大人と話す前、何かする前に一旦ママの顔を見る…子どもにそんな「顔色をうかがう」癖はありますか? どうして顔色をうかがうようになるのか、そしてそれはやっぱり良くないこと? 心理学者の諸富祥彦先生が、とってもハートフルな回答をくれました。
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\答えてくれたのは…/
諸富祥彦先生
筑波大学大学院博士課程修了、英国イーストアングリア大学などを経て明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。著作やテレビ出演など多数。
ママたちの
「私の顔色うかがっている?」
ドキッとエピソード
就学前健診で、学校の先生とお話しする機会がありました。息子に発達の遅れなどはありませんが、「好きな料理は何?」「好きな遊びは何?」と先生に聞かれても下を向いたり私を見たりするだけ。慣れない状況で仕方ないと思いましたが、そういえばいつも外で話しかけられたり、何か一人でする場面でも促されないと自分で答えません。いつも自信なさげです。私が先回りしすぎていたでしょうか。
(6歳男の子のママ)
英会話系インスタで、ある美容師さんが「日本に帰省中の海外在住の子は、楽しく自分の話をしてくれるし、自分のしたい髪型も伝えてくれる。でも日本の子は大抵お母さんが髪型を伝えてくるし、カット中もほぼ無反応」と書いていて、ハッとしました。うちも美容室で私がオーダーしてしまっていたし、息子もあまり話しません。大人に話しかけられた時はまず私の顔を見て、なんと答えるべきかうかがってくる感じがあります。そういうときもつい「ほら! ちゃんと答えて」など言ってしまうのですが、私がいつも支配的だったからなのかな、と反省しています…。
(10歳男の子、2歳女の子のママ)
わが子がなかなかご飯を食べなかったり、遊んだ後の片付けができなかったりするとつい「あれしなさい」、「これダメだって言ったよね?」と当たってしまいます。でもあるとき園の先生から、「@@君はいつも大人に『~していい?』『~はだめ?』と確認してくるんです」と言われて。顔色をうかがっているということですよね…私のせいだなと思う一方、どうしたらいいのかわかりません。
(5歳、1歳の男の子のママ)
「不機嫌」は、効率のいい
子育てだけれど…
──まず、どうして子どもが「顔色をうかがう」ようになるんでしょう?
子どもは親から愛されたいという当然の気持ちを持っていて、褒められたくていろんなことをするものです。何をしても自由ならのびのびやりますが、親から批判的なコメントばかりもらうと、これはダメ?と顔色をうかがうようになるんです。
──顔色をうかがうのは「嫌われる、怒られる、間違えるのが怖いから」とする説もあると思うのですが、どう思われますか?
これをしたら認められないのではないかという「不安」のほうがより当てはまると思います。パン屋さんに行って自由に選びなさいと言いながら、これは体に悪いわよとか、差し戻しばかりしたとしましょう。すると「ママ怒ってないけど嬉しそうじゃない」と子どもは感じます。ママが気に入ったものならOKという条件付きの承認ばかりが続くと、顔色を見がちに、ご機嫌うかがいするようになるんです。
──すみません、パン屋さんのくだりは思い当たりすぎて…(笑)。「朝からドーナツはやめて、せめてコロッケパンにして」と差し戻しがちです。何でも認めるわけにはいかないという親の事情とは、どう折り合いをつければいいですか?
栄養のことを気にするのは当然ですよ。大切なのは雰囲気です。楽しそうに「今はコロッケパンにして、ドーナツはおやつにしようね♪」とかね。
──なるほど。海外のお子さんたちは小さい頃から堂々としていて、とても親の顔色を見ているように見えないし、パンも自分で選びそう。どうしてこんな違いがあるんでしょう?
