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中谷美紀さんがそれでも抜けられなかった「役柄」とは

愛する娘が突然殺された。その犯人は……。1月22日よりWOWOWで放送・配信スタート予定の本格クライムサスペンスドラマ『連続ドラマW ギバーテイカー』で中谷美紀さんは、衝撃の事件の後、強い信念をもって刑事になった主人公・倉澤樹を演じます。中谷さんに役柄に込めた思いをお聞きしました。

ある日突然、
子どもの命を奪われたら……
慟哭の物語

――中谷さんが演じる倉澤樹は、娘を殺された母親であり、犯人を追い詰める刑事でもある複雑な役どころです。

私自身は出産や育児の経験がありません。「大切な娘を奪われる」という母親の感情にどこまで迫れるのか、演じるまでは不安でした。人間のネガティブな感情……痛みや苦しみ、孤独感や焦燥感。そういったものをどう表現しようかと思っていた時、見に行ったのがウィーンの美術館で行われていたムンクの展覧会でした。

 

――真実を求めて突き進みながらも、その内面に強い怒りや悲しみを抱えている。そんな倉澤を演じるうえで、アート作品から影響を受けましたか。

ちょうど、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後で、世界中の人が暗澹たる気持ちを抱えていたと思います。ムンクといえば多くの人の目に浮かぶ『叫び』を描いた画家ですが、複雑な家庭環境で育ち、人とのコミュニケーションを取るのが苦手で、その心には常に闇があったようです。そんなムンクの足跡をたどる展覧会でした。今、この状況でムンクを見に行くのはしんどいなとも思ったのですが、倉澤の心に近づくためには、人の心のさらなる闇を覗く必要があるのではないかと思い……。たとえばダイヤモンドや金を採掘するように、役柄の真実を探しにいく感覚だったんです。

 

中谷美紀さん1

 

息ができなくなるほど
役にのめりこんで……

――実際に、主人公を演じてみていかがでしたか?

娘の死後、倉澤は人間らしい喜びや楽しみを一切断ち、自分自身を常に追い込んで生きてきました。若い頃は自分の演じる役柄と自分自身の境が曖昧になるといいますか、撮影後も役を引きずってしまうこともありました。でもある程度の年齢になってからはむしろ切り捨てていかないと次に進めないのだと気づいたんです。日常でも役柄にのめりこんでいては、自分自身の人生が崩壊してしまうので。でも、撮影が終わった瞬間、彼女はきっとこれからも苦しみを背負って生きていくのに私はこうやって解放されていいのだろうかという思いにかられました。呼吸が浅くなってしまって、何だか自分の体の形さえ変わってしまったようで。理学療法士さんに「うまく呼吸ができません」と言って身体を緩める治療をしていただいたほどです。とてもつらかったのですが、そのような境地に達しないと演じることができなかったんでしょうね。倉澤の苦しみを身体で受け止めないとできない役柄で、常に死の淵に立たされているような感覚がありました。

 

中谷美紀さん2

ジャケット¥660,000(ディオール/クリスチャン ディオール)

 

何が「正義」なのかは誰にもわからない

――中谷さんご自身と倉澤は重なりますか?

私自身はとてもあんなふうにはなれないと思います。美味しいものを食べたいし、休みの日はゴロゴロお昼寝していたいのが本音です(笑)。これまで撮影後は、帰りの車の中で徐々にクールダウンして、元の自分に戻っていくようにしていました。そうして役柄と自分を切り替えてきたのですが、今回はなかなかうまくいかなくて……。仕事が終わってホテルの部屋に戻っても、何もできなくなってしまいました。普段の私なら、旅先でもTシャツや靴下くらいは手洗いするのが常だったのに、今回ばかりはそれさえできなくて。着替えもせずにベッドの上に横たわって、お布団もかけずにそのまま寝てしまうこともありました。正義感が強く、時に周囲から孤立しても自分の信念をもって突っ走る倉澤は、私とは全く違う人間かもしれない。だからこそ、このキャラクターにどうしたら近づけるのかとことん考えました。いまだにこれが正解だったのかわからないですし、視聴者のみなさまがジャッジしてくださればと思っています。俳優というのは正解のない職業です。ものの考え方は人それぞれ異なるので、これが正しいのだと私が「正義」を振りかざすことはできません。本当に、演じるということは正解もゴールもないような気がしていて、どこまでも果てしない探求の旅です。

 

中谷美紀さん(なかたに・みき)
1976年生まれ。東京都出身。1993年に俳優デビュー。『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。また、2013年の『ロスト・イン・ヨンカーズ』では読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞するなど舞台でも活躍。著書に『オーストリア滞在記』(幻冬舎文庫)などがある。直近では、2023年1月27日公開の映画『レジェンド&バタフライ』(東映)に出演するほか、 『連続ドラマW ギバーテイカー』(WOWOW)主演。2023年3月16日〜4月15日、舞台『猟銃』のニューヨーク公演が決定。インスタグラム @mikinatakanioffiziell

『連続ドラマW ギバーテイカー』
2023年1月22日(日)放送・配信スタート

主人公・倉澤樹(中谷美紀)は元小学校教諭の刑事。彼女は12年前、当時小6の教え子・貴志ルオトに、愛する娘を惨殺された過去を持つ。倉澤は被害者遺族として絶望を味わい、 “自分と同じように苦しむ人を一人でも多く救いたい”という想いのもと、刑事になった。その強い信念に突き動かされ、事件解決に奔走する日々を送ること12年。倉澤は娘の命日を目前に、ルオトが医療少年院を退院することを知る――。原作はすえのぶけいこによるマンガ『ライフ2 ギバーテイカー』(講談社)。
WOWOWにて毎週日曜22:00~※第1話無料放送(全5話)

【お問合わせ先】
クリスチャン ディオール 0120-02-1947

撮影/伊藤彰紀<aosora> スタイリング/岡部美穂 ヘア・メーク/下田英里 取材・文/髙田翔子

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