【中学受験】兄2人と比較して長女を傷つけてしまいそうで心配です
『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、なかなか成績が伸びない長女に対し、受験に成功した兄2人と比べて傷つけてしまうかもしれないと悩むお母様からの相談です。
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【今月の質問】
兄2人と比べて成績が伸びなそうな長女、
比較して傷つけるようなことを言ってしまいそうで今から心配です
[受験進路相談室]
Oさんの場合
【家族構成】
夫、長男(中3)、次男(中1)、長女(小1)
【今回相談する子どもの状況】
息子2人は中学受験し、大手や大手の準拠塾に通って偏差値60台の男子校に進学しました。夫は受験にノータッチで、私も丸付けも一切せず、学習内容には口出しをしたことがありません。ほぼ自走状態でしたが、兄は四谷大塚偏差値60程度、弟は70程度をキープしていました。そんな兄たちと比べると、娘は算数が苦手そう。国語で引っ張り上げても最終的に偏差値50くらいではないかと感じています。娘は兄たちと比べてコミュ力もあるので、公立でもやっていけそうな気もしています。もしも中学受験勉強を始めたら、兄たちの出来と比べて娘の自己肯定感を下げるようなことを言ってしまうのではないかと、今から心配です。受験すると決めた場合、どんな心構えを持っていたらいいでしょうか?
Oさん(相談者):相談したいのは小1の長女の中学受験についてなのですが、前提として、中3の長男と中1の次男がいるので、その中学受験の話からしていいですか?
オ(おおたさん):どうぞ。
O:私は田舎育ちで中学受験を経験していません。長男が小4のときに、「僕どこ受けるの?」と言い出して。中学受験熱が高いエリアで、もうみんな塾に通っていると。たしか四谷大塚の入塾テストでいきなり偏差値56をとってきて。長男は自分でコツコツ頑張れるタイプ。その後、塾の友達とのトラブルがあったりして、偏差値が一気に10落ちたこともありましたが、学校別の模試を受けたら、準御三家の男子校との相性が良かったので、12月に早稲田アカデミーのNN(志望校別コース)に通わせました。でも合格ラインに達するのは一瞬で、私は「こんなんじゃダメじゃない!」って、キーキー叫んでました。そうしたらさらに成績が下がったので、そこからはいつも笑顔を心がけました。結果的に、その準御三家に受かって、長男の中学受験は、私にとっての成功体験になりました。
オ:なるほど。
O:私がキーってなりやすいのを見ていた次男には、「お母さんには極力関わらないでほしい」と、最初から予防線を張られました。「組分けテストで偏差値60を割ったら口出しさせてもらうよ」という約束をしましたが、次男はずっと偏差値60以上をキープしていて、口を出せず。しかも5年生では手を抜くことまで覚えて、家ではいっさい勉強しませんでした。そうなると逆に親の欲が出てきます。本人は最初からお兄ちゃんと同じ準御三家を目指していたのですが、「もうちょっとやればもっと上を目指せるのでは?」と思うようになりました。それで小6の4月に最難関校を受けるようにものすごく説得したのですが、「なんで行きたくない学校に行くために僕が頑張らなきゃいけないの?」とぶち切れられて、諦めました。
オ:素晴らしい。
O:2月1日の第一志望には合格しました。塾で特待をもらっていたしばりで受けた聖光はダメでした。4日の聖光をもういちど受けるように私は説得を試みたのですが、「行かない学校をもういちど受けることにはお母さんと塾にしかメリットがない」と反論されて、やっぱり諦めました。もともと教育に関してはおおらかな母親だと自分では思っていたのに、最難関校に行ってほしいとか、最後に聖光の合格も欲しいとか思ってしまったことにあとから自己嫌悪になりました。私がもっと正しい人間だったら、彼はもっと上を目指して努力できる人間になったんじゃないかと、そんなことまで考えて。そして、長女が小1になりました。小1とはいえ、お兄ちゃんたちとは違うのだと、薄々感じています。本人も、お勉強があんまり好きじゃないと言っていて、粘り強さがない子で。でも私が関わったら、次男のときに出てきた私の中の魔物がまた出てきて、彼女を潰してしまいそうです。
オ:背景がよくわかりました。お兄ちゃんのときに、自分の未熟さに気づかせてもらって、妹さんの受験では自分にどんなストッパーをかけておけばいいかということですよね。でも、小4から塾に通うとしてもまだ2年半くらいあります。それまでモヤモヤ考えたらいいんじゃないですか?
O:えええぇ⁉
オ:始まってしまっているなら「大変ですね」ってなるけど、まだ2年半あるし、その間にお母さんも変化するだろうし。お嬢さんが「私絶対受験なんてしない」って言うかもしれないし。
O:いや実はすでに「こんな問題、お兄ちゃんはすぐ解けたのに」とか呪いの言葉を言ってしまうことがあって。
オ:そうなんですか⁉
O:お兄ちゃんたちにはなるべく言わないように気をつけてたのに、娘には本音をそのまま伝えてしまう自分がいます。「お兄ちゃんたちは算数が得意だったのに、なんであなたはできないのかしらね」とか。
オ:もともとご自身にはそういう嫌みな部分があったと思いますか?たとえばお父さんやお友達に、言うべきじゃないと頭ではわかっていることをつい言ってしまうみたいな。
O:若いころ、なんでもぽんぽん言ってしまう無神経なところがあって、30代で訓練したんですけど、まあ言っちゃいますよね。
オ:じゃあ、ベースとしてそういうところを持っているんですね。他人に対しては調整できるようになったけど、わが子には昔の癖がつい出ちゃうってことですね。きょうだいを比較するのは必ずしも悪いことだとは思いません。子どもって同じように育てても、こうも違うんだなってことに気づかせてもらえますよね。お兄ちゃんにも足りていない部分はきっとあって、お嬢さんはお兄ちゃんたちにない、優れているところも持っていると思うので、そこを比べて、やっぱりひとって一人一人違うんだなってことに気づくのは決して悪いことじゃないんですけれど。でも、呪いの言葉をかけてしまうって、どうしたらいいんだろう?30代で余計なことをぽんぽん言わないように気をつける訓練をしたって、何をしましたか?
