NEXT>>>待っていてもなかなか決まらない?養子縁組をしたからわかる制度面の問題とは
養子縁組への取り組みは
自治体によって差が大きい
──日本は血縁を重視する価値観が根強いことが養子縁組がなかなか広がらない一因だと思うのですが、制度面ではどんな問題があると感じますか?
吉泉 民間団体だと妻35歳、夫40歳など年齢制限を設けている場合もあります。不妊治療をしていたらあっという間ですよね。あと、自治体によって制度や手厚さの差が大きいのも問題だと思います。僕らの住む都道府県は養子縁組が盛んな方で、長男の時は児童相談所で里親登録をして必要な研修を受けたら2カ月で決まりました。愛知県にも「愛知モデル」というものがあり、新生児の里親委託を積極的に勧めています。行政側に熱心な職員が数人いるだけで大きく違いますね。
妻 東京だと養子縁組希望者が200人待ちとも聞きます。施設に赤ちゃんはたくさんいるはずですが、養子縁組にあまり積極的ではないのかもしれません。海外だと成人まで施設で過ごす子は10%ですが、日本では8割以上の子が施設で育つ現状があります。
吉泉 本気で養子縁組を望むなら、積極的に扱っている自治体に引っ越す選択肢もありますよね。待っていたらいつになるかわからないですから。
──養親の年齢枠を引き上げるのも一つかもしれないですね。
吉泉 でも、僕は今53歳ですが、体力的に今から赤ちゃんはしんどいかなぁ。あと1人2人、子どもがいてもいいなとは思いますけど。
妻 え~っ、ほんと? 私はまたご縁があれば、赤ちゃんもいいなって。
吉泉 上の子が8歳で親なんてもうお構いなしですが、下の子はまだ「パパ、パパ」と寄ってきてくれるから、幼児はやっぱり可愛いなと。まぁ、こちらの自分本位な思いですけどね。
特別養子縁組・普通養子縁組・
里親制度の違い
養子を希望する場合、民間の養子縁組団体か、行政機関である児童相談所のどちらかに相談することになります。民間団体は、養親となるための条件、審査の方法、費用負担などに違いがあります。児童相談所を通して希望する場合は、まず養子縁組を前提とした里親登録をして必要な研修や面談を受け、里親に認定される必要があります。里親として6カ月以上の養育実績を作った後、裁判所の審判を経て養子縁組が成立します。
子育てに理想がなかったからこそ
養子を迎えることができた
──子育てする中で養子であることを意識することはありますか。
吉泉 子どもたちは僕らにちっとも似てなくて、僕と妻の実子だったらこんなにいい子は生まれないだろうとも思うんです。そこは少しだけ他人感があるかもしれないですね。上の子は悪知恵も働くけど頭が良くて、しっかりしてきて頼もしく思うことも増えました。ただ、小学生男子の下ネタでウケようとしてくるので聞こえないフリをしています(笑)。下の子はすごく陽気で、変なダンスを踊ったりして楽しませてくれます。そういう日常の一つ一つが幸せですね。
妻 夫は何でもやってくれるし、おばあちゃんもいるし、一番ラクしているのは私じゃないかな(笑)。そもそも子育てや家事が向いてないタイプで、養子を迎える前から、ちゃんとしたお母さんになれるとは思っていなくて、なんとか元気に育てばいいかなという気持ちでした。子育てに高い理想も持ってなかったし、困ったら誰かを頼ろうと。いい意味で構えすぎてなかったのが良かったのかなと思います。
──養子を迎えるってとても重い決断だと思うんです。その決断をできる人は母性が人一倍強かったり、素晴らしい人格者という勝手なイメージがありました。今お話を聞いて、もちろん母性や愛情はお持ちですが、肩の力が抜けているのが意外でした。
妻 私も、すごく献身的で聖母みたいな人が養子縁組をするイメージで、ちょっと畏れ多いくらいの気持ちもあって、私には無理かなぁと思いながら説明会に行ったんです。けど、里親さんの話を聞いて、母親にならなきゃというよりも近所のおばさんくらいの感じで何とかしてあげたいと思ったんですよね。クリスマスや誕生日をその子のために祝えるのはすごく大事なことだと思うから。だから、立派な親にならなきゃという意気込みはいまだにないかもしれません。けど、それでもいいと思うんです。特別な人たちだけが養子縁組をしているわけじゃないよと。
吉泉 子どもを望むなら、不妊治療を長年続けて疲れ果てた末に養子を検討するのではなく、早いうちから選択肢に入れて、並行して動き始めるのがいいのかなと。あと、実子を授からなかった方だけじゃなくて、実子がいて養子を迎える人もたくさんいますし、里子として短期的に預かる形もあります。まずはいろんな関わり方があることを知ってもらえたらと思いますね。
『特別養子縁組やってみた』
(扶桑社)
ESSE onlineの人気子育てエッセイを電子書籍化。1巻2巻が発売中。長男・うーちゃんと長女・ぽん子ちゃんが4歳と1歳の頃から現在までの子育ての様子を文章とイラストで綴ったエッセイ。笑いあり、ほろりと涙する日ありの、ごく〝普通の〟子育て日記。
描き下ろしイラスト/吉泉知彦(2021年より、ペンネーム「吉泉知彦」で活動中) 取材・文/宇野安紀子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2023年1月号「養子縁組で『うちの子になりなよ』からの7年間」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。