中学受験の母の悩みを解決
「親はどれだけ関わって手取り足取り
やればいいのでしょうか」
[受験進路相談室]
Tさんの場合
【家族構成】
夫、長男(小4)、長女(小2)
【今回相談する子どもの状況】
小4男子 小規模塾(小3から通塾)
港区の公立小学校に通っているのですが、中学受験熱がすごいです。周りはサピックスなど大手塾に通う子が多いですが、大人数の塾だと埋もれてしまうと思い、体育会系の少人数塾に決めました。息子は、親に言われたことはやるけど自分で率先してやることはなく、とにかく現状なかなか成績が振るいません。にもかかわらず、息子は自分のレベルを分かっておらず、祖父の母校の慶應を志望しています。現状、逆立ちしても無理なのですが、でも親としては諦めずに頑張りたい気持ちがあり……ぶっちゃけ、どこまで伸びしろがあるか知りたいです。
T:とにかく悩みが多いんですけど、一つはやっぱり、すごい底辺から、現実問題どこまで上がれるのかなっていうことです。本人にも長いプロセスを説明して、絶対中学受験をしなきゃいけないわけじゃないし、高校受験だってあるし、最終的に決めるのは君だよって話をしていて。私自身の中学受験では、自分より成績が悪かった子が私が行きたかったところに受かったっていう鮮明な苦い記憶があって。大学受験でも就活でも自分の行きたいところに行けたことがないんです。今一応やりたいことができているし、受験が全てじゃないって思ったりもしてるんですけど、一方で私はすっごく負けず嫌いなので、その負けず嫌いを息子の受験に投影しそうで。息子は早生まれだし、学校の成績も振るわないのに、ブランド校に惹かれてしまう自分がいます。でも、今のところ、息子の成績は全然振るいません。そこからどこまで伸ばしてあげられるんだろうっていうことばかり考えます。塾選びも、大規模校で「この子いけそう!」って目を付けてもらえるタイプじゃないから、小規模校を選びました。でも、個人面談をすると、今のところ先生からも期待されてないことが分かっちゃう。
おおた:そもそも、どうして中学受験をしようと思ったんですか?
T:私が中途半端な中高一貫の共学に行って、女子は意外と頑張ってるんだけど、男子はいい奴だけどちょっと使えない同級生みたいな感じで。だから本当は、お兄ちゃんに関しては中学受験はやめようと思ってたんです。高校で私立に行くなら行くでいいし、自分で切り拓いてほしいと思って。下の妹は、おバカな学校でも中高一貫っていう場所で楽しく過ごしてほしいから、何が何でも中学受験って思っていたんです。でも、通っているのが、8割9割は中学受験をするような小学校で、周りのママ友から「公立で自分で高校受験するってすごく大変だよ。男子は特に」って言われて、確かに高校受験したら、不利なタイプかもって思って、中学受験に頭を切り替えました。受験が全てじゃないとは思ってるけど、やるって決めたらやろうって、私のスイッチはすぐに入りました。「ママはやるって決めたら超やらないと気が済まないから、やるって決めたなら一緒に頑張ろう!」って。
おおた:なるほど。今、偏差値的には……?
T:もうびっくり! 小さい塾なので模試がなくて、去年、四谷の統一模試を受けただけなんですけど、こんな偏差値あるんだっていうか。とにかく国語が恐ろしく弱くて。0歳からあんなに読み聞かせしてたよね?みたいな(笑)。今の緩さでいいのか、私の考えが甘いのか、はたまた今からやったところで結果はそんなに変わらないのか……。コロナでの外出自粛期間中に私も一時期仕事がゼロになって、その分本当に子どもの勉強にべったりついて、一生のうちにこんなに寄り添うっていうことがないくらい濃密に1カ月一緒に勉強した後のテストが超悪かったんですよ! テストの後、本人は「ママ、今までにないくらいできた!」って言ってたのに。こんなに一緒に向き合って、絶対にありえないっていう成績だったんですよ。ものすごいショックでしたけど、その場ではなんとか感情を抑えて、良かったところを褒めて。「こんなに今まで埋まってたことある!?」って。本人は結果を見て、100点満点中20点とかなのに「すごーい! 前は8点だったのに! 上のクラスに上がれるかな、楽しみ!!」とか言ってて。「行けねぇし!」みたいな。そのポジティブさにちょっとイラッときたり(笑)。本人には「勉強は人と比べるんじゃなくて、前の自分からどう伸びたかっていうのを見るんだよ」って言ってるんですけど、私が比べてるんです。
おおた:じゃあ、ミラクルな質問をしますね。Tさんが、明日朝起きたら、今の悩み事が全て消えてたとしましょう。それってどんな状況ですか?
