ひとつの作品を多層的に楽しめる喜び”という発見がありましたし、再読の手段としても有効ですね。
逢阪さん:さすが、申さん。それはAudibleにとって特別な作品なんです。私たちは常に音声コンテンツの可能性を切り拓きたいと考えていますが、そのイニシアティブとして「音声優先で書いたらどうなるか」と、作家の方にオリジナル作品を手掛けていただく取り組みに注力。『春のこわいもの』は、川上さん初のオーディオファースト作品です。
申さん:そうなんですね!川上さん独特の言葉のリズムが堪能できる素敵な作品でした。Audibleには様々な作品がありますが、読むから「聴く」に変わることで人気を伸ばしたジャンルはありますか?
逢阪さん:一冊購入型の時代は自己啓発やビジネス本が人気の上位を占めていましたが、2022年に聴き放題のプランを導入してからは順位がガラッと入れ替わり、今はランキングの8割が小説・文芸という状況です。
申さん:おもしろい。もしかしたら聴き放題にすることで“読む”にこだわっていた方のハードルが下がったのかもしれませんね。逢阪さんのおすすめ作品を教えてほしいです。
逢阪さん:私はジムでワークアウトをしているときに、その辛さから逃避するために聴くことが多いのですが、東野圭吾さんのオーディオファースト作品『誰かが私を殺した』はすごく引き込まれました。寺島しのぶさん、松坂桃李さんが声優を担当しています。
申さん:豪華!私、自慢とかではなく本を読むのがすごい早いんです。なのでビジネス書に関しては読んだ方が効率が良さそうで、Audibleは作品を楽しむ、味わうために利用したいなと思いました。声のキャスティングにも力を入れているだけあって、エンターテインメントとして成立。電子画面から離れたい隙間時間を豊かにしてくれそうです。
逢阪さん:より多くの方に作品に触れてほしいと、参加してくださる作家や俳優、声優の方も増えています。今後もご期待ください!
profile
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逢阪志麻さん
2歳で渡米。1996年にICU大学、1999年にコロンビア大学ロースクールを卒業。ニューヨークの法律事務所でM&A、証券関連の弁護士として活躍。2015年アマゾンジャパン合同会社「Audible」事業部に法律顧問として入社。2018年にビジネス側に移り、現在はカントリーマネージャー。2児の母。
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申 真衣さん
1984年生まれ。東京大学経済学部経済学科を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。2017年に当時最年少でマネージングディレクターに就任。現在は共同創業による株式会社「GENDA」の代表取締役。モデル、メディア出演もこなす2児の母。
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撮影/酒井貴生〈aosora〉 ヘア・メイク/神戸春美〈申さん〉、Hitomi〈逢阪さん〉 スタイリング/山本聡子 取材・文/櫻井裕美 編集/水澤 薫
*VERY NAVY 5月号「申 真衣さんの「今、話したい人」7人目:逢阪志麻さん」より抜粋。詳しくは2025年4/7(月)発売VERY NaVY 5月号に掲載しています。