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【中学受験相談】偏差値40台!のんびり屋の小4長女に試験本番まで並走できるか不安です

『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、「高い点数を取りたい」という野心がない長女に、このまま仕事をしながら3年間並走できるのか今から不安というお母様からの相談です。

【今月の質問】

受験に向けて走り出したものの
「ここまでやるの?」という気持ちで
すでに息切れ気味です
[受験進路相談室]

Mさんの場合

【家族構成】
夫、長女(小4)、次女(年長)

【今回相談する子どもの状況】
のんびりした性格の長女は勉強には向いていなさそうだと思い、自分でやりたいことを見つけられそうな高校受験を考えていましたが、色々調べているうちに、中学受験の方が6年間のんびりできて、むしろ長女の性格に合っているのではないかと思い始めました。受験させるにしろしないにしろ準備をしなくてはいけないと思い、小3の2月から入塾させました。実際に通塾がスタートしたところ、宿題の多さにびっくり。塾のない日は学童から帰宅後の18時半から宿題を始めて、22〜23時までかかることも。ピアノの練習をする時間もなくなりました。夫には「家にいる時間はほとんど勉強じゃない」と言われ、心に刺さりました。これだけやってもテストの結果は偏差値40台。私も中学受験を経験しているのですが、偏差値は60以上を目指すものと思っていたので、長女の成績に愕然としました。マインドシフトして、偏差値よりも推薦枠が多い学校などを探そうと考えていますが、「それならここまでやる必要があるの?」と悩んでいます。長女には「高い点数を取りたい」という野心がないようで、このまま仕事をしながら3年間並走できるのか今から不安です。

Mさん(相談者):長女が4年生になりました。とりあえず2月くらいに塾の説明会に申し込んでみたところ、たいがい入塾テストと説明会がセットなんですよね。それで娘を引っ張ってきまして、受けたら本当にギリギリで受かって。塾も「今入らないと、単元がどんどん進んで追いつくのが大変になる」と言ってくるので。ぐるっと巻き込まれた感じで入塾しました。入ったら入ったで、生活が激変して。

オ(おおたさん):どのように?

M:普段は夜6時に私が帰るんですが、塾のある日は帰ると9時で、そこからご飯。塾からの宿題が多くて、つきっきりで。10~11時まで宿題が終わらないんです。塾がない日も同じくらいかかります。ピアノもやっているんですが、練習いつやるの?と。テストが毎週あって、テストを受ければ偏差値は40台。ここまでやる必要があるのかなと思いつつも、やれば一応できるようになるので私も手を抜けません。ここまでの3ヶ月で、すでに息切れ状態です。地頭がよくてどんどん上を目指せるタイプではなさそうです。「上のクラスは宿題が多いから嫌だ」とか、向上心のないことを言っています。どこまで頑張らせていいのかもわからなくて。見極め方とか今後どうなるかを知りたいです。

オ:始まったばかりの3ヶ月だからお母さんも手探り状態ですよね。それでいい塩梅を見つけていくのが4年生の1年間なので。だから今そうやって「これでいいのかしら」「もっとやったほうがいいかな、こんなにやらなくていいのかな」って思っているのが正常というか、みんながそうだと思いますよ。

M:そうですよね。あの、塾から与えられたものが多いのは、塾は「これだけ与えたから」ということにしたいだけなんでしょうか。

オ:そうそうそう。

M:これはやっぱり取捨選択すべきなのか、与えられたものを全部やるべきなのかとか。

オ:それはもちろん前者でしょう。でもお母さんが取捨選択するのではなくて、塾の先生に相談するのがいいんじゃないかと思います。

M:塾から配られた冊子には、勉強時間が4時から10時で、その間に食事休みが2時間あってって書いてあるんですが、まず4時からやれない。学校の宿題が多くて、毎日30分くらいかかってしまって。塾の先生も10時には寝てくださいって言うんですが、どうやって?と思います。

オ:えっ?4時から10時って、4年生の勉強時間としては多すぎないですか?過労死しちゃうレベル。塾がそんなこと言ってるんですか?

