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2021.03.10 UP

中学校受験をするメリット、
デメリットを教えてください!
[受験進路相談室]

Tさんの場合

【家族構成】
夫、長男(小3)、次男(9歳)
【今回相談する子どもの状況】
小3男子 小1のころから続けている公文は、算数と国語ともに現段階でG教材。中学受験をするならば、3年生の2月からという情報を得て、焦っているところです。

 

将来は生物関係の研究者になりたいと話している息子。目標があるので、研究者を目指せるような大学に進学するための学習環境が整っている中学がいいのではないかと感じています。一方で、今の中学受験や子どもたちの現状を知り、中学受験をする方向でよいのか尻込みしています。子どもの心身が受験に耐えられるのか、正直、心配です。今、不安のほうが大きい状況ですが、中学受験をすることのメリット、デメリットなど、率直なご意見を聞きたいです。

この問いに向き合うこと自体が、自分の教育観を相対化していくプロセスなんですよね。

T:息子は3年生で、1年から国語と算数だけ公文に通ってG教材(中1相当)まで進んでいます。子どもの頃から生き物がすごく好きで、将来は研究みたいな仕事をしたいなと言っています。そういう目標があるのならば、中学受験して学習の環境が整っているところに行かせてあげたほうがいいんじゃないかなと。ただ、私には中学受験の経験がないので『二月の勝者』という漫画を読んだりもして、ちょっと腰が引けています。2月から塾に通うことは決めていますが、学年が上がるとどんどん回数も増えて、時間も遅くなるはずです。そういう生活に息子を突入させて、精神的に大丈夫だろうかという心配があります。

 

おおた:知的好奇心も強いっていうことだから、中学受験でも高校受験でもいい結果を出すと思う。だから、中学受験をしないと不利になるみたいに考えなくていい。強迫観念になっちゃうから。そのうえでメリット・デメリットの話になるんですが、そういう質問ってすごく多いんですよ。そして実は聞かれて一番困る質問で……。だって何をメリット・デメリットととらえるかってその人の価値観じゃないですか。この問いに向き合うこと自体が、自分の教育観を相対化していくプロセスなんですよね。塾に入ることはすでに決めていらっしゃるけど、そこに不安があるのは当然のことです。こういう選択をしたけど、これって子どもに合ってるのかしらって不安になりながら、子どもの様子をよく観察して、少しずつ調整をしていくことの連続が子育てだから。中学受験に限らず、自分は正しい選択をしたって思っちゃうと、その正しさに子どもをあてはめちゃうので。逆に聞きますけど、お母さんが感じる、中学受験のメリットはどういうことだと感じますか?

 

T:受験を経てきた子たちは学力が一定なので、そういうスタートラインっていうか、ちょっと上の勉強を、大学に向けての勉強をしていってくれるのかなって。あとは息子はこだわりも強いタイプなので、偏食がすごくて、給食よりお弁当のほうがいいなとも感じています。さらに身体的に少しハンデがあったりするので、いじめのことも不安で、私立のほうがいいのかなと。

 

おおた:なるほど。逆にデメリットはどのあたりに感じますか?

 

T:たとえば、小学校まではクラスでも上位にいたのがそうではなくなることによって気持ちが落ちてしまうとか。あとは通学ですね。いいところを目指せば目指すほど遠いんですね。電車使って1時間とかかかるので、体に負担じゃないかなとか思ったり。

 

第一志望に受かる子もいますけど、多くは第二志望以下になる。そこで第一志望じゃなければ負けなのか、失敗なのかって言ったら、そうじゃないと思うんですよね。

おおた:私立だからって全部が楽園というわけじゃないし、経済的なこととか学力的なことで言えば均一性は高いんだけど、いろんな地域からいろんな文化のなかで育った子どもたちがお互いに「お前も受験勉強、頑張ったんだよな」っていうリスペクトを持って集まってくるから、個性が認められやすいっていうのは、私立のほうが総じてあるでしょうね。でも、今聞いていてちょっとひっかかったのは、大学受験に有利なんじゃないかっていうところです。大学受験のために選択したとなると、合格していい中学に入って、今度は6年後にいわゆるいい大学に入らなかったら、中学受験した意味がなくなっちゃうじゃないですか。すごく中学受験の意味を矮小化しちゃってると思います。ちょっと余計なお世話になると思うけど、僕の中学受験観をお話ししていいですか?

 

T:はい、お願いします。

 

おおた:中学受験には結果が出ます。第一志望に受かる子もいますけど、多くは第二志望以下になる。そこで第一志望じゃなければ負けなのか、失敗なのかって言ったら、そうじゃないと思うんですよね。自分が当初目指していた第一志望に受かれば、努力が報われたっていう成功体験になります。でも、そういう成功体験って、人生ではなかなか続かないですよ。むしろそこでへこたれないことのほうが人生にとっては実は大切で。だから第二志望以下に行った子は12歳でそれを学ぶことになるんです。もともと第一志望ではなかったけれどご縁があって行くんだから、この環境を思う存分謳歌してやるんだっていう気持ちになれれば、それはその子にとっての「正解」になるんです。それって「正解」を事後的に自分で作ったということです。正解がない世の中で自分で正解を作り出す力って要するにそういうことですよね。そういう生き方ができる人って、どこに行ってもやっていけるはずなんです。第一志望合格はもちろんうれしいし、そうでなくても大きな人生訓が得られる。

 

T:そうか!

