【中学受験相談】小5の娘が通うSAPIXがハイレベルすぎて転塾を検討しています
ここ数年、1都3県の中学受験者は前年度を超えています。この連載では、加熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、娘さんの通うSAPIXの内容がハイレベルすぎて転塾を検討しているという、お母様からのご相談です。
【今月の質問】
SAPIXがうちの娘にはオーバースペックな気が。転塾を検討中です
[受験進路相談室]
Sさんの場合
【家族構成】
夫、娘(小5)
【今回相談する子どもの状況】
新小4の2月からサピックスの大規模校に通い始めました。クラスは、真ん中よりちょっと上くらいからスタートして、ずるずるクラスが落ちてきていま真ん中より下に。私自身は中学受験経験者で、両親が勉強を見てくれ週末だけ日本進学教室のテスト生として受験、フェリス女学院中学に進学しています。
サピックスは、内容がハイレベルすぎて、1人では授業についていけず、毎回一緒に復習したり、解説したり、まとめノートを作るようになり、それが負担に。親がいくら頑張っても結果に出てこないことで、親の心が先に折れそうになっています。怒ってはいけないと思いつつ、テストのあとは、「何度も教えたのになぜまた間違えるの?」などとつい声を荒げてしまい、毎回自己嫌悪に。先日「もっと面倒見のいい塾に転塾しよう」と持ち掛けたが、サピックスをやめたくないと泣かれてしまい、とりあえず保留に。娘の意志を尊重し、サピックスを続けさせるべきか、面倒見のいい塾にすべてお任せするべきか。ご意見をお伺いしたいです。
娘の理解が追いつくレベルでやった方が
いいんじゃないかなと思うんです
S(相談者):もともと私が中学受験したのもあって、子どもにもさせたいなって。私の時は、塾には行かせたくないという母親の信念もあって両親が勉強を見てくれて、週末だけテストを受けて、あとは自由に遊ばせてもらっていて。
オ(おおたさん):それは今思うと、いい中学受験ですね。
S:なかなか成績が上がらなくて、親が塾の先生に相談したら、「塾に行ってなくてこれだけ取れてたら十分です」と言われたらしくて。そうやって親と一緒になって頑張ったのがいい経験でした。娘は、小3の2月からサピックスに通い始めて、最初は真ん中よりちょっと上くらいでこんなものかなと思っていたんですけど、プリントはすごい量だし、いきなりトップギアだなっていう感じで、だんだんマンスリーテストで点が取れなくなって、クラスも落ちてこれは大変だと。結局全部私が見るようになりました。朝5時に起きて娘の教材を読み込んでます。私、仕事もしてるのに……。私が仕事も忙しくていっぱいいっぱいになっちゃった時に、せっかく出るよと教えてあげたところができてなくて、テストの点数も悪くなっちゃって、「このあいだあんなに教えたじゃん!」「お母さんが勉強して、お母さんができるようになってどうするの!」って止まらなくなってしまい、もう無理って……。「サピックスは難しすぎるからあなたには無理だし、お母さんも無理だし、自分でできるところに行こう」って初めて転塾を提案して。そしたら娘がわんわん泣いて、サピックスがいいって。
オ:お母さんの思いが込み上げてしまって、勢いでそういう展開になったということですよね。
S:そうです。持っていき方としては最悪だったんですけど……。
オ:いやいや、それはギリギリまで頑張ったんでしょう。
S:娘は「頑張るからやめさせないで」って。サピックスに通ってるっていうプライドもあるのでしょうけれど、いや、私としてはもっと頑張れという意味で言ったわけじゃないんだよなぁって思うんですよね。
オ:頑張るっていうことじゃないんだよなぁっていうのは?