欧米は自己決定を尊重する子育てで、自分で選んでいいんだ、と徹底される傾向にあります。だからパン屋さんでもママはじっと待つんです。それはママやパパ自身がされてきたことだから、自然とできる。でもすべて受け入れている訳ではなく、選んだものに代替案は提示するかもしれません。日本では、理想としてはわかっても経験していないことなのでなかなか難しいですよ。そこは「コロッケパンにしよっか」と言っちゃっていいし、そこに子育てのダメージはないと思っています。ダメージになるのは、いつも不機嫌で、叱ることが中心になっている場合。機嫌よく言い続けるのは根気がいるし時間がかかります。その点、不機嫌になったり怒ればパッと伝わる。つまり不機嫌は「効率のいい子育て」なんです。それがずっと続くとまずいなと思います。
──子どもにどんな影響がありますか?
進路や結婚など大きな選択でも自己決定できなくなる。自分でなく、ママのための人生になってしまいます。あと心理カウンセリングで一番辛かったことを聞くと、「人前で自分の悪口を言われたこと」と答える人がすごく多い。「人前」で「この子は本当にダメでね、恥ずかしい」なんて、絶対言っちゃいけないんですよ。「この子はいい子でね」と言ってあげて。でも、本人の性質も大いに関係していて、顔色をうかがうようになるかは「子育ての方法×本人の性格」の掛け合わせでもあります。図太い性格の子なら、いくら怒っても顔色をうかがうようにならないですから。
「ママは自分が好き」が伝われば
神経質にならなくていい
──なるほど、内向的だとなりやすいなどはあるのでしょうか。
その傾向はあると思います。でも、ひっくり返すようですが、ママたちは神経質にならなくていいんです。顔色をうかがってきても、ママは気にしすぎなくてもいい。機嫌よくいようと頑張りすぎると、かえってストレスが溜まるでしょ? 言いたいことも言えず何でも柔らかな表現を心がけてとにかく待つなんて、大変なことですよ。それでイライラするくらいなら、怒るときはバシッと怒って、あとは「好きよ〜」と切り替えるほうがよほどいい。ママは自分のことが好きということが伝われば、多少のことは大丈夫です。
──心強いです! だけど不機嫌なお母さんも、子どもが嫌いなわけではないはずですね。でも子どもにはそう伝わってしまうと…。
子どもはね、真面目に受け取ってしまうんですよ。
──ママたちも日々時間がない中、先回りしないと終わらない日常があります。よくないな、とは思っているんですが。
ある程度仕方ないです、時間じゃないですよ。自分の精神の安定を図ることを優先することが、子どもに愛を伝えるために大切です。次の大切な段階としては、およそ10歳くらいが分かれ目になる気がします。このくらいの年齢から、子どもが自分で選べるよう意識したほうがいい。自分の人生は自分で選んでいいんだという感覚を育てることが大切です。もちろん、ママやパパの意見もビクビクせず言っていいですよ。でも心からそれを嫌だと言う子も、中にはいるし、親ならそれがわかるでしょう。そういう子に無理やり何かさせても、いい結果は生まない。自分が意見を言っても結局自分の思い通りにはならないんだという挫折感を持たせてしまいますし、何でもママのせいにするようになります。
──それは避けたいですね…。
でも、顔色をうかがうということは、よく言えば人がどう思っているか気にしているということ。人の顔色を全く気にせず自分の意見ばかり言っていても困るでしょう(笑)? 夫婦でも相手の機嫌を無視するのはまずいですよね。一番重要な他者であるママの様子を見られるのは、人の気持ちを推し量ることができる、空気を読めるということ。空気を読めるのは決して悪いことではないです。読みすぎて、自分の気持ちを抑えるようになってほしくないだけで、空気を読んだうえで、自分の意見を言えるのがベストじゃないですか。
──そうですね、バランスが大事ですね。息子が私の顔を見がちで気にしていたんですが、救われた気持ちです。
顔色を見られたら、「あなたはどうしたい?」と聞いてあげたらいいんです。そしてママ自身がのびのびと楽しく過ごすこと。やりすぎているなと思ったらちょっとブレーキを踏めばいいだけです。ママとパパが楽しく生きている雰囲気が出ていれば、基本はOK。一言で言えばラブ&ハッピーでいれば、それでいいんですよ。
写真/アフロ 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子
*VERY2023年6月号「「顔色をうかがう子」って私のせい?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。