「私なんて」を乗り越える
娘世代の働き方
母として娘にはこうあってほしい、「女の子なんだから」と、つい自分なりの価値観で“こうあるべき”を押し付けていませんか?娘世代のこれからは私たちの常識や価値観とは大きく変わります。20年以上女性の働き方を取材・研究し続けてきた野村浩子さんに女性のキャリアと未来についてお聞きしました。
野村浩子さんの著書(左から)『未来が変わる働き方』(KADOKAWA)
『女性リーダーが生まれるとき』(光文社新書)
❛日本の意思決定層の多くは男性でシニア。
女性リーダーがもっと増えてほしい❜
このままではトップ層の男女均等実現は
100年かかるかもしれない
2019年「ジェンダーギャップ指数」で日本は153カ国中121位で、過去最低に。しかも「202030」は先送りになりました。
「121位と長年順位が低迷し続け、『202030』も17年もかかって達成できないのはすごく残念です。その原因は政治と経済分野での女性リーダーの少なさ。国会議員の女性比率は約10%と世界最低水準。海外で女性活躍推進の取材をするたびに日本の危機感の薄さを感じます。海外と日本では変化のスピードが圧倒的に違います。このままの日本だと私の感覚ではトップ層まで男女均等を実現するには、自然の変化に委ねていては100年はかかる。意思決定層に占める女性の割合を増やさないと、今後ますます多様化する市場に対応できないのに日本の危機感は極めて薄い。海外各国は強烈な危機感のもと、クォーター制という割り当て制度を導入したりと変化させています。日本の意思決定層は大半が“男性、シニア”で多様性を欠いています。今回の新型コロナでそれが顕著に現れました。突然2月末に発表された休校要請。ママたち、特に働くママは大変だったと思いますがそれも女性リーダーがいなかったことが要因の一つだと思います。同じ状況下でもドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相は高い評価を受けました。それは科学的根拠を持った力強いメッセージがありながら、弱者への共感力や温かさがあったからと言えます」
女性リーダーの魅力は何ですか?
「これからはミッションを共有し、部下のやる気を高め、イノベーションをもたらす“変革型リーダーシップ”が求められています。米国の研究ではリーダーシップに性差はほとんどないが、“変革型リーダーシップ”の資質では女性は男性より上回るという報告もあります。フルタイムから時短勤務、様々な事情を抱えているなど社員が多様化しているなかで“共感力”があり個別配慮ができるのは女性のリーダーだからこそ。今まで長らく女性は社会においてマイノリティーとしての様々な苦労をしてきたため、弱者の気持ちが理解できることが多いのです」
それなのに女性リーダーが増えないのはなぜなのでしょうか?
「女性はリーダーに向かない、女性はリーダーになりたがらないというジェンダーバイアスが男女共にあるのが要因です。女性に望ましいとされる優しい、気遣いがあるというイメージと女性リーダーはガツガツしている、野心的というイメージの違い、またそういう姿は厳しい視線を向けられてしまうのも問題です。ある取締役の女性は役員を務める男性から『あなたは女性だから、会議ではぜひ母性愛を持って発言してほしい』と言われ唖然としたそうです。女性は母性愛を持った存在であり、組織の中でもそうした役割が求められていると思う固定観念ですよね。特に女性は『女性はこうあるべき』にとらわれている人が多い。また、自分の力で達成したり周りから高い評価を受けていても自分にはそのような能力はないと過小評価してしまう“インポスター症候群”の人が多いです」。
TOPICS 1
キャリア女性の多くは「自信がない」
ある役職を打診された時、男性は60~70%程度の準備でYESと答えますが、女性は100%の準備がないと引き受けないとも言われています。周囲から高評価を受けても自信がない人が多い傾向にあります。
TOPICS 2
2019年「ジェンダーギャップ指数」は153カ国中日本121位」
世界経済フォーラム(WEF)が毎年公表。経済活動や政治への参画度、教育水準、出生率や健康格差から男女格差を表す指標で2019年、日本は153カ国中、過去最低の121位。G7の中では最下位になりました。
TOPICS 3
「202030」を目標に掲げたのは2003年。いまだ達成せず
「202030」とは平成15年6月に掲げた「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的位置に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標」で、今年達成できず「できるだけ早期に」との表記に変更になる見込み。
❛娘世代は今までの価値観では通用しない。
娘も自分も「女だから」から解放されるべきです❜
リーダー=役員ではない。
誰でもなり得るし、みんながなるべきです
リーダーって大変だしできればなりたくないと思ってしまいます。リーダーになることはどんな良さがありますか?
「リーダー=政治家、官僚、企業のトップではありません。人は誰でもリーダーになり得ます。会社でも3、4人のチームでキャップになればリーダーですし、町内会のお祭りのプロジェクトのまとめ役もリーダーです。誰でもリーダーになることができる、特別なものではないんです。リーダーの経験は人として大きく成長させてくれます。こういう風に言わないと伝わらないのか、こう言ったら人は動いてくれるなど伝え方を学んだり、大変な思いを乗り越え力を合わせたらできたという達成感は自信にもつながります。そしてリーダーとしての経験は、フォロワーになった時にも役立つんです。もっと女性はリーダーを引き受けた方がいいし、家族のために使ってきたすばらしい能力を活かしてほしいです」
これからの時代、母としてどんなことを娘に伝え、すべきでしょうか?
「VERY NAVYの読者さんの常識や価値観とは大きく変わっていることをまずは認識すること。娘世代は、仕事をしないで生きることにリスクが伴うので、いろんな好きや強みのかけあわせを伸ばしてあげて将来の仕事に生きるような強みを育んではどうでしょう。またママが新しいことへチャレンジし、イキイキと輝く姿を見せることは子供にとって大事なことですし、がんばっている人は見ていて気持ちがいいですよね。たとえば80代でゲームアプリを開発し、米アップル社から会議に呼ばれた若宮正子さんは年齢関係なく、興味を持ったことに積極的に動いています。多くのキャリア女性や経営者などを取材し、感じるのはみなさんチャンスを呼び込む行動を起こしているということ。
また、日本は家事や育児などの無償労働と有償労働の男女の比率の偏りが大きく、極端に女性が無償労働、男性が有償労働に偏っています。先進国で女性の睡眠時間が最も短いのも日本。20代の専業主婦願望が高いのも女性が両方を担う大変さ、働きづらさを見ているから。この偏りの問題点をなくすためには『男だから、女だから』は禁句です。ジェンダーバイアスを取り払い、娘たちもママ自身も『女だから』に縛られない生き方、働き方をしてほしい。そして子育てはいつか終わるものだから、家族以外の誰かの幸せのために一歩踏み出してほしいですね」
ジャーナリスト。1962年生まれ。「日経WOMAN」編集長、日本経済新聞社・編集委員などを務める。日経WOMAN時代にその年に最も活躍した女性を表彰するウーマン・オブ・ザ・イヤーを立ち上げる。’20年4月から東京家政学院大学特別招聘教授。
撮影/吉澤健太 取材・文/立花あゆ 編集/羽城麻子
VERY NAVY10月号『リーダーになることは、難しいことじゃない「私なんて」を乗り越える娘世代の働き方』から
詳しくは2020年9/7発売VERY NAVY10月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。