S:要するに、多めのことをいくら詰め込んでも基本がわかってないと意味がないので、だったら基本をきちっとやってくれて、娘の理解が追いつくレベルでやった方がいいんじゃないかなと思うんです。
オ:そこがなかなか判断できなくてなんとかサピックスにしがみついてやるっていうご家庭も多い中で、お母さんはすごく冷静に状況を見極めて合理的な判断をされようとしているんだと思うんですよね。
S:保護者会でも、親は教えないでくださいって再三言われるんですけど、そもそも情報の取捨選択が子どもにはできないので、本当にサピックスに通う家庭は親が手出しをせずにやっているのかな?とも思います。
オ:サピックスの先生たちは本気で手を出さないでくださいって言ってるけど、やっぱり世の中の親御さんの話を聞いていると、まぁかなり手をかけないとダメだと聞くし、家庭で教えるには限界があるので家庭教師や個別を併用しているっていうのが、特に上位クラスには多いと聞きますね。やっぱり仕事をしながら親が見ようと思うと、限界があるっていうお母さんの感覚はすごく正しいんじゃないかって思うんですよね。そこで、思考実験的に選択肢を洗い出すならば、まずは外注ですよね。あとは、お母さんが仕事を犠牲にして勉強を見ますっていうのも一つの選択肢としてはあると思います。あとは、もう少し一人一人に目をかけてくれる面倒見がいい塾に切り替える。Sさんのご家庭に合っているペースで、子どもが頑張れる範囲で、かつ親がサポートできる範囲でやるっていうのはすごくいい選択なんだろうなと思うんです。この前は、悪い流れの中で転塾っていう話をしたからお嬢さんも傷ついたんだろうと思いますけど、仕事もある中でちょっと現実的じゃないんだっていう話をしたうえで、サピックスはこんなにハイレベルな塾で、もうちょっとあなたにちょうどいい塾に入れば、あなたもお母さんももっといい中学受験ができるかもしれないよって、前向きな話し合いとしてしてみるのはいいんじゃないかなって。それで本当に転塾するかは別にして、他の塾の体験授業をいくつか見てみるとか。お嬢さん自身がサピックスじゃないとダメなんだってならないように、色々あるんだよって視野を広げるという意味で、そういう風に誘導するのはありなのかもしれないですね。
S:なるほど。
オ:基礎の部分、優先順位の強弱がわかるのは、お母さんがご自身でしっかり勉強されたからですよね。そのスタンスがすごくフェリスっぽいですね。
S:そうですか? 娘にも、必ず理屈があるからそこを覚えないと忘れるよって。そうやって本人が納得して覚えたことは忘れないけど、ただ暗記だけしたらすぐ忘れちゃうから。でも転塾してもっと暗記っぽい塾になったら元も子もなくて。
オ:下手すると、レベルを下げるともっと暗記だらけになる可能性もあるから。
S:そうなんですよね、そこがちょっとわからなくて。入塾前に四谷大塚の問題を解いてみてあまり楽しくないなって思って。サピックスの方がワクワクしたので、勉強するならこっちの方が楽しいんじゃないかなって。あとは四谷大塚にお友達が何人かいて、結構しんどいって言ってて。それに比べると、うちの子は勉強をやめたいとは言わないので、通っていてそれなりに楽しいんだろうなって。だから点数を気にしなければ、このまま手助けせずに本人がいけるところまでいくっていうのはありなのかなって。
オ:僕もお話を聞いていて、そう感じました。手助けなく自分でやれるところまでやって、サピックスでこれだけ食らいついていけるなら立派だよって。もしかしたらお母さんが勉強を見たり外注することで偏差値が5や10上がるかもしれないけど、でも、あなたができる努力の中で行ける学校に行くならそれはいい中学受験だと思うよって、そう思えるのであればそれもいいですよね。
S:そうですよね。私自身の考え方というか捉え方というか、そういう問題なんだなってちょっと反省していて。自分がワーッとなっちゃった時にコーチングをお願いしたんです。それで、私の努力が娘の点数に結びつかないっていう当たり前のことにイラついていたことに気づけました。それを娘にも話して。お母さんちょっとイラついてたけど、お母さんの努力はあなたの点数には結びつかない、あなたが頑張らないと点数は上がらないんだよって。
オ:それは素晴らしいですね。そのコーチングは中学受験用の何か?
