【中学受験】空想ばかりの小3長男と進路について話すことができません
『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、小学校3年生の長男と進路について現実的な話ができないと悩むお母様からの相談です。
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【今月の質問】
普段は空想の世界に生きている長男。
将来のことについてきちんと話すことができません
[受験進路相談室]
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Hさんの場合
【家族構成】
夫、長女(小6)、長男(小3)
【今回相談する子どもの状況】
国立の小学校に通う小3の長男。付属の中学を内部受験するのか、外部受験をするのか早い段階で決めなくてはいけません。長女は話し合いもでき、中学受験することを早々に決めていましたが、長男とはその話し合いが今のところ難しそう…。普段から会話は多いのですが、空想の世界の話やクイズ、学校の授業で聞いた豆知識などの話が多く、本人の将来や学校生活などに関する考えを話すことが苦手。時々こちらから話題にしてみるのですが、話をそらされることが多いです。一応受験のための塾には行っているんですが、週に2時間面白い話を聞きに行っている感じ。4年生になると、塾も本格的な勉強が始まるため、本人にもそれなりの覚悟が必要になってくると考えています。このまま進路を決めず、もうしばらく塾に通うのは良いが、できれば、6年生になる前には受験をするかどうか本人に決めてほしいと思っています。
Hさん(相談者): 中学まではそのまま上がれる国立の小学校に通っています。現在中学受験用の塾には通っていますが、ちょっとふわふわした子で、このまま中学受験すべきか、高校受験で勝負すべきか迷っています。空想好きで、ママ友からは「地上にまだ降りてきていないんだね」という素敵な言葉をもらうくらいで。
オ(おおたさん):へー、いいですね!
H:家での会話も、学校で何があったとかではなくて、自分で考えたキャラクターの話だったりして、中学受験にするか高校受験にするかみたいな現実的な話をしようとすると嫌がります。
オ:まあ、時期が来るのを待つしかないでしょうね。
H:そうですね。でもそうすると、いつまでもこの子はこのままなんだろうなと。心配になるくらい幼いんですよ。それがかわいいんですけど。
オ:かわいいですよね。空想の話がずっとできるくらいたくましい想像力をもっている。それは息子さんの美徳ですね。その美徳を一面から見ると、現実を理解していないという意味で幼く見えるだけで。
H:そうですね。
オ:息子さんの個性的なキャラがあって、その負の側面を見てしまうと不安になるということですよね。具体的な不安としては、中学受験をする覚悟を決めるのはいつになるんだ?というところですよね。となると、「存分にオロオロしてください」としか言えないんですが(笑)。
H:……(笑)。小学校受験をしていまの学校に入ったんですけど、ちょっと失敗したかなと思うところもあって。
オ:どういうことですか?
H:やっぱり優秀な子が多いので、まわりとの学力差で悩んで、地元の公立小学校に行きたかったなんてもらしたこともあるんです。結構プライドが高いんです。勉強が苦手なことを認めたくなくて、私との会話でも、受験を話題にするのは避けたいんだろうなと。なんて声をかけていいのか、腫れ物に触るような感じで。
オ:ファンタジーの世界を生きる自由な魂を息子さんはもっていて、せっかくそこに浸っているのに、お母さんが横から「現実はこうなのよ!」って言ってることに対して、「いまはほっといて!」って感じですよね。
H:あーーー。
オ:これが僕なんだから、このままの僕を見てよ、ってことかもしれませんよ。プライドが高いとかじゃなくて。
H:別の小学校に通っているお姉ちゃんがいて、その子は中学受験をすることが決まっています。お姉ちゃんは勉強ができます。そこに負い目を感じている部分もあると思います。
オ:でも、お姉ちゃんとの違いは、お姉ちゃんは勉強ができるってことだけですよね。
H:そうですね。完全に優等生タイプなので、面白いかっていうと、そんなに面白い感じの子ではないかも(苦笑)。
オ:息子さんみたいなたくましい空想力をもっているわけではない。それは完全に個性だから、比べられないですよね。どっちが偉いなんてことはない。お母さんの話に乗ってこない息子さんのいまの態度は、お母さんが姉のキャラを基準にして自分を見ていることへのささやかな抗議なんじゃないかという気がしてきました。
H:うーん、そうですね……。
オ:自分が置かれた環境にネガティブな発言をしているのだとすれば、それはなんらか心に不満を抱えているというか、言い方を変えると、傷ついている部分があるということだと思います。中学受験か高校受験か以前に、あるがままの自分を認めてもらえているという安心感をもってもらうことが優先じゃないでしょうか。それがないと、次の一歩を踏み出せないと思うので。
H:たしかに。
オ:子どもに早く変わってもらいたいと思う前に、大人のほうが子どもを見る目を変えなきゃいけないのかもしれない。「お母さん、見てるところ、違うよ」って、一生懸命伝えてくれているのかも。その声にならない声に、耳を傾けないと。「中学受験するの?」の返事を聞く前に。
H:はい。
オ:とはいえまだ小3ですよね。このままずっと変わらないなんてこともないので。
H:そうですかね。ここ2〜3年くらい、ずっと変わらなくて、本当に大丈夫なのかなって心配です。
オ:変わっていないなんて、ありえないです。申し訳ないんだけど、まったく変わっていないように見えるのは、お母さんの目が悪いだけ。変わっていないところばかりをずっと見ているからだと思います。だから「変わっているところを見てよ。成長しているところをちゃんと見てよ」ってメッセージを、息子さんは発しているんだと思います。
H:……。
子どもの出す難問に向き合うことで自分の感受性が豊かになる。
不安や心配は親にとっての宝物です
オ:中学受験するか、高校受験にするかって、お母さん自身は何歳くらいに考えました?
