坂本美雨さん『親の都合で振り回されたこと、良かったと思っています』
子どもに知ってほしい、自分が持つ“社会を変える力”。戦争、環境、児童虐待、動物愛護、ジェンダーの問題。未来を生きる子どもたちにとって、大切なテーマを避けるのではなく、対話しながら考えていく。坂本美雨さんの子育てには、そんな姿勢が息づいています。
こちらの記事も読まれています
▶︎【辺見えみりさん・47歳】長女が10歳に『子育てで一番大変だったのは、離婚後の環境変化』
早く選挙権がほしい!と8年後を楽しみにしてるみたい
なんでも自分で決めたい、正義感も意思も強い娘
10歳になる娘は、しっかりもの。もっと小さな頃から、電車でお出かけするときは事前に乗り換えの駅を聞かれ、彼女なりに到着までのルートを把握。私が電車でよく寝てしまうので“そうなっても大丈夫なように”という反面教師なのですが、人助けの気持ちが強い子でもあるのかなと。幼い頃から仕事現場によく連れていっているせいか、いつも周囲をよく観察していて、私が打ち合わせでバタバタしていると、みんなにコーヒーを淹れてくれることも。常に“自分に何ができるか”を考えているんです。そんな能動的に動くのが得意な一方で、私からの「~しなさい」には反発。お風呂も片付けも、タイミングは自分の意思で決めたいみたいです。こっちにはこっちの都合もあるので、言い合いになることも多々。ちょっと説明すれば揉めずに済むかもしれないのに、その“ちょっと”を省いてしまうことが家族への甘えなんですよね。娘は喧嘩しても怒られても、引きずらず響かずのタイプで、私がイライラを消化できずにいるのに平気で話しかけてきます(笑)。そうなると怒っているのもなんだかなと、私の喧嘩モードも強制終了。よくあるパターンです。
「もうやめて」と企業に手紙
先日、小泉今日子さんと近田春夫さんがプロデュースするイベントでチャリティショップを出店しハンドメイドの作品を販売。娘はクラフトバンドのリボンテープを使ったバスケットを出品、店長も務めました。お店の名前は、彼女の愛称である『なまこ商店』。そのときに感心しつつも微笑ましくて笑ってしまったのが、知らぬ間にトイレなどで席を外すとき用のPOPを作っていたこと。かわいくデコレーションした段ボールに「店長、場所を外します」と書いてあって。責任感がすごいなと(笑)。このチャリティマーケットは、ガザ支援を目的としたものでした。ガザ人道支援の活動も娘には「私たちがイスラエルを支援する企業にお金を使うことで、遠い国の子どもたちの命に影響を与える可能性がある。数百円でも使いたくないな」と、時間をかけて説明しました。納得したものの、そのときは好きなものを1年半以上も我慢させることになるとは思わず…。その企業に向けて「大好きなので、いい加減にやめてください!」とお手紙を書いていました。
私は娘と同じ年頃からニューヨークで暮らしはじめましたが、向こうでは教育のなかでごく自然に社会問題について意見を述べ合う場がありました。選挙権のない子ども同士でも候補者について「どっちがいいと思う?」という会話があったり、中学生になるとディベートのクラスがあって、自分がどちらの立場に立つか、なぜそうなのかと、相手を説得するためのトレーニングをします。私の父も社会活動に積極的だったので、政治や環境問題に対して意見を持ち、それを誰かに伝えられるようになるのはごく自然なことでした。今もその意識に変わりはありませんが、日本では、社会的な発言をするアーティストに対する批判や完璧な意見しか認めないような雰囲気があるように感じます。なので、主張を躊躇ってしまうようなムードがありますよね。本当はもっと気軽に、「なんとなく違和感がある」くらいでも発言していいはず。少なくとも日本にはまだその権利がある。個人の感想が入口となって意見の交流が始まり、それがきっかけで勉強をして知識を深め、主張を確認したり、修正していけばいいのかなと思うんです。その力が合わさることで社会は動き、変わっていくはずなので。娘は8年後、投票権を得るのを今から楽しみにしています。
赤ちゃんの頃からよく一緒に旅をしていて、彼女は冒険心の強い、楽しい旅のパートナーです。これは沼津の千本浜でのんびりしたときの一枚。
親の都合で振り回されたこと、良かったと思っています
ママの音楽が一番じゃない。当たり前で、立派な成長
娘の成長を感じるのは、私の歌を楽しんで聴かなくなったところ。応援はしてくれていますが、彼女には別の好きな音楽があって「ママの歌を聴いてもなぁ」というのが、きっと本音。私自身もそうだったので、その感じがよくわかります。無邪気に喜んでくれた時代を思うとちょっと寂しさはありますけど、普通のことなんですよね。一方で、私自身は母親になり、いろんなものが怖くなりました。地震、飛行機、病気、社会の行く末、自分が突然死んでしまったりしないかなど。娘を案ずるがばかりに、日常の些細なことでも心配性で口うるさいかもしれません。「大丈夫、大丈夫!」ともっと大らかに成長を見守ってあげたいのに、そうはなれず。過保護なのはわかっています。でも、その想いが家族なのかなとも思ったり。娘の人生をできる限り見届けたくて、ずっと後回しにしていた人間ドックに行き、筋トレも始め、色々な保険にも入り(笑)。彼女が還暦を迎えるまでは生きる気満々です。そのとき私は92歳。70歳の元気な母を見ていると、いけちゃう気がしています。
悩んだ経験からしか得られない栄養もある
これまで娘に経験してもらって良かったなと思うのは、私の両親のコンサートに行けたこと。父のときはまだ小さかったので「じいじ上手」ぐらいの反応でしたが、覚えていてくれたらいいなと思います。 私は音楽家の両親を持ち、その圧倒的な存在感に物申すこともなく、10代から家にほとんどいなかった父にある日弟がいることを唐突に知らされるという、客観的にみるとなかなかな子ども時代。「よくグレなかったね」と言われることもあります。明確な理由はわかりませんが、家族として両親の華やかなだけでない姿を知り、ひとりの人間としてもアーティストとしても、その才能や生き様を尊敬。もちろん、子どもながらに悩んだり、つらいなと感じるときもありました。でも、だからこそ考え育まれたものがあって、今の私につながっています。自分が信じる道があるなら、子どもを振り回すことも、必ずしも悪ではないのかもしれない。私は親の都合で振り回されて良かったと思っています。
ワンピース¥83,600シューズ¥75,900(ともにTOGA PULLA/TOGA 原宿店)ベルト¥27,500(TOGA TOO/TOGA 原宿店)ピアス¥946,000ネックレス¥3,207,600右リング¥4,118,400左リング¥1,927,200(すべてカルティエ/カルティエ カスタマー サービスセンター)
Profile

坂本美雨さん(さかもと みう)
1980年生まれ。音楽一家に生まれ、東京とNYで育つ。’97年、Ryuichi Sakamoto featuring Sister Mとして「The Other Side of Love」を歌い、’99年より本格的に音楽活動を開始。テレビ・ラジオの司会や執筆、演劇など、多岐にわたり活躍。1児の母。
撮影/土山大輔〈TRON〉 スタイリング/石橋修一 ヘア・メイク/星野加奈子 取材・文/櫻井裕美 編集/水澤 薫
*VERY NaVY5月号『子育て第2シーズン』より。詳しくは2025年4/7(月)発売VERY NaVY 5月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合や商品の販売が終了している場合ございます。