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【中学受験】頑張っても成績が上がらない娘、親にできることって?

 

『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、頑張っているけれど成績が上がらない娘さんについて悩むお母様からの相談です。

【今月の質問】

頑張っているけれど成績が上がらない娘。
もっと親にできることがあるのでは
と常に考えてしまいます
[受験進路相談室]

Hさんの場合

【家族構成】
夫、長女(小5)

【今回相談する子どもの状況】
小3から小規模塾に通わせている小5の長女ですが、なかなか成績が上がらないことが気になっています。学校見学へ行くとモチベーションが上がるのですが、その気持ちが持続しません。志望校の判定は合格率30%とまだまだ手が届かない状態、頑張りたい気持ちはあるようだけれど、やりはじめるまでに時間がかかったり…。今、すでに頑張っていないとは言えないのですが、もっと自ら学習に向き合えるようになってほしいと期待してしまいます。勉強、勉強と言いすぎると良くないとはわかっていつつも、声掛けをすることも多く、たまにこれは教育虐待?やりすぎかな?と思うことも。最近は勉強でのストレスに加え、思春期になりお友達関係でのストレスなども増えてきました。今、親にできることは何なのでしょうか。

Hさん(相談者):5年生の初めの保護者会で、塾の先生から「5年生は親御さんとお子さんの気持ちがいちばん離れる時期ですよ」と予言されていました。その通りで。夏休み明けから首都模試を受け始めて、学校の見学にも行き始めて、いわゆる志望校がおぼろげに見えてきてはいるのですが、合格可能性はまだ30%とか。親としては焦りを感じるのに、子どもには危機感がなくて。とはいえ、学校から帰ってすぐに塾に行って4時間は勉強して、帰ってきてから学校の宿題をやると22時とか23時とかになります。結構やってるなという気持ちもあるんですが、最後は○か×かで結果が出るわけで。このままでうまくいくのかどうかという不安と日々闘っているところです。

オ(おおたさん):塾の先生の予言、いいですね。お母さんの心配度合いと娘さんの現実に、乖離が起きているということですね。

H:そうですね。それと、日曜日は塾がないので家庭学習になるのですが、どれくらいやらせるべきなのかわからなくて。これ以上やらせすぎると教育虐待になっちゃうのかなという心配もあります。

オ:それは時間的な意味で?

H:そうですね。平日でも23時を過ぎると遅すぎだと思いますし、解き直しが大事だと言われているんですが、やり直しはしたくないみたいで、それをどこまで追いつめてやらせるのがいいのか。たまに泣いてしまうことがあります。それを見るのもつらいなって気持ちになります。

オ:やらなきゃいけないと思っているけれど、できない自分がもどかしくて泣いている?

H:そうですね。あとは、問題に歯が立たなくて泣いています。

オ:だとしたら立派だな、根性あるなって。普通なら逃げたくなるところで、逃げないで泣いているってところが。

H:そうですかね。

オ:えっと、待てよ。どういう方向に行けばいいんだ?課題意識も本人がもっていて、それに立ち向かおうとしているけれど、歯が立たなくて泣いてしまう。すごく正しい成長物語じゃないですか。本人が葛藤して自分の勉強に向き合っているって、素晴らしい受験生だなって、客観的に聞いていると思うんですが。それでも勉強時間が足りてないという印象?

H:いや、努力が数字に表れていないってところですかね。偏差値は40台だったりするので。

オ:娘さんとしては頑張っていて、勉強時間が短いわけでもないけれど、それに結果がついてこないことに対してお母さんがもどかしさを感じているわけですね。

H:ですね。今日は塾がないので、いま児童館に行っているのですが、こういう時間も必要だなと思いつつ、この時間も本当は勉強してほしいなという気持ちもあります。

オ:でもまあ遊ぶ時間を削って勉強しても成績が伸びるわけではないですからね。仕事でも何でもそうじゃないですか。パフォーマンスを上げようと思ったら、自分のコンディションを保つことが大事であって、そのためにはリフレッシュも不可欠。児童館に行っている時間が毎日遅くまで勉強を頑張る娘さんのコンディションを支えることはあっても成績を下げる要因になっているとは考えにくい。毎日遊んでいてまったく勉強していないという話ではないので。むしろ娘さんは意志をもってリフレッシュしていそうですよね。ゲームをやるんじゃなくて児童館に行くってところが素晴らしいじゃないですか。

H:うん……。

オ:でも結果がともなっていない、と。ここから先、私は成績を上げる専門家じゃないから、具体的なことが言えなくて申し訳ないんですが、努力に対する結果が表れていないというのなら、身につくような勉強のやり方になっていないというのはよく聞く話です。例題を覚えて当てはめるだけとか。塾の先生には相談していますか?

