好き嫌いがはっきりしていて
4教科の成績も凸凹が。
「大嫌いな反復練習」を
どう克服させればよいでしょうか 。
[受験進路相談室]
Mさんの場合
【家族構成】
夫、息子2人(小5、小3)
【今回相談する子どもの状況】
長男(現在小5。小4の6月〜ジーニアスに通塾)
息子は、幼少期から知的好奇心が高く、生き物、植物、自然化学、元素、歴史など、自己流で探究的な学びをしてきました。興味が赴くままに知識を積み上げてきたため、大して勉強をしていないわりには、模試の成績は4教科60前後。学ぶことは好きなので、塾には楽しく通っているのですが、「楽しく取り組める範囲の勉強」しかせず、苦手を徹底的に克服したり、反復練習をすることが大嫌いです。また、4教科の成績も凸凹です。自立的思考が強いので自由度の高い難関校を目指していますが、このままのらりくらりと取り組んでいても合格はしないだろうなと悲観しています
本当の意味での思春期はまた来るんだろうけど、感受性が高いから、自分の周りに次々に作られる枠組みを跳ね除けたかったんでしょうね。
M:実は不登校なんですよ。発達に凸凹がある子で、知的好奇心は高いんだけど社会性が乏しい子で、「授業がつまらない」と言ってしまったり、突飛な行動をしたり。学校の先生から「息子くんは、公立じゃないほうがいい」と言われていて。
おおた:へ〜、先生がそんなことを言ってくれるんですね。
M:校長先生も色々と勉強している方で、「公立は可能性を狭めちゃうから、もし可能なら、お母さんがホームスクーリングをやったほうがいいかもしれないね」と言われました。だから、積極的不登校児みたいな感じで、元気に不登校児をやってます(笑)。悩みと言えば、勉強しないこと。自立心が強いので親の言うことを全く聞かないですし、努力も嫌いです。いままで鉛筆すら持ったことがなかったので、本当に大変だったんですよ。ずっと寄り添って。家での勉強量としては、いまでも1日1時間くらいが限度ですね。それでも、最初の模試では偏差値30台だったのが、いまは偏差値60台にはなっています。もともと幼少期から知的欲求がすごく強い子で、図鑑を読んだり、小3で歴史はほとんど頭に入ってるし、元素にも小3くらいから興味を持ち始めて元素記号を覚えたり、科目横断的な学習をしてきた子なので。わりと勉強がすんなり入ってくるんでしょうね。
おおた:偏差値はどこの偏差値?
M:小さい塾なので、塾テストの偏差値ですね。でも、四谷大塚とだいたい一緒みたいです。こないだ塾の先生に「本人やる気ないんで、受験やめようと思います」って言ったら、「お母さんちょっと待って、結構いいところにいるから」って。ただ、バラバラです。65もあれば40台の科目もあって、国語は苦手です。文字も綺麗に書けないですし、そこがあとひとこえっていうところなんですけど。
おおた:お母さんがそこをわかっているのは素晴らしいし、ちゃんと見守って待てるのも素晴らしいし、よくやれましたね。
M:いや〜、本当に大変でした。小2のときは暴力も始まっちゃって、思春期が早く始まって。早熟なタイプ。
おおた:本当の意味での思春期はまた来るんだろうけど、感受性が高いから、自分の周りに次々に作られる枠組みを撥ね除けたかったんでしょうね。でも、すごくエネルギーがある子だし、才能もあるし、アインシュタイン型ですよね。
M:すごく難しいことを考えちゃうんですよね。地球はもう終わるとか、俺は子孫繁栄はしたくないとか、陰のほうにいっちゃうのがちょっと心配ではあるんですけど。
おおた:一つ聞いていいですか? 学校には行ってなくて、塾には普通に通ってる?
M:はい、塾は大好きです。不登校向けの個別指導塾のキズキ共育塾に週1回、探究学舎という塾に月6回、あとは中学受験塾に週3回ですね。
おおた:なるほど。昼間はおうちで本を読んだり?
M:いや〜、ほとんどYouTubeですね。刀の作り方とかを何時間も観てたりします。だから「刀、来たな〜」って思ったら、刀の本をスッと出すみたいな。石に興味を持ったら、「はい、元素」みたいな。面白いくらいに読んでくれるので。すごく大変ですけどね、社会の軸には合わないので。もうしょうがないですね。水を向けても飲まないので。ただ、世間と合わせる形にはしなきゃいけないので。
おおた:そこをどうするかっていう問題はあるにしても、息子さんのありのままを受け入れてらっしゃるから。
M:もう、受け入れざるを得ないですよ(笑)。
おおた:でも、そこがわからない人も多いですからね。
M:苦しかったですね。だから、夫はまだ迷走中です。夫は息子とは反対に、努力でなんとかしてきたひとで(笑)。
おおた:あー、面白い。話を聞いていると、そういうお父さんだからそういう子が生まれてきてくれたんだろうなっていうか。
M:そうですね。夫もだいぶ自分の人生を考え始めていて、好きなことをやっていかなきゃいけないよねって。
おおた:お父さん自身の人生観もひと皮剥けるでしょうね。
M:本当そうなんですよね。その通りです。私もそれを期待してます。
おおた:両方見て、お母さんは大変ですよね。
M:いや、夫には結構厳しいですけど(笑)。「俺にも優しくして〜」って言われます。
おおた:それを言えるなら大丈夫。お母さんが懐深いんですね。
M:どうでしょうね〜(笑)。
知的好奇心は高いけど努力ができないとか、反復練習が苦手とかっていうのがあるけど、多分お母さん、答え知ってますよね?
