世界の教育標準とは?SAPIXグループ・髙宮信乃さんが語るグローバルな子育て
中学受験準備の低年齢化が進んで久しいですが、一方では日本ではなく世界のトップ大学をダイレクトに目指すため、低学年のうちから準備を考える家庭が増えていると聞きます。これからの時代の真に〝グローバルな子育て〟とは?自身も〝世界育ち〟で現在は教育事業に携わる髙宮信乃さんにお話を伺いました。
私自身は7カ国育ち。例えばアフリカでは1日のうち23時間停電していたり、蛇口をひねれば泥水が出て、一歩外に出れば道端で生活している人がいる環境で、今、日本の生活にありがたみを感じています。
子どもたちにも、たくさんの経験を積んでほしいんですね。留学は、そのためにとても有効な手段です。経験を重ねることによって、これからの社会で必要な多様性への本質的な理解も、人に対するリスペクトも生まれると思っています。例えばインターナショナルスクールだとまずいろんな人種の方がいます。肌の色、バックグラウンドは違うけれど、尊重し合って人を否定してはいけないということを第一に理解します。そうして子どもたちには、様々な経験を通して「Rich」な人生を送ってほしい。ここでいう「Rich」とはお金や物をたくさん持っているということではなく、精神的な意味で豊かで充実していることで、経験によってこそ裏打ちされることだと考えています。また、幸福度の高い子どもを調べた時、親の学歴やIQは相関関係がないという結果が出ています。幸福度に関わっているのは、親自身の幸福度と「衝動性」が高いこと。「衝動性」とは何でもとりあえずやってみようというポジティブな気持ちのことですが、残念ながら現時点では日本の教育ではあまりクローズアップされないものだと感じています。それを聞いて思い出したのが、下田への家族旅行のこと。あまりにも星がきれいだったのですが、真夜中だったため、子どもたちを起こすのはよくないと判断して夫婦だけで鑑賞しました。でも、もし見せていたら一生忘れられない星空だったはず。あれは後先考えず、起こして見せてあげたら良かったねというのは今でも反省としてよく話題になります。あの時は次男が生後8カ月で、また寝かしつけかと思ってしまった部分もあって(笑)。そうやって夫婦で話し合うことも大事ですよね。
我が家の8歳の双子の長女・長男はそれぞれアメリカンスクールと日本の公立校に通っています。教育を本人たちにとっての投資と考え、本人に寄り添いながら適性を見て夫婦で決めました。ただ私はもともと、どちらかはアメリカの大学を目指してほしいと思っていましたし、実際長女はこのままアメリカの大学に行くのが自然だと思っているようです。1歳の次男に関してはどちらかな?と思っていますが、3歳、小学校前のタイミングで本人の気持ちを確かめつつ、夫婦で相談したいと思っています。
これからの時代、やはり留学という体験は重要だと思います
今はオンラインで情報もたくさん入ってきますし、日本にいるからといって海外のことを知ることができないわけではありません。でもコロナ禍が落ち着いたら、学ぶために国外に出ていってほしいと思っています。体験に勝るものはやはりないからです。今はこの逆境をチャンスととらえ、知識を蓄える時期にすればいい。留学は、高校でも大学でも社会人でも、どこかのタイミングで考えるのがこれからのグローバル子育ての自然な流れではないかな、と。海外進学サポートを我が社でも提供していますが、昔と違うのは、行くからには名門校を見据えていたり、海外のボーディングスクールを検討したりするケースが増えてきたことです。そのために高校からではなく、小学生くらいから準備を始めていて、そうした方々へのサポートの需要が年々高まっているのを感じます。大学などの高等教育はランキングもそうですし、私の実感としてもアメリカが世界一で、どこに行っても通用する教育だと思っています。
一方で、日本の中等教育は世界一だと思うんですね。公立校含めレベルが高く、数学も世界から評価されています。そのまま進めば世界一なはずなのに大学のランキングは振るいません。このランキングについてはいろんな意見がありますが、私としてはランキング上位の大学に各国から優秀な学生が集まるのは事実かなと思っております。また、詰め込み教育の弊害などと言われることもありますが、ある程度のインプットは大事。むしろその意味で日本の中等教育は評価されているのです。そこからの大学は知識を応用する場所であるべきなのに、なかなかうまくいっていないところがある。だから高校までは日本で大学は海外へ、というのは今のところ我が家では理想の流れです。
