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【中学受験と学校選び】
偏差値の低い私立と公立中
どちらに通わせればいい?

【今月の質問】

偏差値の低い私立を目指すか、公立中に進学するか迷っています

[受験進路相談室]

Iさんの場合

【家族構成】
夫、長女(小5)、次女(小1)

【今回相談する子どもの状況】
小3の4月から早稲田アカデミー通塾。授業についていけず答えを写すようになり、家族で話し合って小4の冬に一旦は受験をやめることに。ただ、本人がやはり受験したいと言い出し、小5の4月からは栄光ゼミナールに通塾、現在に至る。

私自身中学受験の経験はありません。娘に中学受験させようと思ったきっかけは将来する仕事、興味ある分野、出会う人間の幅が広がればいいなということで「私立がいいのかな?」と思い、塾に通いはじめました。中学受験をして将来専門学校だってありだと思っています。偏差値で学校は選ばない方がいいと聞いたので、子どもが興味のある分野から入ってみたのですが、実際、偏差値が低い私立中に進学するのはありですか? もしそのまま、進む場合、子どもにも現実もしっかり伝えた方がいいですか??

自分のやりたいことができる学校が偏差値が低いのはすごくいいことだと思いますけどね

I(相談者):もともと塾には通っていたんですが授業についていけなくなって、いちどやめました。でももういちどやりたいと言うので、別の塾に通うことにしました。5年生なのでそろそろ志望校を決めなきゃいけないので、その相談をしたいです。もともと娘は勉強が好きでもなくて絵や漫画が得意な子で、そういう視点で私立校を探していくとそんなに偏差値が高い学校じゃありません。そうなるともう公立でも全然いいかなと思うんですけど、周りのお友達と学校の話もしていく中で、伝え方というか……。

オ(おおたさん):伝え方というのは、何を伝える伝え方ですか?

I:子どもが選んだのがそこまで学力が高くない学校だった場合、ここはこういう学校でってしっかり伝えていいのかなって。

オ:え、どういう意味ですか? 僕、いま、何を理解できてないんだろう……。

I:いや、私の伝え方がよくなかったかもですね。ここは学力があまり高くない、偏差値が高い学校じゃないけど、自分のやりたいことができる。公立はそのままみんな進学するような学校だから、地元の学校はこう、こっちは学力がこれだけ違うんだよって伝えた方がいいのかなって。

オ:地元にそんなにレベルが高い学校があるんですか?

I:レベルが高いというか、そんなわけでもないけど、うちの娘がそんなに偏差値が高くないので。選ぼうとしている学校と比べると、っていうことです。

オ:中学受験して入るような学校よりも、学力が高い公立中があるんですか?

I:高いわけじゃないですけど、みんなしっかり勉強もしていて塾も行ってるって聞いただけで。

オ:えーっと、私立の学校って、少なくとも塾の偏差値表に名前が載っているような学校であれば、それなりの勉強をしてきている子たちが入ってきているので、地元の公立より教育のレベルが低いっていうのはまずないと思うんですけどね。そうじゃなきゃとっくに潰れているはずだし。でも、地元ではそういうふうに言われているんですか?

I:地元の公立中は厳しいらしくてみんないい高校や大学に行ってるとは聞くんですけど、実際はどうとかはわからないです。

オ:それはあまり比較の対象にならないかなって思いますけどね。あとは、公立との比較は置いておいたとして、中学受験をして入るような学校でそんなに偏差値が高くないとしても、ここは自分の感性に合うなとか、絵や美術系に強いとかそういう学校もあると思うので、そういうところは「あなた向きの学校じゃない?しかもそれほど難しくなくて入れるなんてお得じゃない?」って言えばいいし。

I:やりたいことが優先で間違ってないですか?

オ:もちろん。偏差値っていうのは要するにディズニーランドのアトラクションの行列の待ち時間みたいなものなんですよ。自分が乗りたいライドが10分待ちならラッキーじゃないですか。ダンボが世の中的にはあまり人気じゃなくて、スプラッシュマウンテンの方が人気だとしても、ダンボが好きならダンボに乗ればいいじゃないですか。我ながらすごく変な例えを出してますけど(笑)。要は偏差値っていうのは世の中的な人気を反映していて、人気だからこそ学力の高い子から入ってくるよねという理屈で決まるもので、ユニークな教育をしていてあまり多くの人が志望しないと偏差値が低かったりするわけなんですけど、自分のやりたいことができる学校が偏差値が低いのはすごくラッキーなことだと思いますけどね。

実は子どもの中に答えはある

I:ありがとうございます。塾の先生はこれも受けてこれも受けた方がいいよと出してくれるけど、自分たちが娘に合ってるなと思う学校とはちょっと違ったので不安になって。そこから家の環境の話なんですけど、2LDKのマンションに家族4人で住んでいます。下の子が騒ぐと娘が集中できないみたいなんです。だから塾がない日も自習室に行かせたりしてるんですけど、頑張ってるようですが、好きな国語は上がるけど苦手な算数は下がってて。先生に聞いてきなさいって言ってもうまく聞けないみたいで。授業の態度もいいし、わかってるようなんですけどね、って先生にも言われるんですけど、実際はそうじゃないっていう。何が足りないんでしょうか?

