2012年の第一子出産以降、7年にわたり産休・育休を取得し、今年の3月にNHKを退職した青山祐子さん。世間では賛否もあった青山さんの選択の裏には、多くのママと同じような悩みと葛藤がありました。育休中は語ることができなかった、率直な気持ちをお聞きしました。
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夫の仕事で5年前に香港へ移住。 常に復帰のことを考えていた
――7歳長男、6歳長女、4歳次男、2歳次女と4人のお子さんを育てながら、日本ではなく、ずっと香港で育休を過ごされていたんですね。
「移住は2014年、長女が1歳の頃です。もう5年経ちました。4人いると動物園状態(笑)。多くの家にヘルパールームがついて住み込みなのもあって、やりくりできていますね」
――率直に、今年の3月にNHKを退社されるまでに、どんな事情があったのでしょうか?
「いつか帰国できると思っていたので、移住後も子どもの休みに合わせて年2回帰国して、NHKと話をしていました。日本での単発の仕事や、香港で何かできないかと。けど、復帰するなら週5日、渋谷の放送センターに出勤するのがルールで、大きな組織なので異例は認めてもらえなくて。単身赴任も考えましたが、東京で親からサポートが得られる状況ではなく、外注も金銭的に負担が大きい。さらに、復帰への回答が迫った去年の夏に、脳に影が見つかりまして。結果的には問題なかったのですが、検査に1カ月ほどかかる中で真剣に考えて、本当にやりたいことは何かと突き詰めたら、今別居してまで仕事をしたいかと言ったらそうではない。子どもが小さい時期はあっという間に過ぎてしまうことも知っている。NHKの上司はとても親身に相談にのってくれて、復帰を叶えられなくて申し訳ないとまで言ってもらったのですが、焦ることはない、いずれ何かの形で復帰できたらと今は思っています」
長い産休・育休の末に退職。 周りに何を言われるか怖かった
――退社を決めた時の心境は、解放感、あきらめ、悔しさ……どんな気持ちでしたか?
「育休中に友人が私の誕生日会を開いてくれたことが、インターネット上で叩かれたことがあって、今度はなんて言われるのかと怖かったですね。肩身の狭い思いもしたので、決断した後はスッキリした部分もあります。そもそも今の育休制度は、人材豊富な大企業向けのような気がして、一人が休むと他の社員へしわ寄せがいってしまう会社もあると思います。私は大企業という恵まれた環境で、先輩方が作り上げた有難い制度を使わせていただいたんだなと」
――ご主人は、青山さんの仕事復帰についてどうお考えだったのでしょうか?
「夫はアメリカ育ちで転職も当たり前なので、色んな働き方があると思うよ、と。私はずっとNHKにいて終身雇用が染み付いているので、なかなかその勇気が出なかったのかもしれません」
――週5で働くか、復帰をあきらめるかの二択ではなく、もっと柔軟に働けたらいいのにと思います。
「もともと仕事が好きなので、長男出産後もすぐ復帰したかったのですが保育園に入れなくて。パートタイムでもと掛け合いましたが、制度上、叶わなかったんです。私の退職は、組織人としてのルールに則った上での決断ですが、在宅も含めてもっと色々な働き方があればいいですよね」
子どもが4人でも何とかなる 香港の子育て事情
――香港では専業主婦として過ごされているそうですが、子育ては日本と比べていかがですか?
「香港だから4人産めたというのはありますね。育児へのヘルプもあるし、外食もしやすく、子どもに優しい環境です。私自身は息抜きが得意な方で、子ども達がスクールの間に、ピアノやテニス、中国語や英語を習ったり、気分転換しています」
――日本のママの間ではSNSが盛んで、他のママの丁寧な生活や、育児と仕事を両立する姿が見える分、自分とのギャップに悩むこともあって。
「香港はお弁当もかなりラフですし、学校への送迎はノーメークが当たり前。共働きはもちろん、専業主夫家庭もよく見かけます。色々な形があるけど、お互いを比較するようなことはないので、とても気楽に過ごせていますね」
――読者さんの話を聞くと、環境や事情も様々で、両立は決して当たり前ではないと感じます。
「4人も産んでも、子育ては毎日が試行錯誤。もし復帰していたら、両立しているように見せかけて、どこかにしわ寄せがいっていたかもしれません。そういう意味では、私は不器用なんだと思います。でも、一度辞めたら二度と復帰できないわけじゃないし、私も仕事したいという気持ちは今でも持っています。可能ならオリンピックに関わりたいし、フリーアナウンサーとして活動できる場があれば、是非トライしたい。育休は、自分がどう働きたいかを考えるきっかけになったと思って、今後に繋げていきたいですね」
PROFILE_1972年広島県出身。NHKにアナウンサーとして入局後、「ニュースウォッチ9」「サンデースポーツ」キャスターとして活躍。2012年に第一子を出産、育休に。その後、3人を出産し、復帰することがないまま、今年3月に退社。育休中は一切の取材や講演を禁止されていたため、今回は退社後初のインタビュー。
取材・原文/宇野安紀子 編集/鈴木恵子
*VERY2019年11月号「仕事と子育ての両立って、当たり前のように言われてるけど…… 私、職場復帰あきらめました!」より。
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