 

おおた:さらに、中学受験をした結果として、高校受験がなくなりますよね。実は高校受験がこんなに盛んなのは、先進国では日本と中国くらいなんです。14歳、15歳というのは一番大人に反抗して、机上の勉強じゃなくていろんな経験や失敗をすべき時期ですから。そこに付随して、中学生のうちは目先の1点、2点を気にせずに、たとえば理科や社会でも暗記より実験やディスカッションに力を入れることができる。中学生のうちにそういう学習をしておくからこそ、大学受験勉強をしようと思ったときに、すっと頭に入ってくる。以上が「中高一貫校」のメリットと言えると思います。一方で、「私立」の学校っていうのは、それぞれの教育理念を持っているわけなんですね。慶應だったら福沢諭吉の思想を受け継ぐわけじゃないですか。大学受験勉強とか関係なく、その人の生き方に影響を与える感化力みたいなものがある。文字で伝えられるものであればオンラインだって教育できるけど、言葉では伝えられないものを全身に染み渡らせる効果が学校の学び舎にはある。その言葉にならないものこそが、私学の色なんですよね。開成には開成の、桜蔭には桜蔭の、武蔵には武蔵の色がある。水が合うとかって表現がありますけれど、その子が生き生きとする水を見つけることができたらより豊かな思春期を過ごせる。大学受験に有利だからとかじゃなくて、自分らしい生き方とか価値観を見つける場所として、私学をとらえてほしいなと思います。大学受験につながるような教科教育の部分は、私立だろうが公立だろうが大して変わらないですよ。大学受験だけ考えるなら、塾に行くのが一番効率はいいですよ。でも学校っていうのは、言葉では伝えきれない文化を吸収しに行く場所だと思うんですね。ちなみに地方であれば、その地域の良い文化はたいてい公立の伝統校に流れているから、絶対的に中学受験が正しいっていうわけじゃない。

 

T:もともとは息子に合った教育をさせたいなと思っていたのに、いつの間にか私の頭のなかも「大学受験!」ってなっていたことに気づかされました。息子は個性が強いので、そういった意味での過ごしやすい環境を求めていたのを思い出しました。

 

おおた:まさに今、お母さんが言われたことが中学受験の本当のデメリットというか落とし穴で、中学受験の世界に一歩足を踏み入れると、親の視野がせまくなっちゃって、大切なことを忘れちゃったりするんですね。

 

T:忘れてましたね(笑)。

 

おおた:まだ、始まってもいないのに(笑)。そこが怖いんです。いわゆる偏差値競争にとらわれちゃうと、子ども中心の考えができなくなります。逆に、親がそこからちゃんと距離をとれたら、中学受験のデメリットってないと思う。僕は偏差値競争をチキンレースに例えたりします。子どもが壊れるギリギリまで勉強させて偏差値を上げるみたいな意味で。それって一歩間違えたら子どもが壊れるんですよ。そんな賭けをしちゃいけない。まだ余裕があるところまでやって偏差値58、あと2つで60なのにって無理させるんじゃなくて、58なら58でいいじゃないって思えるなら、中学受験のデメリットは最小限になるはずなんですよね。そこで質問なんですけど、最初に精神面が心配だって言ってたじゃないですか。それって具体的にはどういうことなのかなって。

 

T:クラスが落ちたとか、友達に負けたとか、いい学校に入ったがためにクラスの上位ではいられなくなったりとか……。そこで「なにくそ!」ってなれる子なのかがまだわからなくて。心的負担が大きいんじゃないかなって。

 

おおた:なるほど。たとえば偏差値が落ちたら、まぁ落ち込みますよね、普通(笑)。けど、それが悪いことかっていうことですよね。そこで「なにくそ!」って思う子もいるだろうし、「まぁ、いいや」って思う子もいるだろうし、どっちも素敵だと思うんです。「まぁ、いっか」って姿勢も、「なにくそ!」って姿勢も、人生ではどっちも必要ですからね。小学校では一番だったのに塾で真ん中くらいになって傷つくかどうかは、それで親がどういうリアクションをするかだと思うんです。「なんで真ん中なの!」って怒られたら、傷つきますよね。逆に偏差値的な価値観だけじゃないと気づかせてあげることができれば、その子の人生を豊かにすることになります。必ず偏差値が下がることはあるし、勉強が嫌になることもある。必ず、ですよ。そういうネガティブなことが起きたときにどうやったらその状況を子どもの内面の成長の肥やしにできるかを考えるのが親の腕の見せ所。いかに偏差値を上げるかよりは、そっちのほうが親の役割としては大きいと思います。

 

T:すごく目から鱗です。本人が努力するからこそ感じる辛さとか苦しさも子どもの成長に変えていこうとすることで、親も成長するんだろうなって。

 

おおた:おっしゃるとおりです。子どもが苦しんでるときって親も辛いんだけど、どうやったら成績を伸ばしてその苦しさから解放させてあげるかではなくて、どうやったらこの状況そのものを糧にできるだろうかと考えることを優先にしてほしいと思います。別に難しいことじゃなくて、成績が下がって泣いてるときに、ケーキを買ってきて一緒に食べるだけでいいんですよ。言葉にはできなくても、それでちゃんと気持ちは伝わるから。

 

T:いろいろ気づかされました。子どもの様子を見ながら一緒に頑張りたいと思います。

 

【 おおたさんからひとこと 】

親子での中学受験生活が始まる前から、中学受験の落とし穴ががばーっと口を開けていたという相談でした。実際に中学受験勉強が始まって、毎月のように偏差値が出るようになれば、一喜一憂もするでしょう。でもそのたびに、何のために中学受験を選択したのか、その本筋を思い出してほしいと思います。親がブレなければ、中学受験のデメリットは最小化できます。それが中学受験必笑法です。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子

 

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