T:結果を出すっていうことを自分で意識して勉強することかな。親がここやるんだよって言えばやるんですけど、自分からはやらないから、結局、私が1から10までワーワー言ってる感じなので、そのやり方じゃダメなのかな?って。自分でちゃんと考えてやれるようになってほしいかな。どうやったら、主体性を持ってくれるのかなというのが大きな課題ですね。
9割はお母さんが指示するけど、1割は自分で考えさせてみる。それができるようになったら2割に増やすという方法はあるかなと思います。
おおた:息子さんは中学受験に対して、自分自身の考えを話してくれたりするんですか?
T:周りの友だちの影響もあるとは思いますが、中学受験はしたいそう。ただ塾に行くのは楽しいけど、勉強するのはあまり好きではない感じです。来週、サッカーと塾の講習がかぶっちゃって、まだ4年生だしサッカーを優先してもいいかなって思っていたんですけど、夫が一応本人に確認しなって言うので聞いたら、両方行くって。だから別に塾が嫌じゃないんですよね。毎朝、勉強をさせてるんですけど、眠いって言いながらもちゃんと決められたことはやるんですよ。先生にもそれはすごいって言われていて。「今日これね」って言って渡すと、「嫌だー!」って言うけど、結局やる。本当に嫌な時は、「じゃあここはやらなくてもいいけど、明日これやるんだよ」とか、「帰ってきたらこれやりなよ」とか、そこは話し合ったりします。そもそも性格的に結構ハッピーポジティブタイプなんですよ。
おおた:なるほど。実際のご家庭の状況を見てないからなんとも言えないですけれど、お話を聞いている限りは今のままでいいと思います。それがTさんご家族の中学受験なんだと思う。
T:いつか自分でやれる日がくるんでしょうか。このままフルサポートを続けていっていいのかなって。
おおた:まず、先のことを考えるのはやめておきましょう。いっぺんに考えすぎ。
T:そっか、全て欲張りすぎちゃう。
おおた:中学受験の本をたくさん読んで、全体が見えているからこそ、いきなり完成形を求めてしまうんだろうなっていう気がします。
T:何かのたがが外れた時に、わーってなっちゃいそうな自分にすごい恐怖を感じてます。
おおた:中学受験の親は、みんなそうですよ。
T:何なんでしょうね、それって。
おおた:しょうがないですよ。親だってまだまだ未熟だし。その時はその時で十分に自己嫌悪に陥っていただいて。誰しも通る道なので。
T:あーぁ、言っちゃ駄目だと言われてることを、そのまま言ったなあって。
おおた:間違えちゃうことは誰でもある。その時に反省して親として成長できるかどうかですよね。「今回の反省を活かして次回からはもっと主体性を持って頑張ろう」って子どもに言うなら、まずは自分でしょって話ですよね。それに、息子さんの、毎日決められたことをコツコツやれることとハッピーポジティブな性格って、すごくいいですよ。
T:今は世の中のことを何も知らないからハッピーポジティブでいられるじゃないですか。でも、いろんなことを知って、いきなり気づいて、「駄目だ!」ってなっちゃうことってないですか?
