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【中学受験】本人希望で始めた芸能活動と受験勉強のバランスに悩んでいます

『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、小学5年生の男の子の「芸能活動と受験勉強」の両立に悩むお母様からの相談です。

【今月の質問】

本人の希望で始めた芸能活動と
受験勉強のバランスに悩んでしまいます
[受験進路相談室]

Kさんの場合

【家族構成】
長男(高3)、次男(中3)、三男(小5)

【今回相談する子どもの状況】
小5の三男は、本人の希望で芸能活動を行っています。レッスンは週2がベースですが、多い時は週4、1日8時間を超えることもあります。そのため、クラス分けに関わるテストを欠席することや後日受験することが増えてきました。本人は兄(次男)が通っている難関校にどうしても行きたいという気持ちが強く、それ以外の学校には魅力を感じていません。本人に何度か聞いてみたところ、優先順位は「中学受験≧芸能活動>バスケットボール」だそうで、その順位は変わりませんでした。中学受験は今しかできないので、6年生になったら芸能活動を少し控えて受験勉強を優先させると言っています。ただ、「少し控える」程度の勉強量で難関校に受かるのか、かなり不安です。また、「忙しすぎて、いつか耐えられなくなってしまうのでは」という心配もあります。理想通りに勉強を進めることができないことは本人もストレスに感じていると思います。

Kさん(相談者):5年生の三男が中学受験をします。でも去年の秋から芸能事務所に入って、そちらが忙しくなってきました。三男自身は次男と同じ御三家の学校に行きたいという思いが強いのですが、現実問題として、かなり頑張らないと志望校には合格できない状況です。

オ(おおたさん):芸能活動に限らず、習い事との両立とかね、1日24時間、1週間7日しかない中で、中学受験にどのくらいのエネルギーをかけるかってことですよね。

K:そうですね。

オ:何がどうなったら解決なんですかね。

K:受験に向けての勉強に割く時間が十分に取れることも解決の一つですし。受験勉強と芸能活動のスケジュールがかぶってしまうことも結構あって、それを両立するのが解決ですね。

オ:悩みというよりは、どうにもならない現実があるということですよね。

K:はい(苦笑)。ほとんど答えが出ていて。後悔がないように時間を効率的に使う。最後まで頑張り切る。で、結果は受け止めると私は思っているんですが。でもそうですね、三男自身がそこで、次男と同じ学校に行けなくなった時に、その気持ちの面がとても心配です。

オ:お母さんの中ですでにそれだけ現実が整理できていて、明らかなジレンマなわけじゃないですか。どちらも100%やるのが難しいってわかっている。で、答えが出ているっておっしゃってましたけど、その答えって言語化できます?

K:私が頑張る部分と三男が頑張る部分と両方あります。私は、次男の時と同じように、親としてできることをする。モチベーションを高める声かけや、時間のやりくり、あとは家庭教師を今お願いしているんですが、勉強の効率を上げることは私がやってあげられるかなって。残りは本人の問題ですよね。モチベーションをどこまで持ち続けられるのか。芸能活動をする子で中学受験する子って圧倒的に少ないので、その中でどこまで、勉強を第一優先にして向かって行けるのかなって。

オ:うんうん。

K:それを本人とのコミュニケーションの中で納得させる。本人が気持ち良くというか、最適な、満足した状態で受験に向かえるかってところが、今やるべきことかなって思います。

オ:おっしゃる通りですね。体が一つしかない、1日が24時間しかないのをどうやって割り振るの?って、これもう人生そのものですよね。

K:そうですよね。

オ:最難関校に合格するのに何が必要かというのは、お兄ちゃんの時にすでに経験がある。一般的な親御さんは、雲を摑むような状況で進んでいる方が多いわけですが、そこは全体像が見えているじゃないですか。その時点で、ものすごくアドバンテージ。世間一般の“中受沼”にハマるってことは、お母さんの場合はないんだろうなって思う。でも今回はそこに100%リソースが割けない中でどうすんのって、上級編になったわけですよね。面白いですよね、子どもって。「お母さんこれじゃ楽勝でしょ」って、「だから新しい課題を設定しました」って。子どもって、次から次に新しい課題を与えてくるから(笑)。

K:まさにその通りです(笑)。

オ:三男さんとはどう話しているんですか?

K:夏期講習にプラスして夏季集中特訓というのがあって、それに入れるつもりじゃなかったのに、本人が申込書を持ってきて、「僕これに行きたい」って。「お金もかかるし、6年生からでいいよ」って言ったのに、お兄ちゃんと同じ学校に行きたいから頑張るって。なので、離婚した夫にも急遽相談して、この額を捻出して。三男は発達の凸凹もあるんです。

オ:結構凸凹あるんですか?

K:子どもたち3人ともIQのテストを受けたんですが、次男がやっぱり一番凸凹が少なくて、だから受験でもいい結果が出せたのだろうと。長男がいちばん凸凹が酷くて生きづらい感じで。次が三男でした。

オ:ご長男も中学受験はしたんですよね。

K:できたばかりの学校に行ったのですが、行きづらくなってしまって辞めて、地元の中学校から、高校は通信制に通っています。ほとんど部屋でオンラインゲームやってますけど。

オ:お母さんは現代の子育てのいろんなことを経験されていますね。発達の凸凹のこともわかっているし、伝統校のことも新興校のこともわかっているし、公立のことも通信制もわかっているし。すごく広い視野でご覧になっていると思うので、今話を聞いていて何も心配ないけれど。

