【中学受験相談】
テストでケアレスミスが多い子どもに親の「もったいない!」発言はどう響く?
VERY NAVYの人気連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』が『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化! 過熱する中学受験や受験をとりまく現状に悩むママたちに向けて、「どんなにしんどいときでも子どもを動揺させない心の柔軟性を見つける」36の心のエクササイズを提唱しています。今回は、そんな書籍に掲載されたお悩みの一部を公開します。
【今月の質問】
私があれこれ言って子どもを
潰してしまうんじゃないか心配です
[受験進路相談室]
<Wさんの場合>
【家族構成】
夫、長女(小4)、次女(小2)
【今回相談する子どもの状況】
長女が3年生の2月より日能研に通塾中。ほか、バレエ、スイミングなどの習いごとも。
【相談内容】
基本的な学力については1年前と比べてついてきた感触はあるが、ケアレスミスや問題文の早合点などが多くテストでの点数が思うように伸びない。先日もテストの振り返りをしたところ、少なく見積もっても4教科で70点ほどのケアレスミスが発覚、私がものすごく悔しく熱くなって「もったいないもったいない」と連呼してしまい娘は黙るのみ…という状況になってしまいました。
私自身が中学受験を経験しているわけではないので、アドバイスできることは高校受験から学んだ経験であり、その年齢から4〜5歳幼い小学生の子に同じことを求めるのは酷なのかな?とも思えます。とはいえ、このまま親があれこれ管理している状態ではたとえ志望校に合格しても成功だったのかな?と思ってしまいそうなのでこの受験勉強の経験を通して自律的に考えて行動できる力を養ってほしいのですが厳しすぎるでしょうか?
私ごちゃごちゃ言わなかったとか、一瞬ギクッて思ったけどちゃんと抑えられたとか、「できちゃった体験」に注目してください
W(相談者):新4年生から日能研に通っています。ちょっとやってみようという軽い気持ちで始めました。中学受験ってどんなものなのか、ちょっと踏み入れてみたくなったっていう親のエゴがスタートなんです。でもやるからにはちゃんとやらせたいなと思ってかなりサポートしながらやってきて。夏休み明けから点数こそ変わっていないものの、中身が変わったなっていうか、秋以降、徐々に力はついてきているなっていうのはあるんですけど、ケアレスミスだったり、問題がちゃんと読めてないだけだったり、すごくもったいないのが目立ちます。この週末のことなんですけど、そういうのをぜんぶカウントしていったら4教科で70点くらいあって、歯痒くて。
オ(おおたさん):塾に通い始めて約1年。夏休み明けから中身が変わったと。まずそこに気づけるのがすごいですよ。ケアレスミスが70点あるというのは純粋に言えばそこは伸び代で、今の時点で頑張ってるね、できてるよって、本当はあと70点分取れるんだからっていう形で使えれば、お子さんも前向きにもったいないって思えるのかなって。その惜しい部分はどういうふうにお嬢さん自身は認識しているんですか?
W:私もそうやって伝えているんですけど、そうすると満足しちゃうんですよね。「私、できてるんじゃん」って。でも、記述式ならプロセスも評価してくれるけど、そうでない場合、わかってるバツとわかってないバツって同じに捉えられちゃうから。そこが私は悔しいと思うけど、彼女は思わないっていう。
オ:なるほど、そこは僕も答えやすいなって思ってるんですけど、中学受験の目的っていうのは、今から2年後の本番で力を発揮することじゃないですか。だから、わかっているものを確実に点数に変える力が2年後についていればいいわけです。その子の性格によってケアレスミスが多い子と、それを潰すのが上手な子はいますけど、今の時点ではそんなに気にしなくていいんじゃないの?って。今、力があるんじゃんって思えるお嬢さんの性格は素晴らしいなと思いますし、それを生かして、そうだよって調子に乗せてあげることが重要かなって。逆に小さい時にあなたはケアレスミスばかりするから70点低いのよって言うと、自分はそういう人間なんだって呪いにかけられちゃうから。4年生でハイパフォーマンスを求めようとしたらいかようにもやり方ってあるんですよ。試験範囲も狭いし。でも、それをやってるとカリスマ家庭教師の安浪京子さんがよく言う「フェイク学力」になってしまう。最初は良くてもじり貧になっていく。少しの勉強でも点数に表れる子とそうでもない子がいると思うんですけど、その子なりに頑張る経験、必ずしも結果が思い通りじゃなかったとしても前向きに捉えていく内面の経験を積んでいくことが、中学受験をすることの意味だと思うので、結果に表れてなかったら無駄って思わない方が中学受験という経験を豊かなものにできるんじゃないかなって。
W:自立とか、しなやかさみたいなものとか、打たれ強さとか、そういう力がつけばいいのかなって思いはあるんだけども、見えてこない結果にもモヤモヤしてしまいます。
オ:自立性や打たれ強さ、最近の言葉で言えばレジリエンスというものを身につける中学受験っていうのは、僕の価値観とも一致するんですけど、一方で結果を求めてしまうっていうのは、まぁそりゃあ子どもが頑張ってたらその分の結果が出てほしいなっていうのは親の性だと思うので。
W:結果を成功体験やバネにしてほしいなって。
オ:結果を出すことによってやればできるっていう好循環を生むのはいいことだと思うし、結果を求めること自体は親の性だし。たとえば親子で釣りに行ってせっかく魚がかかっても逃しちゃったら「何やってるの!」ってなることありますよね。そういう親の性とどういうふうに付き合っていくか。つい本人以上に私の方が悔しくなっちゃうんだよなっていうのは、中学受験という機会に親として存分に味わってほしくて。それは親であることの醍醐味なわけだから。でも、それをそのまま子どもにぶつけてもいいことない。わが子のまだ足りない部分には親として気づいておかなければいけないんですけど、そこにあまり注目しすぎないこと。親が注目しているところを子どもは自己像として強化していってしまうので、ネガティブなところは見て見ぬフリをしていくのが原則なんだろうなって。
W:そこがどうしても態度に出ちゃうんですよね。ポジティブ変換とかすればいいんでしょうかね。
オ:いろんなやり方があるんだろうな。ポジティブ変換みたいなやり方もあるだろうし、「そこでネガティブに反応してしまう自分って何なんだろう。なんでこんなに悔しい思いをしてしまうのか。その価値観はどこで培われたものなのか」をお母さん自身が探求していくという方法もあると思う。最初から人間的に完成している親なんていないので、皆さんが似たようなプロセスを踏むんですよ。最初は「自分の受験なのになんでうちの子はこんなにやる気ないの?」って思うの。それを言いたくなっちゃう気持ちをどう処理するかっていうのは、お母さんに突きつけられた課題。お子さんが算数の難しい問題と向き合っている時に、お母さんは自分が持っている信念と向き合って、その正体を探るという課題に挑む。だいぶ抽象的なことを言っていますけどね。
W:概念的にはわかるけど、行動として自分を抑えられるかなって思いますね(笑)。
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Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子
VERY NaVY5月号『おおたとしまささんの「悩めるママのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2022年4/7発売VERY NaVY5月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。