【中学受験相談】弟の受験に不満をぶつける姉に、親はどう対応すべき?
『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、受験を控える6年生の弟さんのマイペースさに対して、中2の姉に「私のときと対応が全然違う」と言われた時、どう対応すべきか悩まれているお母様からの相談です。
こちらの記事も読まれています
【今月の質問】
中学受験を伴走し合格した長女。
小6の弟に「私のときと対応が全然違う」と言います
[受験進路相談室]
Kさんの場合
【家族構成】
夫、長女(中2)、長男(小6)
【今回相談する子どもの状況】
地元の個別指導塾に小4から通塾、7歳から現在も陸上教室を継続中。長女の受験にはスケジュール管理含め私がかなり関わっていました。ただ、息子は学校の宿題をさせるのも大変なタイプ。学力も高いとは言えません。そこで息子に合う塾を探すことを第一優先にしていたところ、今通ってる塾に出会いました。スケジュールや内容も塾と本人任せにしていて、私がガミガミ言うことも減りました。ただ、娘がときどき「私のときと全然違う」「全然勉強してなくてほんといいよね」と言うことがあり、そのたびに言葉に詰まります。また、娘と息子で全く異なる受験スタイルのため、どんな結果が出るのか、多少気になるところもあります。
Kさん(相談者):子どもが2人います。上が中学校2年生の女の子で、2023年に受験が終わりました。下は6年生の男の子で、これから来年に向けて中学校受験をしていくんですけれど、男の子と女の子、性別と特性も違いますし、私も1人目と2人目の受験に対する意欲が違います。
オ(おおたさん):どんなふうに違うんですか?
K:お姉ちゃんのときは親子でつきっきりになって3年間突っ走った感じ。素直に言うことを聞いてくれて突っ走った感じです。逆に下は、とにかく言うことを聞かない。自由で本人の意思も強いんです。まあ2番目、私も2回目ということで、いい意味で気を抜いた感じで本人の意思を尊重して中学受験に取り組んでいるので、怒ることも少なくなりました。そのぶん「今のままじゃゆるいのな?」と不安になることがあります。
オ:なるほど。
K:でもその中で、お姉ちゃんと弟が違うので、それを子どもに対して聞かれたときに、どういった声がけをしていったほうがいいのかなと。
オ:聞かれるというのは?息子さんに?
K:いや、お姉ちゃんです。お姉ちゃんからすると自分はすごく勉強していたっていうのもあるので。弟はゲームもするし旅行もするし、お姉ちゃんと比べるとお勉強時間も違うので。なんでこんなに違うのっていうのもあるかもしれません。
オ:なるほど。なんでこんなに違うのって、お姉ちゃんが気になるのはどういう心境なんでしょうね。
K:うーん、例えば、自分がすごく学校で疲れていたりストレスをためてたりすると家で発散するんですけれど、そういうときに出てくるのかなって今思いました。
オ:あ、不機嫌なときに、文句のような形で聞かれるんですかね。それってどういう心境なんでしょうね。
K:あ、思い出しました。些細なことなんですけれど、なんかその、うち子ども2人とも好きな食べ物があって、よく弟がお姉ちゃんの分も食べちゃうときがあるんですよ。だから自分の分を弟に食べられちゃったときに、そういう発言が出てきたかなあと思って。
オ:ああ、そういうことですか。今の文脈で言うと、自分の楽しみにしていたお菓子があって、それを食べられちゃった制裁としての質問ですよね?
K:ああ、そうかもしれないです。
オ:弟にもっと勉強させなさいよっていうアドバイスというより、お菓子を取られた制裁?苦行?として、もっと勉強させたいと思っているように聞こえたんですけれど。
K:うーん、そういうときもあるのかもしれない。ただやっぱり、自分がしてきたことに対して量も少ないから……。それでなんでっていうのはありますね、普通に……。
オ:自分よりも弟が少ないからって、お母さんに「なんで?」って聞くのは本来的には意味がないと思うんですよね。でもそこで聞きたくなっちゃう気持ちはなんだろうなって。あるいは、自分に対するお母さんの態度と、弟に対するお母さんの態度が、勉強に限らずいろんなところで違っていて不公平じゃないのって根源的には言いたいのか。
K:ああー…うーん…でもそうなのかもしれないですね。
オ:ごきょうだいは2人だけ?下は男の子ですもんね。そうなると世間一般的に、お母さんは下の男の子を可愛がっちゃって、っていう。
K:あー、確かに。
オ:それが中学受験の状況だからそれを言うだけで、一緒に買物に行くときに私には何も買ってくれないのに弟にはお菓子買うのずるい!みたいな類いの話なのかもしれないですよね。
K:それあるかもですね。うんうん、そうなのかも。
オ:だとしたら中学受験は関係なく、お姉ちゃんはちょっと私にも甘えさせてよとか、私のことをもっと見てよとか、本人は自覚していないのかもしれないけれど、弟がうらやましく見えたときに本当の気持ちとは違う気持ちをメッセージとして発しているのかなと。
K:あー、そうですね、そうかもしれない。ついつい私も、気づかないところであるのかもしれないですね。うん。
オ:だとしたらたぶんね、弟の勉強にお母さんがガーッと関わってお姉ちゃんのとき以上にじゃんじゃん勉強させていたとしても、「私よりもすごく面倒見ているんじゃない?」って言うかもしれない。
K:そっかそっか。
オ:もしそういうことが原因なのであれば、お嬢ちゃんと2人でゆっくり過ごす時間をね、ちょっと意識的につくってみたりとか。それこそ弟さんが塾に行っている間に2人でファミレスに行ってスイーツを食べるとか、そういうスペシャル感を演出すると落ち着くのかもしれない。
K:なるほどー。そうですよね、うんうん、そういう時間が必要なのかもしれないです。