H:私は中学受験組だったので、高校受験は関係ありませんでした。私が高校受験をまったく知らないので、そこが恐いです。
オ:なるほど。息子さんが高校受験を選択したら嫌だなという不安を、お母さんがもっているということですね。そこが根本ですね、今回の相談の。
H:でも、息子の成績的には中学受験に向いていないなというのがあって。今の学校よりも上のレベルの学校に合格するのは難しいだろうなと思います。
オ:お母さん自身が高校受験のことを知らないから、息子さんが高校受験を選んだら、不安。一方、息子さんが中学受験を選んだら、いま通っている学校にそのまま中学まで通い続けるよりも、ネームバリュー的に落ちた学校に行くことになりそうで、不安。2つの不安をお母さんの中で天秤にかけているということですよね。
H:あと、もう1つ。小1から小2のころは、お友だちに手を出しちゃうようなところがあって、クレームをもらったこともあって。いまは手を出すのは少し収まったのですが、まだ口が出るみたいで。先生の話が理解できていなくて、学校の課題がちゃんとできていないこともあるし。このまま今の学校の中学に進んで、ちゃんと内申点がとれるんだろうかという不安もあります。
オ:それも含めて高校受験への不安ですよね。高校受験という選択は苦しいだろうなと言いながら、一方でいまの学校の延長線の中学よりも“いい学校”に中学受験で入るのも難しいだろうなと。どちらにしてもつらいぞって、お母さんは未来予測をしているわけですよね。
H:おっしゃるとおりです。
オ:うんうん(笑)。息子さんがお母さんに、「これ解いてごらん」って、究極のジレンマ問題を突きつけているわけですよね。「何を基準に選ぶの?」って。
H:はい(笑)。
オ:そこで何を基準に選ぶかをいま、お母さん自身が問われているんだと思います。中学までは世間的に名の通った学校のレールが敷かれている。だけどその先のレールの敷き方を、お母さんは知らない。だったら早めに切り替えたほうがいいかなと考えてはみたけれど、いま乗っているレールより立派なレールに乗り換えることは難しそうだぞと。整理してみただけなんですけど、この状況なら、「ギリギリまでいまの立派なレールに乗っておけば?」って結論になりません? 中学受験をしたところで、あえて嫌な言い方をしますが、見栄えのしない学校に行くのが嫌なのなら、名の通った学校に通える期間を3年だけでも延長したほうがいいじゃないですか。学校のネームバリューが判断基準なら。高校受験がわからないっていうのはお母さんの不安だから、それでお子さんの人生を決めちゃうのは筋違いなんじゃないかなって思いますけど。
H:そうですね……。
オ:いまのはあくまでも学校のネームバリューを優先するなら、という話ですよ。一方で、世間的なネームバリューではいまの学校よりも落ちてしまうかもしれないけど、空想好きな息子さんにぴったりの私立中学があるかもしれない。世間体は気にしないで、この子がいきいきするところに行ければいいんだと考えるなら、積極的な意味での中学受験が現実味を帯びてくる。息子さん自身が、「この学校、いいかも!」って目を輝かせるなら。そういう学校に出会えたら、息子さんから「中学受験したい」って言い出すかもしれません。
H:なので、そういう話をしたいんですが、いまの息子はそういう提案を受け入れる状況じゃないし、自分の未来を考えることから逃げているっていうか、そういうステージに乗っていないんです。学校見学に連れて行く必要があると思うんですけど、いまのままだと息子は「よくわかんないけど、来てみた」で終わっちゃう気がして。息子と腹を割って話すフェーズがほしいなと思っていて、それはいつ来るのかなって。
オ:小3でそこまでの話ができる子ってそんなにいないと思いますけど……。
H:そうですか?