個人的には、留学自体は幼い頃に行った方がいいと思っていますが、日本の中等教育の良さもわかるので、バランスが難しいところですね。そして日本人には苦手な分野と言われがちな「ネットワーキング」がこれからますます大事になります。誰を知るかで選択する道、ひいては人生が変わります。これを目指したいと思った時に、その分野で活躍している人にアプローチすることは必須だと思いますし、実際に、会おうと思えば会えるもの。ネットワーキングも能力の一部と思う時、海外に出ることで行動力も鍛えられますし、実際にアメリカには世界中から人材が集まっているわけで、チャンスもたくさんあるんですよね。
英語についてはまずは勉強ではなく趣味ととらえて
英語はツールに過ぎないので、嫌いにならない程度にカジュアルに始めるのが一番いいと思います。教科と思わずに、ピアノやスポーツと同じように、趣味として始めるのがいいですね。小さい頃に自然に始めるのをお勧めしますが、続けること、生活の一部に組み込むことが大事かと思います。うちではNetflixの英語の子ども向け番組をバックグラウンドでつけっぱなしにしていたりもします。でもやはり一番は、海外に行くこと。低学年になればキャンプも行けるし、親子留学、またハワイでもいい。旅行の間子どもだけスクールに入れてみることもできます。
日本は残念ながら英語教育では各国に遅れをとっています。留学生が集まった時、海外の学生は英語のレベルが非常に高い。日本人はいきなり大学に入学・編入できず、現地の語学学校からスタートすることが多いのは、時間や費用がもったいないかな、と思います。前述したように最近は、単に英語に触れさせたい、経験を増やしたいからというより、留学の先を見据えた相談も増えてきています。海外の名門大学を目指す流れはこれからますます大きくなるでしょう。
世界の教育の標準は、個性を大事にすることでテスト廃止の方向になっており、入学者選抜でもエッセイの比重が高くなっています。エッセイは自慢するものではなくて、嬉しかったことだけでなく失敗も書かせて、どういう人間かを重視するもの。日本ではテストはまだまだなくならないようですが、ゆっくりではあるけれど個別の学びへと変化の兆しはあるので期待したいですし、教育に携わる人間としてできることをしたいと思っています。現時点で我が子には、日本と海外の良さのバランスを見て決めていきたいというのが正直なところですね。
また“世界標準”の一つは、家族との時間を大事にすること。日々忙しくても家族との時間をできるだけ確保し、自分が働く姿を子どもたちに見せていきたい。私と夫では価値観が違うように、家族内でもますます教育によって違う世界ができあがってくるはずです。その家族内ダイバーシティも、尊重し合っていきたいですね。
先日の私の誕生日を家族でお祝い。長男が着ているのは、夫が大好きなザ・ローリング・ストーンズのTシャツです(笑)。
Profile
髙宮信乃さん
1978年東京都生まれ。イスラマバード、香港、ジャカルタ、ワシントンD.C.、横浜市、ハルツーム、キャンベラと幼少期を過ごし、ニューヨークで高校・大学生活を送る。リーマン・ブラザーズ証券株式会社などの外資系金融機関を経て、現在、SAPIX小学部などを運営する株式会社日本入試センターの国際教育事業本部長、北米ボーディングスクール留学をサポートするTriple Alphaの会長、株式会社ベストティーチャーの副社長。夫でSAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏との間に、8歳の男女の双子、1歳の男の子がいる。
撮影/杉本大希〈zecca〉 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子
VERY NAVY 5月号『話題のSAPIX YOZEMI GROUP 海外事業開発部長、高宮信乃さんに聞くグローバル化する世界で子どもたちに伝えたいこと』から
詳しくは2021年4/7発売VERY NAVY 5月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。