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【中学受験相談】
小1からSAPIXに通わせて燃え尽きないでしょうか

ここ数年、1都3県の中学受験者数は前年度を超えています。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!

【今月の質問】

幼少期からずっと塾通い、受験前に燃え尽きないか心配です

[受験進路相談室]

<Hさんの場合>

【家族構成】
夫、長男(小2)

【今回相談する子どもの状況】
1年生からSAPIX通塾中。ほか3歳から公文、4歳から将棋、7歳からプールに通っている。

【相談内容】
幼少期よりずっと塾通いで、継続的に勉強をしてきました。おかげで勉強の習慣はついています。しかし、これから反抗期などがくると思うので、肝心な受験期に燃え尽きてしまわないか心配です。このまま進んで大丈夫でしょうか?また、塾を何も考えずSAPIXに入れてしまいました。今更ながら、もっと向いている塾があったのではないかと、他の塾にいろいろ体験に行ってから入れるべきではなかったかと後悔しています。今から塾を変えてもまだ間に合うものでしょうか?

私が出張なども頻繁にあるフルタイムで仕事をしているので、子どもの中学受験が本格化した時、仕事との両立がどうなってしまうのだろうと正直不安です。最後にもうひとつ。頑張っていることに対する対価として「ご褒美」を与えるなという話を耳にしました。現在、結構ご褒美をあげてしまっていますが、そのほかにも子どものモチベーションの作り方や、やる気を出す一言などあれば、教えていただきたいです。

一番危険なのは勉強しないということすら選べないほど主体性を持てないこと

H(相談者):産休・育休中に暇だったこともあって7カ月の時に七田チャイルドアカデミーに通い始めて、そのあとも英才教室に通ってみたり、3歳からは公文をやったり、小学校に入ってからはSAPIXにも通っています。公文は毎日プリントをしなければいけないのでいまは自発的にやる状態なんですけど、受験期に燃え尽き症候群みたいにならないかなと心配があって。

オ(おおたさん):受験までに燃え尽きないかどうかというのはやってみないとわからないですけど、それだけたくさんのことをやっているという自覚をお持ちで、燃え尽きないか心配だと思いつつも既にやらせているわけですよね。お母さんの中で、そこのバランスってどういうことなんだろうとお聞きしたいんですけど。

H:通っている私立小学校はすごく勉強の進みが早くて。今2年生ですけど、三桁の割り算をやるような学校で。公文の“貯金”でなんとかやっている感じなので、公文はやめられません。一方、SAPIXもすぐに定員が埋まってしまうので、いちど辞めてしまうと入れないんじゃないかと思って、なかなかやめられない状況です。今のところ息子は自発的に「今日はどこをやろうかな」とか言ってるんですけど、反抗期とかを迎えたりすると「やらない!」ってならないかなって。

オ:学習習慣がつくのはこの社会の受験システムを生き抜く上ではすごく大事なことだけど、習慣って別にモチベーションっていらないじゃないですか。勉強しないと選ぶことも主体性なので、一番危険なのは勉強しないということすら選べないほど主体性を持てないこと。それだと勉強はするけど、主体性が奪われちゃってるから自分から何かできない人になってしまうでしょう。主体的なモチベーションを望むのであれば、ある意味子どもを泳がせて、自分からどこかに向かっていくのを見守る余裕が親にないといけないのかなと。あとは、最初に言った、燃え尽きないかという点については、「燃え尽きてもおかしくはないと思うし、でも、燃え尽きないかもしれないし」、と言われると、お母さんはどう感じますか?

H:その時を迎えてみるしかないのかなって。燃え尽きた時に、それでその子なんだからと様子を見てみればいいのかなって。

オ:なるほど。今の状態をやれているのであれば、燃え尽きてしまうかもしれない懸念を優先して、先回りして削ろうとする必要はないのかもしれないし。かと言って、確かに負荷が重なっていて、多分4年生くらいからだんだんと自我が出てきて、気づいたら「あれ?周りの友達はこんなにやってないじゃん」と思うと、急にモチベーションが下がったり学習習慣が崩れたりするかもしれないので、そこで柔軟に対応するスタンスを持っているのはいいかもしれないですね。

H:まだ2年生なのですが、今のうちにやっておいた方がいいことってありますか?