S:いや、それは普段から仕事のために定期的に受けているコーチングで、今日は仕事じゃないんですけどいいですか?って。
オ:へー。それはいいですね。
S:娘が自発的にやって結果が出るっていう経験をしなければ、私が横で騒いでても意味ないなって、わかりました。
オ:素晴らしい。今日、相談という形でお話を聞かせてくださってますけど、おそらくお母さんにはすでに方向性が見えてますよね。
それもさじ加減ですよね。
ちょっと期待してあげて頑張るなら
もうちょっと期待してあげればいいし、
期待を感じさせてみたけどあまり反応が良くないなら
控えめにすればいいし、お砂糖みたいなもので。
S:いや、まだ迷ってます。ここから先、キツくなるって聞くので、キツくなった時に自発的にやっているっていう気持ちがないと無理なんじゃないかなって。
オ:本当に自発的にやってる中学受験生ってごく一部だと思いますよ。そこは焦らなくていいし。親としてもどかしい気持ちは、今のうちに存分に味わってくださいって思いますけどね。親だから仕方ないですよね。自分たちには何ができるのかっていうアイデアを出し合って、ブレストしてみるのもいいかもしれないですよね。
S:自分の子どもの実力を信じないのも良くないなと思って。期待してガッカリするのが嫌で、できないならいいんじゃない?ってつい言いがちだったけど、期待してあげると喜ぶのかもしれないなって。
オ:それもさじ加減ですよね。ちょっと期待してあげて頑張るならもうちょっと期待してあげればいいし、期待を感じさせてみたけどあまり反応が良くないなら控えめにすればいいし、お砂糖みたいなもので。
S:難しいですね。
オ:そうですよ、子どもは変わるし。お母さんはすごく全体が見えているから、悩みは消えないと思うけど、おかしなことにもならないと思います。終わった時に、もっとああしてあげれば良かったとか思うかもしれないけど、それはみんなそうだし。お嬢さんがすごく逞しいことが一番だから、それを守ってあげられる範囲でちょっと負荷をかけてみたり、やりすぎたなと思ったら引いたり、試行錯誤しながら、余力を残しつつやって、最後にラストスパートする脚力が残っていることが大事だと思います。4年生で先頭争いしてもしょうがないから。
S:あとちょっと志望校のこと聞いてもいいですか?
オ:どうぞ。
S:新しくて評判の学校を見学に行って、校内を回っていたら、生徒が勝手にやってるカオスな感じがないように感じました。私の当時の栄光学園とか、フェリスもそうだったんですけど、すごくカオスで、溢れんばかりの個性や自己主張みたいなものがあったと思うんですけど、それがないなと感じてしまって。頭がいいし今どきな感じはするけど、なんか訴えかけてくるものがないなっていうのが気になっちゃって。そもそも学校の説明内容が、フェリスはちょっとホッとするというか。相変わらず昔と同じことを言ってたので。教育方針を語ってくれるのがフェリスだけど、他はわかりやすい結果だけをプレゼンテーションされたので、違いが大きくて。私からしてみると、進学先とか留学とかどうでもいいんだけどっていう……。どういう思想で育ててくれるかを知りたいのになって。
オ:今おっしゃったことって正しいし、目の付け所がすごくいいと思います。その目で見て、「ここっていいじゃん!」って思えるところが女子校ならたくさんあると思いますよ。
S:ありがとうございました。
オ:お子さんは逞しいし、お母さんは本質を捉える力をもともと持っていると思うので、それを信じて。振り返ってみたらいい中学受験だったっていう経験をお子さんにさせてあげられると思います。
親自身に中学受験経験があることのメリットって、勉強が教えられるということではなくて、12歳の受験の難しさとか、私学に通う意味みたいなことを実感していることだと思います。だから極端な中学受験にはなりにくいんですよね。そのことがよくわかる相談だったと思います。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/
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イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子
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