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2度目の本屋大賞受賞『汝、星のごとく』凪良ゆう「順風満帆じゃないから書き続けてる」

最新作『汝、星のごとく』が2023年本屋大賞を受賞。『流浪の月』に続く2度目の受賞となった小説家・凪良ゆうさん。今作は、高校時代に出会った男女のその後の人生を描く「恋愛小説」です。設定だけを聞けばどこにでもありそうな物語なのに、読み進めるうちに自分の人生とも重ね合わせ、いつしか背中を押されているような感覚に…。ご自身は専業主婦時代を経てデビューし、その後離婚。「自分の人生は順風満帆とはいえない」と話す凪良さんが「書き続ける理由」を聞きました。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく」

物語の真相を知るとき、
私たちは「自分の人生」をふたたび信じたくなる。

『汝、星のごとく』が
2023年本屋大賞受賞!
凪良ゆうさんインタビュー

profile

写真:山口宏之

凪良ゆう(なぎら・ゆう)さん

京都市在住。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に「美しい彼」シリーズなど多数。17年に『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)を刊行し高い支持を得る。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補などに選ばれた『汝、星のごとく』にて、23年に自身2度目となる本屋大賞を受賞。

「自分の人生を生きることを
他の誰かに許されたいの?」

人には言えない関係を描いたら、
批判を浴びると思っていたけれど……

──物語の冒頭、「恋人に会いにいく」という夫を平然と見送る妻の様子に、どうして? と物語に一気に引き込まれていきました。しかし物語は、まごうことなき「恋愛小説」。なぜ凪良さんは今、恋愛を描こうと思ったのですか?

一般文芸を書くようになる前は、10年以上BL作家をしていました。男性同士の恋愛を描くジャンルには、設定上のお約束のようなものがあります。基本的にはハッピーエンドでないといけないとか。いくら冊数を書いても制約があるので、恋愛の現実は書ききれていないような気がしていたのです。ですからいつかは、恋愛の物語をきちんと正面から書いてみたいなという思いがありました。

──お互いを思い合いながらもすれ違っていく主人公たちの周辺には、世間では間違いなく批判されそうな行動をする人物も多いです。でも、「けしからん」という気持ちにはならないのが不思議で……。

不倫をはじめ、今の時代には許されないような行動をする登場人物が批判されることも覚悟していました。ただ、書き上げてみると意外と彼らの心情を受け入れてくださる方が多くて驚いています。行い自体は正しいことではないし、彼らのしたことをただ箇条書きにしたら、多くの人からおかしい、間違っていると言われるでしょう。でもひとりの人間として、その人なりの筋道を通って今ある場所にたどりついたのだということを丁寧に描くと、読む人の印象も変わっていくのだと感じました。『流浪の月』などほかの作品でも書いてきたのは、事件の表面だけを見て断罪するべきではないということです。日々のニュースやSNSの偏った情報だけを鵜呑みにして誰かを責め、時に人の人生を潰してしまうのはあまりにも愚かだと思います。何かの事件が起きたとき、世の中に出てくるのは表面的な情報だけです。それを頼りに善悪を判断するには圧倒的に情報量が足りません。小説は、登場人物がどういう人間であるのか、人の心の内までをとことん深掘りできます。それは小説という媒体ならではの素晴らしさだと思っています。

──Twitterで、読者その人の人生が垣間見えるようなお便りをたくさんもらったとおっしゃっていて、いったいどんなことが書かれているのだろうと気になっていました。

本の感想に絡めて、自分の置かれている環境や自分の悩みを打ち明けてくれるようなお手紙が多かったのです。仕事や進路に悩んでいるときに、この本を読んで考え方がちょっと変わったとか、勇気が出て励まされたとか、自分がどっちの方向に行けばいいのかが見えてきたとか、そういう手紙が印象に残っています。今の生活に絡めて読んでもらえているのだなという実感がありますし、読者の心の中にグイッと入っていけたような感触がしてうれしいです。私の小説はファンタジックな要素も少なく地味だと思いますが、読者の人生にどこか重なるような物語を書けたと思えたことはとても励みになりました。

結婚、作家デビュー、離婚……
人生経験がくれたもの

──凪良さんご自身は、結婚して専業主婦になり、作家デビューを経てその後離婚されています。結婚や夫婦関係については悩みを抱える人も多いので、ご自身のこれまでの人生についてもお聞きしてみたいのですが……。

私にとって小説を書くことは暮らしの一部というよりも、暮らしそのものでした。結婚生活もまた暮らしだから、その二つを同時にやろうとしたり、全く別物だと切り離して考えたりすることには無理がありました。どんな二人であれ、一緒になったり離れたりする理由は一言で言えるものはでないと思います。たいていは色々な理由が絡まり合っているものなので。これが理由で離婚したと簡単に言い切れるものではありませんが、やっぱり私がものを書く人間だったことは理由の一つなのだと思います。今回書いたのは恋愛小説ですが、全編を通して、女性が結婚しているかどうかに関わらず自分で食べていける仕事を持つことは大事だということも伝えたいと思いました。今の結婚生活が幸せでもそうでなくても経済力はあったほうがいい。その上で結婚生活が幸せなものなら何よりだし、もし不仲になったとしても、経済的な問題を考慮することなく自分の選択ができます。お金がないからこの人とは結婚できないとか、子どもにお金の苦労をさせないために、嫌でも結婚生活を続けるなど、関係がお金に縛られることは本当に多いじゃないですか。経済的な問題がなければシンプルに、愛しているからしんどくてもそばにいるという選択もできるだろうし、やっぱり無理だと思うときに別れる決断もできると思います。

