──著書の中で「離乳食は作らなくても大丈夫」と話す小児科医の工藤紀子先生に、編集部に寄せられる離乳食の悩みの中でも数多い「とにかく食べてくれない」という悩みに答えていただきました。「どうして?」と迷うとき、もしかしたらこの中に答えがあるかもしれません。
▼工藤紀子先生インタビュー記事
・小児科医工藤紀子先生「心配しなくて大丈夫!離乳食は食べなくて当たり前」
工藤紀子先生 小児科専門医・医学博士。
小児科専門医・医学博士。 順天堂大学医学部卒業、同大学大学院 小児科思春期科博士課程修了。栄養と子どもの発達に関連する研究で博士号を取得。 現在2児の母。アメリカにて子育てを経験。「育児は楽に楽しく安全に」をモットーに、年間のべ1万人の子どもを診察しながら、インスタグラムや講演を通じて子育て中の家族に向けて育児のアドバイスを行っている。
悩み①「せっかく離乳食を作っても全然手をつけてくれないので気持ちが折れそうです」。
工藤先生「はじめての味が苦手なのかもしれません」。
離乳食の時期(初期・中期・後期)によって「食べない理由」も違う可能性があります。初期の頃に多いのは「新奇性恐怖」といわれる「はじめて食べるものを嫌がる」こと。味覚は大きく分けて「甘み・旨み・塩味・酸味・苦み」の五つがあります。この中で甘みや旨味は受け入れやすいですが酸っぱい味や苦みは苦手な子が多いです。本能的にこれは腐っているのかもしれないと体が感じるのです。苦みがあるものも「毒かもしれない」と感じて嫌がることが多いです。「うちの子は野菜を食べないんです」と親御さんから相談を受けることも多いのですが、野菜は苦味があることが多いので、食べないことがよくあるのです。それが食べられるようになるには、もうとにかく繰り返しあげるしかないんです。3、4回あげて、食べない、この子は野菜が嫌いなんだとあきらめてしまう方が多いですが統計上、8~12回以上は試してようやく口にしてくれることが多いようです。大人になってコーヒーやビールが好きな方も、子どもの頃は「あんな苦くてまずそうなものをなんで飲むの?」と思っていませんでしたか?
同じように、子どもたちも繰り返し食べ続けることでだんだん味に慣れて美味しく食べられるようになってくる多いのです。
悩み②「私があげても食べないのに実家の母親があげたらパクパク。何が違うのでしょうか?」
工藤先生「“食べなさい”という圧を感じているのかもしれません」。
なかなか食べないと、親はこれなら食べるかな、ちょっとでもいいから食べて、と真剣になってしまいがち。「さあごはんの時間ですよ、今度こそ食べて」と見つめられるのは赤ちゃんにとってもきついと思うんですよね。プレッシャーを感じているのかもしれません。もし目の前に自分の母親がいて、「残さず全部食べなさい!」と言われて張り付かれていたらめちゃくちゃ食べづらくないですか。大事なのは子どもが「食べてもいいんだ」「大丈夫なんだ」と思えるように安心感を与えることです。「また食べないの」という表情や雰囲気を赤ちゃんは敏感に察することがあります。「あれ、お母さん怒ってるみたい。食べちゃだめなのかな……」と思うとどんどん食べなくなってしまうので、食事のときはぜひ楽しい雰囲気を作ってほしいです。でも、食事のときに機嫌よく接するのは自分の気持ちに余裕がないとできないものです。テレビやYouTubeなどの動画はおすすめしませんが、好きな音楽をかけるのはいいですね。子どもといるときの音楽というと、童謡やクラシックをイメージする人もいるけれど、それにこだわらずお母さんがノリノリになれる好きな曲でいいんですよ。子どもに「お母さん、なんだかすごく楽しそう」「食べてもいいんだ」と思ってもらうことが重要です。
悩み③「よく言われていることはすべて試してみたのにやっぱり食が進みません……」
工藤先生「スプーンの材質や椅子の高さを変えてみては?」
色々試してみたのに、原因が思い当たらず食べないときは、椅子や使っているスプーンが合っていないということがあるかもしれません。
・スプーンが大きすぎる
スプーンが子どもの口には大きすぎたり、ひとさじの量が多すぎるということもあります。目安として、スプーンはお口の幅の3分の2の大きさぐらいがいいですね。一回の量はスプーンを横から見た場合、先から3分の1ぐらいの量をのせてください。多すぎると口から離乳食がはみ出してしまい食べづらいです。それから素材にも注目してもらいたいですね。シリコンとかプラスチックみたいな素材は苦手だけれど、ステンレスや木製なら大丈夫だという子もいます。
・椅子が合わない
椅子が体に合っていないケースも多いです。ガタガタして不安定だったり、足置きがなくて足先がブランブランしている状態だとなかなか食べてくれないことも。子どもの体にフィットして、姿勢よく食べられる椅子に変えてあげてください。バウンサーに座らせたまま離乳食をあげているという人もいるようです。実はこの姿勢はとても食べにくいんです。赤ちゃんに限らずどの年代の人も、ある程度前傾姿勢にならないとものを飲み込むのが難しいです。誤嚥の原因にもなって危険なので、バウンサーに座らせたままにせず、食事のときは体を起こして食べられるようにしましょう。
悩み④「今まで食べていたのに1歳4カ月くらいから急に食べなくなりました」。
工藤先生「生え始めの歯が気になっているのかもしれません」。
1歳過ぎから2歳くらいまでの間に多いのですが、これまでよく食べていたのに急に食べなくなるということがあります。1~2カ月、人によっては半年ほどなかなか食べてくれません。実はこの時期は臼歯の生え始めの時期なんですね。歯が痛いとかムズムズするのが気になって食べないということがあります。先日、保育園の健診に行ったのですが、1歳4カ月ぐらいの子が急に食べなくなったと相談を受けました。親御さんは心配していましたが診察しても変わった様子はなく元気そうです。これはもしかして、と思って口の中を見たら、臼歯が生えてきていました。このときは、「歯がしっかり生えてきたら食べるようになると思うからもうちょっとの辛抱ですよ」とお話ししました。急に食べなくなる理由は月齢や子どもによっても違い、診察が必要なこともありますが、歯が原因ということもあるということを覚えておくといいですね。
離乳食の時期は、疲れもイライラもマックスになる時期。そんな大変な時期に、さらに大変な思いをして離乳食を手作りしなくてもいいんです!元気で頭のいい子に育てたいからこそ、「離乳食は作らない」。市販のベビーフードを活用し、離乳食作りから解放されれば、ママの笑顔が増えます。現役ママ小児科医が教える「作らない」離乳食の本。