おおた:ないと思う。親が「お前は駄目だ」と言い聞かせなければ、ない。子どもも今の状況を理解していると思うし、その上で「俺っていけてるじゃん」って思えるのは自己肯定感。それってお金を出しても買えないですから。それに、毎日決められたことをコツコツやれるってそれ自体がものすごい才能ですよ。でもそこが満たされていると、今度は主体性が足りないっていう部分が見えてくる。親はわが子の当たり前の部分が見えなくなって、足りていない部分ばかり見てしまうものですよね。
T:「塾から出された課題はこれだけど、テストまでにどうやったらいいと思う?」って言えたらいいんでしょうけれど、それをする時間がないから、「これとこれとこれをやりなさい!」って言っちゃう。かといって、自分で考えるそぶりもないかもっていうか。
おおた:多分今の状態でいきなり手を放しても、「自分でやる」とはならない。だからある程度お母さんがやらせる状態をキープして、勉強量を確保しなきゃいけないのは現実なんでしょうけれど、すごく理想を言うなら、「漢字についてはだいぶ覚えられるようになってきたから、どうやって覚えられるか自分でやってごらん」って、部分的にやらせてみる。9割はお母さんが指示するけど、1割は自分で考えさせてみる。それができるようになったら2割に増やすという方法はあるかなと思います。
ベストを尽くした上での成績は、これがこの子の実力なんだって認めないといけません。
T:御三家に絶対に行かせたいとかまでは思わないですけど、私の本心では、本人に合ってればどんな学校でもいいと思えているかといえば、そうじゃない。私の向上心の強さと息子の歩調が合わない。私はもっと熱い受験をしたいのかも……。
おおた:焦らず、一つずつできることを増やしていくようにしたほうがいいでしょうね。まずはいい成績を取らせたいのなら、言われたことはやるっていうのをうまく利用して、完全に管理してやれば、ある程度はその時点でのその子なりのマックスには行くと思う。そこから少しずつ手を放していくというのがいいでしょうね。でも、全部お母さんが管理して子どももちゃんとそれをやったところで、お母さんが満足する偏差値がとれるかどうかはわかりません。 ベストを尽くした上での成績は、これがこの子の実力なんだって認めないといけません。それ以上を求めようとしたらいつまでたっても主体性なんて育ちません。
T:おおたさんの『中学受験「必笑法」』を読んで、一緒に2月まで頑張った時に、ああいう気持ちで最後送り出してあげたいなって思って。どこまでやったらあの気持ちにたどり着けるんでしょうね。本人が満足って思ってくれたらいいけど、もっとこうすればよかったって後悔はさせたくないなって思います……。あ、でも、うちの子はハッピーポジティブだから、そんな後悔しなさそうですよね! 今、言いながら、「しなさそう~」って思った(笑)。
おおた:僕もそれは確信してますよ。今は不安だとか不満だとかっていう気持ちはあるでしょうけど、お母さん自身も無意識に今のこの状況を楽しんでるように見えます。明日朝起きて、子どもが主体的に勉強に取り組んでいて成績も上がっていたら、お母さん、抜け殻になると思う(笑)。
T:えーっ、ママ必要じゃなくなっちゃったの~!?って。
おおた:そうそう。
T:私の熱さ、大丈夫ですか? 子どもを潰すんじゃないかって不安があって。
おおた:大丈夫ですよ。でも、お子さんが話している時には遮らず、最後まで聞いてあげてほしい。お母さん、相手に話す隙を与えないくらい、よく喋るから(笑)。家でもきっとそうなんでしょ?
T:はい(笑)。
元気のいい、楽しいお母さんでした。きっといろんなことに一喜一憂する賑やかな家族なんだと思います。それはそれで家族の一つの形。その形を生かした中学受験ができればいいんじゃないかと思います。よその家のやり方を気にすることはありません。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子 デザイン/attik
VERY NAVY 11月号『おおたとしまささんの悩めるママのための、受験進路相談』から
詳しくは2020年10/7発売VERY NAVY 11月号に掲載しています。