令和の短歌ブームと呼ばれて久しい今。31音の短い定型で心の内を表現できる短歌は、SNSと親和性が高く、日々忙しい育児中に歌を詠むママも増えているとか!? 短歌教室を主宰する歌人の高田ほのかさんにその魅力と創作のコツを聞きました。
*VERY2022年9月号「ママたちの短歌ブーム」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。
\歌人・短歌教室「ひつじ」主宰/
高田ほのかさん
歌人。大阪出身、在住。関西学院大学文学部卒 テレビ大阪放送審議会委員。小学生のころ少女マンガのモノローグに惹かれ2009年より短歌の創作を開始。自らも歌を詠むかたわら、短歌の世界をわかりやすく楽しく伝えることをモットーに、教室や講演、執筆活動などを行う。短歌の裾野を広げる活動が新聞、テレビなど多くのメディアに取り上げられ共感を呼んでいる。公式サイトhttps://honokatanka.com
「ありえない駅の読み方教わって緑深まるあなたの故郷」
(歌集『ライナスの毛布』書肆侃侃房より)
「種のない葡萄を並んで食べた夜ふつうにいうからききのがしそう」
育児中のちょっとした
瞬間を切り取る
関西を中心に短歌教室を開く歌人高田ほのかさん。2020年からオンライン授業も開講し、日本全国、海外からも受講生が集まっているとか。その中には育児中のお母さんたちも。なぜ今短歌が人気があるのか。歌を詠むことの効用を伺いました。
──今、短歌が人気だと言われます。多くの人が興味を持つ理由は何でしょうか?
ここ十数年ほどでしょうか。SNSが急速に普及して、短い言葉で即座に相手に言葉を返すくせがついた人が多くなっています。自分は何を伝えたいのか、相手は何を言わんとしているのかゆっくり考える間もなく、薄い言葉のやりとりがなされる。そういった中で、31文字という短い中に自分の本音をとじこめられる、中身の濃い短歌が求められるようになってきたのではないかと感じています。コロナ以降は特に、「自分の心のはけ口のようなものがない、息苦しい」とおっしゃって教室に入る方も多いですね。短歌には5・7・5・7・7という型があるからこそ、自分でもなかなか気づかない本音みたいなものにたどり着きやすい。人と会う機会が減って、心のうちを話すことに躊躇してしまうことも多いけれど、生徒さんを見ていると、定型に乗せることで本心をさらけ出せるというのは確かにあるようです。誰もが気軽に自分の主張を発信できるSNSの時代に、意識の方向性が内側へ向く、短歌という表現形式がフィットしたこともあるでしょう。誰かにこの思いを伝えたい、日記よりも手紙に近い感覚です。SNSなどで短歌をつぶやくと、反応してくれる人がいる。反応があると、また作りたくなる。今、短歌が盛り上がってきている理由もそのあたりにあるのではないでしょうか。
──育児中に歌を詠むという人は教室にもいますか?
受講生には30代、40代の女性も多く、お子さんとのやりとりや成長の記録として短歌を作る方もいます。子どもとディズニーランドに行ったというような大きな出来事はもちろん、それよりもっと些細なこと。初めて小さな爪を切ったとか、ハイハイしたという、写真にも残らないようなちょっとしたこと。慌ただしく過ぎていく日々の中のささいな、けれど自分にとってはかけがえのない瞬間。短歌はそんな瞬間を切り取るのにぴったりの文芸だと思うんです。例えば、山本夏子さんの歌集『空を鳴らして』には「こんなにもつばめはゆっくり飛べるのか子に飛び方を教えるときは」など、母親である作者ならではの視点で詠まれた歌が多く収録されていて、VERYの読者にもおすすめです。短歌に触れていると五感が鋭くなり、今まで気づかなかった日常の中の匂いや温度を感じられるようになります。仕事や育児で忙しく過ごす日々の中にも〝短歌のタネ〟は必ずある。「あっこれも短歌になる!」と思った瞬間、ちょっと心が軽くなるんです。なかなか遠くには行けなくても、自分の思考を変えるだけで見慣れた景色が変わって見えてくる。短歌は、あなたの日常を豊かにしてくれる魔法の杖なんです。
『はじめての短歌上達のポイント』(メイツ出版・¥1,496)
一瞬の思いを31音に。短歌のルールから表現の磨き方まで、思いどおりに詠むコツをやさしく解説する。重版3刷。
ある日のレッスン風景。短歌教室はオンラインでも開催。日本各地、海外からも参加する生徒さんも
取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2022年9月号「ママたちの短歌ブーム」より。
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