【中学受験相談】“ゆる受験”のつもりが本人がやる気。もっと上を目指すべき?
ここ数年、1都3県の中学受験者数は前年度を超えています。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です! 今回は、本人の希望をどこまで重視するか、親はどう考えてアドバイスしたらいいのか悩んでいるというお母様からのご相談です。
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【今月の質問】
兄の受験を経験して、
妹には「ゆる受験」をと思ったけど…
親として葛藤があります
[受験進路相談室]
Nさんの場合
【家族構成】
夫、長男(中2)、長女(小5)
【今回相談する子どもの状況】
小4の2月から栄光ゼミナールに通塾。3つ上の兄の時にガッツリ中学受験を経験しました。おっとりタイプの息子は第一志望には縁がなかったのですが、中学生生活をエンジョイ中です。娘はマイペース、自我強めな性格です。娘は兄のような受験に抵抗があり、私も夫も私立中学への進学を希望するものの親子バトルをしたくなかったので、塾通いを強くは勧めませんでした。塾には通いたくないが私立の共学校に行きたいと言うので、小4の1月までは兄が使った予習シリーズのテキストを使って私が教えながら細々と自宅学習しました。小4の1月に急に自ら塾に通いたいと言い出したので、塾通いをスタートしています。
意外なことに真面目に塾の宿題に取り組んでおり、初の塾内テストが思ったより良い結果でした。難関校にチャレンジしてほしい気持ちがある一方で、学習内容が難しく時間も長くなるならあまり無理しなくていいかという気持ちも。共学の学校は数が多くないこともあるので選択肢は広げたい気もするのですが、本人の希望をどこまで重視するか親はどう考えてアドバイスしたらいいのか悩みます。
既に塾通いが自分ごとになっている。結果的に約1年間塾なしでやったことが、急がば回れだったのかなっていう気がします。
N(相談者):5年生になる娘のことで相談です。3つ上のお兄ちゃんが中学受験をしました。それを見て、自分も私立中学に行きたいと思ったようですが、娘は結構我が強いタイプで、お兄ちゃんのような大変な中学受験はしたくない、塾には通いたくないと言って聞きませんでした。仕方なく、4年生の時にお兄ちゃんが使っていたテキストを使って、私が教えることにしました。集中力は20分くらいしかもたなくて、日々バトルでした。でも、4年生の1月になって、やっぱり塾に行きたいと本人から言い出したので、新5年生が始まるタイミングで栄光ゼミナールに通い始めました。少人数で比較的マイペースにやれそうだと思ったからです。すると、すごく集中するようになって、いまはむしろ頑張りすぎじゃないかと思うくらいに真面目にやっています。このまえ、初めて塾内テストを受けました。すると結構上位の成績を取ってきたので、びっくりしました。この子はきっと中学受験に向いていないんだろうなと思ってたし、本人の希望で、これまでは近所の手頃な共学校を視野に入れていましたが、もしかしてもっと上を狙えるのかしら?と思い始めている自分がいます。選択肢が広がるのはいいことだからもっと頑張らせたほうがいいのか、本人の希望する受験をしたほうがいいのか、夫とも話し合っているところです。
オ(おおたさん):なるほど。ご相談の主旨は、上を目指すようにもうちょっとギアを上げていったほうがいいのかしらっていうところですかね?
N:そうです。
オ:まず確認しておきたいんですけど、お嬢さんが中学受験に向いてないと思っていたのはどうしてなんですかね?
N:やらなきゃいけないことはわかっているけど、やりたくないっていうのを前面に出す子だったので。興味あることはやるんですけど、簡単な計算問題や漢字の書き取りはやりたくない。学校の宿題も10分で終わることを1時間くらいかけてダラダラやる子で。
オ:単純なルーティンが嫌いということですね。すごく賢いし、強い子なんだと思う。言われたことを黙ってやる子のほうが目先の点数は取りやすいし、大人は扱いやすいけど、お嬢さんは自分でこれをやるんだっていうときに出すエネルギーがすごいわけだから、中学受験で力を発揮する可能性はすごくあると思います。それと、塾通いしないで約1年間付き添ったお母さんがすごい。
N:だいぶバトったんですけどね(苦笑)。
オ:バトりながらも、試行錯誤しながら自分の勉強との向き合い方をたぶん彼女なりに考えたんだと思うんですよね。まわりが塾に行っているなかでお母さんと一緒に勉強する不安もあったんだと思うんです。そのなかで自ら塾に通うことの意味を見出したから塾に行きたいと自分から言えた。今はまだ入ったばかりでペースに慣れていなくて大変だと思いますけど、ルーティンが嫌いなはずなのに真面目にやってるわけじゃないですか。既に塾通いが自分ごとになっている。親に言われて通っている子ってなかなかそうはいかないから。結果的に約1年間塾なしでやったことが、急がば回れだったのかなっていう気がします。お子さんの意思を尊重しながら、ちゃんと親が関わってあげた。たとえバトったとしても、ベストな教え方じゃなかったとしても、それって大した問題じゃなくて、自分の気持ちをご両親が大切にしてくれた、自分のやり方を認めてくれた、それに合わせてお母さんができる限りのことをやってくれた。その前提があって、塾に行きたいという自発性が芽生えた。しかも、初めての塾内テストでいい成績を取れて、モチベーションに拍車もかかったと思うし。5年生を、すごく理想的な態度で迎えているんじゃないかなと思います。で、親の欲目が出てきたということですよね。そこで自分の欲とどう向き合えばいいかって悩むこと自体が素晴らしいなと思います。親御さんによっては、だったら上を目指すでしょ!って何の迷いもなく思う人もいると思うんです。お兄ちゃんの時の経験値があって、勢いだけでいっちゃいけないんだっていうのがあるんだと思うんですけど。
N:そうです、そうです!
