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レズビアンのママ漫画家・中村珍さんから見た「子どもを持つこと、結婚と家族づくり」

『羣青(ぐんじょう)』が映画化されるなど各方面で話題の漫画家・中村キヨ(中村珍)さん。ご自身は同性婚(事実婚)し、配偶者と連れ子とのステップファミリーになりました。二人の女性が「婦妻(ふさい)」になるまで、なってからを描く『お母さん二人いてもいいかな⁉︎』は、結婚とは、愛とは、家族とは何なのか……と、価値観を根底から揺さぶられるような実録エッセイ漫画。結婚制度、子どもを持つということ。誰と一緒に過ごしても、与えられた役割にとまどっても、人生を見失わないようにするためのヒントをお聞きしました。

※掲載中の内容はVERY2021年11月号掲載時のものです。

 

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中村キヨさん

1985年度生まれ。取材記者・シナリオライター・家庭問題や性に関する読み物の監修等の傍ら、中村珍のペンネームでエンタメ分野の漫画家・イラストレーター・ライターとしても活動。中村珍名義の代表作に、『羣青』(小学館/Netflix映画『彼女』原作)がある。Instagram:@chingnakamura

肩書が「妻」や「母」に
なったとたんに失われるもの

妻や母親にも人生や人格があるっていうのが、取り残されているケースがあるんじゃないかな……というのは、雑談、SNS、メディアで見掛ける記事などから感じます。個人としての人生や人格がその人にあったことを、周りがすっかり忘れてしまうというか……。

私はパートナーが同性なので「どっちが家庭に入るの?」「二人とも女性だと誰が働くの?」「どっちが嫁?」みたいな質問を受けることがあるんです。多分、〝家庭に入るはず〟の女性が二人居ると〝役割が偏る〟から、〝同じ役割の女二人がどう役割分担するか問題〟という混乱を来すのだと思うんですが、こういうときに性別イコール役割という発想の根強さを感じます。

家庭がある以上は家庭に対する責任がありますが、その責任は個人の人格や人生と引き換えにしないと全うできないものじゃなくてもいいでしょ?って思うんです。個人としての人格があること、人生設計に一人の大人として意見があること、それを心から捨てないことは子供や家族に対する責任放棄と同義じゃないはずなのに、少なくない数の女性のライフプランに、本人の希望と関係なく、母の愛で無尽蔵に家族の犠牲になるようなオーダーが組み込まれてしまっているような状況を見掛けて、うーん、ううーん⁉……って

ネグレクトを後押ししたいわけじゃないし、我慢や努力は必要だと思います。調整しなきゃいけないこともたくさんある。でも、一人だけ飛び抜けて人生や人格を置き去りにしなきゃいけないような犠牲者を出さなくても、家庭は円満に営めるはずじゃないかな……。

必ずしもフィフティ・フィフティでバランスを取れるわけじゃないですが、何かを失うなら質と量のバランスを取るように、でもなるべく失わせないこと、っていうのが私とパートナーの間の鉄則です。相手の人生にあったはずの道を断たないこと。

ただ、子供の居る家庭の場合は、そこで子供の人生が犠牲にならないことは大前提ですし、少なくない数の皆さんがそのバランスに苦慮されている状況だと認識しています……。

「同性婚」「選択的夫婦別姓」……
概ね賛成、でも……。

同性婚については、概念としては賛成していて、ただ、今の日本の婚姻制度の同性版を作ることには……うーん、ちょっと、複雑すぎる問題だから、渋い顔になる感じですね(笑)。明日もし同性婚ができるようになったら、少なくともカップルの片方は姓を失います。姓なんていう細かいことは気にするな!同性にも異性と同じ権利をまず用意しろ!という意見もあるでしょうし、パートナーと同じ名字になれることがどれほど恵まれているか何故異性愛者は理解できないんだ、と感じる人も居るでしょうし、それが間違っているとも思わないんですが、もし、同性婚が現行制度の欠点を覆い隠すような作用をしてしまったら……と思うと、目を瞑って「今の結婚制度を同性にも!」という訴え方はできません。でもこれって細かく説明できないと「制度の内容を問わずとにかくアンチ同性婚」と勘違いされてしまったり「自分はパートナーを妻と呼んでいるのに同性婚に賛成しないとか意味不明」みたいに言われたりもするので、話すのが難しいんですが……。

多様性を維持できるかたちでの結婚制度は同性とか異性とか関係なく是非とも賛同したい立場なんです。なんというか、同性婚って必ずしも先進的な仕組みが保証された発想ではなくて、すごく先進的な結婚制度を想定している人も居るし、パートナーと同姓になることを夢見ている同性婚推進派の人だってもちろん居ます。「シングルペアレントじゃ子供がかわいそうだから」という価値観のもと同性パートナーとの結婚を望む人も居ます。選択的別姓の同性婚を望む人も居るし、「なぜシングルペアレントだと子供がかわいそうなの?」という意見を持ちつつ同性婚を待ち望む人も居ます。同じ戸籍に入っていない事実婚のような状態を結婚と認める必要はないと考える人も居ます。当たり前ですが、同性婚ができるようになったときに各々が支持する結婚観って、みんな違うんですよね。