O:うーん、基本的に喋らないようにしました。受け身になる。あとは、これは相手が嫌かもしれないってことは、一度立ち止まってしないように気をつけました。
無自覚に生まれている家族間の上下関係。
ご家族と向き合って構造を見直す機会と捉えて
オ:どういうときに娘さんに、つい、言っちゃうんですか?
O:学童で宿題を終わらせていなかったときとか、全国統一小学生テストで信じられない成績をとっても平気な顔をしているときとか、九九がなかなか覚えられないときに「なんでできないの?」って詰める感じですね。
オ:余計なことを聞きますけど、お父さんに対してもツッコミが厳しい感じですか?
O:旦那はすぐ怒るので、そこは口をつぐんで。あと次男もすぐキレるから、次男には言葉を選びますね。逆に娘はたぶん、私のことを受け入れてくれるから、それもあって余計にいらないことを言ってしまうんだと思います。
オ:なるほど!じゃあ、お母さんの中にこういう力関係があるんですね。お父さんがトップで、次が次男で、そのあとに長男と自分がいて、その下に長女がいる。
O:たしかに、言われるとそうですね。
オ:ストレートに言わせてもらうと、自分よりも強い相手には口をつぐむけど、弱い相手には本音をぶつけてしまう。でもそうなると、本来お父さんや次男に向かうべき本音も、長女が受け止めちゃってる可能性がありますね。
O:あぁ、そうかも!だからこそ受験に向かうのが怖いんですね。
オ:お母さんの中に無自覚なフラストレーションが溜まっていて、それが夫や次男を避けて長女にばかり向けられているとしたら…。この構造を変えるにはどんな方法が考えられると思いますか?
O:難しいですね。…次男に思っていることをそのまま言うと、すごいことになりそう。「部活に行きなよ」って言うことすら、大丈夫かな、今大丈夫かなって様子を見て。夫とは、直接話すとめんどくさいから、めんどくさい反応が来そうなものはLINEして。でも娘と本音で喋れなくなるのは寂しい…じゃなくて、本音の負の部分をぶつけないってことですよね、たぶん。
オ:本音の負の部分だけって選択ができればいいですけど。でもお母さんが心の中に吐き出さざるを得ない何かを溜めているってところが、家族の構造としてあるのかもしれない。もしかしたら受験云々よりも、「ご家族と向き合わなければいけない問題の本質」を気づかせてくれたのが、お母さんにとっての中学受験かもしれないって、今思いまして。
O:たしかに私の中で、家族に対して上下関係をつくっているというのが、今見えました。
オ:理想をいえば、それをフラットにするのがあるべき形だと思います。思春期の子どもにあれこれ言いたくなる気持ちを抑えるのは、それが「成長の機会を奪うからやめよう」ならいいのですが「次男が怖いから やめよう」だったら、ちょっと…。長男とはそこまでの葛藤はない?
O:中1のときはいろいろありましたが、いまは落ち着きました。
オ:そうなるとやっぱりこれからの2年半は有効な財産だなって気がして。おそらく次男もそういう成長を遂げる十分な時間があるということと、今日この構造に気づいたってだけで、お母さん自身が変わっていくと思うんですよ。次男とお母さんがにらみ合って綱引きを始めると大変だと思いますが、むしろ「妹ってこういうことができなくって、どうしたらいいと思う?」と、要するに、別の問題を2人で見るようにするのはアリかな。あるいは、次男もお母さんが余計なこと言っちゃう性格っていうのをわかっているわけじゃないですか。「お母さん余計なことを言っちゃいそうで、どうしたらいいと思う?」って相談すると、「お母さん、自分のことわかってるじゃん」って、次男がお母さんを受け入れるきっかけにもなると思うし、「じゃあしょうがねえな」ってお母さんを助けてあげようと思うかもしれない。あとはガミガミ言うお母さんから妹を守ってあげなきゃと思うかもしれない。一対一で向き合うんじゃなくて、相互で補完し合う関係にしちゃうっていうのはアリなのかなって思いますね。3人のコミュニケーションの形みたいなものが少しずつ変化して、そこに次男の成長も相まって、家族の形が進化していく。
O:そうか、家族の構造の問題っていうのは、目から鱗というか、全く私そこは考えていなかったので。
オ:子どもの成長によって、家族のコミュニケーションのパターンって変わるんですよね、有機的に。どこかに無理がかかって歪みが生じると、子どもの非行だったり不登校だったりとか、あるいは病気だったりとか。そういう形でどこかにサインが現れる。今、次男の中学受験が終わって、手がかからなかったとはいえ、大変だったと思うんですよ。それが終わったところで、また一つ、家族のステージが上がって、また違う次元の課題に取り組んでいるってことなのかもしれないですよね。
心理学の家族療法的な視点が必要になるご相談でした。お父さんとはLINEでやりとりというのも、気になるポイントですね。まあ、いまどきはよくあることなのかもしれませんが。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/
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イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/水澤 薫