M:冊子に書いてあって。

オ:それ、4年生用ですか?

M:わからないです。〇〇中に合格した○○さんの1日のスケジュールがこうですって。

オ:6年生の最後だとそうかもしれませんね。いますでにいっぱいいっぱいなら、塾の先生に、10時に寝ようと思ったら時間が足りませんって言うしかないですよね。お尻叩いてやらせても、3年間もたないと思いますよ。「うちの子のライフスタイルでこなせる宿題の量はどのくらいですか?」と優先順位をつけてもらうといいんじゃないですか。他の子よりも目先のテストの点数が落ちるかもしれないけれど、ここで足腰鍛えておかないと続けられないですから。

M:はい。勉強はどれくらいするのか、一般的なものがわからなかったので。

オ:「痩せ馬の先走り」ということわざもあるように、いまたくさん勉強していてとりあえず目先の点数を取っている子がそのまま伸びていくかもわからないから。

M:「4年生になるとこれくらいやるのが普通」って言われるんですよ。

オ:誰が言うんですか?

M:周りの人です。受験させるママ友とか。

オ:それは無視してください。嘘ばっかりですから。

M:でも大手塾に行ってるんですが、4年から入っている子は学年全体の半分くらいと聞きました。5年になると本当に数人。だからもう塾に慣れている子が多いみたいです。

オ:ああ、慣れの差はあるかもしれない。どんなに早くても、慣れるまで半年はかかると思います。今は焦らなくてもいいと思います。焦って目先の偏差値がとれたとしても、夜遅くまでやらせているのであれば先細りになるので。その子のペースを掴んで、ちゃんと足場を固める。生活リズムを壊さないことを優先すべきっていうのは大原則なのかなと。中学受験というより子育ての大原則ですよね。

M:私も中学受験の経験があって、塾から与えられているものをガチでやらなくてはそこそこの学校には行けなかったと思うのですが、そういう学校ではないところを偏差値ではない視点で探すときでも、今みたいな足場固めが必要なんでしょうかね。

オ:そうですね。どこまでを基礎固めっていうのかわからないけれど、後々応用が解けるような計算力や、国語でいうと語彙の獲得は積み上げておかないといけないんだろうなって思うんですよね。逆に言えば、それだけできていればその子なりのところに決まっていくはず。中学生なら反発してくれるからいいんですよ。高校なんて受けないよって。けれど、小学生はそれができないからやらせすぎちゃうことがある。まだ12歳の子は、親の言うことを聞いてしまう。小学校4年生なんて、10歳ですよね。

M:まだ9歳です。3月生まれだから。

始めたばかりはどうしても試行錯誤
無理せず子どものペースに合わせることが
最高のパフォーマンスにつながります

オ:現実として中学受験が今そこまで過熱しているなら、僕も穏やかに聞いていられないというか……。塾ももうちょっと考えてくれよという気持ちになります。これはこの子たちを本当に幸せにするのかって問いから塾が逃げているって思います。ごめんなさいね、話が質問から外れてしまいました。

M:やればやるだけできるなら、やらないのが悪いのかなって。

オ:そう思わされちゃいますよね……。各ご家庭の教育観やライフスタイルの中に中学受験をどう位置付けるかって、どうしても試行錯誤になります。1を聞いて10理解する子ならサクサクいくケースがまれにあるけれど、まあほとんどないので。いかに塾と家庭が連携して子どもを支えるハッピートライアングルを完成させていくか。まずはそこだと思うんです。

M:あー。なるほど。

オ:小3から塾に通っていれば、新しい子たちがごそっと入っくる小4の時点では偏差値が高く出るんですよ。慣れているから。だから「あー、早めにやっておいてよかった」って思うんです。だけど半年1年やっていくと、あとから入ってきた子たちも慣れてくるから結局抜かされちゃう。そうなるとめちゃくちゃ焦るんですよ。で、やらせすぎちゃったりするとおかしくなる。だから早く始めるのにもリスクがあります。

