※このコラムはVERY2022年9月号(2022年8月5日発売)に掲載されたものです。
先日アメリカで、「妊娠中絶は女性の権利」と認めた過去の判決が49年ぶりに覆される見通しだと報じられました。これまでもアメリカでは中絶の権利についての議論は政治とともに分断が起きていました。中絶は女性の権利だと思っているので認める・認めないが議題に上がること自体私はおかしいと感じていますが、逆にいえばアメリカではそれだけ考える機会があるんですね。日本では中絶について友だちと話すこともないし、中絶とは無縁で生きていく人もいると思います。でもそもそも、日本で中絶の経験がないのはラッキーなことだとも思うんです。なぜなら、日本では世界に比べても避妊方法の選択肢がとても少なく、確実性に劣るから。ほとんどの人が避妊といえばコンドームを使っていて、ピルやミレーナ(子宮内避妊器具)はごく少数。コンドームはつけていても妊娠する確率が約14%あるといわれています。もっといえばピルも100%ではありません(コンドームよりは確実ですが)。8割ぐらい生還しますが乗りますか?と言われてジェットコースターに乗る人はいないし、仮に生還しなかった人を責めたりはしませんよね。でも避妊やセックスの話になると途端に、意図せず妊娠してしまった女性への批判が高くなる現状があります。
欧米では女性側で避妊できる方法が広く取り入れられており、ピルの服用率が高いだけでなく、ミレーナをはじめとした子宮内避妊器具や避妊手術も選択肢として認知されています。もちろん避妊に失敗した時のアフターピルも簡単に手に入ります。アメリカでは処方箋なしでスーパーやAmazonでも、必要な時にすぐ買えるんですよね。
日本では、アフターピルの市販化について議論が繰り返されていますが、判断が先送りされるばかり。議論はもちろん大切ですが、アフターピル市販化や中絶費用の値下げをしたら「安易に中絶する女性が増える」と言う人が必ずいますよね。でも、たとえ中絶費用がタダになったとしても「中絶すればいいや」と考える女性がいるとは、私には思えなくて。妊娠・中絶した時の体や心の負担を、私はそんなに軽く簡単なものだと考えられません。「安易な中絶」っていう言葉、なくなればいいのに!
…つい熱くなってしまいました。でも、妊娠中でお腹の大きな私が「中絶」について語ることで伝わることもあるはずと思っていて。避妊の方法が限られ、性教育も発展途上、アフターピルをもらうにもハードルがあり、それで意図しない妊娠をしてしまっても、中絶費用も高く、さらには中絶に配偶者の同意が必要な国(配偶者同意がいる国は世界203カ国中11カ国しかありません…)で自分の体をどこまで守れるでしょうか。これが、日本の女性の妊娠中絶にまつわる現状です。
日米のドラマを見比べている姉に言われて気づいたのですが、よく日本では、「私はいいから、この子を助けて!」と自分を犠牲にして亡くなる母の物語を感動的に仕立てるシーンがあると思います。でも、自分に置き換えて万が一、出産することによって私が死ぬのなら、私は泣きながら中絶を選ぶと思う。私には守らないといけない子どもたちがいて、親も、友人も、パートナーもいます。もちろん中絶することは苦渋の決断だろうし、生涯トラウマになるかもしれない。もちろん子どもがいない人だって、自分の生活や体や心を守るために中絶が必要なこともあるんです。お腹の赤ちゃんの人権について色々議論はあるけれど、だからといって産む側の女性の人権がないがしろにされていいわけではない。妊娠した女性自身の幸せ、人権は、もっときちんと大事にされるべきだと思っています。
※2022年7月1日に取材を行いました。
◉SHELLY|シェリー
1984年生まれ、神奈川県出身。14歳でモデルとしてデビュー以後、タレント、MCとして幅広く活躍。6歳と4歳の娘の母。
家族で旅行しました! 海も行ったけど、結局チビたちはプールが嬉しかったみたいです。天気がいいから最高!
撮影/須藤敬一 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子
*VERY2022年9月号「シェリーの「これってママギャップ?」」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。