オ:ないと思いますよ。だって、十分やってますもん。

H:学校は知った方がいいのかなと思っていて、何も知らないので、学校説明会に行こうと思って申し込むんですけど、絶対に抽選に漏れるんですよね。

オ:それは学年が低いからですよね。

H:なので、まだ全然学校を見られていなくて。

オ:なるほど。まず、学校を早く知るのはいい姿勢だなと思いつつ、とは言え、このコロナ禍でまだ全然学校を見られていない5年生6年生がいるので、そこは申し訳ないけどその人たちに譲ってあげてください。むしろいまは、中学受験生活が始まってからではできないことをたくさんやってあげてください。野山に遊びにいくのでもいいし、楽しい原体験、子どもなりの青春体験をたくさんさせてあげる。そこがないと最後に頑張れないので。それを優先してあげるといいのかなと。

H:なるほど。旅行とかはよく行っているんですけどね。

オ:旅行もいいけど、近所の公園をぶらついて花を見たり木に登ってみたり虫を捕まえたり、そういう素朴なこと。子どもだから楽しいわけじゃないですか。それって、子どもに必要だから子どもは面白いと感じるわけで。感受性が柔らかいうちにそういうことを経験して土台を作っておくのが大事です。

H:私立なので学校から帰ってくるのが遅くて、特に習い事がある日は夜7時くらいになるので、そこからご飯を食べてお風呂に入って公文をやってとなると、近所をぶらつくのがなかなかできないんですよね。休日にやるしかなくて。

オ:お子さんは暇な時間があった時はどう過ごすのが好きなんですか?

H:レゴやプラモデルが大好きで、一人で黙々と作ってますね。

オ:家の中で没頭体験ができるのはいいことですね。それを削らないのが重要かな。余った時間で公文やSAPIXをやればいいので。そこはあくまでも僕の教育観ですけど。

「第一志望に受からなかったら何が困るんでしたっけ?」って。そういう根本的な問いを忘れないでほしい

H:あとは、息子が小学校に入る直前に周りのお母さんたちから「今から塾に入れておかないと入れないよ」と言われて、深く考えずにSAPIXに入れてしまったんですけど、他にもいろんな選択肢があったのかもしれないと不安になっています。いまから他の塾に体験に行ったりして入り直すのも間に合ったりするんでしょうか?

オ:SAPIXよりもっといい塾があるかもしれないと思うのはなぜ?

H:SAPIXは思ったよりサラッとしているというか。今さら他の塾も見ればよかったと後悔しているというか。

オ:もっと手厚く関わってくれる塾の方が、お母さんの好みということ?

H:どっちの方が子どもが通って楽しいんだろうとか、居心地が良いのかなと。何の体験もなしに入れちゃったので。

オ:なるほど。それで今、お子さんは何か不満を言ってる?

H:いや、何も。そういうものだと思っているので。

オ:どこかにひっそりこっそりベストの塾があるのかもしれないけど、それを探しても、青い鳥と同じでキリがないですからね。でもお母さんは一生懸命なんですね。常にベストの環境、ベストの教材を息子さんに用意してあげたい。

H:そうですね。でも、お話を聞いて、子どもが主体性を持ってできているのだろうかって心配になってきました。

オ:自主的に勉強する子にしようと思ったら主体性を奪うのが一番簡単なんです。内から湧き上がってくる、ゲームやりたい、サッカーやりたいっていう気持ちを全部なくしちゃえば、大人が言った通りにやるしかないね、じゃあ勉強しますって自主的に勉強する子になりますよ。けど、それってロボットにしちゃうことだから、自分が何者かわからなくなっちゃいますよね。自分の主体性が湧き上がる余地を残しておかなきゃいけないですよね。

H:なるほど。あと、私が出張や深夜勤務もある仕事をしていて、中学受験が本格化した時に仕事をセーブするべきかも相談したくて。周りを見回すと、同じ会社の人とかも4年生くらいからセーブしたり、もっと言うと、休んだりしていて。

オ:お母さんはどうしたいんですか?