オ:「将来って何?」みたいな。子どもは「いま」を生きているので。お母さんは思考のクセとして、お子さんの将来の可能性を、「ああ、ダメだろうな。そういうときは来ないだろうな」って、否定的に見てしまうクセがあるんだと思うんです。なんでそうなってしまったのかはわからないし、今日はそこを深掘りしようとは思いませんが。息子さんと話をしたいっておっしゃいますが、順序として、深い話をする前に、「こんな面白そうな学校があるんだ」と思ったら、そこから話のきっかけがつかめるかもしれませんよね。さっきから聞いていると、「私の計画どおりにいかないんですけど」って相談を受けている気がして、それはそうだよねと。子どもは親の思いどおりにはならないから。でも、息子さんを中心においてあげれば、いくらでもチャンスが生まれると思います。そのチャンスが来たときに、見逃さないのが大切だから。
H:ふふふ。
オ:息子さんの空想力が刺激される学校があるかもしれない。文化祭で、ファンタジー系の部活の展示を見て、「うぁ〜」って感激するかもしれない。そうしたら、「中学受験をすればこういう学校に入れるかもしれないけれど、どう?」って。それがネームバリュー的に落ちるかもしれないけれど、「それでもいいじゃない、この子が楽しいなら」ってご両親が思えるんであれば、それを応援してあげれば、その子なりの頑張りをすると思うんですよ。雑誌の企画なんかでも、「中学受験と高校受験とどっちが得?」みたいな企画がよくありますけど、「バカじゃないの?」って僕は思います。損か得かじゃなくて、そのひとの好み、教育観、人生観の問題だから。
H:このまえ、息子が漫画家になるって言い出して。
オ:将来の話、してるじゃないですか!
H:その場で本人には言いませんでしたけど、成功できるのは一握りだよなって。漫画家になるかどうかは別にして、私が生きてきた世界とは違うところを望んだときに、許容する覚悟、認める覚悟ができるかなって。
オ:あの、すみません……。許容とか、認めるとか、おっしゃいますが、そんな権利は親にはありませんよ。子どもの人生ですから。
H:ああ、そうですよね(苦笑)。
オ:漫画家を目指してごく一部が大成功していても、中程度の成功をしているひともいれば、漫画家になれないひとだっている。でもみんなそれぞれの人生をちゃんと生きてる。そういう世界を親が知らないから進ませないっていうのは、人権侵害ですから。お母さんとお父さんは立派に生きているかもしれないけれど、それだけが立派じゃないんだよってことを伝えてくれているんですよ、身をもって。そういうメッセージをもって生まれてきた息子さんじゃないかって印象を受けました。
H:私も、たぶん主人も、ある程度の学歴社会に生きてきたので。娘も学歴社会に躊躇なく飛び込んでくれて。だから息子だけ異質に感じちゃって……。
オ:息子さんがうまくバランスをとっているんですね。3対1だから、息子さん大変だ。
H:そういうのを私としてどう対応していいのか、日々わからない。だいぶ難問ですよね。息子が出す難問で、頭の中がいっぱいになることがあります。
オ:最高の親孝行じゃないですか。解き切れるかどうかわからないけれど、それと向き合うことで、お母さんの世の中への感受性が豊かになる。知らなかった人生を開いてくれる。空想力という武器をもった息子さんらしいメッセージじゃないかなと。これ、赤の他人だから言えることですよ(笑)。まあ親の思ったとおりにいかないけれど、その子に応じて必要な変化をするし、決断はするし。子どもは間違いなくその能力をもっているし、それを信じてあげて。それでも不安なのは親のサガだから。不安や心配がなかったら、親なんてやってても何も楽しくないと思いますよ。不安や心配という宝物を子どもは与えてくれるわけだから。それを楽しまないと。ドキドキさせてもらいながらね。
H:息子を楽しむってことですね。手がかかるぶん、かわいいっていうのもやっぱりあるので。ふふふ。
「お母さんは何を大切にして生きてるの?」って、息子さんからの問いの解き方を教えてくださいという相談でしたね。「自分で考えてください」としか言えません。自分の人生なんだから、自分で考えないと、楽しくないでしょ。
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おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/水澤 薫