何か意味のわからないことを言われたときには、
「この子にこれを言わせているものは何なのか?」って、言葉の背後に
あるものを想像してあげるのが必要な場面もありますよね
オ:子どもの場合は何かモヤモヤと抱えていることを正確には言語化できなくて、別の言葉が出てきてしまうことってありますよね。それを額面通りに受け取ってしまうとねじれたコミュニケーションになってしまうことってよくあるんで。何か意味のわからないことを言われたときには、「この子にこれを言わせているものは何なのか?」って、言葉の背後にあるものを想像してあげるのが必要な場面もありますよね。今回の場合、中学生の女の子らしいかわいいコミュニケーションかなって思いますね。ほほえましいなって感じがしました。
K:あー、そっかそっか。
オ:中学受験が終わってちょうど1年ですよね。小学生時代はお母さんがつきっきりと言っていたから、そこから上手に手を離されたと思うんですよ。それは素晴らしいこと。でも中学受験の3年間があまりにも濃密だったから、下の子の中学受験が始まっちゃって、急にお母さんを取られちゃったみたいな、なんかそういうふうに感じているのかもしれない。
K:ふーん。
オ:だからそれくらいでちょうどいいのかもしれないですよ。中学受験が終わってもやれ中間だ期末だって関わってしまう人も多いところで、上手に適度に手を離して。それは素晴らしいこと。だから、それで向こうから「ちょっとお母さんお母さん」ってちょっかい出してきているわけですよね。そういうときは相手してあげればいい。「ほっといてよ」っていう独立心と、「でもまだまだかまって」っていう依存心と、その揺れ動きが思春期だから。すごく真っ当に、中学受験を終えて次のステップに進んでいる証拠だと思います。
K:ああ、よかったです、よかった。
オ:さらに素晴らしいのは、上のお姉ちゃんとはつきっきりだったけれど、そのタイプの違いを見越して、下の子とは違う距離感でできている。お姉ちゃんの成功体験があるから、多少タイプが違っても成功体験にあてはめちゃう人がいるけれど、その子の性格に応じた関わりができているのは素晴らしいと思うから。
K:いやー、それは嬉しいです。
オ:学力的にもちょっと違うと仰っていたから、お姉ちゃんと結果が同じように出るかどうかはわからない。それぞれの中学受験の親和性っていうのかな?アウトプット、結果はそれぞれになると思うけれど、今のお母さんの状況ならこの子はこの子のベストを尽くして、その結果この子にとってご縁あったところに進めると信じてあげていると思います。今のスタンスでいれば、本当の意味でおおらかな中学受験ができるんじゃないかなと。お姉ちゃんはお姉ちゃんのタイプで頑張って、たぶん第一志望のいいところに合格できたんだと思いますが、弟は弟の、こういう中学受験もありなのよねって、納得できる中学受験ができるような気がする。
K:うんうん。
オ:これは相当お母さんの軸がしっかりしていないとできないですよ。なんでお母さんがそれができるのかって、僕、興味あります。
K:いやいや、なんかやっぱりお姉ちゃんもそうだったんですけれど、つきっきりで見ている中で、子どもたちも苦しむんですよ。その姿を見ると自分も苦しくて。でも自分が苦しいと子どもも苦しい、同じ気持ちなんだと気づいたら、これってなんか違うんじゃないかって。
オ:はぁー、すごい。
K:やっぱり子どもなりのペースで、苦しまずにやっていかないとダメだなって。で、下の子の、新しい塾を、全く新しいところを探して、その先生の考えと私の考えが一致するところが見つかったので。ここに通い始めてから私も怒らなくなって、怒ることが減ると子どもたちの笑顔も増えて、家の中でものびのびして。家の時間も良くなったと思います。
オ:僕が理想とする中学受験の構えだと思います。
K:嬉しいです。
オ:それは上のお嬢さんのときは苦しそうだなって気づいて、自分が苦しいと子どもも苦しいと。だけどお姉ちゃんのときは突っ走った?どこか途中で変えたんですか?
K:そうですね、途中で。娘が学校生活を満喫していて、それを見ていたら、私の意思じゃなくて、娘の意思を、本当の意味で尊重していくのが大事なんじゃないかって。それに気づいたのが12月。ギリギリに気づいて、全部本人の意思で、最後の最後で全てを決めていった受験だったんですね。
オ:へー!素晴らしい!
K:だから全てが納得いく形で終えることができて、だから私と夫も納得いく形で終われたんです。
オ:素晴らしい。一番最初に「私の意欲も違って」とおっしゃったけれど、意欲がないわけじゃないと思うんですよ。やる気がないわけじゃなくて。
K:あー、そうですね。うんうんうん。
オ:肩に無駄な力を入れないで、子どもと向き合えるようになったと。何かを犠牲にしてやらなきゃいけないことじゃないって、お姉ちゃんのときに体験的に学べたってことですよね。そうすると弟さんの中学受験に対して直接的な悩みはなくて?
K:そうですね、本当に本人がこの状態で受かるところを受けて、もしダメなら友達がいっぱいいるので、それはそれでいいのかなって。
オ:興味深いお話でした。そのまま進んで、お嬢さんとの関係もああだこうだやりながらやっていければ。また1年後が楽しみです。きっと家族が笑顔になっていると思います。
K:頑張ります。
素晴らしいお母さんでした。でもこのお母さんも最初からそうできたわけではありません。初めての子どもの中学受験で自分ももがき苦しんで、この境地に達したのだと思います。それでいいんです。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/
おおたとしまささんの最新刊
『中学受験生を見守る最強メンタル!』発売中!
イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/羽城麻子