オ:お部屋の問題の解決策として自習室に通ってるけど、自分から質問できるような感じでもなくてどうしようっていうことですね。

I:家の中に集中する場所を作った方がいいのか、それとも賑やかな場所で雑音と共にやった方がいいのか、どういう環境を作ってあげたらいいのかなって。

オ:それはお嬢さんに聞いたらいいんじゃないですか? どうしたら勉強しやすい?って。家の環境は限られているけど、できることならやるよって。衝立を作るなら作るし、一人で勉強できる環境を狭くてもいいなら欲しいならちょっとホームセンターに行って何か探してみるとか。お嬢さんの望む環境を用意してあげて、それで勉強が捗るかわからないけど、自分の空間って嬉しいじゃないですか。リビングの方ができる子もいるし、自分の部屋の方がいい子もいるし、自習室がいい子もいるし、それはそれぞれですよね。

I:本人に聞いたことなかったです。

オ:だいたい答えは子どもが知ってるので、何でも子どもに聞いたらいいと思いますよ。

I:なるほど。

オ:いろんな情報が本や雑誌などにあるから何を見たらいいの?ってなるし、それこそネットとかを見出したらキリがないけど、実は子どもの中に答えはあるので。幸せの青い鳥と一緒ですよね。答えがわからない、キリがないって思ったら、子どもに聞くのが一番ですよ。あと、頑張ってる感じはするけど結果が出ないっていうのは、9割の中学受験の親御さんが感じていることです。頑張った分だけ結果が出る魔法はないわけで。みんな頑張ってるから偏差値が変わらないんですよね。

I:そうですよね。みんな頑張ってるんですよね。

オ:そうそう。だから、成果が出ていないわけじゃないんですよ。その中で自分の子どもだけ成果が出るような魔法はないんですよ。お母さんは明るくて笑顔の素敵な方だから、「お母さん、中学受験したことないしわからないけど、何かできることがあったら言ってね!」って言えば、多分子どもも自立すると思いますよ。自分でやるしかないんだって。

I:受験をするようになって変わったことというか、興味を持つ範囲が広くなって。月食について話してくれたり、大河ドラマを観たり、私が美容師なのもあって家に髪の色を変えるシャンプーがあるんですが、それが家にあると勝手に混ぜてどうなるんだろうってやってみたり。受験を始めて、「ママ、これはこうなんだよ」って教えてくれるようにありました。ゴールは今のところは受験だけど、結果がどうであれ、興味を持つ範囲が広くなって、それはよかったのかなって感じています。

オ:それは素晴らしいことだと思いますよ。受験勉強をしたことによって知的欲求が刺激されて興味が広がるとか深まるってすごく理想的なことで、それって中学受験にある意味、向いているというか。成績に関係なく、その経験を自分の糧とすることができている。大人の言われた通りに何でもできて成績が上がる、だけど本人の心が動いていない子っていると思うんですけど、お嬢さんの場合はそこで受けた知的な刺激によって心が動かされて、世の中を見る目が豊かになっているから、そういう子こそ中学受験に向いていると言うべきだと思うんですよ。お母さんがああしなさいこうしなさいって追い詰めちゃったらそんなふうに心が動く余裕を失うはずで、そうなっちゃってる中学受験生ってたくさんいます。タスクとして勉強しちゃってる子。そうじゃなくて、純粋な好奇心が喚起されて学んでいるから、すごく理想的な中学受験ができていると思いますよ。あと、自習室に週4回も行ってるんですよね? お嬢さんから質問ができないとするなら、お母さんから塾に対して、「なかなか自分ではできないみたいなんでちょっと目をかけてあげてください」とか、「このあたりで躓いてるみたいで」とか、ちょっとコミュニケーションをとってあげるのはどうでしょう。声をかけてくれたり関係性を近づけるためのサポートをしてあげると、自習室での効率が上がるかもしれませんね。僕がいろんな人の話を聞いてきた経験で言うと、お母さんみたいに手に職を持っている方は強いですよ。ブレないですよ。最後は自分の力だっていう経験をされているじゃないですか。自分が納得できる仕事をするんだとか、自分の信念を貫くんだっていう経験をしている方はブレないですよ。そうじゃない人の場合は、少しでもみんなから羨ましがられる学校に行かなきゃとか、人からどう見られるかで崩れちゃうけど、職人さん系はいい中学受験になるケースが多いですよ。偏差値に関係なく自分たちの中学受験に誇りを持てる。それは生き方の軸ができているからだと思うんですよね。

I:なるほど。初めて言われました。

オ:「あんな学校に行っても意味ないよね」って言う人がいるかもしれない。多分、頭でっかちになって自分は情報通みたいな感じで言ってるだけで、そういう人たちもいろんな現実を突きつけられて、後からどうしようどうしようってなる。最低でも偏差値60よねって言ってた人たちが、なかなか60なんて取れないとわかって、「あなた何やってるの!」ってなる。崩れていくのはそういうパターン。

I:私は何もわからなくて、周りから話を聞くことの方が多いので。

オ:そういう人たちも、自分が不安だから話したいんですよ。それに惑わされなくていいと思います。すごく素敵な中学受験ができていると思います。

【 おおたさんからひとこと 】

中学受験を知らない親御さんがわが子を中学受験の世界に送り込むって、本当に不安なことなんですよね。わからないことだらけだと思うから、まわりの無責任な情報に振り回される。でも、中学受験だって子育ての一環であり、子育ては人生の一環なんだから、自分の人生観に照らし合わせて正しいと思えることをやればいいんです。中学受験の世界だけに通用する必勝法なんて、人生では役に立ちませんから。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子

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