お母さんがお嬢さんの意思を尊重できたのはすごいファインプレーだったと思いますよ。
オ:ここで二つの観点で話をすべきかなと思っています。一つは選択肢を広げるってどういうことか。もう一つはもっとやらせるべきなのかということ。力がありそうだからと上を目指したらキリがないんですよね。選択肢を広げようと思ったら、たくさんの学校を知ることのほうがよほど選択肢を広げてくれます。人生教育という意味合いで言えば、どんな学校に行っている人たちも素敵なんだ、偏差値で上の方が偉いとかいうことじゃないんだと気づくチャンスですよね。偏差値の高い低いでものごとを判断する価値観はあまり刷り込まないほうがいいのかなと。でもそこはお兄ちゃんの時の経験もあるから大丈夫そうですね。
N:私自身も見せてないところがたくさんあったので、偏差値にかかわらずたくさんあるよっていうのは教えなきゃいけないなって気づきました。
オ:もう一つが、じゃあ偏差値の上を目指しましょうとなったときに、どれだけ負荷をかけるかだと思うんですけど、お嬢さんにもっとやらせようと思ったときに、お母さんの中でどんな選択肢がありますか?
N:栄光ゼミナールは目指すレベルによって宿題の量が違うんです。この先、もっと大きな模試の結果次第で、ここまでやらなきゃいけないって指導されるみたいなので、まずはそれをどうするかっていうところですね。
オ:塾の課題ってだいたいそういうふうに設定されているし、子どもの成績によって宿題が変わるのってすごくいいシステムだと思うので、そこはあまり怖がらなくていいんじゃないかな。だけど、やってみて、これはどうしてもきついぞとなったら、塾の先生に相談すればいいと思います。すごく自分をもっているお嬢さんだから、自分の気持ちを大事にしてあげるのが大原則。せっかく本人がやる気になっているのに、親のほうが先回りして、もっとやったら?なんて言ってしまったら途端にやる気をなくしそうだから。
N:本当にそうなんです。わからない問題や間違った問題をじっくり考えるため時間がかかって大変です。
オ:それって素晴らしいことだから。主体的にやっているというのと、じっくり考えられるのはものすごい財産だから。大人から見たら効率が悪いなと思うかもしれないけど、慣れてくれば、じっくり考えたいけどここはちょっと置いといてこっちやらなきゃって自分で考え始めるかもしれないし。大器晩成型だと思って、長い目で成長を見てあげられるといいんじゃないかなと。
N:でも、すごく焦ってたんです。ほとんどの子は3年生から塾に行っていて、もう無理じゃないかなと思っていたので。
オ:でも、塾内テストでいい成績を取れると親もテンションが上がりますよね。
N:そうなんですよ。
オ:親が圧をかけて勉強させるようにもっていかなくても、自分で進んでいってくれると思うので、それを後ろから見守る役に徹していれば、今はそれでいいんじゃないかなっていう気がします。良い点数を取って宿題の量が増えたとしても、大変そうにしていたら、「大変だね、頑張ってるのを見てるよ」っていうサインさえ送ってあげれば、多分安心して、その安心感が踏ん張る足場になるので、それでいけるんじゃないかなって。いまの状況に関しては以上かなっていう感じがするんですけど、ちょっと余計な先回りを僕がすると、いまの塾で物足りなくなってきたりすると、また悩むと思うんです。あれ?もっとレベルの高い子が集まる塾に行くべき?って。本人が希望するのなら、そこで転塾っていうのは現実的なこととして考えてもいいんじゃないかなとは思います。あとは何かありますか?
N:認知的な問題なのか、7+5=13とかお決まりのミスのパターンがたまにあって、本人も気をつけてるんですけど、またやっちゃったー!ってなってて。どうしたらいいんでしょうね。九九も呪文みたいに覚えているので、割り算する時も呪文を出してこないと出てこない。もっと難しい問題は解けるのに、割り算や筆算で間違っちゃう。本人もしっかり考えてるっていうのを自負しているので、計算で間違っているのをハネられると、すごく努力を否定されているような気持ちになるみたいなんですよね。
オ:そういう特性をもっているのかもしれないですね。そうすると、シンプルに答えだけ書かせる学校よりは、途中式も見てくれる学校が合ってるんじゃないですかね。どうやって直したらいいかわからないですけど、それも特性なんだと思って、学校選びで意識するといいポイントかもしれないですね。最後までそういうのって直らなかったりするのかもしれないですけど、それはそれだと思うしかないのかもしれないですね。縁起でもないことを言いますけど、お嬢さん自身がもっと高みを目指したいと言うとするじゃないですか。レベルの高い学校を目指したいと言ったとして、仮にね、入試本番で7+5が出ちゃって惜しいところで残念だったとしても、そういう受験をした子はその結果を堂々と受け入れて糧にできるから。いまのお嬢さんの魅力を大事にしてあげたら、どう転んでも中学受験はいい経験になるんじゃないかなと思いますね。最初から塾に行きなさい!って押し込んでいたら、こうなってなかったと思うんですよ。お母さんがお嬢さんの意思を尊重できたのはすごいファインプレーだったと思いますよ。
N:うまく着地できれば、ですけどね。
オ:着地をするところがどのレベルになるのかわからないですけど、挑戦して良かったって思えるんじゃないかな。それが一番の財産。自分はみんなに応援されながら、12歳でこれだけ頑張ったんだっていうのは、人生を支えるお守りになるので。
低学年のうちから塾に入れなきゃいけないの?とみんなが思っているなかで、約1年間塾なしでやったことが結果的に急がば回れだったのかなっていう気がします。辛抱強く待つってこういうことなんですよね。学ぶことが多い、すごく興味深いケースでしたね。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/
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イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子
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