写真:森 清

未来のために、
今ある何かを利用していい

──女性の自立が大切だということは分かっていても、家事や育児に追われる今の状況では思うように働けない、仕事復帰が難しいという声も多く聞きます。そういう人にはなんと声をかけますか?

こんな言い方をしたら誤解を招くかもしれませんが、何かを利用してでもいいから自分が一人で立てる道筋を見つけることがとにかく大事だと思います。頼りになる夫や親がいるなら、その人たちの経済力を利用したっていいと思うのです。今現在、専業主婦をしているのなら、それ自体が一つの仕事だと思うので、純粋に自分の稼ぎでなくても夫の給料で資格を取ったり何かのスクールに通ったりしてもいいはずです。人の金や力は借りないというほうが格好良くても、そんなのは自分が経済力を身につけてから言えばいいことであって、まずは使えるものは使って、自活する力をとにかくつけようと私なら言うと思います。

──物語の中でも、「使えるものはなんでも使えばいいじゃない」「なんでもはじめの一歩が大変なんだし、手段のクリーンさは次世代に任しちゃえば?」などというせりふが印象的でした。

私自身もそうでした。結婚しているときは専業主婦で、たまにパートには出たりはしましたが、ガッツリと外で仕事をしていたわけではありません。主婦をしながら小説を書いて投稿するのが最初の一歩でした。はじめから経済的に独立しなければいけないと、全部自分で背負う必要はなくて、できるところから一歩ずつでもいいと思います。2023年刊行を予定している『汝、星のごとく』のスピンオフの中でも書いたのですが、結婚している女性が仕事をがんばるのは、それだけで男性の何倍もハードルが高いと実感しています。夫が仕事を一生懸命すると、好意的に受け取られることが多いのに、妻が朝から晩まで働いていてほとんど家にいない、となると同じことをしていてもちょっと冷たい目で見られる気がします。家のことは大丈夫? という視線になぜ、私たちは何となくの後ろめたさを感じてしまうのだろうと最近よく考えるようになりました。スピンオフの中の一編※では、出産や今後のキャリアのために、他の何かを犠牲にしないといけない現状に直面する女性を描きました。女性の生きづらさを知っているという男性は増えてきたけれど、自分事として根本からの理解ができる人はとても少ないという話は私自身の実感でもあります。(※編集部・注 「小説現代」2023年3月号に掲載「星を編む」)

順風満帆じゃないから
書き続けていける

──その後、離婚されてひとりになり、ひたすら机に向かって小説を書き続けたと聞きます。その頃は、これでよかったのかと後悔することもなく自分の道を突き進めましたか?

まだ結婚していたころ、小説を書くことがめちゃくちゃ好きになってしまって、その他のことは全ておろそかになってしまったのです。家事もあまりやらなくなり、とにかく小説を書くことしかしたくありませんでした。当時の夫からは皮肉交じりに、「そんなに小説が好きなのだったらプロになれば」って言われました。別に励ましなんかじゃなくて、なれるものならなってみろ、それが無理ならちゃんとした〝奥さん〟をやってくれという意味だったと思います。ただ、私は「そっか。プロになったら一日中小説書いていたっていいんだ」と思いました。デビューできたことは本当うれしかったし、何の迷いもなく、これでやっと好きなことを好きなだけできるんだという気持ちでした。今思えば、好きなことしかしないぜ、という姿勢が、離婚につながったと言えるのかもしれませんが。

──ほかのインタビューで、人生の中で失敗ばかりしてきた。だから小説が書けていると話していました。失敗って小説家として生きる上では役立ちますか。

小説家に限らず、たくさん失敗しておくと、それなりに対処の方法とか踏ん張り方もわかるようになるということはあると思います。特に作家の場合は、良い経験だけじゃなくって悪い経験もネタとしていくらでも使えます。作中で漫画家を目指す主人公が「ゴミのような経験でもものを書く上では宝の山となる」と言います。これなんかもう、そのまんま自分の中から出た私自身の言葉ですね。順風満帆すぎると、自分とは違う境遇の人は書けなくなってしまいそうです。私はそれと真逆の人生でした。ですから逆に幸せな家庭を物語の中で書くことに苦労はしているのですが……(笑)。

『汝、星のごとく』
(講談社)1,760円

その愛は、あまりにも切ない。正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく……。風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

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取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2023年4月号「『汝、星のごとく』が文学賞に続々ノミネート 凪良ゆうさんインタビュー」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。

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