M:はぁー、そうなんですね。

オ:中学受験の勉強を始めたばっかりのころは「うちの子はどこまでポテンシャルがあるのかしら」「あるなら伸ばしてあげたい」って、当然の親心じゃないですか。だけど無理をしてポテンシャルが上がるわけではないと思うんですよ。その子なりのペースでやったことが、結局最高のパフォーマンスにつながるんですよね。目先の成果を焦って下手に子どもに無理させてしまったり、あるいは「こんなんじゃダメじゃない」って子どもを傷つけてしまうと、「勉強ってつらいんだ」「私こんなもんなんだ」って、自己暗示をかけちゃうから。それこそあとからではどうやってもほどけない、呪いみたいなもんですよね。怠けているときに、ちょっと油断してるんじゃないのって思うかもしれないけれど。でも小学校4年生を脅して勉強させたところで、それは子どもを傷つけることにしかならないと思うから。あるいは、「ここでいい点数が取れないなら、あなたの人生はお先真っ暗よ」なんて脅せば、子どもは怖いから自分からやるようになりますよ。

M:ふーん!

オ:世の中ではそれを「自主性」って言っちゃったりしてるんですよ。「自分から机に向かう子」なんて言っちゃって。でも違いますよね。脅されているからやっていることであって。それは非人道的だと思うんです。そういう中学受験とは距離を置くっていうところで、いまは親が試されているんだなって思います。そういう時に「それじゃ甘いのよ」って、素人の親とかSNSの人たちが言っていたりするんでしょうけれど、それは聞き流せばいいというか。横からそういうことを言ってくる人ってちょっと特殊じゃないですか?自分の軸がしっかりしている人って、たぶんよそのご家庭の中学受験に口なんか出さないはずなので……。ごめんなさい、あんまり解決になってないなあ。

M:あー!いやいやいや(笑)。なんか、やれるだけやらなきゃいけないっていうマインドを持ってないといけないと思っていたんですが、小学生らしい生活とか家庭の方針のほうが重要なのかなってことは、わかりました。

オ:算数の宿題が毎日2時間ぶんだとしても、他の教科とちゃんとバランスが取れているんならいいけれど、それぞれの教科がそれぞれに、「不足のないように多めに出しておきますね」ってなってたら、高齢者がいろんな病院でそれぞれの薬をもらってきてオーバードーズになるみたいなね。そういう状況になっているなら、それはさー、もうちょっと塾のほうでコントロールしてよって思います。

M:そうですね。

オ:量を減らしたことで偏差値が落ちても先生たちのせいにはしないからと。家族のライフスタイルとか小学生らしい生活を保てる範囲でやるべき課題の優先順位を教えてくださいって相談をして。この1年間をかけて、いろいろさじ加減を調整してみる。トライアンドエラーもあると思います。やらせすぎちゃったってエラーもあれば、ちょっと努力が足りなかったってエラーもあるだろうし。それにしても、4年生からそんなにやらせるんだなって。今、僕がちょっとモヤモヤしてますもん。これどうしたらいいんだろうなーって。

M:ああ、そうなんですね。そんなもんだよって言われるかと思っていました。

オ:そこに疑問を感じられるってことは、お母さんは真っ当なんだなって僕は思いますよ。過激な中学受験に過剰適応しちゃうと「そんなもんじゃない」って言われるのかもしれないけれど、そこには適応しないでいいと思います。

M:わかりました。ありがとうございます。

【 おおたさんからひとこと 】

4年生からそんなに負荷をかけるのが当たり前になりつつあるのかと思って、私自身がものすごくモヤモヤしました。いまどきの中学受験では、「そこまで犠牲にしなければならないなら合格できなくていい!」っていう譲れない一線を予めもっていないと、まわりに流されてしまって危険かもしれないですね。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/

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イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/水澤薫

 

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