息子さんが小学校中学年から不登校になり、その後自分から学校に復帰したというNさん。地元公立中学に入学後、今度は勉強や進路の悩みが……。受験生になったお子さんの今と将来について、お話を伺いました。
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お話を伺ったのは……
N.Sさん(自営業/息子・中3)
コロナ禍の中に公立中学に進学した息子は……
──小学校3年生で不登校になり、5年生から自分のペースで学校に行きはじめたという息子さんは公立中学校に進学します。
ちょうど6年生の終わりぐらいにコロナが流行り始めたので、卒業・入学前後には長い休校期間がありました。中学に入ってからも毎日きっちり通学するというより、部活がある日は行く、今日はちょっとしんどいというときは休むというペースで通学していました。小学校のときのように不登校にはならなかったのですが、相性の悪いクラスメイトがいて、その子にからかわれたりすることはあったそうなんです。「学校には行きたくない、でも部活は行きたい」という日もありました。「部活だけでも参加できないでしょうか」と学校に聞いてみましたが、授業を休んでいるのに部活だけ出るのはだめだと。部活動も学校内での活動なので、そのあたりがもっと柔軟に対応できるようになったらいいなと思うのですが……。
学校を休むと成績はどうなる?
──学校を休んだ日のテストなど、成績はどうなるのですか?
おそらく0点で、一度もテストを受けなかったら通知表は判定不能の斜線になると思います。義務教育なので1日も行かなくても卒業はできますが、公立中学はあっという間に受験モードになるんですよね。中2くらいから保護者会で内申点や塾の話が出てきます。三者面談で「2年生のうちに行きたい高校をある程度調べるように」と言われるのですが、本人は勉強ができないと焦っていました。ノートがうまく書けないのだそうです。「どんなふうに書けないの?」と聞いても「全部わかんない」と。それはLD(学習障害)の可能性もあると思いました。これまでは勉強についても本人のやる気にまかせてのんびりしていたけれど、勉強したいのにできないということがわかってきたので、このタイミングでWISC(知能検査)を受けました。
──検査を受けてみていかがでしたか?
全体を通してみれば点数は平均なのですが、特に書く力や言語化する力に凸凹がありました。本が好きでよく読んでいるから、語彙力はあるのですが、それを文章として表現したり、自分の気持ちを声に出すのが苦手のようです。漢字や英語のスペルを覚えて書くのも苦手だと思われる診断結果でした。現在公立中でも生徒には一人一台タブレットが渡されますがスペックはかなり低いので、書くのが苦手な子がノートがわりにするのには適しません。担任の先生は、「文字を書くのが苦手なら自分のiPadを持ってきていいよ」と言ってくださったのですが、そういった合理的配慮をするにあたって、自分のタブレットを持ち込む理由をみんなに説明する必要があると言われたのです。ほかの子が「ずるい。自分も持っていきたい」と言い出すことを学校側は心配しているのだと思います。でも、思春期の息子にとっては自分の苦手なことをクラスのみんなの前で言われるのは抵抗があるようで「それは嫌だ」と。息子にも周りの子たちにも自然なかたちで使えるのが当たり前の環境になるのがいいのではと思うのですが……。結局、タブレット持ち込みはしないまま中3になりました。
勉強が苦手な子の都立受験
──これから受験シーズンですね。
本人はお尻に火がついている感じです。今まで、勉強はやりたいときがやりどきだよ、と本人がやる気になるまで無理にやらせずにきました。でも息子は勉強が思うように進まず、「あのときにお母さんの言うことを聞かなければよかった」と八つ当たりをされることも時々あります(笑)。調べてみると都立でも、不登校経験のある生徒を受け入れるチャレンジスクールや、基礎から学び直しができるエンカレッジスクールなど、選択肢はいろいろあるようです。少人数制で学習進度がゆっくりめの学校や、学力試験がなく面接と作文だけで受けられる学校もあります。ただ、都立の場合、内申点が悪いと受けられる学校の選択肢が少なくなりますし、息子は面接が苦手なんですよね。家ではよくしゃべりますが、学校でほとんど喋らないんです。「どんな学校を受験したいの?」と担任の先生から聞かれても、マスクの中でコショコショッと言うだけで、ほとんど聞こえなかったり。不登校の子でも自分の言葉で話ができたり、得意なことがあったりする子は面接も通りやすいようです。当初は、「こんなことで受験できるのか」と不安になりましたが、学校見学や説明会に参加する中でいろいろなタイプの学校があるから、息子に合う学校も見つかるかもしれないと思えるようになりました。私立高校授業料の実質無償化や広域通信制高校の増加による生徒減もある中で、都立も変わってきているようです。事情があればパソコンで文字入力ができるなど、息子のように文字を書くのが苦手な生徒への配慮があると説明してくれた学校もありました。夜型でどうしても朝起きられないお子さんの場合、通信制や定時制高校が合っていて、そこで学び直しができたというケースもあるそうです。受験してみないとわかりませんが、息子は通学制の学校を希望しているので、まずは合格した都立や私立高校に通って、合わなかったら通信制に変わるという方法もあるのかなと思っています。
高校卒業後の進路は……?
──少し早い話ですが、高校卒業後はどんな進路を考えていますか?
本人は、大学は行きたいかも、と言っているので、たとえ高校に行かなくても高卒認定試験を受けて大学受験することもできるし、大学にもいろいろな種類の学部や入学試験があるよと話しています。正直なところ、しゃべったり書いたりすることが苦手だと、進路を考えるときにこんなにマイナスになるのか、ということに今さら直面して、自分の中で葛藤がありますね。気持ちが落ち込んでいるときは、「早いうちからもっと勉強させたほうがよかったんじゃないか」と思うこともしばしばです。また少し気持ちが落ち着くと、いや、大事なのはそこじゃない、と思い直すのですが。ただ一つだけ後悔しているのは、勉強嫌いな子にしてしまったかもしれない、ということ。学校に行かない間もいろいろな人と関わりを持ち、親子でできる体験をたくさんしてきました。学校の勉強だけではなくて、生活の中にもたくさん学びがあります。自分の知らないことを知ろうとする作業はおもしろいなと私自身思っていますが、それを息子にうまく伝えきることができなかったかもしれない。じゃあ、どうしたら伝えられたのか、と考えると難しいのですが……。これまで、義務教育というものにずいぶん守られてきました。高校以降は、そこから自由になって選択肢が増える半面、心配ごとも多くなります。今後はどれだけ子どものことを信頼できるかに尽きると思っています。
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取材・文/髙田翔子