K:いやいや、3人とも個性が本当に強いので。経験でなんとかなると思ったら、本当におおたさんのおっしゃる通り、新しいことが次々と。何人育てても、こんなに経験が通用しないものかと(笑)。三男は能力的には次男より苦労するかもしれないと思っていて。でもその分、三男のほうが真面目なんですよね。宿題もコツコツやるし、頑張るから。そういった話し合いはできていて、芸能活動も夏以降はかなり絞らなきゃいけないねって、今話しています。お兄ちゃんの時を見て、6年生になったら勉強時間がもっと必要だなってわかっているので。

悩み自体が自分の人生を選択していく営みそのもの。
「親子で話し合って決めた」で後悔を最小限に

オ:親子で見通しを話す。素晴らしい。まずはこの学校に行きたいと決意して努力を惜しまないのも素晴らしいし、芸能活動も諦めたくないと思って続けているのも素晴らしいですよ。それだけでも11歳の男の子には金メダルをあげたいですよ。

K:でも多分11歳なので思い込みが強いところもあると思うんですよ。ほかの学校を見たら、素晴らしい学校ってたくさんあると思うんですよね。

オ:お母さん、それは本当に素晴らしい。それもわかっているんですね。すごくいいお話を聞かせてもらっています。悩み自体が生きている実感というか、悩みとは言いながらね、それが自分の人生を選択していく営みそのものですよね。いずれは1人で選び取っていくけれど、今は伴走できるギリギリのタイミングで、選択肢があるなりのジレンマに自分たちがどう向き合うのかっていう、向き合い方を問われていると思うんですよね。とはいえ、後悔をしないためにどうしたらいいかってことじゃないですか。

K:はい。

オ:揺れ動く中で、いざという時には従うべき軸を決めておくといいと思うんですよね。「ついつい欲張っちゃうけど、結局のところ自分たちにとっていちばん大切なことってなんだろうね」って会話をすることにすごく意味があると思う。

K:あ、ちょっと方向見えました。いまはとにかくがむしゃらに頑張ろうねって話をしているんですが、寝不足で学校にも遅刻していることもあるので、笑顔がないとか、健康状態が悪くなったり、風邪を引きやすくなったりしたら、「ちょっと待って」って立ち止まって一緒に考えることが大事だなと思えました。

オ:模試と芸能活動のどちらを優先するかなんて、ケース・バイ・ケースでしょう。その都度悩みながら答えを出すんだろうなと。その決断を後で振り返って、「ああやっぱり模試受けとけばよかった」とか、「芸能活動とっておけばよかった」ってことも一つや二つあると思うんですよ。でも「親子で話し合って決めた、ベストを尽くした判断だったよね、あの時は」って思えれば、後悔は最小限になると思うし、それ以上に、中学受験が終わった時にお母さんへの感謝が残ると思うので。

K:ふふふ。

オ:そういう覚悟とガッツがある子なら、たとえ第一志望じゃなくても、本人が生き生きとする学校に必ずご縁を繫ぐと思う。どんな結果であれ、お子さんは自分が選んだ道を正解にできるだろうなって、今の時点から伝わってくるのでね。

K:ありがとうございます、ちょっと泣きそう。

オ:いやいや、お母さんが本当に寄り添っていらっしゃるからできることだって思います。僕はいつもながら、なんの解決にもならないことをダラダラ言っているだけです。すみません。

K:小さな悩みとして、私の判断にかなり責任があるなって。うちにはパパがいないから、大きな判断がほぼ私の一存で決まるっていうプレッシャーがあるんですよ。

オ:それはそうですね。パートナーがいるとそれはそれで意見がぶつかった時にね、「余計なこと言うなよ」って思ったりするけれど。責任は半分になりますもんね。

K:これも答えがない悩みですけど、ちょっと責任が重いなって。

オ:お母さんがいま感じているその不安…。それも本当に解消しようとは思ってないですよね。

K:そうですね、抱えながら生きていくのかなと。

オ:でも不安が大きくなりすぎちゃった時にどうするかっていう、避難場所、防御壁があるといいのかもしれないですよね。取り除くことはできないけれど、お母さんが負けないための防御壁を見つけておくことが本質かも。

K:そうですね、はい。

オ:なんだろうな、お母さんが無理しすぎないでほしいなっていうか。

K:ありがとうございます、ふふ。

オ:そこでお母さんが誰かに頼れれば。お兄ちゃんたちももちろん頼りになると思うけれど、そうじゃないところで誰か頼れればなって。

K:私、実はおおたさんの大学の後輩なんですよ。大学の友だち、気持ちの強いコも多いので離婚しているコも多くて。男のコも仲良くて、かなり頻繁に会っています。中学受験の子どももいて、同じような悩みを抱えている人もいて、同じようなタイプのコもいるので、話をするとすぐにわかってくれます。そこの存在は大きいかもしれないですね。

オ:それは良かったですね。お母さんが、自分が無理していないかなってセンサーを働かせてね。いろんな状況があると思うので、息子さんの元気を守るのも大事だけれど、自分にも優しくってところを心の片隅に置いておくと違うかも。こんなことしかアドバイスできないけれど。

K:このあと迷った時に、自分の中で指針にできる言葉ができたと思います。いい経験をありがとうございました。

オ:いやー、いいお話を聞かせてもらいました。ぜひ生き生きとした中学受験と芸能活動を続けてください。

【 おおたさんからひとこと 】

現代の子育てのあらゆる要素が凝縮されたようなご相談でした。迷いながらもそれに堂々と向き合うかっこいいお母さんですね。私自身が、とても勉強になりました。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/

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イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/水澤 薫

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