おおた:勉強しないんですっていうのが表向きの悩みじゃないですか。そのバックグラウンドには凸凹があって、知的好奇心は高いけど努力ができないとか、反復練習が苦手とかっていうのがあるけど、多分お母さん、答え知ってますよね?
M:え? 答え? でも、何もすることないですよね。自分が知れなかったことを知るとか、苦手なことに取り組むとか、彼にとっていま中学受験がとてもいいものになっているので、あと一歩、蓄えた知識をアウトプットできればいいのにとは思います。あと、もう一つの願いとしては、やっぱり学校に行ってほしいんですよね。学校が楽しい場所って思ってもらいたい。
おおた:なるほど。話を聞いている限り、息子さんの場合、男子校のほうが向いてそうだなと感じますが、いまの成績のレベルの男子校に入れたら、通えるんじゃないかなって気がします。そういう学校には小学校が苦手だったという子どもも結構いますから。
M:小学校ってどうしても規範とか協調性が重視されるので、彼はそれが意味ないと思っていて。
おおた:そういう子はたくさんいますよ。それでもおうちで1日1時間は机に向かって中学受験勉強はしているわけですよね。
M:自分でやる気にならないと絶対やらない子なので、一回パニックになって逃げはするんですけど、中学は行きたいし、このままじゃだめだってわかってるんで、1時間くらい経って「そろそろ戻れる?」って聞くと、「わかった、やる」って。
おおた:目標を持ったことによって、彼も何かを乗り越えようとしているんですね。立派です。今は5年生で、算数の難易度も上がってくるじゃないですか。そしたら偏差値も伸びてくると思いますよ。今までは単に反復練習が上手な子が上位にいるけど、思考力が必要になってくるから、逆転しますよ。あとは、もうちょっと勉強時間を延ばしたいっていうのも、多分これは永遠にキリがないことで、お母さんは本当に求めてないというか、どうにかしてやろうとは思ってないと思うので、そのスタンスでいいと思います。苦手科目ってあると思うんですけど、そこを克服していこうと思うと全てが崩れていくと思うので、そういうタイプの子って得意なことを伸ばしていく中で、ついでだからこれもやるしかないなってやっていくほうが、トータルで見たらいいんじゃないかなって気がします。本人がやる気になっていないところに、「こっちもやりなさい」ってやらせることにエネルギーをかけてもおそらく無駄になる。でもそのエネルギーを得意なところに向けたら、一般的な子どもの何倍ものスピードで伸びていくと思う。そういうアプローチのほうが息子さんには向いていると思います。
M:字が汚いとか、反復練習が嫌いっていうのもきっとこのままいくんですよね?
おおた:いくと思う。
M:あ〜、今日は夫が来るべきでしたね(笑)。彼は自分を痛めつけるのが大好きなタイプなので、息子のスタイルを受け入れるのに結構葛藤しています。
おおた:お母さんも最初からこんなに理解があったわけではないでしょう? お母さん自身が変わったのはどういうきっかけだったのですか?
M:「あれ?」って思い始めたのは小2の頃。先生のところに行って「授業がつまんないんですけど、どうしたらいいですか?」って。そこで、先生が「あらあらあら、これは大変だわ」ってなって。習い事も一切行かないとか、洋服も同じのしか着ないとか、そういうのが出始めて。最初はケツバットしたんですよ、私。新聞紙を丸めたもので叩いて。そのうちに壊れていっちゃったんです。震えるとかずっと睨むとか、暴力もあったし。これはマズイと思って病院に連れて行ったら、「明らかに発達障害ですし、お母さん、育て方を変えないと」って。そこから猛勉強して、脳の中で何が起きてるんだろうって。本当に180度変わりましたね。同じ悩みの子って学校に一人二人は必ずいるから。結構、真面目なお母さんのところに生まれてくるんですよね。そこで間違えちゃうと、最悪自死とかもあるので、そこだけは避けたいなって。私は息子がきっかけで仕事も変えました。今は不登校の子を支援する会社に勤めています。
おおた:息子さんは、いろんなメッセージを持ってお二人のところに生まれてきてくれたんですね。お母さん、本当に優しい目をしてらっしゃる。
M:家では鬼ババですよ!
おおた:いやいや、すごくしっかりとお子さんを見ていらっしゃる。
M:本人なりに頑張っているのはわかるんですけどね。漢字やらなきゃな〜、でも満点はとれないよね、まぁいいか、みたいな。でも、学ぶことは本当に大好きなので。それで入試で評価されなくても、自分の能力を真っ当な方向に向けられたらいいのかなって思います。だから、彼もそういうのを助ける仕事に就くんじゃないかって予感がしています。もちろん学校には行ってほしいですけどね。
おおた:いいお話を聞かせていただきました。
悩みといいながら、このお母さんは悩んではいません。しっかりとした信念をもってお子さんを見守っています。それでいて必要なときにはさっとサポートができる距離感にいます。まわりのご家庭の中学受験とはちょっとテンションが違いますから、ときどき不安になることはあるでしょうけれど、まわりを気にしないでいられれば大丈夫です。常に答えは息子さんの中にあるはずです。このお子さんはのびのびした環境にさえいられれば、普通のひとでは努力してもなかなか到達できない領域に到達できるタイプのひとだと思います。目先のテストの点数のことでうるさく言われたり、集団の協調圧力にさらされたりして、それをつぶされてしまったらもったいない。のびのびした学校に入れるといいですね。こちらが教わることの多い相談でした。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano 編集/羽城麻子