H:基礎固めの知識だったり、あとは解き直し、問題を何度も解いていくのが重要だと言われています。

オ:個別に、もっと細かく、基礎固めの方法を塾の先生に指導していただくことはできそうですか?基礎固めの問題集をやったノートを見てもらって、合ってるか合ってないかじゃなくて、取り組み方をチェックしてもらうみたいな。もしくは、こういうケースこそ、プロ家庭教師や個別指導の出番なのかもしれないですね。ちゃんとしたプロにお願いできれば、歯車がうまくかみ合ってないところを調整してくれるんだと思います。ぜんぶおんぶに抱っこになってしまうのは違うと思うのですが、そういう家庭教師や個別指導の利用なら、いいと思うんです。努力が結果に結びつくようになるテクニカルなアドバイスができればいいんですけど、それは私にはわからない。それよりも、娘さんの人生全体を考えれば、本人が自分なりに意欲をもって学び続けることが大事なので、そこでもし、努力に対して結果がともなっていないところばかりを親御さんが見てしまうと、自分の努力すら過小評価してしまう可能性がありますよね。努力できない子になってしまうのは怖いし、もったいない。

H:はい。

子どもとの関わり方を考えさせられるのが中学受験。
試行錯誤しながら親も一緒に成長する機会に

オ:親の立場として、子どもに対して何をすべきかって優先順位をつけるなら、結果は二の次で、その子なりの努力を認めてあげることですよね。あなたが難問を前にして、涙を流しながら逃げないでいるって、それってすごいことだよって、そこに価値をおいてあげることが重要な気がします。結果を求めるのは当然だと思いますけれど、あんまり結果を気にしすぎるとそれこそ娘さんの努力が報われないというか。結果じゃない形で報われてほしいなって思います。それができるのが親という立場なんだと思います。

H:難しいですね。テレビ見ているときに「ここでもう1枚プリントやってくれたらな」と思ってしまったり。もちろんほめたりもします。今日も頑張ってるよって。でもほめつつも、心のどこかで「ほめて、いい気になって、もう1枚やってくれたらな」って。欲張りすぎですかね?

オ:それは親の性なので、自分を責める必要はありません。自分はそういう生き物なんだって。かわいいなって(笑)。

H:それが親子の心の距離なんでしょうね。

オ:でもグッとこらえて言わないんですよね。

H:もちろん言っちゃうときもありますし、つかまえてもう1枚やらせるときもあります。

オ:でもつかまえてやらせた1枚って身につかないですよね。

H:それが結構難しくて、テスト前に親子でいっしょにやったらいい点数になるときもありますね。

オ:無理矢理でも直前にやらせれば結果は瞬間的には出ますよ。やればできるって成功体験にするにはいいかもしれませんけれど、でもそれは積み上がっていく学力にはならないでしょ。いつまでたっても受験勉強が自分事にならないってケースに多いパターンです。親が目先の点数を上げることにやっきになると、結局痩せ馬の先走りになるので。

H:そこはやっぱり待つしかないのでしょうか。どんな声掛けがいいのでしょうか。

オ:私が優れた教育者だと思うひとたちが口をそろえて言うことを受け売りで言いますが、「勉強してほしいなと親が欲をかくのは勝手なんだけれど、それを実現する魔法なんてない」と。「こうすれば勉強する」なんて、本当の教育者だったら言いません。そういう術があるんじゃないかっていう幻想をまずは捨てないと。

H:そうですよね。日常会話の中に勉強的な要素を盛り込むみたいな話もよく聞きますが、あんまりやりすぎると子どももうんざりするようで。

オ:24時間そんなことされたら、子どもはノイローゼになります。親御さんが本当に好きなことを損得勘定抜きで思わず語っちゃうなら子どもにも自然に沁み込むと思いますけれど、賢い子ほど親の下心を察知するから、効きません。

H:子どもも気づきますよね。

オ:鈍感な子のほうが、中学受験で結果を出すという意味では有利なんですよ。親がコントローラーを握って動かすようなものだから。でもそれは人間としては非常にまずいので、そういう中学受験はすべきじゃないと私は思います。その点、聞けば聞くほど娘さんはちゃんとしてるなって思います。一方でお母さんも葛藤をもちながらやっているじゃないですか。それもすごく正しいこと。つまりお母さんはお母さんとしての課題にしっかり向き合っているからこそ苦しみを感じているんだと思うんです。こんなにかわいい子なのにイライラしてしまうのはなんでだろうとか、じゃあ親としてどんなスタンスでいるのがいいんだろうかとか。いまお母さんはそういう問いを突きつけられているわけです。それは娘さんが難問を前にしてなかなか答えが出せなくて苦しんでいるのと同じですよね。

H:そうですね。

オ:だから、塾の先生の予言はすごくいいなと思って。中学受験生の親としての心構えを求められるのが、5年生の時期なんでしょうね。これを犠牲にするのはやめようとか、ここまでは介入しようとか、お母さんなりに自分の軸ができていけばいい。失敗してもいいんですよ。ちょっと夜遅くまでやらせすぎて反省したり、逆に放っておきすぎて反省したり、試行錯誤すればいい。泣くほど叱るのはやめようとか、23時以降は何があっても寝かせようとか、そういう最低限の枠組みをつくっていけば、その中で「こういう関わり方がいいのかも」ということが見えてくるかもしれないですね。

H:最初は子どもの課題だと思ってましたが、よく考えると自分の問題ですね。それに気づいて良かったです。

オ:自分の弱い部分と向き合うのは疲れるんですよね。特に中学受験ではそれが見事にあぶり出される。でもそれは悪いことじゃない。そこに人間としての成長のチャンスがあるんですから。中学受験で成長するのは子どもだけじゃないってことです。最後は「結果なんて怖くない」って。「ああ、これがこの子なりの頑張りなんだ」というのが見えてくると視界が開けるってことがあるので、それまではその葛藤を、苦しみながら、心のどこかで楽しんでください。

【 おおたさんからひとこと 】

「この不安を抱えながら、この子の親をやっていこう」という覚悟を決める姿って、美しいと思います。その不安を悪いものだと思わないでほしいですね。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/

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イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/水澤 薫

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