異性夫婦だって、ひとり親家庭を不完全だと思う人も居ればそうじゃない人も、選択的別姓に賛成の人も反対の人も居るじゃないですか。同性婚を後押しした先に待っているのが「子供はひとり親じゃないほうが幸せだから同性婚ができるようになってよかった!」という価値観が強化された世界なら残念だし、これまで一部の異性夫婦だけが加害者になり得た「早く結婚しなよ!子供が居ない人生は不幸だよ!」というハラスメントに同性既婚者の一部が合流したら社会の地獄味は増すし……、そういう副作用もあるのが結婚だから、このあたりの分断を無視しないでいたいです。

個人としては、世相に合った結婚制度が刷新されるのがいいんじゃないかと考える立場です。たとえば、戸籍をいじらずに現行の婚姻制度と同じメリットが適用される、異性も同性も別姓も同姓も選べるような結婚制度があれば……とか。戸籍をいじってカップルのどちらかに姓を変えさせて〝伝統的な家族をちゃんと作った〟リワード(報酬)みたいな制度には賛同しかねます。ちなみに私はパートナーの姓に変えることにまったく抵抗がないので、個人としては選択的別姓が制度化されなくても困らないんですが、選択的別姓には大賛成です。誰かが姓を選べても同姓に賛成の人は同姓で居ればいいだけなので。あ、「選択的夫婦別姓」と呼ばないのは、夫婦に限らずあらゆる性の結婚に賛成だからで、賛成している内容は一般に「選択的夫婦別姓」と呼ばれる制度と一緒です!

「愛する人と子供が作れる」のは
ごく限られた人

異性のカップルでも、伴侶との間に子供を生せるのは生殖に関する身体的な条件が揃っていたカップルだけですから「愛している相手との子供を作れない」ということが『同性カップル特有の悲しいドラマ』として消費されないことが望ましいです。もちろん現状は、自分たちで作った子供と絶対会えない人生が約束されているわけだから苦悩や絶望感を感じる同性カップルが居るのは当然です。ただ、その対岸にあるのは「異性愛者なら最愛の人と子供を作れる」じゃないですよね。愛している相手との間に子供を作れたのは、妊活を始めてすぐ成功したカップルも不妊治療に苦しんだカップルも含めて、結果的に作れた人たちだけ、というのは念押しするようにしています。子作りという文脈でのマイノリティは、同性カップルではなく、子供を望んでいるけれど叶っていないカップルなので。私は、うーん……興味として妻とも自分とも血縁のある子供を見てみたいっていうのがないと言ったら噓になりますが血縁と愛情に関係を見いだせないっていうか、自分の愛している彼女が私の血縁者だったことってないですから。

でも、これは「だから血縁のある子供を作れない人生でも気にするな」「大したことじゃない」っていうメッセージではないです。血縁のある子供だからこそ欲しいと思う人にとっては、大事な要素ですよね。私の一人目の妻は、早くに病気で亡くなってしまったんですが、彼女は「二人と血縁がある子供を産めないなら出産に命は賭けられない」という考えだったので、自分側の子供を作ることを最期まで検討しませんでした。私としては血縁がなくても大好きな妻の子供ですから、会えるチャンスがあったなら会いたかったですが、私のニーズはさて置き、妻が体と人生を使うことなので私の意見で意思を曲げてもらうようなことでもないですしね。

親子全員に血縁があるべきとも思わないので卵子・精子提供には肯定的です。同時に、当事者である子供不在で、親を含む非当事者が悲観や楽観をするものじゃないとも感じます。精子提供で生まれたという出自にYESかNOを突きつけられるのは生まれてきた子供本人だけだと思うので、世間が「多様性!子供を持つ自由!」と認めようが、本人が「こんな生まれ方したくなかった」とジャッジしたなら絶対にその感情は否定されるべきじゃないし、世間がどれほど「かわいそう」と世話を焼こうが、本人が「生まれてきてよかった!」って言うなら、誰もその子の命を否定できません。子供の出自を問わず、夫婦間で作った子供でもこの点は同じだと思います。

『お母さん二人いてもいいかな⁉』
(書籍版:KKベストセラーズ)
※電子版あり(電書バト)

配偶者に先立たれた漫画家キヨと、産後うつの症状をかかえ育児放棄気味のシングルマザーのサツキ。偶然出会った二人はやがて「婦妻」に。「平凡ですよ。出会って、恋愛関係になって、相手に子供が居たので、なりゆきでそのまま育児に突入して……」と話す中村さんに子供たちから投げかけられるのは、「きょうだいが欲しい」「僕も交尾でできた子供なの?」といった難問の数々。「愛って、なんですか?」をみんなで探す、《ふつうの人たち》のエッセイ。

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取材・構成/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr. 
*VERY2021年11月号「レズビアンのママから見た「婚姻と同性婚と家族づくり」」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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