H:私は仕事に穴をあけたくないので、休まずにうまくできればいいなと思うんですけど。ただ、仕事量はどうしても今より少なくしなければいけないのかなって。

オ:仕事量を減らさなきゃいけないのは何のため?失礼ですけど、お父さんもいらっしゃるよね?お母さんが自分の仕事にやりがいを感じていて、なるべく穴をあけたくないのであれば、まずは夫婦で調整することも考えるべき選択肢ですよね。子どものために自分の仕事を犠牲にしてっていうことよりは、お父さんのための犠牲ですよね。今の状態をお母さんが一人で抱え込もうとしたら危険かなという気はしますけど。

H:そうですよね、今はほとんど私なので。あとは最後の質問なんですけど、頑張ることに対してご褒美を与えるなと聞くんですけど、私は結構ご褒美を与えてしまっていて。公文のテストに合格するたびにレゴを買い与えてしまったりするんですけど、ご褒美以外に子どものモチベーションをあげる方法ってあるのかなって。

オ:今聞いていると、レゴ以外にあげられる、オモチャじゃない、物質的じゃないご褒美って何ですかと聞かれているような気がするんですけど。

H:まぁ、そうですね。そもそもご褒美を与えちゃいけないってどうなのかなって。

オ:アドラー心理学では褒めることすらいけないと言います。褒めることも精神的なご褒美なので。他者から認められることによってしか駆動できない人になってしまうから。でも、僕は個人的には褒めるのはいいと思っています。英語のpraiseは、日本語の「褒める」とちょっと違うんじゃないかなと。上から目線じゃなくて横から目線で、友達に「すごいね」と言うことって別にご褒美じゃないと思うんですよ。そういう純粋な気持ちで褒めるのはいいと思うけど、やる気を出すために与える言葉って、全部ご褒美だと思うんです。

H:やっぱりレゴは良くないですね(笑)。物をあげるって上からですよね。

オ:ご褒美に関係なく、お子さんが頑張ってることってあるはずです。レゴが好きなんだね、何時間でもできるんだねってところに目を向けてあげると、主体性を大事に思う感覚って育つと思うし。急にご褒美あげませんってなると傷つくと思うから、ご褒美に関係なく頑張っている部分を増やしていってあげるのが健全なのかなって。お子さんが意識しなくてもできていること、親から見るとできて当たり前と思っていることってあると思うんですけど、でもそれができるってすごいよなというところに関心を向けてあげて、そこに対して親としての感心や尊敬の念を伝えてあげるのが大事かなって。あとは、お母さんが焦って塾に入れたり、小学校の勉強の進みが早いから公文を辞められないとか、割と追い詰められちゃうじゃないですか。

H:そうなんですよ。仕事でも、毎日毎日「時間ない、時間ない!」ってなってるタイプで。

オ:たとえば、SAPIXに入れないと何が困るんでしたっけ?

H:そうですね……SAPIXに入れなかったら何が困るんでしょうか……そうですね。

オ:お母さんが何を気にして焦ったり恐れたりしているのかという正体を少し考えてみてもいいかもしれないですよね。もっと言えば、「(子どもがやる気になるのを)待つことが大事って言いますけど、待ってみて第一志望に合格しなかったらどうするんですか?」と言う親御さんがいるけど、僕が逆に聞きたいのは「第一志望に受からなかったら何が困るんでしたっけ?」って。そういう根本的な問いを忘れないでほしいなって。目の前のことだけを見ていると焦っちゃうけど、もうちょっと広い視野で捉えて、どういう時間のスパンの中で子どもにどうなってほしいかを考えてみると、もう少し余裕が持てるんじゃないかなと思います。

H::わかりました。ありがとうございました。

【 おおたさんからひとこと 】

次から次へといろいろな心配事が出てくるお母さんでした。次から次へと、「あれが足りない、これが足りない」と不安になる時は、「それがないと何が困るのか?」を落ち着いて考えてみるといいと思います。きっとなくても困らないものばっかりなんです。なくても困らないものばかりを追い求めていると、本当に失ってはいけないものを失うことになりかねないので、注意してください。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子

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